スウェーデンの小学校の教科書に見る、子供の創造性を高める3つのヒント

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イケアやH&M、Volvo、Spotifyなど、日本でもよく知られるようなイノベーションを数多く生み出しているスウェーデン。Bloombergが発表した「Innovation Index 2018」によると、スウェーデンは世界で2番目にイノベーティブな国だという。ノーベル賞発祥の地に住む人々は、どのように創造性を高めているのだろうか。

ヒントのひとつは地理的な背景だ。北の辺境の地にあるスウェーデンでは気候が厳しく、人々は少ない資源を分け合い、生きるために創作工夫をしなければならなかった。こういった特徴は日本にも共通しており、「もったいない」という言葉も生まれている。

だが、小児期の学校教育に対するアプローチは大きく異なったようだ。6月中旬、スウェーデン大使館で開かれたイベントに登壇された明治大学の鈴木賢志教授の講演で、教育における「創造性を生み出す5つの力(*1)」が紹介された。

  • 質問する力
  • 観察する力
  • 関連づける力
  • 実験する力
  • ネットワークを作り発展させる力

子供がこれらの力を鍛えるには、家庭内での教育、そして他の子供と共に学ぶ学習環境が必要だ。スウェーデンの小学4年生から6年生が使う社会科の教科書「社会を発見する(Upptäck Samhälle)」を翻訳した鈴木教授の講演をもとに、子供の創造性を高めるプロセスを見ていこう。

01. 「なぜ?」を常に問い続ける


子供たちが教科書を開いてまず目にするのは、この言葉。

社会とは何かということを、あなたは深く考えたことがあるでしょうか。どのように答えるべきか、少し考えてみましょう。それから、社会とは何か、また社会がどのように成り立っているかについて、同じような考えを持っているかどうかを、クラスの友だちと確かめてみましょう。

社会とは何か?ひとりひとりの答えが違うもので、ここに正解は載っていない。さらに社会科で習う「メディア」や「個人と集団」「法と権利」といった各テーマの最後にも、必ず答えの決まっていない問いかけがある。この教科書はスウェーデンの学習指導要領の作成において中心的な役割を担ったスヴァーネリッド氏によって書かれており、一般的な社会科の知識だけではなく、日本でいう「道徳」のような内容も含まれているようだ。

なぜ勉強をしなくてはいけないのか?大学まで行く理由は?社会のシステムはなぜこのように決められているの?わたしたちは、小さい頃からこういった「なぜ」を見過ごしてきてはいないだろうか。自分の子供にも「そういうものだから」と伝えて、無意識のうちに考える機会を奪ってはいないだろうか。

世の中のさまざまなことに疑問を持ち、自分で考えながら本やインターネットなどで調べたり、誰かと話しあったりする環境があることで、子供は自分なりの世界観をつくっていくことができる。

02. ルールは自分たちでつくっていく


ルールや規範は大切だ。これらは自由な行動を制限するだけのものではなく、集団生活における秩序を保つ、身を守る、公正な取引を実現するなどの役割を果たしている。しかし、ときに理不尽なルールに対しては先述の「なぜ」を突き付けることも必要である。

社会科の教科書には派手な髪色をした女の子のイラストと共に、こう書いてある。

わたしたちはみな、いつも自分がやりたいようにやれるわけではありません。さまざまな規範に従っています。けれどもすべての社会は変化します。規範が変わることもあります。たとえば髪型やファッションを変えて、規範を打ち破ってやろうとするなら、それを何度も繰り返しているうちに、それでいいのではないかと思われるようになるかもしれません。(一部省略)

自分の好きなファッションで学校に来てはいけない、というルール。だとしても、既成概念に縛られるべきではない、ルールは「元からあるもの」ではなく、自分たちでつくりだしていくものなのだ、と子供に教えている。

同様に、教師も生徒からの反論があれば応えられるようにしておかなくてはいけない。スウェーデンでは子供は小さな社会人だと見なされており、教師に対しても生徒の意見を聞くべきだという指導がされている。もちろんこれは全員ができるわけではなく、教員の質が問題として取り上げられることもあるようだ。現在、スウェーデンの教育界では「学校で教える科目も生徒自身に決めさせるべきかどうか」で議論が巻き起こっている。

「常識」に対して代替案となるアイデアをよく考えたうえで、大人と議論しながらルールを決めていく。そんなプロセスを通して、子供の思考力を高めていくのだ。

03. 次に何が起こるか、までを想定してみる


社会を変えたい、何かイノベーションを起こしたい、と思う好奇心旺盛な子供。社会科の授業では、それをどのように実現するかだけでなく、どのような影響をもたらすかまであわせて考えられていることがユニークである。

たとえば、身近な社会問題について一緒に考えてみるとき。教科書では「学校のある地域にたくさんの人が住むようになり、車の交通量が増えました。子供たちは登校時に怖い思いをしています。この問題をどう解決できるでしょうか?」という問いに対して、「横断歩道に信号機を設置する」ことが一つの解決策として示されている。

信号機の設置は画期的なアイデアのように思えるが、これでめでたしめでたし、と終わらせるのではない。子供たちが安全に学校に行けるようにはなったが、一方その地区では交通の混雑が起きるようになってしまった、と問題の“その後”が書かれている。

何か行動を起こしたことで、社会にどのような影響があるか。そこまで想像させたうえで、社会問題の解決について深く考えていく練習を繰り返していくのだ。

創造力のある子供になれるように

この社会の教科書では、つめこみ教育というよりは子供の自由な発想を育てるということに重きを置いているように見えるが、大学進学や勉強へのモチベーションはどのように保っているのだろうか。

上記のプロセスのなかで教科書が子供に伝えているのは「あなたも影響を与えられる」ということだ。影響を与えたいと思っている分野について深い知識があることは強みになる。そして多くの人の賛同を得ることで「世論を形成」していくものなのだと書かれている。

信頼できる人物の署名や、地方新聞への投書など、なんでもいい。自分の両親や近所の人々といった身近な存在から、学校の教師、最終的には政治家までを味方につけるためには、あなたが誤字脱字などの誤りがなく、正しく物が書け、自分の伝えたいことを冷静に伝えられる、ということを示すことが大切だと、子供のころから教えているのである。

小学生が何かしらの社会問題についてデモを行うようすまで一緒に載っている。子供は子供なりの目線でさまざまなことを考えており、大人がそれを引き出してあげる役目を担うことで、将来のオピニオンリーダーを育てているのだ。

※イメージ画

スウェーデンは、ノーベル賞の恩恵を多く受ける国だ。ノーベル賞を受賞できるような研究をするために世界中から優秀な学者が集まり、地元大学との交換留学などの交流を通して、イノベーティブな発想を吸収するサイクルができている、と鈴木教授は述べている。スウェーデンの社会科の授業における子供の創造性の高め方については、次の世代の才能を育むわたしたち大人も取り入れられるのではないだろうか。

*1 The Innovator’s DNA: Mastering the Five Skills of Disruptive Innovators(2011, Jeff Dyer, Hal Gregersen, Clayton M. Christensen)

【参照サイト】The U.S. Drops Out of the Top 10 in Innovation Ranking
【参照サイト】Sverige – EDUCATION IN SWEDEN
(※画像提供:Shutterstock.com