ジメジメした日が続くこの季節、室内で快適に過ごそうとエアコンに頼る人も多いのではないだろうか。各部屋でエアコンを稼働すれば、特に夏の時期には電力消費が一気に跳ね上がる。
2022年のデータでは、世界全体の電力使用量のうち、約7%をエアコンが占めていたという(※1)。地球温暖化や都市のヒートアイランド現象の影響で冷房需要は今後も増え続け、さらなるエネルギー消費が懸念されている状況だ。
こうした背景から生まれたのが、シンガポール国立大学の研究チームが開発したセメントベースの塗料「CCP-30」だ。CCP-30を建物の壁や屋根に塗ると、多孔質の塗膜が太陽光を反射し、水分をゆっくりと蒸発させることで吸収した熱を徐々に外へ逃がす。まるで建物が汗をかくかように、表面から熱を放出していく仕組みだ。
従来の冷却塗料は表面が水を弾く性質を持つものが多く、高温多湿の気候では冷却効果が十分に発揮されないこともあった。一方、CCP-30は塗料が濡れていても太陽光の88~92%を反射し、吸収した熱の95%を外へ逃がすという優れた冷却性能を持つ(※2)。世界でも湿度が高い都市の一つであるシンガポールで実験が行われ、従来塗料と比べて最大で表面温度を約4.5℃下げる効果が確認された(※3)。気候条件に左右されにくく、暑さと湿気の両方に対応できる点が強みだ。
また、CCP-30は昼間だけでなく夜間にも冷却効果を発揮する。日中に蓄積された熱は、夜間に建物の表面から目に見えない熱エネルギーとして放出される。この放射冷却によって、24時間にわたり建物の表面温度が低く保たれるのだ。これは冷房設備の負担を軽減するだけでなく、夜間の熱中症リスクを下げる手段としても期待されている(※4)。

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さらにこの技術の特長は、電力を使わず自然の力だけで建物を冷やすパッシブ冷却が可能な点だ。パッシブ冷却は、エアコン使用によるCO2排出を抑え、エネルギー消費の削減にもつながるため、特に電力インフラが不十分な地域や、エアコン設置が困難な場所では、有効な冷却手段として大きな意味を持つ。今後は、高層ビルの屋上や壁面、アスファルト舗装など、熱がこもりやすい場所での応用も期待されている。
気候変動の影響が深刻化する中、日本でも毎年のように猛暑が続き、冷房需要が高まっている。これからの都市づくりには、大量のエネルギーを使わなくて済むような工夫が欠かせないだろう。「汗をかく塗料」は、そんな時代に新たな選択肢を与えてくれる。
※1 Air conditioning accounts for 7% of global electricity and 3% of carbon emissions Our World In Data
※2 Passive cooling paint sweats off heat to deliver 10X cooling and 30% energy savings Tech Xplore
※3 This paint sweats to cool off buildings. No energy required. Anthropocene Magazine
※4 Passive cooling paint enabled by rational design of thermal-optical and mass transfer properties Science News
【参照サイト】Passive cooling paint enabled by rational design of thermal-optical and mass transfer properties
【参照サイト】This paint ‘sweats’ to keep your house cool
【参照サイト】This paint sweats to cool off buildings. No energy required.
【参照サイト】Alternative to air conditioning — new paint that «sweats», effectively absorbs heat
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Edited by Megumi
