オランダの小売大手アルバート・ハイン、スコープ3のメタン排出量を世界で初めて公表

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気候変動対策が急がれる中、一定の条件を満たす企業は自社のCO2排出量を計測し、公表することを義務付けられるようになった。しかし、CO2は温室効果ガスのうちのひとつで、他にも地球を温めるガスは複数存在する。

中でも最も強力で対処が必要とされているのが、メタンだ。天然ガスの採掘や輸送、牛や羊などの畜産動物の反芻や糞尿から発生するメタンは、20年換算でCO2の86倍の温室効果を持つ。このため、排出を一刻も早く減らす必要があり、反対に、減らすことができれば即効性のある気候変動対策になるとされているのだ。

しかし、乳製品業界や石油・ガス業界など、メタンを直接的に排出する業界を除いて、その排出量が単独で公表されることは少なかった。そんな中、オランダ最大のスーパーマーケット、Albert Heijn(アルバート・ハイン)が、2024年のサステナビリティ報告書において、自社のサプライチェーンのうち、スコープ3排出量におけるメタンの寄与を書き加えていたのだ。

この記載を発見したのは、環境NPOのMighty Earthだ。同団体の報告書「Taking the Bull by the Horns(困難に正面から立ち向かう)」によれば、Albert Heijnのスコープ3排出量のうち、全体の約14%がメタンに起因すると推定されている。そして、その最大の排出源は畜産業である。

Mighty Earthは、この動きを「気候の透明性における突破口」と評価。オランダ支部のディレクター、Jurjen de Waal氏は、「あまりにも長い間、小売業者はメタン排出量の開示は難しすぎると我々に語ってきた。しかし、Albert Heijnのこの動きは、それが明らかにそれほど難しくなく、実行可能であることを示している」green queenの取材で述べている。

同団体の調査によれば、Albert Heijnの発表以前にメタン目標を掲げていた世界のトップ20のスーパーマーケットは一社もなく、Albert Heijnの試みは小売業界で世界的に初とされている。Mighty Earthは現在、TescoやCarrefour、Lidlといった他の大手スーパーマーケットにもこの動きに追随するよう呼びかけている。

Albert Heijnの看板

Image via Shutterstock

現在は多くの企業が、自社の活動に伴う温室効果ガス排出量を、スコープごとに「トン-CO2e」という単位で報告している。この「CO2e」という単位は、メタンや亜酸化窒素といったCO₂以外の温室効果ガスの排出量にそれぞれの地球温暖化係数を掛け合わせ、CO2の量に換算した数値を合計したものだ。

これに対し、各企業が正確なメタン排出データと具体的な削減目標を設定するようになれば、その削減はより速く進むだろう。また、政府や国際機関も、より実態に即した効果的な政策を立案できる可能性がある。例えば、農業メタンの排出が多いことがデータで裏付けられれば、持続可能な農法への転換を促す補助金制度や、排出量に応じた規制の導入といった、的確な政策的サポートが可能になる。

Albert Heijnは、2030年までに温室効果ガスの排出量を2018年比で45%削減、2050年までにネットゼロを達成するという目標を掲げている。目標の達成に向けて、家畜の糞尿処理や飼料の改善などをサプライヤーと共に行うほか、今後、植物性タンパク質の販売量を増やしていく予定だ。

メタン排出量の削減は、地球温暖化を抑制するための最も迅速で費用対効果の高い方法の一つだ。Albert Heijnが踏み出した一歩は、業界全体の「見て見ぬふり」を終わらせるための号砲となるかもしれない。

【参照サイト】Netherlands’ Albert Heijn Becomes First Supermarket Globally to Report Methane Emissions
【参照サイト】Ahold Delhaize’s US stores risk group’s global climate goals
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