通勤や散歩、ジムで運動をしているときなど、さまざまな場面で使うイヤホンやヘッドフォン。とても便利でありながら、大音量の音を長い時間聴くと「イヤホン(ヘッドフォン)難聴」を引き起こすとされ、世界保健機関(WHO)からも注意が呼びかけられている。
実際、世界では約15億人が難聴を抱えているとされる一方で、若い世代には「まだ自分とは遠い話である」と感じている人も多いだろう。イヤホン難聴の認知度は6割程度と決して高くなく、将来的なイヤホン難聴の発症を不安に思う人は全体の4割程度にとどまり、自分ごと化して考えるのが難しいかもしれない(※1)。
そんな中Appleは、より多くの人が日常的に耳の課題と向き合うため、「AirPods Pro 2」の新機能を発表した。無料ソフトウェアアップデートを通して利用できる機能で、デバイス一つで難聴の予防、認知、補助ができる。これまでも同社は、Apple Watchのノイズアプリ、iPhoneのヘッドフォン音量、聴覚のアクセシビリティ機能、Apple Hearing Studyなど、聴覚の健康をサポートする機能を提供しているが、今回はさらに踏み込んだアップデートだ。
まず予防の観点からは、周囲の騒音を最小限に抑える機能がある。同社の調査によると、3人に1人が地下鉄の音、スポーツイベントの音響をはじめとした環境騒音に日常的にさらされている。これらの音は、聴覚に影響を及ぼす可能性があるにも関わらず、排除するのが難しい。
そんな騒音がある場所でAirPods Pro 2をつけると、内蔵のチップが騒音を低減してくれる。外部音取り込みおよび適応型オーディオのリスニングモードをオンにすることで、デフォルトで騒音を低減することができるのだ。
また、約5分間のヒアリングチェック機能を使用すると、自宅にいながら聴力の状態を知ることも可能だ。イヤホン装着時に音が聞こえたらデバイスの画面をタップするだけの手軽さだ。自身の難聴に気づかない人が多い中で、この気軽にチェックし、難聴の早期発見・認知につながる。
すでに中軽度の難聴が認められる場合は、デバイスが自動的にヒアリング補助機能の設定を促すため、一人ひとりの状態に合わせた調整が可能だ。簡単な設定をするだけで聞こえづらかった音がクリアになり、より積極的に会話に参加したり、周りの人の動きや環境音を捉えやすくなったりと、補聴器の代わりとなりうる補助機能になっているのだ。ヒアリングにほぼ不自由がない人や難聴が認められない人に対して、特定の周波数がよりクリアになるような調整を促す機能もあり、多くの人の聴覚をサポートする。
Appleのヘルスケア担当バイスプレジデントであるサンブル・デサイ博士はプレスリリースの中で次のようにコメントしている。
聴覚の健康は私たちの全体的な健康の重要な部分を占めているにも関わらず、往々にして見過ごされがちです。事実、Apple Hearing Studyによると難聴があると診断された人々の75パーセントもが治療しないままでいます。AirPods Proでは、ユーザーの聴覚の健康を中心に据えた画期的なソフトウェア機能が導入され、難聴に関する検査と補助を受けるのに役立つ新しい方法が提供できることはとても喜ばしいことです。
補聴器は高価であることや、目立ってしまうことから手に取らない人もいるだろう。補聴器の平均価格が約15万円であるのに比べ(※2)、AirPods Pro 2は約4万円と手にとりやすいうえ、イヤホンであるという見た目から、補聴器よりも使うハードルが低いかもしれない。バッテリー稼働時間などまだ課題はあるが、選択肢が一つ増えることで暮らしやすくなる人もいるだろう。
※1 株式会社クロス・マーケティング 耳に関する調査(2024年)
※2 補聴器の価格相場と特長の関係|値段はいくら?安いものはどうなの?|SHARP
【参照サイト】Apple、AirPods 4を発表、AirPods Pro 2では世界初のオールインワンの聴覚の健康をサポートする体験が可能に
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