デンマーク育ちの日本人デザイナーが考えるエシカルなファッションと生き方

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誰だって、“おしゃれ”で“かっこいい”ファッションが好きなはずだ。そのファッションがたまたまエシカルなものだったら、なんだか気分がもっといい。

デンマーク生まれの日本人兄弟が展開するファッションブランドThe Inoue Brothersは、南米に生息するアルパカの毛で作られたセーターやストールを販売している。グラフィックデザイナーである兄の井上聡氏と、ヘアデザイナーの弟井上清史氏。二人のクリエイターがファッションをとおして創り出したいのは、環境に過度な負荷をかけず、生産者にも不当な労働を強いないエシカルであることが当たり前の社会だ。

井上兄弟の横並び写真

3月上旬、The Inoue Brothersの初となる書籍「僕たちはファッションの力で世界を変える ザ・イノウエ・ブラザーズという生き方」の発売記念イベントが東京で開催された。彼らの考える「エシカルファッション」から「ソーシャルビジネス」、「人間のエゴ」にいたるまで様々なお話を聞いてきた。

イベントでトーク中

※以下の質問と回答は、すべてトークイベント内の一部。

井上氏が考えるソーシャルビジネスとは

トークショーの様子

Q. ビジネスの力で社会的課題の解決を図る「ソーシャルビジネス」。井上氏にとってのソーシャルビジネスとは、なんだろうか?

周りにポジティブなインパクトがあるかどうかを考えること。

ソーシャルビジネスは、「かわいそうだから助けよう」という上から目線のチャリティーとは違います。だからソーシャルビジネスではwin-winの関係性があることが大事ですね。

みんなが得しないと長続きしない。そして、それはクリエイティブに考える責任でもあるんです。

Q. 「エシカル」や「サステナブル」は特別なこと?

エシカルとオーガニックがスタンダードになるべきだと考えています。東京やコペンハーゲンではそれほど感じないですが、アンデスに行くと気候変動をひしひしと肌で感じます。

「サステナブル」であるのは難しいことではなく、大量生産された製品の購入をちょっとづつ減らしていけばいいんです。我慢する必要はない。ただ買い物の回数を減らして、長持ちするものを買うだけです。みんなで一緒にやればできます。

僕たちのブランドのスローガン「Style can’t be mass-produced.」(スタイルは大量生産できない)にもあるように、ファッションは大量製品じゃなくても、かっこよくて良いものが作れるんです。

「エシカル」は人間と人間とのつながりだからやらないといけないことなんです。もし僕が不当に人を使ったら、その人とのコネクションを失っていることになります。

頑張らなくていいナチュラルな生き方

アンデスのビクーニャ

Q. 最初から「エシカル」なファッションを目指していたのか?

質の高いものを作ることを追求した結果、サステナブルやエシカルになっているんです。

たとえば、僕たちがセーターに使用しているビクーニャの毛は、アンデスに生息する野生のビクーニャのものだけです。それは、ビクーニャが少しでもストレスを感じると毛の質が落ちてしまうから。インカ帝国の時代からの囲み方を踏襲しています。避妊になってしまうからメスの毛も刈らない。だから、囲い込んだビクーニャの半分を逃すこともありました。

ナチュラルなものが一番質が良いってのは、旬の食べ物を好む日本人が一番よく知ってるんじゃないでしょうか。

Q. アンデスの人たちが幸せにそうに暮らしている理由はなに?

僕はこれまで中東、アフリカ、南米の民族の方に会ってきました。彼らが幸せそうに見えるのは、人間らしい生き方をしているからだと思います。

彼らみんなに共通しているのは、自然との共存を重視しているところです。都市に住んでいると、いろんなルールに縛られてボックスの中に閉じ込められ、そこから出てはいけないというフラストレーションを感じることがあります。

だからといって大自然の中で暮らせというわけではないです。ただ、意識してときどき自然の偉大さを感じるようにはしています。自分の子どもたちも遊園地ではなく山に連れて行きたい。

もう一つ大事なのは、ローカル感です。町が大きくなるにつれ、人数は増えながら一人ぼっちになっていく。一方彼らは、子供、家族、周りの人との絆を大事にしているんですね。そのためダンスや音楽、料理など、人を団結させる毎日のルーチンが多くあります。

自分のエゴを認める

アンデスの草原

Q. やっぱり人間、安いものを買いたいのでは?

そうですね。エゴや欲を消すことは不可能だと思いますし、それが悪いわけではないんです。

たとえば、自分のエゴや欲を中心におき円を描いてみてください。そしてその外側にもさらに円を描いていく。円の中に家族が入って、さらに親戚やご近所さんも入ってくる。円が外に広がるにつれて、人生の見方が広くなって毎日もっと気持ち良くなる。最終的に地球まで円に入れば、自分のエゴでやる行動が、地球のための行動に変わるわけです。

「いいことをやりたい」という欲より、「かっこいいものを買いたい」欲の方が強いのは、人として自然です。そして、いいものをかっこよくする、そこが僕たちデザイナーやクリエイターの仕事です。

それでも、いいことをやったことに対して気持ちいいのは、それもまたとても人間らしいことです。

より遠くに行くには仲間を見つける

井上聡さんが話している

Q. エシカルな製品を世の中に広めていくときに大事なことは?

同じマインドを持っている人を増やすことです。

一番力をもっているのはエンドユーザーだと思います。いいことをやろうと思っていなかった生産者も、変わらざるをえない。特にマインドシフトする力をもつインフルエンサーの影響も大事です。選挙の投票より、自分のお金の使い方が影響力をもっていると言われるのと同じです。

もちろん、エンドユーザーをインスピレーションする生産者も重要なので、両方が必要です。

Q. より多くの人がエシカルになるにはどうしたらいいのか?

一番重要なのは、たくさんの人が少しやることです。カレーライスが美味しくなるから、玉ねぎだけオーガニックにしてる、くらい軽くていいんです。軽くエシカルに、オーガニックに。

社会の流れと逆をいくのは、決して楽な道ではないです。そのとき最も大事なのは、仲間を作ること。僕も弟の清史がいたからあきらめずに勇気をもってやってみようと思って、ここまで来られました。複雑な問題に見えても、解決方法はシンプルで人間的で誰でもできることなんです。

編集後記

人間としての欲やエゴを否定するのでなく、むしろ肯定するからだろうか。井上氏の話はすごく自然に入ってきた。「エシカルなものを買わないと悪い人」ではなく、「かっこいいものを買ったら、エシカルな製品だった」そんな世界を当たり前にしたい。

そして、それを一人でやるのではなく、みんなが少しづつやることが大事であるというのも共感する。一人で世界の流れを変えるのは多大な時間と労力がかかるかもしれない。しかし現在は、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を利用して、個人が簡単に情報を発信し、他人とシェアできる時代だ。

気軽に「いいね!」した先には、「エシカル」「オーガニック」「サステナブル」が特別ではない世界が待っている。同じマインドをもった仲間がいれば、より早くより楽に、より良い社会にできる時代に生きているのだから。

(※画像提供:The Inoue Brothers

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