機能的で爽やかなデザインが目を引くおしゃれなバッグやストール。バッグの内側には作り手の名前がスタンプされている。まさに、顔の見えるバッグ。
カンボジア発のライフスタイルブランドSALASUSU
作っているのは、カンボジアの農村の女性たち。世界遺産アンコールワットから車で1時間ほどのところにSALASUSU(サラスースー)の工房があり、教育の機会に恵まれなかった、経済的に困難な状況にいる女性たちが60名ほど働いている。
彼女たちが作る製品は、2016年から前身のSUSU(スースー)、そして2018年からSALASUSU(サラスースー)というブランドとして販売されている。もともとは、カンボジアで活動するNPO法人かものはしプロジェクトの一部としてはじまった。
現在SALASUSUの代表のひとりである横山優里氏は、もともと素材メーカーで働いていたときにものづくり現場の歪みに違和感を覚えたという。
「コストを下げろ」「納期は明日」など、最終製品メーカーからのしわ寄せはいつも現場へと押し寄せる。対等な関係ではなく、作り手が苦しい環境で働かざるをえない状況だった。ものづくりが置かれている環境への疑問を抱えながら、いつか東南アジアで働いてみたいという思いと、カンボジアへ行けるかものはしプロジェクトの活動を偶然発見し、メーカーを退職後カンボジアへと渡った。
そしてSALASUSUにはもうひとり欠かせない人物がいる。それがデザインを担当する菅原裕恵氏だ。菅原氏はもともと日本でデザイナーとして働いていた。しかし、毎年新しい靴をデザインするが捨てられていく現場を見ながら、作り手が報われないサイクルに悲しみを感じていた。
そんなとき、「悲しみのサイクルのないものづくりがしたい」という二人の思いがカンボジアで出会ったのだ。
「買い手」が変わると世の中が変わる
二人で製品づくりをすすめるなか、周りからはモノが溢れる現代に、なぜものづくりなのかを何度も問われたという。横山氏は次のように語った。「モノを買うことは企業への投票であり、『買い手』が変わると世の中が変わる」と。その信念があるうえで、SALASUSUはものづくり以上の価値を提供したいと考えている。
SALASUSUの特徴のひとつは、「ものづくり×教育」を軸にしているところだ。具体的には、働き手に「ライフスキルトレーニング」を提供している。
「ライフスキルトレーニング」は、カンボジア人トレーナーのもと毎日1時間、人と関係をつくる力や自己管理、問題を解決する力などをゲームやワークショップを通じて楽しく学び、女性たちに「生きる力」を身につけてもらうことを目的におこなわれている。日本企業の新人研修をイメージするとわかりやすいだろう。
SALASUSUの独自性はこれだけではない。
冒頭で述べたように、SALASUSUの商品を作っているのはカンボジアの最貧困層の女性たちだ。しかし、SALASUSUが目指しているのは「かわいそうだから買う」「カンボジアを支援したいから買う」ことではない。もちろんそういう動機を否定するわけではない。
ただ、このブランドを通じて創りたいのは、「Encourage Life’s Journey」、つまり作り手と買い手の人生が交差してどちらの人生もよりプラスになるつながりだ。
作り手と買い手のLife Journeyが交差する場所
SALASUSUのウェブサイトをご覧になれば、その意味がわかるだろう。「貧困」といった途上国の暗いイメージとはほど遠い、明るく洗練された色味。雑誌に載っていそうな商品のラインナップ。楽しそうに働く女性スタッフたち。まるで全国のファッションビルに入っているブランドのようだ。
しかし、まさにこのイメージを創り出すことが今回のブランドリニューアルにあたって一番苦労した点だという。SALASUSUのコンセプトや強みは何か、そしてそれをいかに伝えるかを固めるのに約1年をかけた。
そしてたどり着いたのが「作り手に会いに行く旅をしよう」というLife Journeyを切り口に商品アイテムを企画することだ。作り手と買い手が交錯する瞬間を豊かに、おもしろく、そして健康的にあたたかい関係性でつなげたい。そんな思いからはじめたのが、バッグの内側に作り手の名前スタンプを押して、作り手の顔が見えるようにすることだ。そして商品にはSALASUSUの工房を訪問できるチケットがつき、購入したお客さまには「作り手に会いに行く旅をしよう」を提案している。
横山氏がこの企画をやりたいと思ったきっかけは、日々工房に来てくれるお客さまが、工房で楽しそうに生き生きと働く女性たちの姿に触れて、元気をもらって帰っていく姿を見たことだ。SALASUSUの工房にはそんな空気感が流れているという。
商品を通じて、作り手と買い手の人生が交錯する瞬間をつくり、お互いの人生を応援しあうような関係性を紡ぐことができたらー。作り手は自分の仕事に誇りや自信をもち、買い手も作り手の顔がわかるバッグにバッグ以上の価値や愛着をもってもらえるのではー。新しいブランドコンセプトにはそんな願いを込めているという。
実際、毎年2000人あまりの人がSALASUSUの工房を訪れている。9割は日本からだが、台湾や欧米からの参加者もいる。高校の修学旅行であったり、大学のゼミのツアー、またブランド製品の購入者ももちろんいる。
作り手である彼女たちにとっても、工房に訪ねてきた人たちとの交流は世界をはじめて認識する瞬間であり、自信につながっているという。
ものづくりを超えた先を目指す
そんなSALASUSUは今後どこを目指していくのだろうか。
「販売はもちろんですが、なによりもブランドの世界観を発信しより多くの人に知ってもらうこと」だと横山氏は言う。フェアトレード製品や途上国で作られた製品など、裏側のストーリーがあるブランドはたくさん世の中に出てきている。
そんななか、毎年新しいアイテムを作ることだけを目的にするのではなく、そのバッグを購入しなければ出会わなかった作り手と買い手をつなげ、お互いの人生がより良いものへと変わる体験を提供したいと考えている。その取り組みのひとつが「作り手に会いに行く旅をしよう」という企画だ。
SALASUSUはファッションブランドではあるが、究極のゴールはものづくりではない。カンボジアの作り手だけでなく、日本の買い手の人生も応援したい。彼女たちの製品を取って元気になってもらいたい。それが、SALASUSUがものづくりをとおして目指すゴールなのだ。
【参照サイト】SALASUSU (Facebook、Instagram)
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