社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン、IDEAS FOR GOODの編集部が選ぶ、今月の「ちょっと心が明るくなる世界のグッドニュース」。前回の記事では、ハンズフリーの車椅子やアイスランド政府で女性が多数派になった話題などを紹介した。
日々飛び交う悲しいニュースや、不安になる情報、ネガティブな感情ばかりを生む議論に疲れたあなたに。世界では同じくらい良いこともたくさん起こっているという事実に少しのあいだ心を癒し、また明日から動き出そうと思える活力になれば幸いだ。
愛に溢れた世界のグッドニュース5選
01. ビーバーがダムを作って1.8億円の建設費不要に
チェコ共和国では、絶滅危惧種のザリガニを守るため、2018年に防壁建設プロジェクトが提案され、建設の許可が出ていた。しかし、軍の訓練場として使用されている土地の交渉が難航し、計画は7年間も停滞していた。
そこに、思わぬサポーターが現れた。野生のビーバーが木の枝を集めて、自然の防壁を作ってしまったのだ。しかも、それはまさにダムが建設予定だった場所で、ザリガニにとって重要な湿地が実現したという。これにより、当初予定されていた約1.8億円の建設費が不要になった。今回の出来事は偶然かもしれない。しかし、生態系のつながりが圧倒的に環境負荷の低い方法で、効率よく課題を解決するシステムとして機能していることを体現しているだろう。
【参照サイト】Beavers build planned dams in protected landscape area, while local officials still seeking permits
【参照サイト】Eager beavers: rodents engineer Czech wetland project after years of human delay
【参照サイト】地元当局が7年前から計画していたダムをビーバーが勝手に建設して約1億9000万円の節約に
02. インドネシア国内初、8,300万人を対象に給食無料化へ
教育を受ける上で障壁となる、貧困や格差の課題。たとえ学校が近くにあり、授業を受けることができる環境でも、登校前に家の仕事をこなさなければならない子どもたちもいるようだ。例えばインドネシアでは、離島での格差是正が課題の一つとなっているという。
そんな同国で2025年1月6日、国内初となる給食の無償提供が始まった。対象は、幼児から高校生までのおよそ8,300万人。人口の4分の1近くにあたる大規模なプロジェクトだ。初日は国内38州のうち26州の一部の学校で提供され、テーブルには鶏肉の照り焼きや野菜炒め、ご飯、果物、牛乳などが並んだという。
これを支援するべく、石破首相はインドネシアに学校給食の専門家を派遣することなどを約束している。無償提供を続けるための財源を不安視する声もあがっているが、子どもたちに十分な栄養を届けるための一歩は少なからず教育の現場を支えてくれるはずだ。
【参照サイト】Indonesia dishes out first free meals in program targeting 83 million people
【参照サイト】インドネシアの給食無償化は「先進国入りへの投資」 費用捻出が課題
【参照サイト】インドネシアの無料給食、石破首相が支援約束…新大統領の看板政策に米中も協力
03. 「今雪が降り始めたので旅行を割引します」デンマーク旅行代理店のリアルタイム広告
暖冬かと思えば、大寒波が急に訪れる今冬。天候が不安定であるのは、ヨーロッパの国々でも同じようだ。一部地域では雪が足らず、例年ならば多くの人が「スキー休暇」をとって雪を楽しむシーズンだが、今年は休暇を控える傾向が見られているという。
これに対してデンマークの旅行代理店・Højmark Rejserは、雪が降ると旅行プランを割引するキャンペーン「Snowfall Savings」を立ち上げた。そのコミュニケーション方法が特徴的だ。オーストリアの山で雪が降ると、デンマークのデジタル看板に自動的にQRコードが現れ、同社の“雪割引”付きのプランを知らせてくれる。天気アプリと連動させた、リアルタイムの割引というわけだ。
これは旅行の宣伝になるだけではなく、都会で暮らしながら積雪や気候変動の現状をリアルタイムで知るための手段にもなる。刻々と気候変動の状況が変化する今、この取り組みは人々の感覚に訴えかける効果的なツールになるかもしれない。
【参照サイト】Ces panneaux de pubs transforment les chutes de neige en offres promo
【参照サイト】Højmark Rejser, Snowfall Savings
04. インドの太陽光発電容量100GWを達成
インドは近年、環境問題に直面すると同時に、大気汚染対策や脱炭素化に力を注いできた。再生可能エネルギーの市場も拡大しているという。そんな中、同国の新・再生可能エネルギー省は2025年1月末時点で太陽光発電容量が100.33ギガワットに達し、目標としていた100ギガワットの大台に乗ったことを発表。当初2022年での達成を目指していたが、数年遅れての実現となった。
2021年度における日本の太陽光発電容量は78ギガワットで世界第3位、再生エネルギー全体での導入容量は138ギガワットで世界第6位であった。これと比較すると、いかにインドの再エネ事業が伸びているかが分かるだろう。ただし、再生可能エネルギーへの移行の裏で、労働者や生態系が被害を被ってはならない。インドの急速な発展が、社会や環境を犠牲にしない事例となっていくことを期待したい。
【参照サイト】India achieves milestone of 100 GW solar energy capacity
【参照サイト】インドの再生可能エネルギー分野の事業機会
【参照サイト】インド、第1四半期だけで再エネ10GW増、前期比4倍のワケ
【参照サイト】【2024年最新】日本における発電量の構成割合は?再エネ発電普及のポイントを解説
05. イタリアの気象研究者、飛行機利用を拒否し解雇されたが補償金を獲得
イタリアの気候学者・Gianluca Grimalda氏は、研究のためパプア・ニューギニアへフィールドワークに向かった。契約上ではスロートラベル(環境負荷の低い移動手段)の計画に対し許可が降りていたため、同氏は飛行機を使わず移動したという。しかし帰国の期日が迫ると、契約先の研究所は飛行機で帰路につくよう命令。Gianluca氏がこの指示に従わなかったため、解雇されていた。
しかしその後、訴訟を通じて両者は補償金の支払いで合意。退職金のうち約1,200万円は気候変動対策のために寄付するそうだ。人や自然とのつながりを重視し、ゆっくりと旅をするスロートラベルが注目されつつある一方、環境負荷の高い移動手段のほうが速くて安いことも多い。今回のような事例がきっかけとなり、移動の選択肢が今後広がっていくだろうか。
【参照サイト】This Italian climate researcher was fired for refusing to fly – now he’s won compensation