シンガポール国立大学が、廃棄されたペットボトルをCO2や汚染物質を吸収するエアロゲルに変える技術を開発した。このエアロゲルは超軽量で耐熱性があり、さまざまな用途に利用できる。
いま、世界の大きな問題となっているプラスチックゴミ。プラスチックは生分解できないため、海に流れついて海洋生物に影響を与えたり、埋立ゴミになって地下水汚染を引き起こしたりする。このプラスチックゴミの代表である、ペットボトルの消費量は増え続けており、2021年には1年間あたりの消費量が世界で50万兆トンにもなると予測されている。
シンガポール国立大学が作り出したのは、そんなペットボトルの原料であるポリエチレンテレフタレート(PET)を使用した「PETエアロゲル」だ。
シンガポール国立大学のドゥオング准教授は、「PETエアロゲルの生産技術は、簡単で安価でグリーンだ。1本のペットボトルから、A4サイズのPETエアロゲルシートができる。大量生産も可能で、プラスチックゴミによる環境負担を軽減できる。」と語る。
PETエアロゲルの特徴は、表面処理の方法が使用用途を決めることだ。たとえばメチル基と反応させると、大量の油をすばやく吸収できるようになる。研究チームが行った実験では、PETエアロゲルは既存の商業用吸着剤より7倍もよく吸収することが確認された。
アミン基でこのゲルをコーティングした場合は、空気中のCO2を素早く吸収するようになる。この吸収能力は、高価で大きなガスマスクに使われる材料と同等だという。研究チームは、PETエアロゲルの薄い膜を商業用微粒子マスクに埋め込んで、汚染物質とCO2を効果的に吸収するマスクを作成した。マスク作成は簡単で、再利用できる可能性も高い。
「シンガポールのような大都会にある高層ビル内の消火器の横に、PETエアロゲルを使ったCO2吸収マスクと耐熱ジャケットを置いておけば、火災の時にも役立つ。」と、ニャン教授は述べている。また、大気汚染が問題となっている中国などの国々でも、このマスクは重宝されるだろう。
さらに、PETエアロゲルは耐熱性と耐久性に優れている。620℃まで耐えることができ、重量は既存消防服の裏地の10分の1のみと、超軽量であることから、軽量で安全かつ安価な消防服が作れる。また、低コストで遮熱に優れた一般服飾用ジャケットへの利用も可能だ。
NASAもPETエアロゲルに注目した。研究チームは、NASA Tech Briefsマガジンが主催するコンテスト「2018 Create the Future Design Contest」のサステナブル技術部門で最優秀賞を受賞したのだ。これまでの業績と、今回のPETエアロゲルの発明が評価されたという。
PETエアロゲルは、特許も取得済みだ。研究チームは現在、PETエアロゲルの表面調整を調査し、新しい適用法についても研究を重ねている。また、この技術を市場に適用していくパートナー会社を募集中だ。
シンガポール国立大学が開発した、ペットボトルで作るPETエアロゲル。ペットボトルの廃棄を有効活用するだけでなく、油除去や消防服の裏地、消防活動中や火災避難中に使うCO2吸収マスクなど幅広く利用できるということで、期待が高まる。今後のさらなる研究が楽しみだ。