寄付を促す最高のUX。Amazonダッシュボタンをハックして人権団体を支援

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異端児と呼ばれるトランプ大統領の就任は、世界中で賛否両論を巻き起こしている。日本のソフトバンクのように米国への大規模投資を発表する企業もあれば、どこに矢が飛ぶかわからない政策に戦々恐々とする企業もある。アメリカが自由の国だと思って暮らしていた市民の中には、その人種差別的な発言や強権的な移民政策に反発する者も少なくない。

米国ワシントンに住むプログラマーのネイサン・プライア氏の友人、キャサリンもその一人だった。「アマゾンのダッシュボタンみたいに、ボタンを押すだけでACLU(アメリカ自由人権協会。反トランプ政策を掲げる)に寄付できればいいのに…」とちょっとしたボヤキのようなお願いをすると、プライアはその冗談のような装置を本当に開発してみせた。

これまでは、オンライン決済がどんなに便利といっても、通常は名前やカード情報など様々なデータを入力する必要があった。しかしアマゾンはブラウザやアプリで注文する手続きを簡素化し、ボタンを押すだけで注文を完了できる仕組み「アマゾン・ダッシュボタン」を2015年に発表し、話題を呼んでいた。

アマゾン・ダッシュボタンが発表されてすぐに、それが単なるIoTボタンとしてハッキングできることに気づいていたプライアは、必要なスクリプトを書き込んで見事にオリジナルの寄付ボタンを完成させ、「ACLUダッシュボタン」と名付けた。このボタンのカスタマイズは、プログラミングの知識のある人なら、比較的簡単に行うことができるという。

これにより、ニュース等でトランプ大統領の言動に嫌な思いをするたびに、ボタンをポチっと押すだけでACLUに寄付することが可能になった。フラストレーションを即行動に移して対抗できるそうだが、あまりにも便利すぎて、感情的になった瞬間に指で押すだけで手続きが完了してしまうというのは危険もはらむ。消費者からすると、注意しないと使い方によってはお金をつぎ込み過ぎてしまう可能性がある。

一方で、インターネットで募金や支払いを受け取る団体や活動家にとっては非常に頼もしいUXデザインだと言える。簡単で手間のかからない方法を好む人間の特性を考慮して作られたAmazonダッシュボタンの仕組みを使えば、寄付する気はあるにも関わらずちょっとした手間が面倒で行動を躊躇している層を掘り起こすことが期待できるからだ。

ボタンを開発したブライアは、「アマゾンがダッシュボタンを使って商品を販売したいのと同じ理由だ。今どきは、買う、または寄付するという感覚ではなく、ボタンを押すだけ。視点や使用目的次第で、危険でもあり、便利でもある」と語る。

いずれにしても、このボタンはものすごい力がありそうだ。よく切れる包丁、英知のエネルギー原子力、そしてIT。これらはみんなツールであり、使い方次第で便利にもなり危険にもなる。道具を使う側の人間の根本的な部分が試されるというのは、どれでも同じだ。

どうせ使うなら、社会を良くする方向に。ブライアのアイデアは、これまででもっともソーシャルグッドなAmazonダッシュボタンのハッキング例かもしれない。

【参照サイト】The ACLU Dash Button
(※画像:The ACLU Dash Buttonより引用)

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