葉の上に“光で”写真を印刷。スローなプリント手法が写し出す、自然界の時間軸とは

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写真を撮る、という行為は、今や誰もが手軽に行える日常的なものとなった。

その立役者は、スマートフォンだろう。かつては重たく一枚撮るにも時間のかかるカメラで撮影していたが、自動ピント調整などの高機能を持ち合わせ、ポケットに入る薄くて軽い存在はそれに取って代わった。

スマートフォンで撮影された写真は、オンラインコンテンツとして使われることも多い。長く綴られた文章よりも、視覚的にインパクトのある写真や動画が注目を集めやすいからだ。特にSNSでは、写真が多用されているだろう。

SNSでは、「より新しく・より人気の」投稿が評価されるシステムが成り立っている。こうした仕組みの中に投じられる写真は、プラットフォームに投稿された瞬間こそ注目を集めるものの、しばらくするとそれを愛でる人は減っていく。現代の写真は、データが半永続的に残る一方、一瞬で消費されてしまうのだ。

この写真の時間軸を、自然界のリズムに戻そうと試みるアート作品がある。スペイン出身の写真家・Almudena Romero氏の「The Pigment Change」だ。主に植物を表現媒体として、気候危機における自然と人間の関わりや、生産と再生産をめぐる問いを探求する。さらに、自然破壊とアート業界に潜む搾取や富の蓄積にも光を当てている。

作品は4部構成となっており、第1章は「The Act of Producing」と名付けられた。植物の葉に含まれるクロロフィル色素が太陽光に当たると退色することを活用し、時にくっきりとした、時に曖昧なコントラストによる“プリント”を生み出すという。

そのプリントの「見えにくさ」は、経済的に女性の労働が不可視化されている現状に問題提起しているとのこと。

Image via Almudena

Image via Almudena

第2章は「Family Album」だ。Almudena氏は、現代の写真が“消えない”ことに着目。ある瞬間を固定し何十年も維持しようとする写真が、デジタルとアナログどちらも商業化には適するものの、カメラレンズの原料としての鉱物採取やデータの長期管理が、いずれ社会の負荷となることに課題意識を持ったそう。

そこで同氏は、クレソンの光合成によって“プリント”する技術を見出した。植物の葉に光を当てる時間を調整することで、人の姿を浮かび上がらせているというのだ。

他にも第3章では、植物の選択的な繁殖戦略を表現した、新芽のタイムラプス「Offspring」、第4章では、光の変化に対するポインセチアの反応を記録し、人間が他の種に与える影響を考察した「Faire Une Photographie」を展開している。

Image via Almudena

もし、写真に収めた景色や場面が数年、数日で消えてしまうものだとしたら、今日この瞬間をどう生きるだろうか。

時間と手間をかけて完成し、ゆっくりと自然に戻り姿を消す植物由来の写真。それは「目の前に広がる光景や場に対して、どう関わることが大切であるのか」と、問いかけているかのようだ。

【参照サイト】Almudena Romero
【参照サイト】Photo-synthesis: The photographer going plant-based in her pictures|Imagine5
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Cover image via Excerpts from the Photomonitor Panel – Land Matters at London Art Fair 2024

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