猛暑日が続く8月は、気候変動による健康被害を一年のうちで最も感じやすい季節かもしれない。熱中症や脱水症など、暑さを直接的な原因として体調不良を訴える人が増加するからだ。
世界気象機関(WMO)によれば、2023年6月から2024年6月までの13か月、世界の平均気温は毎月連続で新たな記録を更新し続けたという。また、過去1年間のうち、複数の地域において50度を超える猛暑日が記録されている(※1)。
そんななか、世界では気候変動を「公衆衛生の問題」として扱う動きが強まっている。
ベルギー北部のフランドル地域では2024年8月、フランドル政府の役職として新たに「気候医師(Climate doctor)」が設けられ、8月末現在、このポジションを担うのに適任な専門家を応募者の中から検討しているという。
フランドル地域の保健省が発表した求人広告によれば、気候医師には、地域における気候による健康被害の予防や早期発見などに貢献することが求められる。
また、熱波が訪れた際に発動される既存の「熱波対策計画」を医療の観点から改良することや、気候政策の決定に必要な医療的証拠を提供すること、気候変動による異常気象が今後人々に与える影響を考察するといった役割もあるという。
こうした職務を果たすため、気候医師には、医師としての資格、もしくは医学系の修士号を持っていること、そのうえで公衆衛生管理の経験もあり、気候変動の情報も追うことができる人材が求められている。
熱中症などの暑さによる健康被害が注目されがちだが、気候変動による健康リスクはそれだけではない。米国疾病管理予防センター(CDC)は、気候変動による健康リスクとして、喘息やアレルギーなどの呼吸器系疾患、蚊やマダニといった外来種の媒介生物による感染症、またメンタルヘルスの悪化などを挙げているという(※2)。
世界的医学誌ランセットが行う研究事業・Lancet Countdown(ランセット・カウントダウン)が発行した『健康と気候変動に関する2023年報告書』は、「気候の変化に伴い健康上のあらゆる側面が悪化し、気候変動対策がこれ以上遅れれば、健康への脅威がより深刻なものになる可能性がある」と結論づけ、健康の観点から気候変動に対処する重要性を訴えている。
最後に、プラネタリーヘルスという概念に改めて触れたい。これは、「人間の健康と地球の健康は密接に関係している」という考え方で、概念を提唱するロックフェラー財団のランセット委員会はその前提として「現在の自然環境は前例にないほど悪化しており、人間の健康と地球の健康はともに危機的状況にある」ことを挙げている。
健康で過ごせれば、健康でいてくれれば、それでいい。誰もが自分や大切な人に対してこう思ったり、言ったりするものだろう。しかし、そのささやかな願いさえ気候変動によって脅かされるとしたら。暑さによる強い実感があるうちに、改めて気候変動との向き合い方を見直してみたい。
※1 Another month, another heat record broken: UN weather agency
※2 医師たちの気候変動啓発プロジェクト
【参照サイト】Flanders will treat climate change as public health issue with new government position
【参照サイト】Explore the key findings of the 2023 report of the Lancet Countdown
【参照サイト】Flemish Government advertises for ‘Climate Doctor’
【参照サイト】Flanders recruits ‘climate doctor’ to tackle medical consequences of climate change
【参照サイト】Climate doctor
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