語ればウォッシング、黙ればハッシング?気候変動時代の「正解のないプロセス」を伝える企業発信のあり方【イベントレポ】

2026.07.29

気候変動に対して企業の果たすべき役割が、ますます重要視される現代。多くのサステナビリティ・広報・マーケティング担当者が「自社の取り組みをどこまで、どのように発信すべきか」というジレンマに直面している。

社会からの期待に応えようとするあまり、実態以上の表現をしてしまう「グリーンウォッシング」。その反面、批判を恐れた結果、価値ある活動までも口を閉ざしてしまう「グリーンハッシング(沈黙)」。こうした二極化するコミュニケーションのあり方は、企業の歩みを止め、社会との信頼関係を損なうリスクを孕んでいる。

「正解」が見えない中で沈黙を貫くことは、本当にリスクを回避していることになるのだろうか。あるいは、完璧ではない歩みをさらけ出すことは、ブランドを傷つけてしまわないのだろうか。

この問いを軸に、気候危機に創造力で立ち向かう共創プロジェクト・Climate Creativeでは、第23回目となるトークイベント「語ればウォッシング、黙ればハッシング?気候変動時代の『正解のないプロセス』を伝える企業発信のあり方」を開催した。欧州の最新規制やグローバルな企業の先進事例をもとに、情報コミュニケーションにおける「誠実さ(Integrity)」の境界線を探った。(過去のイベント一覧はこちら

本記事では、そのイベントの第1部と第2部の様子をお届けする。

登壇者紹介

伊藤 恵(アーティクル株式会社・グローバル事業担当執行役員)

ロンドン在住。一橋大学社会学研究科修了。学生時代は東京・シンガポール・香港などアジアのグローバルシティの公共空間・緑化空間について研究し、その後オフィスのインテリアデザインを手掛ける企業にてプロジェクトマネジメントに携わる。現在はIDEAS FOR GOODでのライティング・編集ほか、欧州現地でのリサーチ・プロダクト制作に取り組む。

中村 優花(株式会社メンバーズ・脱炭素DXカンパニー)

「気候変動をビジネスで解決する」というミッションに共感し入社。気候変動×マーケティングを主な支援領域とし、企業のサステナビリティに関する情報発信やマーケティングなどを支援。2023年度グローバルコンパクトネットワークジャパン CSV分科会幹事。マーケティング学会 サステナブル・マーケティング研究会メンバー。

気候変動をめぐる「情報の届け方」の現在地

第1部の冒頭、株式会社メンバーズの中村さんが触れたのは、事前アンケートに寄せられた多くの担当者の切実な声だった。

「発信したいけれど、言葉を選び、削っていったところ、何が言いたいか分からない文章になってしまった」

「発信の正解が分からないので、そもそも発信することにすごく不安を感じている」

この「発信の正解がわからない」という閉塞感を引き起こしている背景として、中村さんは主に2つの要因を挙げた。1つ目は、世界規模でめまぐるしく変化し、厳格になりつつある環境発信への法規制。そして2つ目は、環境問題そのものが持つ複雑さ。科学的な正しさを一つの側面だけで評価することは難しく、それが本当に環境に良い影響を与えているのかを証明すること自体、ハードルが極めて高いのだ。

法規制の動向に目を向けると、欧州やアメリカでは曖昧で誤解を招くような表現への取り締まりが段階的に進んでいる。日本国内においても同様の潮流があり、消費者庁の景品表示法に基づく指導に加え、環境省の「環境表示ガイドライン」が改定されたばかりだ。

環境表示ガイドラインで示された5つの基本項目から、日本社会でもグリーンウォッシュに対する意識が高まりつつあることがうかがえるだろう。しかし、国内外でこうしたルールが整備される一方で、実務における不安は尽きない。

「グリーンウォッシングの定義を見直すと、これは環境に配慮したイメージのある『グリーン』と、誤魔化や上辺だけという意味の『ホワイトウォッシュ』を組み合わせた造語。一方でグリーンウォッシングの事例の多くは、騙すつもりで情報を発信しているのではなく、規制の最新情報や科学的根拠の不確実さに気づかずグリーンウォッシュに陥ってしまう、そして、それを懸念してハッシングに至っているのではないかと想像されます」

悪意はなくとも「意図せず加担してしまう懸念」に、注意する必要があるのだ。

「実際にグリーンハッシングの兆候は日本でも見られていて、2022年の調査(要リンク挿入)によると、ネットゼロの目標を掲げたり策定したりする中で、日本企業の約5分の1が科学的根拠に基づく排出削減の目標を掲げても社会に公表しない選択を取ったという結果もあります。やはり今、企業は発信することとグリーンウォッシング、ハッシングを天秤にかけるような、狭間にいらっしゃるのかなと捉えています。

ただ、そもそもこうした規制が敷かれている背景には、正しい情報をちゃんと届けることで生活者が困らないようにすること、またステークホルダーとの信頼関係を構築することを重視する考え方があります。その先には、製品が選ばれて事業が拡大したり、企業の取り組みが正しく評価されたりすることにも繋がるはずです。改めて問い直されてるのは、『何のために情報発信するのかな』という点でもあるのではないでしょうか」

そんな情報の「受け手」の視点に立つと、環境規制はどのような生活実感に繋がっているのだろうか。ひるがえって、生活者に支持されている情報の届け方にはどのような共通点があるのかを深掘りしてみよう。

グローバル事例から学ぶ「誠実な発信」の境界線

続いて登壇したイギリス・ロンドン在住のIDEAS FOR GOOD編集部・伊藤からは、規制の強化からハッシングが生まれる構造、そしてそれを乗り越えるためのヒントを与えてくれる事例や、新たな地平までが説明された。

EUでは環境主張の検証を義務付ける「グリーンクレーム指令」の施行に向けて各国が動いており、「エコフレンドリー」「サステナブル」といった曖昧な言葉が根拠なしには使えなくなっている。英国でも広告規制機関(ASA)が大手ファッションブランドの広告表現を相次いで禁止し、根拠の明確さが厳しく求められ始めている。

一方で、このような厳しい規制や消費者からの監視の目が、企業を萎縮させ、情報発信を控えさせる「グリーンハッシング」を引き起こしているのだ。

「グリーンハッシングが生まれる構造は、規制強化によって表現を間違えることへの恐怖感が高まっていること。少しでも間違えるとNGOやメディア、 SNSを通じて消費者からもウォッシングの告発があり、企業が萎縮してしまう。イギリスはこの文化が非常に強いと感じます。また注目されにくいですが、『完璧でなければ言えない』という社内の圧力や自己検閲機能も構造的課題として重要だと思います」

具体的には、どのような事例が禁止事項に触れてしまうのか。具体例として、2019年に欧州最低排出量を謳う広告を出して禁止処分を受けた航空会社・ライアンエアーの事例を挙げ、その課題点を解説した。

「ヨーロッパの主要なLCCの一つであるライアンエアーが、『ヨーロッパで最安値かつ炭素排出量も最も低い』というメッセージを打ち出して、その広告が禁止されました。 何が問題だったかというと、1点目は比較の恣意性です。都合の悪い航空会社を比較対象から除外した結果を掲載したり、2019年の広告に2011年のデータを使用したりした点が問題となりました。

2点目は文脈なき数字。もともと航空会社に対しては環境税の支払いが義務付けられていて、どの航空会社も支払っています。その法的義務の履行を美徳として語っていたり、EUでは航空燃料が実質課税免除になっている分を補うための環境税であるにも関わらず、この支払いをアピールして出したことが問題にされていました。その後、批判を受けて同社は持続可能な燃料を導入したり、プラ廃止に着手したりしていますが、信頼回復には時間がかかっています」

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こうした事例は複数存在しており、それらを分析するとNGパターンにはいくつかの共通項が見えてくるという。それが次の3つだ。

  • 部分を全体として見せる:一部の製品や期間、特定の工程だけの話を、全体の取り組みであるかのように誇張して語る。
  • 都合のいいところ切り取り:ライフサイクルの一部や特定の時期だけを都合よく切り取って根拠にする。
  • 課題・失敗・文脈が見えない:うまくいっている部分や数字だけを前面に出した、「失敗や課題を隠す」コミュニケーション。

こうした情報発信のあり方は、むしろ生活者やNGOの監視を強め、不信感を生む原因となってしまうのだ。

一方、こうした厳しい情報環境の中で、生活者やステークホルダーとの信頼関係を築き、逆に「応援」を集めることに成功している先進企業の事例が紹介された。

「フランスのスニーカーブランド・VEJAは、製造コストの内訳として『どこにいくら払っているか』をウェブサイトですべて公開していて、達成できていない課題を『Limits』として開示しているのが特徴的です。Limitsのページでは、『ここまでは頑張ってるけれど、機能性とサステナブルな素材が両立できず、今は機能性を優先してこの素材を使っています』などの説明をしています。

特徴的なのは、会社が隠しごとをしていない安心感が信頼に繋がること。批判の余地を先に埋めるという戦略により、批判ではなく応援が集まります。例えば『私の会社でここカバーできます』『消費者としてこういうところを応援したいと思います』と、応援の声が集まる流れを作っている点が非常にうまく切り抜けている事例だとみています」

「企業の成長は何のため?」フランス発の大人気スニーカーVEJAの哲学

もう一つの事例が、スウェーデンのオーツミルクブランド・Oatly。全商品のパッケージの目立つ場所に1本あたりのカーボンフットプリントを数値で表示し、原材料やカロリーの表記と同じように、環境負荷を開示して当たり前の情報として打ち出している。また、年次報告書で失敗したことを明確に記しており、業界全体で表示の標準化を推進している。

「こうした環境負荷の表示があることで、それが判断材料になり、選択の自信に繋がります。『他のオーツミルクと比べてどうか?』『Oatlyの他の味と比べるとどうか?』など考えながら、自分の食生活と価格とカーボンフットプリント、全てを見合わせて買い物の選択ができるのです」

そのほかにも、商品をすべて量り売り形式で提供するフランスの店舗を紹介。パッケージそのものの必要性を根本から問い直し、個々の商品の素材、製造過程、環境負荷データといった詳細情報を、店頭のQRコードから確認できるように設計されている。これはEUが進めるデジタルプロダクトパスポート(DPP)とも足並みを揃えた取り組みだ。

「グッド事例の共通点は、批判を応援に変える『巻き込みの姿勢』が非常に上手であること。もちろん、環境負荷を減らすための取り組みが彼らの事業の中枢に据えられていて、消費者がそれを理解できることが大前提ではあるのですが、『ここまで本気でやっているけれど、ここが今の限界です。一緒に解決しませんか』という呼びかけのようなコミュニケーションを取っているのがポイントだと思います。

また主張の範囲を明示し、課題・失敗・修正のPDCAのプロセスを歩み続けて、トライアンドエラーを繰り返していることを伝えるのも大切。自分たちができていないところをあらかじめ開示することで、生活者や投資家が批判より応援に回るっていることも特徴です。つまり『透明性はリスクではなく、資産になり得る』ということがグッド事例からの示唆かなと思います」

不完全さを享受する指針と、次に来たる「充足性」の問いかけ

ここまで、透明性を前向きなツールとする先例を見てきた。ただし、透明性を担保するためにむやみに開示すれば良いわけではない。情報の届け方のデザインにおいても、抑えるべきポイントが存在している。

伊藤はB Corpを運用するB LabとCreative For Climateによるガイドライン「Greenshouting Guide」を紹介し、正直さと伝わる力を両立させるための「謙虚さ」の重要性に言及。100%完璧な企業は存在しないと認め、失敗をも共有するトーンを大切にするべきだと語った。

「どんなに頑張ってる企業でも完璧はありえないことで、ある側面から見たら完璧でも、ほかの側面から見たら評価が下がることも往々にしてあり得ると思います。それを認め、失敗も共有していく姿勢が、このガイドラインの中でも強調されています」

「また、個人的に今後重要になってくると注目している概念が『サフィシエンシー(充足性)』です。今、企業の議論は少ないエネルギーや資源でどれぐらい需要を回していくかという、効率や技術の話題がメインだと思います。一方でサフィシエンシーは、『そもそもその需要が本当に必要か』を問い直します。

企業コミュニケーションへ翻訳するならば、リサイクル素材に移行するのは効率の話。そもそもその製品が必要かを問うのがサフィシエンシーの話です。誰が、何を、どのぐらい必要としているのか。これを大量に生産する意味があるのか、という部分から問い直す姿勢が重要なのです」

例えばアウトドアブランドのパタゴニアは、2011年に「Don’t buy this jacket(このジャケットを買わないで)」という広告を展開し、不必要な消費を抑制するよう呼びかけた。2022年には創業者が会社を環境保護の財団に譲渡、2025年に掲げていたカーボンニュートラル目標への遅れを説明した上で、2040年ネットゼロへと目標を修正した。

イギリスのコスメブランド・Faith In Natureは、2022年に世界で初めて「自然」を取締役会の一員に任命(代理の人間が自然を代表して議決権を行使)。プラスチック脱却やパームオイル削減を実際に可決させ、ガバナンスレベルで前提を問い直している。

取締役を「自然」にする会社と、株主を「地球」にするパタゴニア。二つの事例から考える、企業のあり方

一方で、パタゴニアが「Don’t buy this jacket」という広告を打ったところ、かえって売り上げが増えた点など大局的に見ると矛盾を抱えている側面もあると指摘。それでも、彼らのコミュニケーションに学ぶべきポイントとは何だろうか。

「こうした不完全さを消費者と共有して、その時々にできることは何が最善かを考えていくこと──その旅路全体を生活者に共有する姿勢は、学べるところではないかと思います。誠実さと共に、発信の前提を問い直す段階があることも重要です。パタゴニアやFaith In Natureが取り組んだように、そもそもの仕組みをも疑うことができる企業が、次の信頼を獲得していくでしょう。

日本と欧州の文化の違いはあれど、完璧になることはないと割り切って、できていることと限界、それでも一緒に解決したい姿勢まで示すことが、誠実な発信に繋がっていくと考えています」

コミュニケーションの鍵は「いざない」のUX

続くクロストークでは、参加者から寄せられた質問を交えながら、日本企業が抱えるリアルな課題についての対話が広がった。イベント内では、先進事例をいきなり真似するのは難しいこと、そして消費者にリサイクルや環境対応の責任を押し付けるような発信になってしまう懸念があがった。伊藤は「消費者のユーザー体験(UX)を優先し、企業がその体験をスムーズにする仕組みで考えることが大きなポイントになる」と応じた。

また、たとえ誠実な態度であっても、不完全な開示や目標下方修正がもたらす評判リスクを恐れる日本の実務者に対し、伊藤は「ヨーロッパでは開示しないことの方がリスクになりつつある」という変化の兆しを提示。パタゴニアのような大胆な発信が成立するのは、一貫した取り組みの蓄積と生活者との信頼関係があるこそであり、一回の情報発信にとどまらず生活者との長期的な関係を構築していくプロセスとして日々のコミュニケーションを捉え直すことが、日本企業が沈黙を乗り越えるための現実的なアプローチになる可能性が対話の中で示された。

イベントを通じて浮き彫りになったのは、規制や批判を恐れて黙り込むことはリスク回避にならず、むしろ不完全さや「今の限界」を共有し、次なる一歩を社会とともに模索する姿勢こそが次なる信頼を獲得しうること。内情を開示するからこそ、多様なステークホルダーを解決へのプロセスに巻き込むことも可能になるのだ。

企業と社会のより良い関係を築く旅路に、誰を、どのように誘なうことができるのか。これからの情報コミュニケーションに求められる新しい「誠実さ」の姿は、その蓄積から形作られていくのだろう。

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この記事を書いたライター

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