若者の貧困問題
若者の貧困とは?(What is Youth Poverty?)
少子高齢化が進む日本。単身世帯や母子世帯など世帯が多様化しつつある今、貧困の形態もさまざまです。住む場所がない「ホームレス」状態以外にも、日雇い労働者用の宿を利用する人や、ネットカフェを転々とする人、友人の自宅を転々とする人もおり、日本の貧困問題は、深刻さを増しています。本記事は、貧困の中でも「若者」に焦点を当てています。
貧困とは?
UNDP(国連開発計画)は貧困を「教育、仕事、食料、保険医療、飲料水、住居、エネルギーなど最も基本的な物・サービスを手に入れられない状態のこと」と定義しています。この、人として最低限の生活が満たされていない「絶対的貧困」の他に、居住する国や地域の水準と比べると比較的貧しいとされる「相対的貧困」という言葉もあります。日本では、子どもの約6〜7人に1人が相対的貧困の状態です。
本記事では、10代後半から30代を「若者」とし、その年齢に該当するさまざまなデータから記事を作成しています。しかし、必ずしも経済指標など、既存の数値データだけで貧困を測ることができるとは考えていません。また、金銭的に「貧困」の枠内に居なくても助けが必要な人、さらにその逆の場合もあります。そちらを念頭に置いたうえでお読みいただけると幸いです。
目次
データ・数字で見る若者の貧困(Facts&Figures)
日本における若者の貧困に関する数字と事実をまとめています。
若者の貧困が起こる原因(Causes)
非正規社員の増加による広がる所得格差
現代社会の3人に1人が非正規雇用者といわれています。1995年〜2005年の就職氷河期には正社員の求人が減少しており、いまでもこの時代の非正規雇用者は100万人〜270万人ほどいるとされています(※1)。非正規雇用は所得が安定しなかったり、スキルやキャリアが磨きにくいといった側面があり、これによって日本社会が停滞してしまうという負のサイクルに陥ってしまいます。
非正規雇用の増加にはさまざまな原因があるとされていますが、かつての労働派遣法の緩和が要因としてあげられるとされています。1986年に施行された労働派遣法は、当時16の業種のみでしたが、1999年には派遣業務が原則自由化となりました。こうした規制緩和により、企業側は安価で柔軟な人材確保が可能になった一方で、労働者側の状況はより一層厳しいものになっています。神津は、非正規化は当面のコスト削減効果だけは非常に大きく、一度使ってしまうと抜け出せなくなる「麻薬」のようなもの。そういう道を拓いてしまったのが労働規制緩和だといいます(※2)。
さらに、今年は新型コロナの影響もあり、2021年3月卒業予定の大学生の就職内定率は69.8%と予想され、前年の同時期より7.0ポイント低下しています。10月時点の数値としては、2015年以来、5年ぶりに70%を割り込んでおり、低下幅はリーマン・ショック後に次ぐ過去2番目の大きさとなっています(※3)。
正規雇用が減るということで、非正規社員の増加による所得の減少や所得格差が懸念されています。
※1 nippon.com
※2 連合ダイジェスト
※3 厚生労働省
ひとり親世帯
さらに、若者の貧困には家庭環境も大きく影響しています。相対的貧困率の15.6%のうち、半数がひとり親世帯といわれており、内閣府の調査によると、離婚後の養育費を支払っていない父親が8割以上いることから、世帯収入の減少が見られます(※4)。
そのため、親はひとりでお金を稼ぐために仕事でほとんど家にいない場合が多く、子どもとのコミュニケーションがとりにくいのが現状です。コミュニケーションが疎かになってしまうことで、ストレスが溜まったり勉強に身が入らなくなったりするために、最終的に学力の低下につながり、これが教育格差にもつながります。特に日本では、最終学歴や正規・非正規といった就業形態による所得の格差が存在します(※5)。
奨学金の返済
これまで見てきたような日本全体の貧困化が進むことで親が学費を負担できない状況となり、学生が奨学金を自分で支払うといった状況が生まれています。
日本の奨学金制度は欧米などに多い給付型ではなく、卒業後に多額の返済義務を背負う人が多い状況です。昼の大学学部に通う学生のうちおよそ半数が何らかの奨学金を受給しているといる一方で、卒業後に収入の減収により返済を3か月以上延延滞している人は2014年度で17万3000人にものぼっています(※6)。富裕層と貧困層の教育格差が最終的に所得格差となり、負のスパイラルを生んでいるのが現状で、若年層の生活を圧迫しています。
このほかにも、年功序列の制度や、高齢層のための社会保障負担の増加、デジタル格差や地域格差、塾(習い事)などが若者の貧困改善の障害となっています。
※6 日本学生支援機構
若者の貧困はなぜ問題なのか?(Impacts)
貧困の実態が見えづらい
若者の貧困の課題の一つが、貧困の実態が見えづらいことです。ホームレスに関する調査や統計結果、また、「路上に寝ている若者の姿を見ることは少ない」という自身の経験則から、「若者の貧困問題なんて本当にあるのだろうか」と訝しがる人もいます。しかし、貧困の実態は目に見える形として表れていないことも多くあるのです。
現在の日本の定義では「路上で生活する人」をホームレスとしています。一方、EU諸国の定義では、路上生活者だけでなく仮住まいの人や友人の家を転々とする人もホームレス状態にあるとされます(※7)。実際、日本でもネットカフェや24時間営業のファミリーレストランなど心身の安全が保障されているとは言い難い仮住まいで暮らす「広義のホームレス」状態にある人も多く存在しているのです。
また、親と同居しているために困窮度合いが見えづらくなっているケースもあります。実家暮らしをする多くの場合、家賃や食費などを節約することが可能です。浮いた分の資金をほかのことに充てることができるので、一見、問題なく生活ができているように見えるでしょう。しかし、何らかの理由で実家を出て一人暮らしをすることになった際も、同じようにきちんと生活ができるかというとそうではありません。「家を出たいが、出てしまえば生活ができなくなる」というジレンマのなかで、自分の思う生き方を選べない人もいるのです。親との同居により見えづらくなっている貧困もあるのです。
がんばっているのに、貧困から抜け出せないケースも
「若いんだから、頑張ればなんとかなるはずだ」「選ばなければいくらでも仕事はあるだろう」「本当に困っているなら親に頼ればよい」──こうした論調が若者を取り巻いています。しかし、必ずしも「仕事を得て働きさえすれば、ある程度の暮らしができる」わけではなく、家族間で助け合うことすら難しいケースも多く存在しています。
また、正規雇用ならば問題ないというわけではありません。ブラック企業に就職してしまい、心身がボロボロにというてしまうケースや精神疾患を抱え、働くのが難しくなることもあります。「ブラック企業なら辞めれば良い」という単純な話ではなく、追い詰められると会社を辞めるという選択肢すら浮かばなくなる場合もあるでしょう。なんとか会社を辞めたは良いが「生活のために早く次の働き口を見つけなければ」と焦って就職したのがまたブラック企業だった。そのようなケースもあります。
現代は、病気、失業、事故、介護などのリスクに自分で備えなければならない社会です。「親も年金暮らしなのに……」「親も医療や介護で出費がかさんでいるのに……」「親も非正規雇用なのに……」──迷惑はかけられないと、自分の身近な人を頼ることができないケースも多いです。
さらに、実家暮らしをしている若者のなかには持病や障がい、心の病気などで周囲のサポートが必要である人もいれば、節約のために家にとどまる人もいます。同居することで生活自体はできているものの、その困窮度が見えにくくなっているケースもあるのです。
ほかの世代へも影響
お金の問題から、子どもを持つことをあきらめる人が増え、少子高齢化が加速するとされています。調査によると、18歳から34歳の未婚の男女約5,000人のうち9割ほどが結婚願望があるものの、「結婚資金」がネックとなり結婚に踏み切れないと答えています。男性の43,3%、女性の41,9%がそのような回答をしました(※8)。
生きていく上では、誰もが失業や病気、事故、介護などのリスクを抱えていますが、現在の日本では、個人や家族の自助努力にゆだねられ、安心はお金で買うしかなくなっている。そんな中での若者の貧困は、大きな社会課題であるといえます。
若い女性の貧困問題
さらに、若者の中でも女性が貧困に陥りやすいと言われています。
貧困の実態
国税庁の平成27年分民間給与実態統計調査によると、非正規雇用の女性の平均年収は147万2,000円です。ここから、税金や健康保険料、年金などを引くと、年収120万円以下になり(※9)、勤労世代(20歳から64歳)の一人暮らしの女性の3人に1人が今、貧困状態にあると言われています(※10)。また、平成24年版「男女共同参画白書」 によると20代女性の貧困率(収入から税金や社会保険料を引いた可処分所得を高い順に並べ、中央の額の半分に満たない人が全体に占める割合)は15%を超えています。
厚生労働省による男女合計の統計によると、15~24歳の非正規雇用労働者は240万人、25~34歳は281万人。男女別の統計では、2017年における非正規雇用の割合を見てみると男性が21.9%なのに対して女性は55.5%となっています(※11)。
さらに、離婚・死別によってシングルマザー(母子家庭)になった人や配偶者が怪我や病気で働けなくなるなどによって貧困状態になる人もいます。2016年の全国ひとり親世帯等調査によると、離婚が原因でひとり親になったシングルマザー世帯はで8割を超えており、その平均年齢は、シングルマザーが33.8歳、そういった方たちが育てる子どもの末っ子の平均年齢が4.47歳となっています。小学校に入学前の子どもがいることから、シングルマザーとなった女性は必然的に子育てに充てる時間が必要となるため、正規雇用の仕事にも就きづらい状況が生まれてしまいます。
2016年度の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」では、母子家庭世帯の非正規雇用率は43.8%と発表されており、4割以上の母親がパート・アルバイトとして働いています。
女性の貧困の原因
女性への偏見
この話から、世間ではいまだ女性に対して『体で稼げばなんとかなる』といった偏見があることが分かります。
これに関連して、指導的地位や特定の職業に占める女性の割合が低いというデータがあり、諸外国と比べて特に日本における女性の活躍が遅れているとされています(※12)。
※12 J-CAST ニュース
※13 男女共同参画局
若者の貧困問題を防ぐためにできること(What We Can Do)
これまで挙げてきた課題へ具体的なアプローチが求められていますが、特に若者、企業の両者に対する雇用面での支援、また、貧困の連鎖を食い止めるためのひとり親家庭への支援や、給付型の奨学金の拡大などが必要です。私たち一人ひとりができることとしては、以下で列挙する団体やプロジェクトをサポートすることなどから、貧困に苦しむ若者を少しでも減らすことができるかもしれません。
若者の貧困に関する国際団体(Organization)
若者の貧困に関する国際的な団体としては下記が挙げられます。
若者の貧困問題を解決するアイデアたち(Ideas for Good)
IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアで若者の貧困問題解決に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。
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