仕事帰りに寄ったスーパーで、半額になっているバナナに目が留まる。「明日からの朝ごはんにしよう」そう決めて買って帰ったはずなのに、忙しい毎日に追われて、気づけば、一週間が経過。手付かずのバナナは…… 真っ黒だ!これじゃあもう食べられない、と泣く泣く捨てる羽目になってしまった。
そんな経験をしたことがあるのは…… 大丈夫、あなただけではない。生産された食べ物のうち、およそ半数が食べられることなく廃棄される運命にある現代社会。そんな現状を何とかしようと、立ち上がったスタートアップがある。
「It’s Fresh!」は、野菜や果物などの青果物に取り付けるだけで、その鮮度を保って長持ちさせることができる英国発のフィルターだ。これは、食品輸送から販売、各家庭での保存時にいたるまで、食品サプライチェーンのあらゆる場面で使用できる。一見、小さなカードのようにも見えるフィルターを置くだけ。こうすれば、青々して新鮮な状態のまま、長期間果物を保存できるのだ。
フィルターに使われている特殊素材が、野菜や果物の成熟を促進させるエチレンガスを吸い取ることによって、鮮度や味が保たれる仕組みである。食物に直接触れたとしても化学物質を発生させることがないので、人体に悪影響はなく、環境にも優しい。フィルター自体の使用期限は、青果が発するエチレンガスの量や、パッケージング素材の化学物質の含有量にもよるが、最低18ヶ月、長ければ数年はもつという。
では、実際にどれくらい青果物の寿命を延ばすことができるのだろう?It’s Fresh!社が中米コスタリカで行ったトライアルを例に紹介しよう。
フィルターを付けたバナナと、フィルターなしのバナナを用意し、それ以外は全く同じ条件の元、バナナ農園からの出荷・輸送を行った。すると驚くことに、フィルター付きのバナナは、フィルターなしのものと比較して2倍近く、70日間の間、青々としていたという。その名の通り、まさに”It’s Fresh(とっても新鮮)!”だ。
もちろん輸送時だけではなく、店頭販売用のパッケージに入れて使用したり、家庭でフルーツを保存するときに使ったりと、用途はさまざまだ。
バナナは、スイカに次いで全世界で2番目に多く生産されているフルーツということもあって、It’s Fresh!の重要なターゲットだ。It’s Fresh!社によれば、店頭においても、最低2日、消費期限を延ばすことができるという。たった一つのフィルターのおかげで廃棄を免れる、全世界のバナナたちの数と運命を思うと、これはかなり大規模なプロジェクトだということがわかる。その他ラズベリーやさくらんぼ、アボガドやトマトなどでも、良い結果が得られている。
「食料大量廃棄問題の解決を、世界規模で目指すということが私たちの課題です。」It’s Fresh!創設者のSimon Lee氏は、英Huffington post社のインタビューでこう語っている。「食料の生産から販売、消費にいたるまで、全工程で使用できる、というのがこのフィルターの強みですね。食料廃棄を減らすことができるだけでなく、全世界の生産者や輸入者のためにもなりますから。」
腐らせてしまった野菜や果物をゴミ箱に捨てるとき、どこかチクリと心が痛むのは、きっと筆者だけではないはず。自分のお財布に優しいだけではなく、丹精こめて育ててくれた生産者や、環境にも優しい。食料廃棄を減らすということは、きっとみんなにとって優しい選択のはずだ。その一歩として、あなたも自分にできることを考えてみるといいかもしれない。
【参照サイト】It’s Fresh!