「みんなが100点をとれるテストを作っていてはダメ」フィンランド最大の教育の祭典“Educa”で聞く教育の最前線

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フィンランドといえば、先進的な教育をするイメージで知られている。15歳の子供を対象とした国際的な学習到達度調査(以下、PISA)でフィンランドは常に上位にランクインしているが、暗記によって知識量を増やす、いわゆる「詰め込み型」の教育ではなく、子供ひとりひとりの個性を育てることに重きを置いていることが特徴だ。

そんなフィンランドの首都ヘルシンキでは、1年に1度、国内最大の教育の祭典「Educa(エデュカ)」が開かれている。教育関係者らが集まり、セミナーやパネルディスカッションなどを通して教育に関する最新情報を提供・交換する本イベントでは、シュタイナー教育やモンテッソーリ教育のメソッドを持つ教員たちも集まり、企業もブースを出している。教科書や書籍、学校机、デジタル関連機器などの販売も行われているようだ。

2019年1月25日、26日に開催されたEducaのメインテーマは「教える―コミュニケーションと相互作用」。本記事では、1月のEducaを視察したcokowill代表、寒川英里(さむかわえり)さんの講演を参考に、フィンランドの教育界の変化と最新事情を見ていこう。

Educaのようす

Educaのようす Photo by 寒川英里

フィンランド教育の歴史と「今」

フィンランドは、建国から「教育大国」だったわけではない。長年スウェーデンとロシア(ソ連)の支配を受け、1990年代には貿易依存していたソ連の崩壊により、失業率20%という大不況にも見舞われた。

フィンランドの教育が発展し始めたのは、ソ連が崩壊してすぐ、石油も軍事力もない限られた資源のなかで、「ヒト」こそが国の最大の財産だ、という方針が生まれたころ。国民に高い水準の教育を受けさせることで良き納税者を育て、その結果国が潤うと考えたのである。

この方針を打ち出したのは、1994年から教育大臣に就任した当時29歳のオリペッカ・ヘイノネン氏だ。オリペッカ氏は、教育現場に大きな裁量権をもたせ、子どもたちに教える内容や考え方を現場の教師が自由に決められるようにするなど、さまざまな教育改革を行った。そうした努力が実を結び、2000年のPISAでフィンランドは世界一に。

フィンランドの子供

Image via Shutterstock.com

現在フィンランドでは、小中学校の9年間が一貫の「基礎教育」期間として数えられる。放課後に子どもが通うような学習塾はない。なお、「フィンランドの小学校には宿題・課題がない」という情報も散見されるが、中~高学年を中心に宿題は出されている。国語や算数など、学校で教えるべき教科もその分量も学習指導要領(National Carriclum)によって決められており、その達成度もはかられている。

基礎教育の修了後、専門的なスキルを学ぶことができる職業学校に進学する生徒が6割、大学進学を目指してアカデミックな教科を学ぶことができる高校に進学する生徒が4割ほどだという。ただし、入学後でも自分に合った環境でないと考えた場合は、もう一度他の学校に編入することもできる。

フィンランドの教育は「起業家精神を育む」ことに焦点があてられている。以前IDEAS FOR GOODでも紹介したフィンランド版キッザニアMe & My Cityがいい例で、小学生のうちから街の運営、経済活動、選挙への参加などを通して社会とつながるトレーニングをしているのだ。

Educaで話されていた、3つの面白いこと

冒頭で述べた通り、Educaにはシュタイナー教育やモンテッソーリ教育、さらにフレネ教育を実践する教員たちも集まっていた。寒川さんが彼らの話を聞いているなかでユニークだと思ったことは、彼らの教育メソッドが“似通ってきた”ことだそう。それぞれの教育を区別するのではなく、互いに学び、協働しながら教育の現場にいかしていこうという姿勢すらあった。

さて、ここからは寒川さんが参加したEducaのセッションのなかでも、学校教育に関する面白いトピックをピックアップしてご紹介しよう。

01. 「自分が決めたゴールへの到達度をはかる」評価軸の変化

「みんなが100点をとれるテストを作っているようではダメです。」Educaの講演のなかで、発表者からこんな声があがった。学校のテストは、生徒の学習到達度をはかるためのものであるが、全員が同じテストに答えられることに意味はない。テストで良い点を取れる人が、必ずしも社会に出て活躍する人ではないのだ―そう思っての発言だそう。

フィンランドの子供

Image via Shutterstock.com

Educaでは、子ども自身が個人の能力や特性にあわせた目標(ゴール)を決め、それに向かって学び、プロセスから到達度までを評価することが大切だと話されていたという。たとえば10段階評価中5の評価を常に得ている子なら、6にいけるように学習方法を工夫する。相対評価は重要ではなく、教員のサポートを受けながら常に自己ベストを目指すイメージである。

ただ、これでは評価する教員の負担が大きいのも事実だ。彼らは「学校の先生」という役割を背負ってはいるが、生徒ひとりひとりの評価に時間がかかり、その結果毎日の労働時間が長くなってしまったら「個人」を犠牲にすることになる。

教員という仕事は、社会的意義がありフィンランドでは人気の職業のひとつだが、今のフィンランドの経済力では、教員の数を増やすという選択は現実的ではない。そのため、デジタル機器を活用するなどしてできるだけ教員の業務を効率化しなくてはいけない。この点に関してはまだ模索中のようだが、「学校教育を通して何を育みたいのか」という根本に立ち戻り、評価の仕方を見直す試みが教育界では行われている。

02. 時代にあわせたツールの変化

フィンランドの小学校では、スマートフォン(以下、スマホ)の持ち込みが許されていることが多い。教育省が、スマホを含めたICT端末を授業でも使いこなすスキルを身につけることを推奨しているからだ。授業や試験などのために、ノートパソコンを持ち歩いている生徒もいる。

学校でよく行われるプロジェクト学習では、時代の変化に合わせたツールを使うのはごく自然なこと。新たなツールを排除するのではなく、むしろ積極的に使うことによって、していいことといけないことの区別や、情報を鵜呑みにしないなどといったリテラシーを学ばせているのだ。

寒川さんが訪れた小学校では、寒川さんに対してインスタグラムをフォローしてね!と営業活動をする子もいた。教室の壁には小さな「スマホボックス」が取り付けてあり、子どもたちは授業が始まると、そのボックスに自分のスマホを入れていたそうだ。

フィンランドの子供たち

Image via Shutterstock.com

近年、フィンランドではデジタル教科書も普及している。文書だけでなく、音声や映像も共有できることや、毎年新たな紙の教科書を仕入れる必要がないことから、経済的メリットがあるのだ。紙は高コストで、使い終われば捨てられてしまうため無駄になるという認識があるそう。デジタル教科書が普及する前から、教え終わった教科書を一度回収し、次の学年に受け渡している学校も多い。

日本でも、小金井市立前原小学校などICT教育が進む学校はある。また、大阪府教育委員会が、大坂府内の公立小中学校でのスマホや携帯電話持ち込みを認める方針も発表している。教育とテクノロジーをかけあわせたEdTech(エドテック)の分野は、これから日本でもさらに発展しそうだ。

03. 必要なスキルの変化

インターネットの台頭から、技術のアップデートがめまぐるしく起こっているいま。Educaでは、AIがさらに普及するであろう未来に必要になるスキルについての提言もあった。メッセージはこうだ。

“数百年前と比べて、変化はすごいスピードで起きているから、この先の未来がどうなるかなんて誰も答えを持ってない。ヒトとAIの役割の変化もわからない。いまは、ヒトだからこそできることを、教育を通して磨いていくことが大事なんだ”

子供とお父さん

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AIと比べて人間が優れている分野は、たとえば「Empathy(共感)」「Enthusiasm(熱意)」「Resourcefulness(機知に富む)」「Inner listening(内なる声に耳を傾ける)」「Sense of Wonder(神秘さや不思議さを感じるセンス)」など、感覚や表現などを中心に多くある。これらを磨くための教育カリキュラムは、たとえば以下のようなものだという。

    • Storytelling & Communication(物語とコミュニケーション)
    • Ethics & Moral Dilemmas(倫理とモラルのジレンマ)
    • Curiosity & Experimentation(好奇心と実験)
    • Well-being(身体的、精神的、社会的に健康であること)

人々はいかに協働していけるのか。倫理的に何が正しくて何が間違っているのか。正しい答えは誰も持っておらず、あいまいなスキルのように思える。変化し続ける時代の教育現場では、人としての強みを伸ばすためのトライアンドエラーを繰り返していくしかない。

変化する社会で、個人と社会が幸せな教育をするために

寒川さんが参加したEducaのセッションでは、教員たちが「個人としての役割」を持つことの大切さが繰り返し語られていたそう。あなたは何をしている人ですか?と聞かれたときに、「学校の先生」というだけではなく、「啓蒙する人」など、その職業を通して何をしているかを考えることが大切だというのだ。

そして、子どもが自分の夢を語るとき、その夢を持った背景やその先を一緒に考えることも必要だという。たとえば宇宙飛行士になりたい、という子どもがいたとしたら、宇宙飛行士という仕事に何を見ているのかを対話によって引き出し、子どもの思考を助けるのだ。

子供たちと先生

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2016年に改訂されたフィンランドの学習指導要領においては、教員は「知識を教える人ではなく、チームを引っ張る人であり、アドバイスをする人」だと明確に定められている。教員は生徒が主体的に学ぶサポートをし、その結果子どもから学べることもあるだろう。今回のEducaのテーマでもある、教える側と教えられる側のコミュニケーションと相互作用にも関わってくる。

ここまでフィンランド教育の事情をお届けしてきたが、フィンランド教育も完璧ではない。学び直しができて、ひとりひとりに合って、かつ質の高い教育をしたくても、先述した教員の負担や、財源の確保、移民を受け入れたことによる「当たり前が違う中で教育水準を保つ」ことの難しさなど、取り組むべき課題は多い。

重要なことは、世の中がめまぐるしく変化しているなかで、教育界も変わっていこうとしていることだ。議論に議論をかさね、新たなツールを導入し、教員たちのマインドを変えていくことは簡単ではない。日本の教育界がフィンランドから学べることは、まだまだある。

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