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黒人差別・Black Lives Matter運動

Black Lives Matterの横断幕を抱える人たち

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Black Lives Matter(BLM)とは?──What is BLM?

Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター、BLM)とは、アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけにアメリカで始まった人種差別抗議運動のことです。

BLM運動といえば、2020年5月に米ミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんが白人の警察官に首を8分46秒圧迫されて死亡したいわゆる「ジョージ・フロイド事件」を受け、全米に広がっていった抗議運動が有名です。このデモをきっかけにBLM運動が生まれたと思われることもあるようですが、実際、BLM運動のきっかけは2012年2月に米・フロリダ州で起きたある事件だと言われています。

2012年の事件では、フードをかぶってお菓子を買いに出かけていたアフリカ系アメリカ人の高校生トレイボン・マーティンさんが、自警団の男性に不審者と見なされ射殺されてしまいました。当時、マーティンさんは武器を所持していなかったのにもかかわらず、自警団の男性は正当防衛が認められ無罪放免になります。

この出来事を知った米国在住の活動家アリシア・ガルザさんは、SNSに判決に対する批判を投稿。その最後に“Black people. I love you. I love us. Our lives matter, Black lives matter.(黒人の皆さん。私は皆さんを、愛しています。そして、私たちを愛しています。私たちの命は大切です、黒人の命は尊重されるべきなのです)”と記しました。その後、ガルザさんと親しい2人の活動家オパール・トメティさんとパトリス・カラーズさんが彼女に賛同し、「#BlackLivesMatter」というハッシュタグをつけて発信していったのがBlack Lives Matter運動のはじまりです。

数字で見る黒人差別(Facts & Figures)

世界で起こっている黒人差別の現状に関する数字と事実をまとめています。

<アメリカでの黒人差別>
◇歴史◇

・奴隷制とアメリカ合衆国憲法修正第13条
アメリカの奴隷制は、17世紀に当時イギリス領だった現ヴァージニア州へアフリカ人20人が奴隷として着港したことが始まり。アフリカ人奴隷は北アメリカで安い労働力として使われていた。18世紀だけでおおよそ600万人から700万人ものアフリカ人が奴隷だったとされている。

1863年1月1日リンカーン大統領による奴隷解放宣言後の1865年に制定されたアメリカ合衆国憲法修正第13条の制定によって、奴隷制度は公式に撤廃されることとなる。しかし、この13条には「抜け穴」が存在。条文では、意に反する苦役を「犯罪に対する刑罰以外に禁止する」としており、囚人として労働させることには問題がないという解釈が可能だ。実際、不条理に逮捕される黒人はいまだに多く存在しており、結果として、17~18世紀とは異なる形で現代でも黒人搾取が続いてしまっている。(Netflixドキュメンタリー:『13th -憲法修正第13条-』

・ジム・クロウ法
ジム・クロウ法は、1870年代から1964年の公民権法が制定されるまで続いた黒人分離の州法である。この時代にはバスなどの交通機関、学校、公園、水道、トイレなどの公共施設が、合法的に白人用と黒人用に分離されていた。1896年の最高裁判決での「区別は差別ではない」という判決が、黒人分離を加速させることになった。

◇現代の差別◇

・2013年から2019年の統計結果によると、アメリカ人口の76.3%が白人、13.4%が黒人。白人のほうが多いにも関わらず、黒人は白人より警察に殺される確率が3倍高かったとされている。また、殺された人のなかで武器を持っていなかった黒人は白人の1.3倍の数になる。(Mapping Police Violence

・2020年11月18日現在、アメリカ警察は986人を殺害。そのうちの黒人比率は28%だった。一方、全米の人口のうち黒人が占める比率はたった13%である。(Mapping Police Violence

・2013~2020年の間に警官によって犯された殺人の98.3%は罪に問われていない。
―中には、自宅と間違えて他人の家に侵入した警察官に発砲されて黒人男性が命を落としたケースもある。2018年9月6日、自宅でくつろいでいたボッサム・ジーンさんは、家に侵入してきた白人警察官アンバー・ガイガーさんの発砲で死亡。同様の犯罪であれば最高の懲役が99年のところ、このケースでは懲役10年が言い渡されている。(Al Jazeera

<日本における外国人差別>

◇日本の在留外国人について◇
・在留外国人数は、293万3137人(2019年12月末現在)。2012年以降、一貫して増加している。(法務省

・法務省によると、在留外国人のうち
―約3割が外国人であることを理由に差別的な発言を受けた経験がある。
―約4割が外国人であることを理由に家の入居を断られた経験がある。
―4人に1人が外国人であることを理由に就職を断られた経験がある。
―「同じ仕事をしているのに、賃金が日本人より低かった」というケースが約2割、「労働条件が日本人より悪かった」というケースが1割以上ある。
2016年・法務省の調査

◇日本の黒人差別の事例◇

・1986年の中曽根元首相の演説での「日本人の高い知能と比べ、黒人は知能が低い」という旨の発言。

・サンリオが1988年に黒人をモチーフにした人形を販売(後に謝罪・商品回収・販売中止と人権啓発の活動を継続的に実施)

・2015年にミスユニバース日本代表に選出された宮本エリアナさん(日本人の母とアフリカ系アメリカ人の父を持つミックス<ダブル/ハーフ>)が、インターネットで「日本代表にはふさわしくない」と攻撃された。

・2020年6月NHKで放送されたニュース番組内のBLM運動を解説するアニメにて、黒人の描き方が偏見を助長するものだとして批判の声があがる。

・2020年6月14日渋谷で行われた黒人差別への抗議デモに参加したあやかブランディーさん(23歳でアフリカコンゴ民主共和国出身の父親と日本人の母親を持つ)は、NHKによる取材に対して、日本国籍を持っているのに見た目で差別を受けてきたと回答。(具体的には、「肌色」とラベルされたクレヨンで自画像を書いていると同級生に「あなたの肌色じゃない」と言われる、「黒人なのになんで視力が悪いの」と聞かれる等)

◇日本でのBLM運動◇

・6月14日渋谷で行われたBLMデモ(ピースフルマーチ)にはおよそ3,500人が参加した。

知っておきたいワード:ブラックフェイスとホワイトウォッシュ

ここでは、黒人への差別行為を指す用語「ブラックフェイス」と「ホワイトウォッシュ」についてご紹介します。この2つの差別行為は、黒人を蔑む意図の有無に関わらず、現代の日本でも行われていることが確認されています。

◇ブラックフェイス(黒塗り)◇

ブラックフェイスは、黒人以外の人が化粧などをすることで黒人の外見を誇張してまねる行為のことです。

アメリカでは20世紀初頭まで白人がブラックフェイスで踊りや芝居を行う「ミンストレルショー」が行われていました。日本でも、1930年代まで、ヴォ―ドヴィル(流行の曲などを取り込んだ軽演劇)の中でブラックフェイスが披露されていました。

また芸能界でも、1930年代に喜劇俳優・榎本健一(エノケン)、1980年代に歌手・シャネルズ(のちのラッツ&スター)、2005年ごろにゴスペラッツ (GOSPE☆RATS:ゴスペラーズおよびラッツ&スターの選抜メンバーからなるスペシャルユニット)など、さまざまな人物がブラックフェイスを披露しています。

<過去に問題となった例>

・ラグジュアリーブランドのグッチや歌手のケイティ・ペリーが展開するブランドの商品が「ブラックフェイスを想起させる」との指摘を受けて謝罪し、商品販売を取り下げる騒動に。

・2019年1月下旬、オクラホマ大学の学生が顔を真っ黒に塗って『私は(Nワード)』と口にする動画をSNSにアップし、自主退学を余儀なくされた。

・2017年の大晦日に放送されたTV番組でお笑い芸人がブラックフェイスを披露して非難の声が殺到した。

◇ホワイトウォッシュ(白人化)◇

ホワイトウォッシュは、白人偏重のことで、主に2つの文脈で使用されます。

①映画やテレビ番組において:白人を優遇してキャスティングする(有色人種の役柄を白人が演じる等)
②非白人の肌の色を明るく修正する(あたかも白人であるかのように描く)

ホワイトウォッシュは、もともと「(白い)漆喰を塗る」という意味。有色人種の肌を白人の肌らしい白に塗り替えてしまう(あるいは有色人種の出演枠を白人で埋めてしまう)行為を、漆喰で壁を白く塗りつぶすようすになぞらえて、ホワイトウォッシュと表現するようになりました。

<過去に問題となった事例>

①映画やテレビ番組において:白人を優遇してキャスティングする(有色人種の役柄を白人が演じる等)
・2017年、日本の『攻殻機動隊』を原作とするハリウッド映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』にて、日本人であるはずの主人公役にスカーレット・ヨハンソンが起用され、ホワイトウォッシングだと批判された

②非白人の肌の色を明るく修正する(あたかも白人であるかのように描く)
・2014年、ビヨンセが起用された化粧品ロレアルの広告で肌の色が明るく調整されているとしてアメリカで論争になった。

・2019年、日清食品がホワイトウォッシュを指摘され「カップヌードル」のアニメCM動画を削除:
大坂なおみ選手を起用したCM動画にて、ハイチ系アメリカ人の父と日本人の母を持つ黒人とのミックスであり、褐色の肌色を持つ彼女が「白く」描かれていることに対する批判が多く集まった。

SNS上でのBLM運動(BLM on SNS)

ネットを使えば、誰しもがメッセージを発信し、社会運動を始めることができるようになった現代。TwitterやInstagramなどのSNSでも、BLM運動をサポートする動きが多くみられました。

SNS上に「#blacklivesmatter」というハッシュタグをつけた投稿が増加していったほか、BLM運動が活発になった2020年5月下旬からは、インスタグラム上で「バイコット運動」が加速していきます。バイコットとは、“boycott”(不買運動)と“buy”(購買)を組み合わせた造語で、政治や倫理、環境保護などの観点から、モノを選んで購入する行動のことを意味します(日本版総合的社会調査共同研究拠点)。人々は、黒人が経営するブランドや店舗をリスト化した画像に「#blackowned」「#BuyBlack」といったハッシュタグをつけて投稿。この運動を通して、黒人経営のお店を経済的に支援しようという動きが広がりました。

しかし、善意から始まったSNSでの運動のなかには、思わぬ弊害を生んでしまったものもあったようです。

それが、アメリカの現地時間2020年6月2日に行われた「ブラックアウト・チューズデイ」です。これは音楽業界の人たちがジョージ・フロイドの死に抗議するために始めた「沈黙の日」=ストライキ運動のこと(Rolling Stone)。ビジネスを一度中断し、それぞれが立ち止まって人種差別について考えようというメッセージが込められていました。ブラックアウト・チューズデイ当日は、様々な企業や有名人が、「#TheShowMustBePaused」「#BlackOutTuesday」というタグとともに真っ黒に塗りつぶされた四角形の画像をSNSに投稿し、一人ひとりが人種差別について考える重要性について訴えました。

真っ黒の画像

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しかし、主旨をよく理解しないままこのムーブメントに乗じた人々もいたようです。参加者の中には、ブラックアウト・チューズデイが推奨するタグではなく「#blacklivesmatter」のハッシュタグとともに真っ黒の画像をInstagramに投稿する人も多くいました。こうして大量の「黒塗り」画像が投稿されてしまったために、「#Blacklivesmatter」で検索しても、デモやイベントの情報、警察による暴力事件のニュースなど本当に必要な情報を見つけづらくなってしまったのです。

善意からの投稿だったとしても、本当に必要な情報の発信を妨げてしまうこともあります。本当にこの投稿をする必要があるだろうか、誰かを傷つけることになってはいないだろうか、と一度立ち止まって考えてみることも大切です。

BLM運動による影響(Impacts)

BLM運動は、社会においてさまざまな影響をもたらしています。

◇警察組織への影響◇

・ジョージ・フロイド氏の死亡事件をきっかけに抗議運動が巻き起こった米ミネソタ州ミネアポリスでは、彼の死亡事件に関わったとされる警官・元警官の計4人が起訴された。

・2020年6月、ミネアポリス市議会が警察を解体し、再建する意向を示している。

・ニューヨークのビル・デブラシオ市長も、これまで警察にかけていた支援金を青少年と社会福祉に資金を移すことをツイッターで表明

・ニューヨーク州議会では、「50-A項(警察官の懲戒処分記録を一般に公開せず秘密しておくことで、警察官が責任を問われなくする法)」の廃止に議員たちが署名したことが明らかになった。警察による違法行為をオープンな状態で記録しておくため、弁護士のT.グレッグドゥセット氏と数学者のジェイソンミラー氏を含む活動家のチームが、さまざまな抗議行動で発生した500件を超える警察の残虐行為を含むスプレッドシートを公開している。

◇民間企業への影響◇

・民間企業の間で、プラットフォームメディアへの広告掲載を企業が控える動きが活発化:
コカ・コーラやユニリーバなどの大手企業はFacebookに対し「人種差別など有害コンテンツを適切に規制していない」「ヘイトスピーチを放置している」と抗議し、すべてのソーシャルメディアへの広告出稿を30日間停止すると発表した(AFP

※プラットフォームメディアのコンテンツは、プラットフォーマーではなくユーザーの投稿によるもの。そのため、不適切な投稿があった際、責任が投稿を行った個人のみにあるのか、そうした投稿を規制しないプラットフォーム側にあるのかが、たびたび議論されている。

・出版業界でのストライキ:
2020年6月には、英マクミラン出版社に勤務する編集者たちによって「雇用に関する構造的な差別と、利益のために人種差別を増長する本の出版をすること」に対するストライキが勃発。アメリカ出版業界の1,300人が参加した。SNSでは「#PubWorkers4BlackLives」や「#PubWorkers4Justice」などのハッシュタグが並び、参加者は1日仕事を休んで抗議をしたり、黒人系作家の宣伝に時間を使うなどした。

・ソフトウェア用語に変化が:
エンジニア業界のオープンソースのコミュニティでは、「マスター」「スレイブ」「ブラックリスト」「ホワイトリスト」といったソフトウェア用語をやめる動きが始まった。これらの用語の使用をやめ、よりインクルーシブな言葉に変えることによって、「ブラック(=黒人)」に対する悪いイメージや、有色人種のエンジニアなどが排除される環境から脱しようとしている。

論点①:Black Lives Matterをどう訳すか

黒人の命「は」なのか「も」なのか──そういった小さな違いでも、メッセージが大きく異なってしまうためBlack Lives Matterをどう訳すべきかは慎重に考える必要があります。

【訳し方の例】
・黒人の命は大事だ
・黒人の命も大事だ
・黒人の命だって大事だ
・黒人の命を尊重しろ
・黒人の命を粗末にするな

NHKの調査にて「Black Lives Matterをどう訳すのが適切か」尋ねられた京都大学の竹沢泰子教授はこう語っています。

「黒人の命は大切だ」と「黒人の命も大切だ」の選択ならば、「は」では誤解を招くので、消去法で「も」だが、「黒人の命を粗末にするな」という訳のほうがしっくりすると感じる。
どちらの訳でも、誰かの命について「大切だ」と言うと、当たり前のことのように聞こえ、人種を特定する理由が分かりにくくなる。この表現だと、黒人に対する暴力の歴史や背景を伝えきれないのではないかと思う。
白人と、黒人や中南米系に対する警察の扱いには明らかな差があり、武器を持たずに射殺された黒人の比率は白人の4倍以上だというデータもある。
すべての命は尊いが、このスローガンを翻訳するにあたっては、黒人の置かれてきた歴史と現在の厳しい現実に目を向けるべきだと思う。

たった3つの単語をどう訳すかによって、受け手が何を感じるかが大きく変わってしまいます。長い間不当な差別に苦しんできた人々の歴史や、運動に参加している人々の「こんな世の中はもう終わりにしよう」という切実な想い──今回の運動の背景を知るうえでも、「BLMの訳し方」について考えるのは重要なことなのです。

Black Lives Matterの文字

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論点②All Lives Matterではないのか?

Black Lives Matter運動が続くなかで、All Lives Matter(人種に関わらず、すべての命が大切)というスローガンを掲げる人たちも現れています。もちろん、すべての命が大切であることには違いありませんが、ここで「結局すべての命が大事なのだからAll Lives Matterで良いじゃないか」と言い切ってしまっていいのでしょうか。

考えるべきなのは、「これまで黒人の命が軽んじられ、排他されてきた」という事実があり、それに対抗してこの運動が起こっているということです。以下の例をもとに考えてみましょう。

例えば、学校の体育の授業で自分がけがをしてしまったとする。保健室に行って先生に「ひざをすりむいてしまったので、治療してほしい」と訴えると、先生は「それは大変!」というとクラスのみんなのところへ行って出席番号1番から順に生徒たちの体の具合を調べ始めてしまった。「先生、授業でけがをしたのは自分なんです」そう伝えるも、先生は「そうですね、あなたの健康も大切ですね。でも、みんなの健康が大切でしょう」と言って取り合ってくれない。

元気に問題なく授業に参加できているほかの生徒と違って、今この瞬間に痛みを感じている生徒が目の前にいる。それなのに、この先生は「みんなの健康が大事」という当たり前の論理を持ち出すことで、目の前の子が抱える痛みから目を背けてしまっているのだ。本当にみんなの健康を願う善意からの行動だったのかもしれないが、現に1人の生徒がけがを治療してもらえず不健康な状態で過ごさなければいけなくなっており、結果的には「みんなの健康が大事」にされているとは言えなくなってしまっている。

All Lives MatterかBlack Lives Matterか

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この例のように、「みんな」を持ち出すことで本当の問題が見えづらくなってしまうことがあります。今回の場合とくに、「黒人の命が軽んじられてきた歴史」にきちんと目を向け、解消していかなければならないという点で、All Livesではなく”Black Lives” Matterということに意味があるのではないでしょうか。

Black lives Matterは、決して「黒人の命だけが大事だ」という意味でも、「他の人たちの命は大切ではない」ということでもありません。Black Lives Matterという言葉には「不当に扱われてきた黒人たちの命も、ほかの人たちと同じように大切に扱ってほしい」という切実な願いが込められているのです。

論点③ありのままの歴史を守るか、つらい記憶を消すか

BLM運動のなかで、「人種差別主義者」だとされる人物の銅像を倒したり、海に放り込んだり、落書きをしたりする「銅像破壊」の動きがみられるようになりました。例えば、イギリスでは元首相サー・ウィンストン・チャーチルの像に「人種差別主義者」と落書きされたり、デモ隊により17世紀の奴隷商人エドワード・コルストンの銅像がブリストル湾に投げ込まれたりしています(BBC)。

この動きに対しては様々な声があがっています。

・人種差別をしていたような人が銅像になってあがめられているのは、間違っている。そんな人の銅像は破壊して然るべきだ。
・この像を見るたびに、怒りや悲しみを感じていたが、もうそんな思いをしなくて済む。
・尊敬されるべきではない人の銅像は取り払う=ある種の是正ができることは、社会にとって大きな前進なのでは。
・銅像になった彼らの生きていた時代の価値観で裁かれるべきなのではないか。
・過ちも含めて、ありのままに歴史を記憶することが、未来への教訓となるのではないか。

人種による不当な扱いを受けてきた人たちからすれば、人種差別主義者の銅像はネガティブな記憶を呼び起こす「忌むべきもの」です。銅像として崇められている彼らには、同じ人間を人間として扱わなかったという尊敬しがたい面がある。それなのに、誇らしげな銅像になっているのは許しがたいものだと想像できます。

彼らが銅像になっているのはもちろん人種差別主義者だからではなく、別の面で評価されているからでしょう。「別の面での功績が優れているのだから壊すことはないじゃないか」「銅像は壊さず、功績を伝えるときに両方の面を伝えればいいのではないか」と思う人もいれば、「それでもやはり許せない」「それだけ苦しい思いをしてきたのだ」と考える人もいます。育ってきた環境も、時代も、人種差別をどれほど身近に感じてきたかも人それぞれ──どちらが正しいと言い切ることはできません。

落書きされたチャーチルの銅像

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しかし、銅像を物理的に破壊するにせよ、保存するにせよ、「過去に人間が犯した過ち」を後世に伝えることには大きな意味があるのではないでしょうか。

例えば、広島の「原爆ドーム」は見るものに戦争の悲惨さと平和のありがたさを思い知らせます。決して、その時代を生きたわけではない私たちは、ドームの鉄骨や当時の資料を見たり当時を生きた人々の話を聞いたりするなかで、当時の恐怖や悲しみを想像しました。戦争について見聞きし、追体験するなかで「この過ちを二度と繰り返してはならない」と決意した人は少なくないはずです。

過去を語る行為は、ときにつらい記憶を呼びおこします。あるいは、語り手の認めたくない事実を認めたうえで話をしなければならない場面も出てくるでしょう。「過去には肌の色で差別されるひどい時代があったんだ」「その時代、人種差別はこんな思想や時勢に後押しされていたんだよ」「昔は自分もそんな考え方が当たり前だと思っていたんだ」「そんななかで、自分たちの自由や権利を獲得するために、行動を起こした人たちがいるんだ」……過去に犯した間違いを次の世代に伝えることは、「大切な教訓」を未来へと引き継ぐことです。また、過去の教訓を未来へと引き継ぎ、二度と同じことが起こらないようにすることは、不当な扱いに苦しみながら亡くなっていった人たちや状況を変えようと声をあげた人々……自由や平等を獲得するために生きた先人たちの必死のアクションや切実な想いを無駄にしないことにもつながるはずです。

過去の出来事を知ることで、次世代の人たちは“先人たちが結果を検証済みのトライ&エラー”をあらかじめ避けることができます。失敗は学びのもととは言いますが、どうせならば先人たちの犯した間違いではなく、“彼らの生きる時代に必要な、彼らならではのトライ&エラー”を行ってもらえるように──私たちにできることを考えていく必要があるのではないでしょうか。

論点④テクノロジーで差別をなくせるか

大学の入学試験や企業の採用試験といった場面においては、面接・採用担当者の価値観が、候補者の評価に大きく影響します。こうした評価者のバイアスによって、黒人が不利な立場に追い込まれるケースはいまだ多く存在しています。近年は、このような人間のバイアスが生む不公平さを是正するために、AIを活用しようとする動きが見られはじめました。人間の思考力や判断力は体調や疲労度、感情などに大きく左右される人間と違い、AIは作業する時間帯や作業量に大きな影響を受けずいつでもほぼ一定の判断を下すことができるため、公正な評価を行ううえで役立つと考えられたのです。

AIは、大量のデータを学習させると自らその特徴やパターンをつかみ、初出のデータでも識別・分類したり予測したりすることが可能になります。しかし、AIにデータを学習させるのは人間です。つまり、私たちが偏ったデータを学習させてしまえば、AIは差別を助長する道具になりえるということです。

テクノロジーの画像

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例えば、企業の採用プロセスにAIを利用する場合。AIに現社員のデータを学習させ、彼らと似たようなパターンの人物を選出するよう設計したとします。実際に会社に採用された人たちのデータを集めるのですから、会社に合う人物を選別するためには有効な手法のように思えます。しかし、この企業の黒人社員の割合が低かったらどうでしょうか?AIは与えられるデータから「白人のほうが社員に適している」というパターンを見出してしまうかもしれません。また、「過去には黒人社員の比率が低かったが現在は状況が改善されている」といった文脈を読み取るのも、AIには難しいことです。

また、こうしたAIの弱点によって実際に不利益を被ってしまった人もいます。アメリカのデトロイトではAIの弱点により、Robert Williamsという黒人男性が家族の目の前で誤認逮捕される事態が発生しました(アメリカ自由人権協会<ACLU>)。警察は顔認識技術を使い、盗難にあった時計店の監視カメラの映像を分析。その結果、犯人の映像と一致する人物としてWilliamsが浮かび上がります。しかし実際は、ソフトウェアが2人の黒人を同一人物と誤認しただけだったのです。米国立標準技術研究所の研究では、アフリカ系米国人やアジア人に顔認識のアルゴリズムを使用した場合、白人のときより精度が大幅に落ちることが明らかになっています(BBC)。

AIを利用するときには、弱点やそれにより生まれる不利益についてもきちんと理解する必要があります。また、AIに学習させるチームのメンバーにも多様性を持たせ、与えるデータ自体に偏りがないかを確認しなければなりません。AIはうまく使えば、人間の作業量を大幅に減らし、負担を軽減してくれます。しかし、人間にしか判断できないことがあるのも事実です。万能の技術だと過信せず、テクノロジーの欠陥を理解したうえで、上手な使い方を考える必要があります。

BLM運動に関して私たちができること(What We Can Do)

まずは、Black Lives Matter運動が日本に住んでいる自分にも関係のあることだと気づくことが大切です。法務省の調べによると2019年末時点での在留外国人数は293万3,137人。彼らの中には日本で差別を受けたと感じている人も少なくないようで、SNSで「日本で受けた差別」「ミックス(ダブル/ハーフ)として生きる苦悩」など自分の経験をシェアする人もいました。

BLM運動が自分にも関係のあることだと気づいたら、問題を深く「知る」ステップに入ってみましょう。人種差別をテーマにした映像作品を見る。SNSでシェアされている、人種差別に関するリアルな声をチェックしてみる。WEBニュースのコラム記事や書籍を読む。問題について知るための様々な方法があります。自分の取り組みやすいものから始めてみましょう。

そして、自分が感じたことを周囲の人と話してみるのも大事なことです。自分のなかでの「常識」が、異なる土地で生まれ、異なる価値観のなかで育った人にとってはそうではないかもしれないと知ること。相手が何を大切にし、どんな価値観によって判断を下し、何を感じているのかを知ること。互いの考え方を知り、違いをそのまま認め合うのは、尊いこと──そして、難しいことでもあります。誰かを蹴落としたり、自分の正しさを相手に認めさせたりするためにでなく、「相手のことを知り関係をより良くするため」に、声を発することができるように。日頃から、様々な人と対話する機会を作れるように意識してみてはいかがでしょうか。

電車

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──電車の一つだけ空いている席の隣が外国人で、誰も座ろうとしなかった。自分もなぜか動けなかった。──そんな経験がある人もいるかもしれません。身近なところにも、自分の中にも、差別は潜んでいます。「○○さんはハーフだから美人だね」「足が速い!やっぱりアフリカ系の人は陸上に向いてるんだね」「肌が真っ白できれい!」……褒めているつもりでも、何気なく発した一言でも、そうした発言に傷ついている人は確かに存在しています(ちなみに、このように相手を傷つけるつもりがなくても相手の心にちょっとした影をおとすような言動や行動をしてしまうことをマイクロアグレッションといいます)。自分や周囲が発する言葉の裏に見え隠れする「価値観」を見つめてみたり、家族や友人と語ったりしながら、身の回りにある小さな差別について想いをはせてみてはいかがでしょうか。

また、具体的なアクションでBLM運動をサポートしたいけれども、何から始めて良いかが分からない──そんな方は、以下のようなサイトを見てみると良いでしょう。

▷「Japan in Solidarity」
https://japanis.carrd.co/#begin
日本国内外の社会平等問題に関する言説を日本に広めることを目的とした団体。BLMをめぐる議論や国内にある差別の解説、参考になる書籍や映画などの紹介などがある。「自分にできること」がまとめられたページも。▷「話そう。」
https://hanasou.carrd.co/
ブラックライブズマター運動はじめ様々な人権・社会問題について発信するために開設されたアカウント。先ほど紹介したインスタグラム投稿も「話そう。」のもの。BLM運動について詳しくまとめられた日本語資料がシェアされており、誰でも閲覧できるようになっている。

▷「NPO法人AYINA」
https://ayina.org/
お互いを理解し、異文化の素晴らしさを学び、対等に学び助け合う関係性を目指して、アフリカと日本をつなぐ場を提供している。WEBサイトには、在日アフリカンのインタビュー記事を読めるコーナーも。

BLM運動に関する国際団体(Organization)

Black Lives Matter
2013年アメリカにて設立。州や自警団によるブラックコミュニティへの暴力に立ち向かい、黒人の生活の質を向上させることを目的とした財団。

BYP100(Black Youth Project 100)
2013年アメリカにて設立。すべての黒人に正義と自由をもたらすための組織で、18~35歳の黒人青年活動家の会員がベースとなっている。

NAACP(全米有色人種地位向上協議会)
1909年アメリカにて設立。人種に基づく差別をなくし、政治的、教育的、社会的、経済的な権利の平等を確保しようとする団体。

Anti Police-Terror Project(APTP)
警察による暴力に反対する、黒人主導の多民族連合。

BLM運動を応援するアイデアたち(Ideas for Good)

IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアでBlack Lives Matter運動をサポートする企業やプロジェクトを紹介しています。

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