Sponsored by 今帰仁村観光協会
「やんばる」と呼ばれる沖縄本島北部、本部半島の北側に位置する今帰仁村(なきじんそん)で、ありのままの地域の価値を活かして作られた、「今帰仁ウェルネスプログラム」。五感を使い心身を整えるさまざまなプログラムを、「今帰仁ちゅーなー」と呼ばれる村民ガイドのもと、今帰仁の海や森、文化をめいっぱい堪能しながら体験できる。
前編では、その背景や1日目に行ったコミュニケーションキャンプ、アロマクラフト体験などについて紹介しながら、今帰仁ちゅーなーを務める村民の視点を交えつつ、ありのままの自然が残された今帰仁村ならではの魅力について深掘りしていった。
後編では、2日目に行われた琉球料理を学ぶプログラムや森のセラピーなどについてレポートしながら、沖縄や今帰仁村に根付く文化や暮らしの知恵から得られるウェルネスのヒントを探っていきたい。
長寿の秘密が詰まった琉球料理を学ぶ
2日目の最初に行ったのは、沖縄の伝統的な食文化である琉球料理を学ぶプログラムだ。
琉球料理は、琉球王朝時代に中国の冊封使や薩摩の在番奉行などをもてなすための宮廷料理として確立され、それが上流階級や一般家庭にも広がり発展したものと、亜熱帯・島嶼の自然環境のもとで育まれてきた庶民料理の双方を源流とする食文化だ。食物繊維や植物性たんぱく質を多く含む沖縄の食材を用い、中国の「医食同源」の考え方も反映する琉球料理には、世界の5大長寿地域である「ブルーゾーン(※)」のひとつに数えられる沖縄の長寿の秘訣が詰まっていると言われている。
※ アメリカの研究者ダン・ビュイトナーが提唱したもので、沖縄、イタリアのサルデーニャ島、アメリカのカリフォルニア州ロマリンダ、コスタリカのニコヤ半島、 ギリシャのイカリア島の5か所を指す。(2025年3月現在)
しかし昨今では、琉球料理を作ることができる人はおろか、食べる人さえも少なくなっているという。このままだと、後世に受け継いでいくべき貴重な文化が消滅してしまう──こうした課題感から沖縄県は、一定の資格や経験を持ち「琉球料理担い手育成講座」を修了した人を「琉球料理伝承人」として認証する取り組みを2018年に開始。2025年3月現在、認定を受けた伝承人が97人おり、琉球料理を次世代に継承したり観光資源として活用したりといった取り組みをそれぞれが行っているという。
この日は、そのうちの一人である根路銘弘美(ねろめ・ひろみ)さんの自宅兼料理教室「サンダンカ」にお邪魔し、講義をしてもらった。

根路銘弘美(ねろめ・ひろみ)さんの自宅兼料理教室「サンダンカ」
ダイニングに入ってまず目に飛び込んできたのは、お弁当箱いっぱいに詰められた、華やかな料理の数々。全て根路銘さんお手製の琉球料理で、この日の参加者のために事前に用意してくれていたものだ。

根路銘さんが調理したお弁当。モーイという海藻で作るモーイ豆腐やアオサ入りだし巻き卵、島豆腐のハンバーグ、チシャナバー(かきちしゃ)の白和えなど。
まずは根路銘さんを囲んで、琉球料理特有の調理方法について学んでいく。
根路銘さん「チャンプルーって何のことか知っていますか?答えは、旬の野菜と豆腐を入れた料理のこと。食材を色々混ぜたものをチャンプルーと表現することもありますが、本来は、豆腐が入って初めてチャンプルー。優れた植物性タンパク質である豆腐を、ビタミンや食物繊維などを含む野菜と合わせる、栄養学的に理にかなった料理なのです」
チャンプルーの正しい調理法は、固めの島豆腐をフライパンで両面焼いて、それを一旦取り出して野菜を炒め、最後に豆腐を戻すというもの。味付けは醤油や塩、味噌といった一般家庭にある調味料でできる一方、出汁をとったり下処理をしたりといった手間暇をかけるのが琉球料理の全体的な特徴なのだそうだ。
根路銘さん「油は、豚の背脂であるラードを使います。沖縄では昔はラードが上手に使われていました。動物性の油は身体に良くないという話が出回った時期もありましたが、ラードにはアミノ酸などが含まれており、本当はとても身体に良いものなのです。体温で溶けるため血管に溜まりにく、夏に硬くなる野菜の口当たりや栄養素の吸収も良くしてくれます」
そんな風に、琉球料理のひとつひとつの調理法には、健康や長寿につながる要素が散りばめられている。「科学で証明することもできなかった時代にこれだけの知恵が詰め込まれた料理法ができたって、不思議ですよね。だからこそ、この食文化を守っていかなきゃいけないと強く思うのです」と根路銘さん。

根路銘弘美さん
食材も、琉球料理には外せない要素だ。沖縄では、28種類の島野菜が伝統的農産物として親しまれており、琉球料理には主にそうした島野菜や海藻などが使われる。
渡された島野菜のリストには、ゴーヤやナーベーラー(ヘチマ)といったウリ科の野菜を中心に、フーチバー(にしよもぎ)やモーウイと呼ばれるオレンジ色の太いきゅうり、別名「ぬちぐすい(命の薬)」とも呼ばれるハンダマ(すいせんじな)など、中には本土では見られない独特な野菜が並ぶ。
温暖な気候で育つこうした島野菜は本土の野菜と比べてビタミンやミネラルといった栄養素を豊富に含み、免疫力向上やむくみ解消、血圧の調整といったさまざまな効能があるという。たとえば、暑い夏にゴーヤやヘチマといったウリ科の野菜が多く採れるのは、腸内環境を整えたり、身体を冷やしたりする効果があり、夏バテ防止に役立つからだ。
根路銘さん「昔の人は、ウリ科の植物や海藻など、食物繊維を多く含む食材をたくさん身体に取り込んでいました。一方で最近はこうした食材の消費量が減っています。そうした食生活の変化が、寿命が段々と短くなったり、生活習慣病が増えたりといったことにつながっているのだと思います」

今帰仁では、28種類の島野菜のほとんどが栽培されているのだという。
講義の後は、根路銘さんがキッチンでパパイヤイリチーとナーベラー(ヘチマ)の卵とじ作りを実演してくれた。沖縄では甘くなる前の青パパイヤを食べることが多い。母乳の出を良くする効果があるため、昔は産後の母親たちがよく食べたのだという。
根路銘さん「昨年の今ごろ、食物科を専攻している高校生に、『ゴーヤってどうやって切るんですか?』と聞かれたんですね。それを知らなかったということに驚き、とてもショックを受けました。ですから、料理教室では皮の剥き方や種の取り方など、野菜の基本的な扱い方から教えています」
そんな話もしながら、細かく刻んだ青パパイヤを豚肉と合わせて炒めていく。味付けは、かつお出汁と豚出汁、醤油でシンプルに。
根路銘さん「地産地消とはよく言われますが、その土地の食材をその土地の方法で調理する『土産土法』も大事な考え方だと思います。今帰仁にも料理上手なご高齢の方々がたくさんいますが、その方たちのほとんどはどこにもレシピを残していません。ですから、そうした方々に話を聞いて、レシピを書き記していく活動も行っています」

パパイヤイリチー調理の様子。
琉球料理のお弁当は、その日の昼食としていただいた。どの料理も味がきちんとついていてずっしりとした食べ応えだったが、全部食べきった後も不思議と胃は重く感じなかった。
琉球料理の講座を通して再認識させられたのは、いかに日々の食と心身の健康がつながっているかということ、また、近代化が進む以前に培われた土地に根差した食材や調理法が、いかに自分たちの心身にとって理にかなっているか、ということだ。
自分が生まれ育った地域には、どんな「土産土法」があるだろう。帰ったら調べてみよう──そう思いながら、料理教室を後にした。
雨をどう感じるかも、大事な要素。森のセラピー
ツアー最後のプログラムは、森を歩いて心身を整える、森のセラピーだ。沖縄と言えば海が想起されがちだが、ここ今帰仁には、村民に親しまれる乙羽岳(おとはだけ、通称おっぱだけ)森林公園がある。
森林浴は、植物の香り成分などが脳に作用することでストレスホルモンの減少やエネルギー回復などに効果があるとされており、近年では医療や福祉の領域などでも効果的な治療法として活用されている。今帰仁ウェルネスプログラムでは、この森のセラピーまたは海のセラピーを必須のプログラムとして位置付けているという。
ここでガイドをしてくれたのは、今帰仁ちゅーなーの上地紀子(うえち・のりこ)さん。朝から小雨が降っていたその日、森のセラピーを予定通り実施するかどうかについては、運営側でも議論があったという。しかし、雨の日にしか感じられないことや見られない風景がある。そうした考えのもと、最終的には実行することになった。
「雨の森を自分がどう感じるかを観察するのも、セラピーのうち。自然は私たちがコントロールできないもの。そんなありのままの自然に身を投じてみることも大事です」と上地さん。道がぬかるんでいて滑るのではないか、森の中はとても寒いのではないか──正直なところそんな不安もありながら、森の入り口へと歩いて行った。

上地紀子さん
入り口で軽いストレッチをしたら、早速木の階段を使って森の中へ。中へ入ると、生えている植物があまり見慣れないものであることに気づく。落ち葉に覆われた土はちょうどよく水を吸い、踏みしめるとふわっと柔らかい。雨の水が土や草の香りを漂わせ、緑も濃く見える。
上地さん「この木は一見しっかり立っているように見えますが、触ってみると幹がぶよぶよとしていて、かなり腐っているのがわかります。でも、森の中では木が腐って倒れたら土の栄養となって循環していくので、ごみにはなりません。そうした様子を見ていると、自然って、本当によくできてるなと常々思うんです」
上地さんがそんな小話をしながら、今帰仁の森林と私たちをつないでいく。
しばらく歩いたら、各自で自由に歩き回ってみる時間。自分の背丈よりも少しだけ高い位置で傘のように広がる大きな葉の下に入ってみると、ずいぶん体感温度が違う。雨の日の森は危ないのではないかと思っていたが、頭上に広がる木々が雨を遮ってくれるため、むしろ外界から守られているような感覚すら持てる。

(左)森の中に佇む人(右)手のひらに乗っている白い花
一度最初に入った森を一旦出て、道路を挟んで向かい側のもうひとつの森へ入っていく。すぐ隣なのに、最初の森とは木々の色も明るさも全く違う。こちらでは、全員で同じ方向を向き、目を瞑って深呼吸。森の空気を身体いっぱいに取り込み、吐き出していく。数回の深呼吸ののち目を開けると、視界がぐんと鮮やかになっていた。
「スッキリした、気持ち良かった」セラピー後はそんな声のほか、「自分の呼吸が浅くなっていたことに気づいた」「自分にとって、素直に目の前のことに集中することがとても難しくなってるということを意識させられた」といった声があがり、自分の身体の状態や心の動きに自然と目がいった人が多いようだった。
また、何人もの参加者が口にしていたのは、雨の日の森を楽しんだ、ということだ。晴れたらラッキー、雨は残念──私たちはついついそんな風に考えがちだけれど、それはあくまで人間の都合であって、自然には天候に良いも悪いもない。
そんな人間のコントロールの範疇を超えた領域をいかに受け入れ、そこにどう美しさや価値を見出すか。この日の森のセラピーからは、そんなおおらかな心構えを学ばせてもらった気がした。
編集後記
ふと、遠くを見渡すと、光をふくんで透きとおる海。
ふと、空を見上げると、降り注ぐ満天の星。
ふと、振りかえると、あたたかい村民の笑顔。ふと、今帰仁。
──今帰仁ウェルネスプログラム パンフレットより
この言葉で表されるように、ありのままで大きな手を広げて待っていてくれる今帰仁というフィールド、そんな今帰仁を愛し、旅人をあたたかく迎え入れてくれる村の人たち。2日間のウェルネスツアーには、今帰仁の魅力や作り手の想いがぎゅっと詰め込まれ、リラックスしながら自分の心と身体に向き合えることはもちろん、今帰仁に根付く文化や暮らしの知恵から心身共に健康であるためのヒントを得ることができた。
記事には書ききれなかったが、モニターツアーの後に体験させてもらった今泊(いまどまり)集落を歩く「集落さんぽ(※)」では、フクギ並木や曲がり道で台風や津波から集落を守ってきた琉球風水の知恵から、自然と共に暮らすこれからの暮らしのあり方や、こうした文化を守っていく大切さも学ばせてもらった。
※ 「集落さんぽ」は、今帰仁ウェルネスプログラムで選べるコンテンツのひとつ。

(左上)今泊集落を案内してくれた今帰仁ちゅーなーの影山茉莉子(かげやま・まりこ)さん(左下)影山さん手作りのフクギの実を入れたちんすこう(右下)今泊集落のフクギ並木
また、2日目の雨の森が教えてくれたように、今帰仁の自然が見せる顔は天候や季節によってきっと異なるのだろうし、ツアーのプログラムやタイミングによって、出会える今帰仁ちゅーなーも変わってくる。そんないくつもの可変要素が組み合わさることで、何度でも、その時その時の楽しさや発見が生まれる。それも、このツアーの面白さではないだろうか。
今帰仁ウェルネスプログラムは、企業の規模や目的に合わせて柔軟なカスタマイズを行っているほか、相談に応じ少人数の団体の受け入れも行っている。日頃から頑張っている社員の心身をリフレッシュさせたい。一度立ち止まって自身やメンバーに向き合う機会を持ちたい──そんな企業は、ぜひ一度プログラムを利用してみてはいかがだろうか。
記事中写真撮影:Shio Yamasaki
【参照サイト】沖縄県今帰仁村 企業向けウェルネスプログラム
【参照サイト】今帰仁村観光協会が、企業の人材育成や健康経営をサポートする体験滞在型ウェルネスプログラムを正式リリース