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炭素不平等(Carbon Inequality)とは・意味

炭素不平等(Carbon Inequality)とは?

Carbon Inequality(炭素不平等)とは、所得、性別、人種、居住地域などに基づき、炭素排出の原因と影響が社会の構成員に不均等に分配される状況を指す。具体的には、主に先進国や富裕層が大量の炭素を排出しながらその恩恵を享受する一方で、途上国や低所得者層、そして将来世代が、自らの排出責任が小さいにもかかわらず、気候変動による深刻な影響を不釣り合いに受けるという構造的な問題である。

この問題は、環境的な負荷と利益が社会的に公正に分配されるべきだとする「気候正義(Climate Justice)」の考え方と密接に結びついている。気候変動の原因を作った人々と、その影響を最も受ける人々が異なるという構造的な不正義を問う概念であり、人権問題としても捉えられているのだ。

近年、地球温暖化が加速し、異常気象による災害が深刻化しているが、極端な炭素不平等がパリ協定の目標達成を脅かしている。

なぜ不平等は生まれたのか?歴史的背景

現在の炭素不平等は、過去数世紀にわたる先進国の経済発展と分かちがたく結びついている。産業革命以降、北半球の先進国が石炭や石油といった化石燃料を大量に消費して経済成長を遂げ、豊かな社会を築いてきた。その過程で排出された温室効果ガスが、今日の気候変動の主要な原因なのである。

一方で、多くの途上国は、植民地支配などの歴史的経緯から産業化が遅れ、排出量が少ないまま、先進国がもたらした気候変動の最前線で海面上昇や干ばつ、洪水といった深刻な被害に直面している。このように、炭素不平等は「歴史的責任」という観点抜きには語れない、根深い問題なのである。

炭素不平等に関連する数値

炭素不平等は、世界の炭素排出が極端に偏っていることを示している。

非営利団体オックスファム・インターナショナルが示す不均衡は以下の通り。

  • 1990年から2015年の間に、世界で最も裕福な10%の人々が、世界の炭素排出の半分以上を占めている。
  • 同期間に、世界人口の最富裕層1%は、約31億人とされる世界の最貧困層の2倍以上の炭素を排出した。
  • 同期間だけで、世界で最も裕福な10%の人々は世界に残された1.5℃目標の炭素排出枠の3分の1を使い果たした。
  • その一方で、世界の最貧困層の半分はわずか4%しか使い果たしていない。
  • 最富裕層1%の一人当たりの炭素消費量は、2030年の目標の約35倍、貧困層の100倍以上に達する見込み。

地球の気温上昇を1.5度以内に抑えるための「カーボンバジェット」はこのままのペースでは2030年までに枯渇すると予測されている。特に、過去数十年にわたり、プライベートジェットやメガヨットの利用、複数の不動産所有、肉中心の食生活、過剰な消費といった、裕福な人々のライフスタイルによって浪費されてきた。

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一方で、世界の最貧困層は炭素排出量が富裕層に比べ少ないにもかかわらず、洪水や干ばつなど気候変動の影響を最も受けている。このような不均衡は、異常気象や環境汚染が特に脆弱な地域に深刻な影響を及ぼす原因となる。

また、国別に見るとアメリカやロシアの一人当たりの温室効果ガス排出量は世界平均の約3倍である一方、インドやアフリカ連合ではその半分以下にとどまる。

なお、2020年の温室効果ガス排出量上位10カ国は、中国、米国、インド、欧州連合、ロシア、インドネシア、ブラジル、日本、イラン、カナダで、これら上位10か国を合わせると、2020年の総温室効果ガス排出量の約67%を占める(※)

炭素不平等の具体的な事例

アメリカ・ミシガン州の事例

アフリカ系アメリカ人が多く住む貧困地域のフリント市で、コスト削減のために水源が切り替えられ、水道水が鉛に汚染された事件は、環境汚染の被害が人種的マイノリティや貧困層に偏る「環境的不正義(Environmental Injustice)」の典型例である。

小島嶼開発途上国への影響

太平洋やインド洋に浮かぶ島嶼国は、歴史的な排出責任がほぼ皆無であるにもかかわらず、海面上昇によって国土そのものが水没の危機に瀕している。観光や漁業といった主要産業も壊滅的な打撃を受け、国民は住む場所を失う「気候難民」となる恐れに直面しているのだ。

炭素不平等は海外だけの問題ではない。日本国内においても、その構造は存在する。

例えば、所得階層によってエネルギー消費の内訳は異なり、高所得者層ほど自家用車での移動や空の旅、レジャーなどでの排出量が多い傾向にある。一方で、近年の記録的な猛暑や豪雨による被害は、適切な冷房設備を持たない高齢者や低所得者層、あるいは防災インフラが脆弱な地域に住む人々に、より深刻な健康被害や経済的損失をもたらすのだ。

炭素不平等への対応策

炭素不平等に対処するためには、温室効果ガスの排出量を削減したり、持続可能な消費を促進したり、再生可能エネルギーの導入や公共サービスへの投資、富裕層への課税や脆弱な地域への支援など、多様な主体による多角的なアプローチが不可欠である。

そして、政府や自治体が積極的に対策を講じることも、炭素不平等を是正するためには重要だ。

再生可能エネルギーの推進

インドは炭素排出削減に向けた積極的な取り組みを進めている。2015年には、2030年までに電力の40%を再生可能エネルギーで賄う目標を掲げ、2020年時点で再生可能エネルギーの設備容量は84GW(ギガワット)を超えた。同国は太陽光や風力発電への投資も拡大している。

なお、インド国内最大の太陽光発電の設備容量を誇るグジャラート州では固定価格買取制度や再生可能エネルギー証書(REC)取引制度など、再生可能エネルギーを促進するための政策をいくつか実施している。これらの政策は、同州の再生可能エネルギー部門に大きな投資を呼び込み、同州の化石燃料への依存度を下げるのに役立っている。

加えて、同国は輸送部門の排出削減にも注力しており、2013年に「国家電気モビリティ・ミッション計画(NEMMP)」を開始。2030年までに道路を走る自動車の30%を電気自動車(EV)にする目標を掲げ、補助金などの政策を導入している。

富裕層への課税

イギリスの新聞「The Guardian」の記事には、「経済的格差は問題であるが、何人かの経済学者は、格差が解決策にもなりうると指摘している」とある

それが炭素排出量の大部分を占める超富裕層に対する課税だ。炭素税や富裕税、プライベートジェットの禁止、フリークエントフライヤー税(頻繁な航空利用者への課税)などが提案されている。これらにより得た税収は、気候変動による災害支援や低所得者層向けの性炭素技術普及に活用できると期待されている。

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社会的対話の導入

気候政策を進める上で、影響を受ける産業の労働者や低所得者、女性、周縁化された集団の声を反映させる社会的対話が不可欠だ。多様な視点を取り入れ、公平な炭素削減政策を推進することが重要である。

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私たち一人ひとりができること。ライフスタイルから社会変革へ

炭素不平等を解消するためには、個人レベルでの取り組みも重要だ。日常生活の中で意識的に行動し、私たち一人ひとりが温室効果ガスの排出を減らすことで、炭素不平等の解消に貢献できる。以下、私たちが実践できる具体的な行動を示す。

家庭でのエネルギー節約

  • 冷暖房の使用を減らす
  • 冷暖房を効率的に使用する
  • LED電球などエネルギー効率の良い家電製品に切り替える
  • 洗濯物は冷水で洗う
  • 乾燥機の使用を避け、自然乾燥を心がける
  • 住宅の断熱性を高めるためにリフォームを行う
  • 石油やガスの暖房システムを電気ヒートポンプに切り替える

エネルギー源の変更

  • 家庭で使用しているエネルギー源が石油、石炭、ガスかどうかを確認する
  • 可能であれば太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーに切り替える
  • 自宅にソーラーパネルを設置して、電力を自給自足する

移動手段の見直し

  • 自動車を使わずに徒歩や自転車、公共交通機関を利用する
  • 長距離移動には電車やバスを利用し、可能な限り相乗りを活用する
  • 自動車を購入する際は、電気自動車への乗り換えを検討する

消費行動の見直し

  • リデュース、リユース、リサイクルを実践する
  • 新たに購入するのではなく、中古品を購入する
  • 修理可能なものは修理する
  • プラスチック製品や衣料品の過剰消費を避ける

これらの取り組みは、さまざまな過程で排出される二酸化炭素の削減につながるだけでなく、炭素不平等の解消と持続可能な社会の実現に向けた重要な一歩だ。私たち一人一人の行動は、地球全体の環境負荷を減らし、より公平な未来を築くことにつながる。

Global Greenhouse Gas Overview | US EPA.
【参照サイト】5 things you need to know about carbon inequality | Oxfam International
【参照サイト】Carbon inequality | SEI
【参照サイト】Global Greenhouse Gas Overview | US EPA.
【参照サイト】Actions for a healthy planet | United Nations
【参照サイト】Who are the polluter elite and how can we tackle carbon inequality? | Greenhouse gas emissions | The Guardian
【参照サイト】Actions for a healthy planet | United Nations
【参照サイト】Confronting Carbon Inequality: Putting climate justice at the heart of the COVID-19 recovery
【参照サイト】Who are the polluter elite and how can we tackle carbon inequality? | Greenhouse gas emissions | The Guardian
【参照サイト】How to combat the growing carbon inequality?.

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