かつての日本社会では、子どもは地域のみんなで育てることが当たり前だった。家族や親戚に限らず、近所の人同士で子どもたちを見守り、共に育てていくことが日常的な風景であったはず。

こうした人と人の支えあいの多くが、現在の社会ではサービス化されつつある。お金を通じて得るサポートは多忙な現代人の支えになる一方で、人が助け合って子育てに関わるきっかけを奪ってきてしまったかもしれない。子育て世代の孤立化や孤独感も、その結果ではないだろうか。

そんな現代だからこそ注目したい、新しい子育てのモデルを見出そうとしている場所がある。日本一小さな村・富山県舟橋村で、2023年5月に誕生した学童保育施設「fork toyama」だ。実はここ、保育料が無料。月々のサポーターとして登録している個人や組織の寄付、併設しているカフェの売上により、運営費がまかなわれているのだ。

同施設は、このように“みんなで営む子育て”のあり方を「みん営」と名付け、日本初の仕組みづくりに挑戦しているのだ。そのコンセプトとして「“はたらく”と“そだてる”をもっと自由にする」を掲げ、保護者の就労状況や収入を問わず利用できる学童を通じて、保護者自身の働き方をより自由にすることも目標としている。

2024年10月には、同施設の掲げる「みん営」の仕組みがグッドデザイン賞を受賞。新たな子育てのあり方が社会からも支持を集めている。

Image via fork toyama

2024年12月現在、54人の子どもたちが同施設に登録している。子どもたちは学校帰りにfork toyamaへ直接向かい、敷地内にある屋敷林を駆け回ったり図画工作を楽しんだりと、自由な時間を過ごすようだ。

また現在のサポーターは70人で、その半数は子どもを学童保育に預けている保護者だという。残りの半数は、活動に賛同している地域内外の人や企業など。学童のサポーターは、併設するカフェで月に1杯無料、全ドリンク100円引きなどの特典を受けられる。

他に例を見ないこの仕組みは、2018年に舟橋村に移住し、同施設を運営する一般社団法人fork代表の岡山史興さんの実体験から生まれた。その経緯を、岡山さんはIDEAS FOR GOODの取材で次のように語っている。

「舟橋村はもともと、日本一面積が小さい自治体にも関わらず『子育て共助の村』を掲げたまちづくりで人口が増え続けていた村でした。ところが、2021年の村長交代（※）により、それまで村営だった学童保育施設が急に民間に委託され、村内のほかの取り組みとの関わりまで一切排除されたことから、子育て世代を中心に動揺が走りました。

その中で『村の良さを受け継いだ子どもたちの居場所が必要』という声を受けて立ち上がったのがfork toyamaです。村内外で広く子育てを共有する仕組みとしての『みん営』、そして、場としての『fork toyama』というコンセプトが広く共感を呼んでいます」

関わり方が広がる「みん営」では、子どもたちが多様な大人と接する機会が多いことも特徴の一つであり、保護者からも前向きな声があがっているという。

「工務店さんとの家づくりワークショップやデザイナーさんとのCG体験、漁師さんのお魚講座など、普段出会わない大人や仕事との出会いを通じて、自分の将来を考える“生き方づくり”に繋げることができます。それだけ充実した環境でありながら保育料がゼロであることで、家庭の経済状況を問わず子どもに豊かな経験の機会を提供できます」

子どもたちはデザイナーのワークショップ（右上）や、カフェ体験（右下）なども経験できる｜Image via fork toyama

地域からも支持され、視察者も多く訪れるというfork toyama。岡山さんは、この場所を育てながら、どんな未来を“より良い社会”として描いているのだろうか。

「実際のところ『みん営』が必要ではなくなることが、最も望ましいと思っています。必要な場所へ適切に税金が使われ、自分ゴト以外にも手を差し伸べる心理的・経済的な余裕が生まれること──fork toyamaのように自分の地域や目の前の人の力になろうとする民間プレーヤーが増えることも重要ですが、やはり微力。政治が中心となって社会を変えていくことが根本的な解決につながると思っています」

人口構造が変化する今、「誰に負担させるか」よりも、地域全体で「いかに協力して実現できるか」という視点を持った社会基盤づくりが求められている。保護者の就労状況や収入を問わず利用できるfork toyamaは、かつての日本とは異なる形で、地域内外のみんなで子育てを支えるやわらかな仕組みを構築しているのだ。

※ 2022年に不信任決議が可決されたことにより、現在は新しい村長が就任

【参照サイト】fork toyama
【参照サイト】小さな村の挑戦！保育料ゼロの学童保育を支える「みん営」仲間募集！｜READYFOR
【参照サイト】日本一小さな村に誕生したカフェが、新しい学童〈fork toyama〉を支える仕組みとは？
【参照サイト】保育料ゼロを実現し、子育てを“みん営化”する。学童保育施設〈fork toyama〉岡山史興さん | こここ
【参照サイト】保育料ゼロ、「みん営」方式の学童保育fork toyama
【参照サイト】日本一小さな村発、保育料無料の「みん営」学童保育fork toyamaが「GOOD DESIGN AWARD 2024」受賞
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