皮革製品大国スペインで、ヴィーガンレザーに挑戦する「CUCO Vegan Fashion Barcelona」

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動物福祉や環境問題への関心の高まりから、動物由来の素材を用いないヴィーガンファッションが注目を集めつつある。IDEAS FOR GOODではこれまで、パイナップルリーフやコルクなどを原料とした生分解可能な植物由来繊維などの例を紹介してきた。

筆者の住むスペインでは、ヴィーガンファッションという概念は一般的ではないものの、少しずつ広まっている。バルセロナで数少ないヴィーガンファッション専門ブランド「CUCO Vegan Fashion Barcelona(クコ・ヴィーガンファッション・バルセロナ)」を運営するデビッド・サンチェス(David Sanchez)氏に現在のブランド運営に至る背景や、スペインにおけるヴィーガンファッションの受け取られ方について話を伺った。

動物と環境に配慮したファッションスタイル

幼い頃から動物が好きだったデビッド氏は、動物に頼らないライフスタイルを提案しようと、2年前にバルセロナ市内の観光中心地にヴィーガンファッション専門店をオープンした。店舗に並ぶ北米・ヨーロッパ諸国産の鞄や財布は、動物由来の素材を一切用いずに作られた「ヴィーガンレザー」である。

ヴィーガンレザー

ヴィーガンファッション専門店 クコ・ヴィーガンファッション・バルセロナ

「ヴィーガンレザー」と称される素材は幅広い。合成皮革(ナイロンやポリエステル生地をポリ塩化ビニール樹脂(PVC)やポリウレタン樹脂(PU)で加工)に加え、より環境に配慮した素材として植物由来繊維やリサイクルポリエステルなどが含まれる。

デビッド氏の店では、ヴィーガンレザーの中でも、製造時に有害な化学薬品を多量に使うPVC合成皮革ではなく、パイナップルリーフやコーンなどの植物由来繊維やリサイクルポリエステルを用いたアイテムを扱っている。「動物をファッションの犠牲にしないためには、動物由来の素材を用いないことに加え、環境負荷を考慮した素材を選ぶことが大切」という考えからだ。店内には商品の隣に、どのようなヴィーガン素材で作られたかという説明展示が並べられていた。

また、生地だけでなく縫い糸や染料にも動物由来素材が用いられていないことを示す、PETAヴィーガン認証を受けた商品のみを扱っている(アメリカのthe People for the Ethical Treatment of Animals Foundation(PETA)という市民団体によるヴィーガン認証)。開業当初は、デビッド氏自身が製造元や素材メーカーまで辿り、動物由来素材が含まれていないかを一社一社確認をしていたこともあるそうだ。

そこまでの想いを持つ理由は何だろうか。
「ヴィーガンファッション専門店として、動物や環境に優しいファッションアイテムを求めて来店する皆さんに誠実に対応したいという思いからです。『ヴィーガンファッション』はコンセプトとしても新しく、国際機関による認証や規定もありません。『ヴィーガン』という表現の使用は製造者や販売者に任されています。残念ながら、中には製造過程や製品の一部に動物由来の素材が使われているヴィーガンファッションのブランドもあるのが現状です。」

購入者にとって、製品表示上はその商品が本当にヴィーガン素材かどうかを判断することが難しく、購入者が十分に情報を得られなかったり、混乱してしまったりするケースもあるそうだ。デビッド氏の店でも扱われているPETAヴィーガン認証は、そういった混乱を避けるための一つの参考となるだろう。しかし、企業側の適切な情報開示と共に、行政による法整備が必要だとデビッド氏は指摘する。

ヴィーガンレザー

クコ・ヴィーガンファッション・バルセロナの鞄

スペイン発のヴィーガンブランド立ち上げへ

ヴィーガンファッションをより身近なものにしようと取り組んできたデビッド氏は開業以来、あるもどかしさを抱えていた。それは、北米や他のヨーロッパ諸国にはヴィーガンファッションブランドがあるものの、自国のスペインではなかなか見つからないことだ。

「スペインでは、動物の皮革製品の人気が非常に高く、皮革製品の工房は国内に数多くあります。しかしヴィーガンレザーや、ヴィーガン素材を専門に扱う工房や製造メーカーは見つかりませんでした。次第に、スペイン発のヴィーガンブランドを立ち上げたい、という夢が生まれました。」

店舗を経営する傍ら試作を繰り返す日々が始まった。素材は環境負荷を考えて、パイナップルやコーンの植物由来繊維、紙繊維、生分解可能プラスチック素材を選んだ。販売経験はあるものの、デザインや製造は未経験のデビッド氏たちにとっては大きな挑戦であり、試行錯誤の連続だった。

「自社製造はまさに自分の子どもを世に送り出す気持ちです。大変ですがとてもやりがいがあり、喜びがあります。」

ヴィーガンレザー

クコ・ヴィーガンファッション・バルセロナ デビッド・サンチェス氏

そしてついに2019年11月、Piñatexというパイナップルリーフ繊維とエコ・コットンを素材にした鞄が完成した。12月に発表したウエストポーチは、人体と環境に配慮した素材として、フタル酸エステルや、溶剤、重金属などを用いていないポリウレタンとエコ・コットンで作られている。染料には環境に配慮した水性インクが用いられており、シンプルなデザインを心がけているという。

スペイン発のブランドを立ち上げるという情熱から、デビッド氏たちはこれまで事業の中心であった実店舗を閉鎖し、ヴィーガンファッションアイテムの製造開発に注力することを決断した。今後も同社のオンラインショップを通して、新たに登場する自社ブランドと従来扱ってきた他社ブランドの販売は継続される。

「ヴィーガンファッション」が選ばれる選択肢となるために

「ファッションのために動物を犠牲にしない」「環境のためにリサイクル素材を使う」という考え方はスペインでも共感を得つつある。しかし、皮革製品と比べるとヴィーガンレザーはまだ「選ばれにくい」そうだ。

「スペインでは皮革製品には高品質・高級というイメージが根付いている一方で、ヴィーガンレザーは『耐久性の弱い合成皮革』を連想する人が多いためです。誰かへのプレゼントや自分へのご褒美のような特別な買い物をするときに、ヴィーガンレザーを選ぶ人はまだ多くありません。」

「近年では、植物由来繊維やリサイクルポリエステルなど摩耗試験で十分な耐久性が確認されているヴィーガンレザー素材も登場し、動物由来素材に頼らない選択肢は増えつつあります。デザイン性とともに、品質の良いヴィーガンファッションアイテムを発信していくことが私たちの使命と考えています。」

スペインにおけるヴィーガンファッションブランドの挑戦は始まったばかりだ。しかし追い風は吹いている。2019年10月、バルセロナではヴィーガン・フェア「ベジ・ワールド(Veggie World)」が2日間に渡り開催された。フェアの来場者数は、昨年が5,000人、今年は6,000人と増加傾向にある。また約80社の出展団体のうち、食品業界が昨年に引き続き最も多いが(62%)、ファッション業界が2番目に躍り出た(11%)。次いで多いのは、アニマル・ライツに関するNGOや化粧品業界だ。

このヴィーガン・フェアには、デビッド氏のクコ・ヴィーガンファッション・バルセロナも出展し、デビッド氏自身もヴィーガンレザーをテーマに登壇をした。参加者の多くはヴィーガンレザーという言葉を初めて聞いたそうだが、素材について熱心な質問が飛び交い、手応えを感じたと話す。

「SNSやオンラインメディアを通して様々な情報を入手しやすくなったことで、10代、20代の若者世代を中心にヴィーガン・ファッションへの関心が高まりつつあります。5年後や10年後、今の若者達の購買力が上がった時、ファッション業界は今と異なるランドスケープになるでしょう。」

ヴィーガンレザー

クコ・ヴィーガンファッション・バルセロナで販売されていた鞄

インタビュー後記

スペインでは確かに皮革製品の人気が根強い。バルセロナ市内では皮革製品の工房や販売店を頻繁に見かける一方で、筆者の知る限りヴィーガンファッション専門店は5店舗程度と数少ない。しかし、クコ・ヴィーガンファッション・バルセロナも含めヴィーガンファッション店を実際に何店舗か回ってみると、デザイン性、品質ともに高いヴィーガンレザーの鞄や財布が揃っており、ヴィーガンファッションの可能性の大きさが伺えた。

「耐久性が弱く皮革製品より劣る」ーヴィーガンレザーのそんなイメージを塗り替え、ヴィーガンファッションがおしゃれなファッションアイテムとして選ばれる日はもうすぐだろう。

【参考サイト】「CUCO Vegan Fashion Barcelona(クコ・ヴィーガンファッション・バルセロナ)」