あたりまえを問い直す「土」と「キャリア」のあり方。都会を求めた若者が、いま地方に出た理由とは

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毎朝、同じ時間に起きて満員電車に乗り込む。電車に揺られながらふと考える。「働く意味ってなんだったっけ。」「あ、人身事故……。会社に遅れる、最悪だ。」

都会での生活は、私たちが思っている以上に、本来私たちが持っている“人間としての感覚”を麻痺させる。東京の安定した大企業でバリバリ働くことが幸せなのかと思っていたが、案外そうではないのかもしれない。

今、日本は少子高齢化が進み、平均年収も40万円ほど下がっている。そして先進国であるにも関わらず、7人に1人の子どもが貧困で、家族と触れ合う時間も平均して1日20分以下だという。本当に必要なものを問い直したとき、一体私たちには何が残るのだろうか。

今年1月、そんな現代における都市型の「あたりまえ」を再定義し、日本の農作物を取り巻く現状や健康への影響、豊かな生き方や働き方とは何かについて考え直すイベント『これからの“土”と“キャリア”のあり方~私たちが地方に出た理由~』が東京、パソナTRAVEL HUB MIXで行われた。

イベントの様子 左から金子氏、加藤氏、亀田氏

<イベント登壇者>
  • 株式会社タネノチカラ 代表取締役社長 金子 大輔 氏
  • 株式会社パソナ ソーシャルイノベーション部 部長 加藤 遼 氏
  • 株式会社パソナ 人材紹介事業部門 WEB統括部マネージャー 亀田 隆明 氏

キーワードは、菌を増やすこと。なぜ、「土」が大切なのか

今回のイベントの主催企業でもある株式会社タネノチカラ代表取締役の金子氏。新卒で株式会社パソナに入社した金子氏は、もともと土とは無縁の都会で働いていた。そんな金子氏は「持続可能」で「安心して子供を育める社会」を創りたいと、それらの基盤である「食と健康」をテーマにした事業を立ち上げるため、昨年の8月に兵庫県淡路島に移住を決意した。

今回、「土」をキャリアと結びつけた背景には金子氏のどのような想いがあったのだろうか。

金子氏

金子氏: 都会で働く私たちは今、土と生活できているでしょうか。人間は、実はミジンコよりも遺伝子が少ないんです。それにも関わらず人間が活発な生活ができる理由は、体内で100兆個以上の細菌と共生しているからなんですよね。土の中と私たちの体の中の菌は、ほぼ同じだといわれています。都会に住む私たちは今、多様な菌と共生することができているでしょうか。私たちの体は、菌の数や多様性が減れば減るほど、菌との共生ができなくなっていきます。体内の菌を増やすためには、生きた土からできた野菜を食べるという、生物にとって「あたりまえ」の活動が必要です。今の社会全体の仕組みや働き方は、私たちを健康にしているのでしょうか。

最も大切なことは、私たち消費者が選択肢があることを知り、その中から自分の意志を持ってモノを選ぶ事だ。そのような前提を持った上で、今私たちの生き方・キャリアのあり方はどうあるべきなのか。多様な働き方をしている登壇者たちと、都市のあたりまえを見直していこう。

都会では気づけない、地方での学び「自然との共生」

Image via shutterstock

現在、都市部に住む人が地方で働くことを支援をしているという株式会社パソナの加藤氏は、日本各地を飛び回る中で、自然と共生する大切さを感じているという。震災後に東北の復興支援を行うようになり、都市部のみで働いていたときには気付けなかった学びに衝撃を受けた。

東北では今、14メートルほどの堤防を沿岸部に建てており、これは雇用創出事業にもなっているという。しかし、そんなに高い堤防を建てたら海も見えなくなってしまう。そこで加藤氏は、地元の女性に堤防が立つことに関してどう感じているのかを尋ねた。

加藤氏: 案の定、彼女は反対していました。なぜかというと、堤防を建てるためには津波で下がった地盤を、山を削って土でかさ上げする必要があるからです。そして彼女が住む場所の基幹産業は、農業と漁業。農業を豊かにする水と土は、山からきている。山が作る水が海に流れて海が豊かになり、魚が取れるという構造です。「いつも山からの恩恵を受けている私たちが山を削るなんて、考えられない。山を削ることは、自分の体を削られているような感覚になる」と言うんです。そのとき、自然と一体化した暮らしとは、まさにこういうことなんだ、と思いました。昨今、移住でも観光での交流でもなく、多様に地域の人と関わる「関係人口」が増えていますが、都市部の人が地方に暮らす人々と関わる中で、都会では感じられない「自然と共生する感覚」を感じてくれる人が増えて欲しいです。

安定とは「つながり」。そしてあたりまえを疑う力

自然と離れた都会では、知らず知らずのうちに都市型の「あたりまえ」が定義されている。ある会社の調査によると、今「安定」を求めて大手志向の就活生が増えているという。そもそも安定とは何なのだろうか。

ノマドワーカーに憧れ、新卒でエンジニアとして就職し、IT業界で働く人たちの待遇改善の一助となりたいとの想いで人材業界へ転職したという亀田氏。今後、ロボティクスやAIVR・ARなどの技術と掛け合わさることで、働き方や生活スタイルが劇的に変化すると考える亀田氏は“変化への適応力”が最も安定に寄与すると話す。

以前は大手企業に勤めたら安定だと言えたかもしれない。しかし実際、時代は変化している。ビジネスモデルの変革が求められ、仕事の変化についていけなくなってしまう人が出てきているという。

亀田氏: 不安に思う人もいるかもしれませんが、適応能力はみんながもともと持っているものなので、訓練や意識によって維持することができます。皆さんに心がけてほしいのは、「常にあたりまえを疑うこと」。そして、「行動し続けること」です。今、朝起きるとほとんどの方がスマホを見ると思いますが、10年前は見ていませんでしたよね。今あるあたりまえが今後あたりまえではなくなるという前提を持ち、何が変化してもいいようにしておくことが大切です。そしてテクノロジーが社会のあり方を大きく変えていく中で、私たちに求められるものは、自分にしかない経験や知識、感性です。それを養うには、とにかく自分がやりたいことに向かって行動することが大切だと思います。

金子氏: 僕も同じ意見です。常に意識を高く持つ必要はないと思いますが、将来、大きくなった子どもに見せても恥ずかしくない生き方を、僕はしたいなと思います。今の“あたりまえ”を再定義することの必要性を発信することで、社会にはいろんな人がいて、いろんな選択肢があるという、良い意味での「ダブルスタンダード」が受け入れられる社会をつくりたいです。あまりマスメディアが報じないような「本当の情報」を世に伝えることで、地道ですが社会は変わると思っています。何を信じればいいかわからない時代に、信じるべきものは、信用できる大切な人の言葉なんですよね。

3人の視点で見る、これからの働き方とは?

今後、「あたりまえ」の定義がどんどん多様化していく。これから私たちの働き方はどうなっていくのかを、登壇者がそれぞれの視点で語った。

亀田氏: ITの視点で見ていくと、今からおよそ24年前にwindows95が発売され、その12年後にスマートフォンが誕生しています。およそ10年ごとにIT領域では大きな変化が起きていて、2019年には、5Gのサービスのプレサービスがスタートします。ロボティクスやAI、VR・ARなどの技術と掛け合わさることで、働き方や生活スタイルが劇的に変化すると思います。

加藤氏: 個人の時代になると思います。僕自身も名刺を13枚持っており、Facebookの友人は約3,500人います。さらに僕が新しいプロジェクトをFacebookに投稿すると、少なくとも数件はビジネスマッチングするんです。今は、個人がやりたいことを実現できるインフラが整っていると感じますね。たとえば、ソーシャルメディアによって個人がメディア化し、仲間集めができるようになりました。クラウドファンディングで資金調達もできますし、何かを学びたいときはYouTubeで質の高いコンテンツを使って学ぶことができます。

金子氏: 都会から淡路島に移住して思うことは、都会の生活には「感性」がなかったということです。技術革新が進むことで、仕事はIT・ロボティクスに取って代わられるかもしれませんが、より一層人間だからこそできる生き方・働き方に焦点があたると思います。私は、未来は人間の持つ「感性」や「自分の意志」とAIが、お互いに助け合いながら働く社会になると思います。そもそも人間に残るものってなんだ?と考えたとき、それが働く・生きる意味となると思うんです。

土の上から見るキャリア。「なる」から「ある」社会へ

金子氏は、「土」に着目した上で、これからは「なる」から「ある」社会になると語った。

金子氏: 今までは公務員や医者などになったら幸せだという“答え”がありましたが、今は何かに「なる」ことで幸せになる・成功するという保証はないと思います。そこで今の私たちに重要なのは、「あり方」です。誰かが決めたレールに沿って進むのではなく、そもそも自分が生きている、つまり自分が「ある」という感覚をいかに感じるかがとても重要です。そんな都会ではなかなか感じられない「ある」という感覚を、土の近くでみなさんに感じて欲しいです。

来場者が、土を触る様子

編集後記

東京は、情報で溢れている。都市で生きていると、何がほんとうなのか、何を信じたら良いのかわからなくて悩む人も多いかもしれない。そして今後ますます多様性が叫ばれていく社会の中で、自分の意思で選択しなければならないことが増えていく。

そんな社会で生きていくために、「土」に触れ、自分が生きている、自分が「ある」ことを感じる。そうしてわかるのは、いつも自分が都会で感じていた“あたりまえ”なんてものは、実は存在しなかったということだろう。

都会で社会に疲弊している人は一度、地方で「土」を感じる経験をしてみてはいかがだろうか。そこには本来私たち人間が持っている“感性”を取り戻すヒントがあるかもしれない。

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