「何もない地域」を「心温まるふるさと」に変える、おてつたびの挑戦

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近年、地方創生の文脈で「関係人口」という考え方が注目されている。関係人口とは、旅行者以上、移住者未満の立場で地域に多様な形で関わる人々、つまり地域のファンを指す。実際に、都会に暮らしながら、地方とも関わりたいという人は増えているが、いざ関係人口になろうと思っても、いきなり地方のボランティアに携わったり、二拠点生活を始めるというのはまだハードルが高いのが現実だ。そこで、その最初の一歩を踏み出しやすくしてくれるサービスが登場した。それが、「株式会社おてつたび」(以下、おてつたび)だ。

おてつたびは、地方各地にある宿泊施設や酒造などでのお手伝いによって、お手伝いをした人が地域の豊かな魅力に気付くきっかけを提供している。地域の人(現在は主に宿泊施設)が交通費や宿泊先を提供し、参加者はどこの地域でも気軽に旅行することができる。お手伝い後にはその地域が参加者にとって特別な地域となって、またその地域に行きたいと感じる関係人口を増やすことがおてつたびの狙いだ。

おてつたびは2018年夏に創業した。それと同時期に楽天株式会社が運営する、楽天社員と協働して社会課題の解決を目指すプログラムRakuten Social Acceleratorに採択され、楽天社員は半年間、おてつたびの事業に参画した。今回はクラウドファンディングに挑戦中の代表取締役永岡氏に、創業に掛ける熱い思いと今後の展望について、楽天社員の方々と一緒にお話を伺った。

話者プロフィール:永岡里菜(ながおかりな)

三重県尾鷲市出身、愛知県育ち。千葉大学卒業後、イベント企画・制作会社にディレクターとして入社。企業のプロモーションやイベントの企画提案・プランニング・運営を一貫して担当。退職後は農林水産省とともに和食推進事業を作り上げ、全国の市区町村と連携しながら多数の地域へ足を運ぶ。2018年株式会社おてつたびを創業。

地域の人と仲良くなると見える世界がガラリと変わる

Q:「おてつたび」のアイデアが浮かんだきっかけは何でしたか?

永岡氏:前職ではニッチな地域の和食料理屋さんや農家さんにお邪魔する機会が多かったんです。その中で、地域の方におすすめの飲み屋さんや見どころを教えてもらって、地域に行く前は普通の町だと思っていたのに、帰る頃には「いい町だな」という感情に変わっていることに気づいたんですね。私が自分が育った三重県尾鷲市も、大好きな地域なんです。それは自分のおじいちゃんから色々な地域の人を紹介してもらっていたので、地域の「人」を好きになったことが理由だと思います。

一人でフラッと行ってもなかなかその地域の魅力に気づきにくいですが、地域の人と仲良くなった時、見える世界はガラリと変わるなと思いました。そういう「見えにくい地域の魅力を知るきっかけ」を作れないかなと考えたのが始まりです。

永岡さんとお手伝いの学生、受け入れ先の方

Q:その後創業までの道のりはいかがでしたか?

永岡氏:当初は前職と並行して、起業しようと思っていました。しかし、前職では農林水産省への1年ごとの入札案件を行っていたのでその時を逃すとさらに1年拘束されてしまうんですよね。私は崖から飛び降りた方がエンジンがかかるタイプなので、それで退職を決めました。しかし最初は、起業家の友人も地域とのコネクションも微々たるもので、何から始めたらいいか分かりませんでした。また、否定されるのが怖かったのもあり、覚悟して会社を辞めたのにもかかわらず、転職サイトを見てしまう日もありました。

そのような中、意を決して目指したい世界について周りに話すようになると、周りの人が地域の人を紹介してくれたり、フリーランスとして地域のPR関係で業務委託をもらえるようになったりして、地域との接点が少しずつできてきました。その後は地域の実情が分からないと何もできないと思い稼いだお金を全て地域にいくお金に変え、日本各地を飛び回りヒアリングを重ねました。同時に東京にいるときは、「どうしたら人は地域に行きたくなるのか」について様々な角度からヒアリングをしました。

熱い想いは大きな組織まで動かす

Q:その強いモチベーションは何だったのでしょうか?

永岡氏:最初は、「魅力ある地域がなくなってしまう」という危機感と、「この魅力を伝える事が人生のミッションなのではないか」という想いでした。地域の魅力と、知るきっかけの少なさに気づいてしまった以上、見て見ぬ振りができず、気づいたらずっと気になっていました。今は周囲の人々の応援やつないでくださった御縁で今があるのでおてつたびを信じてくれた方々を裏切りたくない、期待に答えたいという気持ちもあるのかもしれません。立ち上げメンバーにはとても助けられていて、北海道から沖縄までの旅館をリストアップしてくれて、サービスを提案するためにひたすら電話をかけてくれることもありました。

Q: Rakuten Social Accelerator採択からの半年間を振り返って、楽天社員の方はおてつたびさんと協働してみていかがでしたか?

鈴木氏(楽天社員):夢を一緒に追わせてもらえました。スタートアップの空気感を感じながら社会とのつながりを感じ、やりがいを感じました。

高橋氏(楽天社員):これほど熱量がある人に出会えてよかったです。永岡さんだからこそ応援したい、と思えました。この出会いが糧だと思っています。

Rakuten Social Acceleratorに参加した

左:楽天 高橋宙生氏 右:おてつたび 永岡里菜氏

南部氏(楽天社員):楽天はKPIという数値を追いかける文化があります。「目標に対して定めたKPIを達成していく」ということが社会を変えるのだと思っていましたが、このプログラムに出会えたことで、それだけではなく、「これからの生き方」や、「日本」、「社会」に目を向けた考え方を持てるようになりました。このプログラムで新しい価値観を手に入れられたなと思います。

外部から人が来る地域は、「外部の人との縁を早く作った地域」

Q:お手伝いを受け入れた事業者さんの反応はいかがでしたか?

永岡氏:外部から人が来ることで地域の人の気持ちにハリがでて、おてつたびの学生が来るまで気づかなかった自分達が住む地域の魅力にも気付いているようです。「こんなにいい子が来るなら、もっと人が来るようなキャンペーンをやろう」と立ち上がる地域もあるくらいです。

地域の人ととの絆が深まる

地域の人ととの絆が深まる

Q:どうしたら地域のファンを作ることができるのでしょうか?

永岡氏:地域の自治体の人や移住・定住を促進している人にヒアリングしてわかったことは、自治体の中で移住者数・定住者数がKPIになっていて、それに合わせた予算がついていることです。その前段階で、外部の人に地域を知ってもらう門戸を開かないといけないのですが、おてつたびの参加者に聞いてみると、みんな「行ける地域はどこでもよかった」と言うんです。「なんだか楽しそうだと思っておてつたびに参加してみたらファンになってしまった」と。地域に行って初めて、その土地の興味を持つようになっているんですね。

なので、外部から人が来る地域というのは、つまり「外部の人との縁を早く作った地域」なのだと思います。震災があった新潟や東北は、地震をきっかけに縁がたくさんできて、他の地域に比べると多くの若者が集まっています。もともと新潟や東北が好きだったわけではなくて、困っている人を助けに行ったらいつの間にか好きな地域になっていたんです。

伝わりにくい「おもてなしへのこだわり」が価値

Q:今クラウドファンディングに挑戦されていますが、始めた経緯を教えてください。

永岡氏:旅館は減少の一途にあります。常連客は50歳以上で、若者との接点が減っている旅館が多くなっています。常連客の中には口コミをSNSで拡散せず、旅館の良さを誰にも教えたくないという人もいます。最終的にその人たちがいなくなってしまったら、旅館を廃業するしかなくなってしまうのです。こうしてPRが上手な旅館だけが残っていきます。

私自身、地域でお手伝いをすることで、インターネット上の予約サイト上や、観光客として行くだけでは気づけなかったことに気がつきました。それは、「おもてなしへのこだわり」です。これは予約サイトで見えるお料理の写真や、宿泊代金のような表面的な部分ではないんですよね。「おもてなし」は、おもてなしをする人が自慢するものではないので気づきにくいのですが、おてつたびで、お手伝いとして従業員と同じ目線になるからこそ、女将さんや働いている人の熱い想いが見えます。そこにこそ旅館の価値があると思っています。

お手伝い中の学生

お手伝い中の学生

クラウドファンディングでは、おもてなしのこだわりをPRすることに着目し、旅館のこだわりを、おてつたびに参加した人の目線で伝えるメディアを作ります。このメディアを読むことで旅館に行きたくなる人が生まれ、それによって型にはまらない旅の選択肢を作れたらと思っています。これはおてつたびにしかできないのではないかなと思います。

このメディア作りは会社にとっても大きなステップアップで、私たちだけでできるとは思っていません。多くの人の力を借りたいのでクラウドファンディングという形を選びました。

何もない地域だからこそ魅力があると思われる世界へ

Q:これからのおてつたびの目標はなんですか?

永岡氏:移住・定住や、2拠点生活はハードルが高いと思うので、ゆるいつながりを保ちながら、何かあったときに駆けつけるという、「人とのつながり」を作ることが大事だと思います。それだけでも、十分世の中は変わるんです。「移住できる人」と、「移住できない人」の2パターンでなく、自由に人が動く中で地域の人たちが気づかなかった魅力を見つけ出し、にぎやかな地域が生まれたらいいですね。

今は学生がメインターゲットですが、実は社会人、アクティブシニアの方からも「参加したい」と声があります。こんなに地域に関わりたいと思う人がいるなんて、明るい未来だなと思いますね。スキルを持った人が綿毛のように地域を行き来することで、東京の良さや地域の良さをかき混ぜられるので、今後参加できる人のレイヤーを増やしていきたいです。

「地域や組織を巻き込んでおてつたびを育てていきたい」

「地域や組織を巻き込んでおてつたびを育てていきたい」

3年後には「おてつたび」という言葉を一般用語にしたいです。観光名所を巡る旅はなくならないですが、地域に入り込んだ旅行も当たり前になってくると「一見何もない地域に行くのも楽しい」「旅をきっかけに地域を越えた交流ができる」という共通概念が生まれると信じています。そうなれば旅行先がばらばらになり、人が巡りやすい温かい世界になっていくのだと思います。「We will make new travels」が私たちのミッションです。

インタビュー後記

起業家、というとどこか近寄り難いオーラのあるイメージがあるが、永岡さんは熱い情熱を持ちながらも心優しく「永岡さんのためなら一肌脱ぐか」と人が自然と集まるような温かさを感じた。

筆者も東北ボランティアで第2のふるさとができた1人だ。地元よりもその地域や地域の人を心のどこかで気に掛けていて、初めて行ってから7年が経った今でも年に1回は足を運んでいる。帰り際、「また来なよ」と言われることで日常生活では感じないような満ち足りた気持ちになるのだ。

そんな温かい「拠り所」を多くの人の心に作っていくおてつたびに、今後も注目したい。おてつたびが救うのは地域の過疎化だけではないのだ。

【参照サイト】「株式会社おてつたび」
【参照サイト】「読んでいたら、この宿予約してた」そんな読み物のように紡ぐお宿メディアを作りたい」

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