リジェネラティブ・デザインとは・意味
リジェネラティブ・デザインとは?
リジェネラティブ・デザイン(Regenerative Design:環境再生型デザイン)とは、自然環境を修復・再生しながら人間と自然の共生を目指すデザイン(設計)のこと。
環境負荷を最小限に抑えて、現在の自然環境を維持していく「サステナブル・デザイン」から一歩先に進んで、エコシステムの回復や生態系の再生を促し、環境により良い影響(ネットポジティブ・インパクト)をもたらすような商品・サービス・建築物などをデザインすることを指す。
サステナブル・デザインは、あくまで人間の活動を中心に環境への影響を考え対策するものだ。それに対してリジェネラティブ・デザインは、人間を自然のシステムの中の一部と捉えて、自然環境や生態系により積極的に働きかけていく。つまり、人間とエコシステムがより密接につながり合った設計デザインの考え方だといえる。
言葉の生まれた背景には、環境負荷の大きさがあった
リジェネラティブ・デザインの概念は1970年代ごろに生まれ、1990年代以降に注目されるようになった。建築家のマイケル・ポーリンが、提唱者の一人となっている。
国連が運営する建築業界の脱炭素推進の国際イニシアチブであるGlobal ABCの報告書によると、2021年の世界のCO2排出量のうち37%を建築・建設業界が占めているという。また、世界のエネルギー需要のシェアは34%以上を占めるという。
こうした状況から、建築において人間にとっての住みやすさだけではなく、建築物が自然環境に与える影響を考慮した設計デザインのあり方が議論されるようになった。
リジェネラティブ・デザインに重要な要素
リジェネラティブ・デザインは現状、まだ国際基準などは確立していない。しかし企業や研究者が共通して挙げる重要な要素として下記のような項目がある。
建築・環境・建設サービスを専門とし、リジェネラティブ・デザインのフレームワークを提供している米国の大手デザイン会社HDRは、リジェネラティブ・デザインで目指すべき基準として下記6項目を挙げている。
1.トリプル・ネットゼロ
エネルギー、水、廃棄物の3つを「ネットゼロ(正味ゼロ)」にすることを目指す。エネルギーや水使用をゼロにすることは難しいため、再生可能エネルギーなどの活用や空調・採光の工夫、雨水の貯蔵・再利用などにより差し引きで消費量をゼロにすることを目指す。
廃棄物については廃棄予定の材料を再利用したり、リサイクル資材を取り入れたりすることで実質的な廃棄をゼロに近づける。ある生物が出した廃棄物がほかの生物の養分(食料)となる自然界の生態系にならって、建築に使用する材料の循環を目指す。
2.カーボンバランシング
建築過程や建物の使用などライフサイクル全体で排出するCO2よりも多くのCO2を吸収・隔離し、排出量を正味ゼロにする「ネットゼロ・エミッション」を目指す。緑化、再生可能エネルギー活用、資材使用の削減、再生可能な材料の使用などが具体的な施策だ。
3.人の健康とウェルネス
利用者や周辺コミュニティの健康と福祉をサポートし、人間と光、空気、食品、自然、コミュニティとを結び付ける設計デザインを目指す。またその土地の気候に適合した構造・材料を採用し、熱・湿気・風対策を施すことで、利用者にとって快適な空間を作る。
4.無害で透明性のある材料
人体や環境に有害な化学物質が含まれる材料の使用を避け、耐用年数の長い材料や、リサイクル資材、再生可能な材料など環境に配慮した材料を使用する。これらは建設コストを抑えることにもつながる。
5.再利用・回復可能
耐久性があり、将来的に別ニーズで再活用できる構造にするなど、ライフサイクルが長い設計デザインを目指す。
また長期的に炭素隔離が可能な設計、将来耐用年数が終了した場合にも解体が可能な構造、自然災害をはじめとする、あらゆる緊急時に備えた設計デザインを考える。
6.社会的公平性
設計上、利用者やコミュニティ全員の社会的公平性を高めるデザインを目指す。居住環境は、全ての人にとって健康と幸福を決定する重要な要因となる。
このため設計デザインの段階で、建物の利用者や周辺コミュニティに与える利害やその他の影響を事前に分析し、危害を最小限に抑えながら、利用者により良い機会をもたらすよう働きかける。
国内のリジェネラティブ・デザイン事例
国内には以下のようなリジェネラティブ・デザインの事例がある。
アクロス福岡
国際・文化情報の交流拠点として建設された福岡県福岡市の官民複合施設アクロス福岡は、建物の建設により失われる地表分の面積をコミュニティに還元することを目指してデザインされた。
「都市と水と緑が共存する心休まる空間」をテーマとして、階段状の建物斜面には山をコンセプトとした大規模な屋上緑化が施されている。建物の5階から1階までは滝が流れており、建設当初は76種類であった屋上の樹種は風や鳥が運んだ種により約200種類まで増えているという。
都市中心部の建築物でありながら、木々の落ち葉を養分とした表土が微生物や昆虫の生息地となり、その虫を餌とする鳥が集まっては木の実を落とし、新たな木々が芽吹くという循環型の生態系が生まれている。またヒートアイランド現象の緩和や、雨水の再利用といった工夫も施されている。
上勝ゼロ・ウェイストセンター
徳島県上勝町*に、地域のごみ回収・交流拠点として建設された上勝ゼロ・ウェイストセンターは、廃棄物として回収・処理しにくい上勝産の杉丸太を使用して建築されている。
製材せずに丸太のまま使用しているため強度が高く、丸太同士の接合を単純化することでメンテナンスや解体時の分別が容易になるという。
また外装や什器には建具や農具を再利用し、レンガやタイル、フローリングなどもメーカーや企業から廃棄予定のものを提供してもらい再利用している。
*徳島県上勝町は、2003年に自治体として初めて「ゼロウェイスト宣言」を行ったことで有名だ。
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世界のリジェネラティブ・デザイン事例
海外でもリジェネラティブ・デザインとして一般的なのは、屋根やベランダ、壁面などの緑化や雨水の再利用などだ。
Bosco Verticale(ボスコ・ヴェルティカーレ)
イタリア・ミラノにある集合住宅「Bosco Verticale(ボスコ・ヴェルティカーレ)」は”縦に伸びた森”とも呼ばれ、27階建てと19階建ての2つの棟のバルコニーに高さ3~6mの中高木が900本、低木が5000本、花が1万1000株が植えられている。
これにより年間約7トンの二酸化炭素を吸収し、約8トンの酸素を生み出す。そのほかミラノで問題となっていた大気汚染の緩和や、生物の生息環境の創出を目指しているという。また木々が住民のプライバシーを保つ役割も果たしている。
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OCSL(The Omega Center for Sustainable Living)
アメリカ・ニューヨーク州にある OCSLには排水ろ過施設として、化学物質を一切使用せず、低エネルギーで水を再生するシステムが備わっている。
敷地内には庭の湿地を通って水をろ過するシステムのほか、グリーンルーフ(屋上緑化)、太陽光追跡システムなど各所にリジェネラティブ・デザインが施されている。また、建築材料にはリサイクル素材を多く使用しているという。
これによりCO2排出量の削減、水とエネルギーのネットゼロ、生物の生息地確保などが期待される。
加えてOCSLは、施設を環境教育の場として提供しており、一般の人が天然の水再生プロセスについて学べる見学コースなどを実施している。
リジェネラティブ・デザインの課題と今後
リジェネラティブ・デザインが今後より多く取り入れられれば環境負荷を抑えられるだけでなく、人間が自然のシステムの一部となり、よりポジティブな影響を与えながら自然と共生していくことができる。
しかし現時点では、まだ研究者や企業によってリジェネラティブ・デザインの定義や基準に差異がある。今後より適切なかたちで実装していくためには、業界全体として国際的な共通基準を設ける必要があるだろう。
また取り組みは進んでいるものの、依然として従来の建築方法や生産消費モデルからの改革が進んでいない部分も多い。
今後リジェネラティブ・デザインを普及させるためには産業や経済に与える負荷についても考えながら、企業や業界、コミュニティ、社会全体の意識変革を進めていかなくてはならない。また、それを後押しする政府の支援も重要となるだろう。
【参照サイト】THE GLOBALABC RELEASES 2022 GLOBAL STATUS REPORT FOR BUILDINGS AND CONSTRUCTION
【参照サイト】 Regenerative Design|HDR
【参照サイト】What is Regenerative Design: Principles, Applications, Pros, and Cons
【参照サイト】ステップガーデンのご紹介|アクロス福岡
【参照サイト】上勝ゼロウェイストセンター
【参照サイト】Bosco Verticale|Stefano Boeri Architetti
【参照サイト】The Living Building|The Omega Center for Sustainable Living
【参照サイト】Regenerative Architecture: An Innovative Step Beyond Sustainability
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