誇張でも沈黙でもない「第三の発信」へ。B Corp™︎と中川政七商店に学ぶ、情報の伝え方の視点【イベントレポ】

2026.10.30

気候変動をめぐる企業のコミュニケーションは今、この二つの落とし穴のあいだで揺れている。環境に配慮しているように見せかけ、実態との間に誤解を生んでしまう「グリーンウォッシング」。そして、その批判を恐れるあまり、実際には取り組んでいるのに発信を控えてしまう「グリーンハッシング(沈黙)」だ。

欧州では2026年9月27日から、グリーンウォッシュ防止を目的とした消費者エンパワーメント指令の適用が始まった。日本でも同年3月に環境省の環境表示ガイドラインが改定されるなど、「どう伝えるか」はもはや一部の先進企業だけの問いではない。誇張でもなく、沈黙でもない。そんな「第三の発信」は、どうすれば形にできるのだろうか。

この問いを軸に、気候危機に創造力で立ち向かう共創プロジェクト・Climate Creativeでは、第24回目となるトークイベント「誇張でも沈黙でもない第三の発信へ。 B Corpの実践から紐解く、 誠実な情報の届け方」を開催した。日本でB Corp認証を推進する一般社団法人B Market Builder Japanの溝渕由樹さんと、2025年にB Corp認証を取得した株式会社中川政七商店の羽端大さんをゲストに迎え、認証制度の最新動向と、老舗が直面する工芸の危機、そして「伝え方」の現場について話を伺った。(過去のイベント一覧はこちら)

本記事では、そのイベントの第1部と第2部の様子をお届けする。

登壇者紹介

溝渕 由樹(一般社団法人B Market Builder Japan 共同代表)

東京都出身、現在東京と長野(軽井沢)在住。学生時代、ロンドン在住中にNGOの活動に参加する中で世界の格差を目の当たりにし、色んな人が自分らしく生きられる公平に機会がある社会づくりに関心を持つ。Save the Children Japan PRインターン、三井物産 法務部米州法務室での勤務を経て、2019年、自分の大好物であるクッキーを環境にも社会にもやさしい100%プラントベースで提供するovgo Bakerを創業。2022年12月、株式会社ovgoとしてB Corp認証を取得前後から、国内におけるB Corpのコミュニティ活性化に携わる。2024年3月、一般社団法人B Market Builder Japan 共同代表に就任。

羽端 大(株式会社中川政七商店 経営推進グループ長 デザインストラテジスト / サービスデザイナー)

京都大学法学部卒業後、2011年経済産業省に入省。政府成長戦略、環境政策、スタートアップ政策、大阪・関西万博等を担当。2018年より米パーソンズ美術大学大学院において領域横断的な社会デザインに関する研究を行う(MFA/美術学修士)。2023年、株式会社中川政七商店入社。経営・組織デザイン、サステナビリティ戦略、パブリックアフェアーズ、公共領域を担当。

「ウォッシング」と「ハッシング」、二つの落とし穴

トークの冒頭、まずClimate Creative Cafe事務局の仲原が、欧州事例を取り扱った前回の内容を振り返りながら、グリーンウォッシングとグリーンハッシングという二つのキーワードを整理した。

▶︎前回イベントレポ:語ればウォッシング、黙ればハッシング?気候変動時代の「正解のないプロセス」を伝える企業発信のあり方【イベントレポ】

グリーンウォッシングとは、自然環境に配慮した事業や商品であるように見せかけて、実態はそうではなく誤解を与えるような情報の伝え方のこと。

「グリーンウォッシングにおいて重要なのは、『ごまかそうという悪意や、消費者を騙してやろうという意図があって起きるものだけではない』ということです。そうするつもりがなかったのに、陥る可能性がある。海外では規制によって批判を受けたり、罰金が科されたりする事例も出てきています」

こうした批判の高まりを受けて増えているのが、グリーンハッシングだ。社会からの批判を恐れ、実際には環境や気候変動への取り組みを進めているにもかかわらず、その情報の開示や公表を控えてしまうことを指した表現である。

「良い取り組みをしている企業がいるのに、それが社会に広がりきらない。周りの企業から見ると誰も取り組んでいないように見えて、『自分たちもやらなくていいか』と思ってしまう。これが連鎖すると行動変容が広がっていかない原因にもなるため、控えすぎること、隠しすぎることもまた問題だと言われています」

一方で、好事例として紹介したのが、フランスのシューズブランド・VEJAである。同社はウェブサイトで製造コストの内訳を公開し、まだ達成できていない課題を「limits(限界)」として自ら開示している。

「徹底した透明性が、欧州の生活者から見ると安心感や信頼につながっているようです。課題を出しているからこそ、もっと応援しようという風潮も生まれています。彼らは広告費がほとんどゼロであり、透明性そのものがマーケティングになっている事例です」

第23回のイベントより抜粋。詳しくはイベントレポート記事から。

とはいえ、こうした「姿勢」は抽象的で、自社に当てはめるのは簡単ではない。そこで近年増えているのが、指標やガイドラインだ。B Corp認証を運営するB Labが公開した「Greenshouting Guide」もその一つ。今回は、その国内窓口であるB Market Builder Japanの溝渕さんに、認証の仕組みとその背景を聞いた。

商品ではなく「会社」を認証するB Corp

B Corp認証は、2006年に米国フィラデルフィアで設立されたB Labが運営する国際認証だ。現在はオランダ・アムステルダムを拠点に、世界約1万1,000社のB Corpを束ねている。B Market Builder Japanは、その正式な日本支部にあたる。

「すべての人々と地球にとって包括的で公平、そしてリジェネラティブな経済システムを実現する──その方法を、誰でも見られる基準に落とし込んで認証制度にすることで、ただ宣言しているだけではなく、すでにアクションを取っている会社でなければ取得できない仕組みになっています。さらに、同じ志と実践を持つ企業が力を合わせることで、社会全体を変えていく。私たちはそんなインターディペンデンス(相互依存)を大切にしています」

B Labの創業者3人はもともと、1993年に始まったバスケットボールシューズブランド「AND1」の立ち上げメンバーだった。従業員や地域コミュニティを大切にする経営で急成長したものの、次の成長フェーズに向けてファンドへ売却したところ、半年と経たずに福利厚生などの取り組みが失われ、ブランドそのものも終わりを迎えてしまったという。

だからこそ、B Corpは商品やブランド単位ではなく、会社全体、場合によっては企業グループ全体で認証を受ける必要がある。フェアトレードやFSC認証が製品の素材やサプライチェーンを示すのに対し、B Corpのマークは「すべてのステークホルダーにとって良い経営をしている会社の商品・サービスである」ことを示すものなのだ。

日本では、2016年に横浜の造園会社・石井造園が国内初のB Corpとなってから10年。現在は日本に本店を置く認証企業が107社となり、海外で認証を取得した企業の日本法人も含めると、約200社のコミュニティに成長してきたのだ。

B Market Builder Japan 発表資料より

B Market Builder Japan 発表資料より

点数制から「7つのインパクトエリア」へ。2026年の転換

B Corpの従来の制度では「80点以上で認証獲得」「パタゴニアは110点超え」といった総合スコアの評価が軸となっていた。しかし2026年、その点数制は廃止に。新たに認証を目指す企業、そして既存のB Corpも次回の再認証から、7つのインパクトエリアについて、企業規模や業種ごとに設定された最低要件をすべて満たすことが求められる。

B Market Builder Japan 発表資料より

B Market Builder Japan 発表資料より

7つのエリアは、大きくガバナンス、環境、人の3領域に分かれる。

ガバナンスには、公益性のあるパーパスとステークホルダーの声を聞き入れる経営体制を問う「パーパスとステークホルダー・ガバナンス」や、新設された「政策への働きかけとコレクティブアクション」の項目がある。自社だけでなく、周りを巻き込んで動いている企業でなければB Corpにはなれない、という要件だ。環境面では「環境スチュワードシップと循環」「気候アクション」の2つ。気候アクションでは、科学に基づく目標(SBT)への準拠を約束し、1.5℃目標の達成に向けたプランを公開、認証期間中の進捗も追っていく。人に関わる領域は「JEDI(公正・公平・多様性・包摂)」「フェアワーク」「人権」の3つだ。

新基準は、オンラインツール「B Impact」に従業員数や創業年数、業種を入れると、自社に必要な要件だけが表示される仕組みになっている。アカウントは誰でも作成でき、見るだけでも使える。

「自分たちがどの分野は実践できていて、どの分野をまだ考えられていないかを可視化できるツールになっています。是非アカウントを作って、まずはどんな項目があるのかを見ていただけたら嬉しいです」

B Market Builder Japan 発表資料より

300年続く老舗が掲げる「日本の工芸を元気にする!」

続いて登壇したのは、2025年にB Corp認証を取得した株式会社中川政七商店の羽端さん。同社の創業は1716年(享保元年)。奈良で、手績み手織りの麻織物「奈良晒(ならざらし)」の問屋として始まった。晒しの工程を繰り返すことで生まれる上質な麻は武家の正装に用いられ、一帯は一大産地として栄えたという。しかし武家の世が終わり需要が失われると、産業は衰退の危機に。。新たな需要創出や作り手の雇用など、手仕事によるものづくりを残すための試行錯誤を続けてきたのだ。

その模索の中で、2000年代より工芸をベースにした生活雑貨のブランドビジネスを加速。2007年には十三代・中川淳が「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げた。以降、同社は自社のみならず業界全体で元気になるための事業を展開しており、直近の決算で売上高は103億円、直営店は全国69店舗にまで広がっている(2026年9月時点)。

「工芸と聞くと、古めかしい伝統工芸のイメージを持たれる方も多いと思います。でも私たちは工芸を『暮らしの道具』と捉えていて、現代の暮らしで使っていただける道具を商品として作ることを大事にしています」

中川政七商店 発表資料より

中川政七商店 発表資料より

事業の柱は二つ。一つは、インハウスのデザイナーが全国数百の工芸メーカーとキャッチボールをしながら商品を企画・開発し、自社の店舗やオンラインで販売する「製造小売事業」。もう一つが、工芸メーカーの経営や流通を支える「産地支援事業」だ。

「産地支援事業の一つに、経営コンサルティングがあります。ブランドをつくってほしい、新商品を開発してほしいというお声がけもいただきますが、中長期で決算書が良くなることをゴールにしています。いいものづくりを続けるためには、いい経営をする必要がある。ブランドや商品づくりは、あくまでそのための手段なんです」

経営コンサルティングに加え、そのノウハウを体系化した講座の実施や、メーカーとバイヤーをつなぐ合同展示会「大日本市」の主催など、ものづくりから流通までを一貫して支えてきた。それらはどれも「日本の工芸のため」という土台に根ざしているのだ。

売れるのに「作れない時代」がやってくる

羽端さんは、同社が創業300周年の際に編集工学研究所の故・松岡正剛さんとともにまとめた工芸の歴史を紐解きながら、近現代の工芸の変遷を三つの時代で整理した。

戦前から戦後にかけては、百貨店という流通が生まれ、民藝運動が花開いた「作れば売れる時代」。バブル崩壊後、モノがあふれ、買い方も多様化する中で、百貨店に「○○焼」として並べるだけでは売れなくなった「作るだけでは売れない時代」。ライフスタイルショップやブランドが台頭し、中川政七商店もその流れの中で事業を育ててきた。

中川政七商店 発表資料より

そして今、そしてこれからの10年を、羽端さんは「売れても作れない時代」と表現する。

「『日本の工芸を元気にする!』と掲げて20年以上取り組む中で、成長してきた仲間やブランドも出てきています。でも、それ以上に産地の衰退は予想以上に早く、サプライチェーンが崩壊しかけている。中川政七商店にとってのサステナビリティ戦略とは、工芸のサステナビリティのための営みだと考えています」

環境面で特に大きな課題は、「廃棄」と「資源」の二つだ。手仕事の工芸品は製造工程でゆらぎが生まれやすい。そのため不良在庫が出やすく、使い終わった後の回収・リサイクルの仕組みも整っていない。家電のように法律に基づくリサイクル制度がある分野とは異なり、生活雑貨にはそうした仕組みが存在しないのが現状だという。

さらに深刻なのが、素材の枯渇だ。

「お茶碗などの陶磁器は、元をたどると山で採れる石なんです。山を物理的に削り取って陶石を採り、粘土と混ぜて陶土にする。何百万年もかけて堆積したものなので、再生するには同じだけの時間がかかる。一人の人間が生きている間にリジェネラティブ(再生型)にできるものでは全くなく、今あるものを少しずつ削り取っていく形でしか作れないんです」

こうした危機に向き合うため、同社は循環型の工芸システムの再構築に挑戦し始めている。その一歩が、“工芸のしまいかた”を考えるプログラム「C KOGEI」だ。使われなくなった陶磁器を店舗で回収し、再生事業者とタッグを組んで再資源化。それを再び器の素材として使うループづくりに取り組んでいる。

中川政七商店 発表資料より

中川政七商店 発表資料より

「こうした取り組みと並行して、B Corpの取得を通じて、自社も工芸業界も、よりいい会社、よりいい業界にしていく。作り手が経済的に自立し、ものづくりの誇りを取り戻し、適正な量と価格で流通し、作り手と使い手の距離が近づく。百年後に『工芸大国日本』の姿をつくることを目指しています」

基準は、成長の先を照らす。誠実な発信は、役割に根を張る

クロストークでは、参加者から寄せられた質問をもとに議論が交わされた。まず話題にのぼったのが、組織の成長と基準の遵守をどう両立させるかという問いだ。溝渕さんは、基準の「使い方」をこう提案した。

「B Impactの基準は、誰でも何度でも見ることができます。だからこそ、自分たちが成長した『先』で何をやらなければいけないのかを、予め見ておくことがおすすめです。今はスタートアップでも、従業員が300人になったときに何が求められるのか。すぐにやらなくても、見えていなかったところを可視化しておけば、より取りこぼしなくサステナビリティの取り組みを進めるための準備となるはずです」

基準を「守らなければならないもの」としてではなく、次に目指すステップを見える化してくれる指標として捉える。その視点は、再認証を控える企業にとっても示唆に富むものだろう。実際、中川政七商店でも今まさに新基準を一項目ずつレビューし、「自社の場合は何をしなければならないか」を確かめ始めているという。

そしてトークは、イベントのテーマである「誇張でもなく沈黙でもない、第三の発信とは何か」という問いへ。羽端さんが語ったのは、“工芸のしまいかた”という言葉が生まれた背景だった。

「当社は製造小売業として、長年にわたり日本の工芸の魅力や、工芸を暮らしに取り入れる楽しさをお客様に伝えてきました。一方で、愛着を持って使ってきた道具を、最後にどう手放すのか。その『ものの終わらせ方』については、これまで十分に提案できていなかったと感じています。工芸品は、使うほどに愛着が生まれやすいものです。長年使い、自分だけの道具になったものを、役目を終えたからといって、そのままごみとして捨ててしまってよいのだろうか。そうした問いから生まれたのが、『工芸のしまいかた』というコミュニケーションです。

日本には古くから、金継ぎや染め直しに代表される『直して、使い継ぐ文化』が息づいています。今回の取り組みも、単に不要になったものを回収し、再資源化するということではなく、そうした日本の文化や価値観を、現代の暮らしに合った仕組みとして提案するものです。工芸を買うこと、使うことだけでなく、使い終えるところまで。ものとの付き合い方そのものを提案することが、中川政七商店らしいコミュニケーションだと考えています」

中川政七商店の発信には「会社」ではなく「工芸」や「暮らし」を主語にした語りが多いように感じられる。一企業を切り出して発信するのではなく、社会というエコシステムの中に深く組み込まれた組織として、自分たちの役割を語る。その立ち位置から見たときに、「しまいかた」という言葉に納得感が生まれているのかもしれない。

溝渕さんは、第三の発信とは何か新しいことをするのではなく、誠実なコミュニケーションと透明性に尽きると語る。

「B Corp企業は、中川政七商店さんのように、より良い取り組みをすでに実践されている会社ばかりです。それを多様な立場の人にわかりやすく届けるための言葉遣いやコミュニケーションには、新しい工夫が必要になってくると思います。でも、発信する内容自体は、すでにやっていることで良いのです。世界で1万1,000社が参照している基準に根拠を求めていただいたうえで、自信を持って発信していただきたいと思っています」

沈黙を破るのは、確かな実践と、社会に根ざした言葉

グリーンウォッシングへの警戒が高まるほど、企業は「言わない」という選択に傾きがちだ。しかし、今回の二人の話から見えてきたのは、第三の発信とは、必ずしも奇をてらった手法での発信ではないということだった。

まず、実践がある。B Corpのような基準は、その実践に根拠を与えてくれる。その数字に軸足を置いたうえで、誰に、どんな言葉で届けるのか。中川政七商店が「循環プログラム」ではなく「しまいかた」と語ったように、自らが支えられている社会システムにおける役割を踏まえた発信が、沈黙を越えて行動の輪を広げる鍵になるのかもしれない。

これからもClimate Creative Cafeを通して多くの人と対話する機会を設けていく。次回のイベントも、ぜひお見逃しなく。

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この記事を書いたライター

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