【JAPANソーシャルビジネスサミット2019レポ前編】社会起業家が語る、グローバルとローカルから見た日本の今

Browse By

2019年3月17日(日)、『JAPANソーシャルビジネスサミット2019』が開催された。株式会社ボーダレス・ジャパンが主催となり、社会起業家によるトークセッション、未来の社会起業家によるピッチコンテストを実施。イベント会場となった法政大学の大ホールがいっぱいになるほど大勢の人々がつめかけ、社会課題に対する関心の高まりが伺えた。

イベントレポートの前半では、全3部のトークセッションのうち2つのトークセッションをピックアップ。グローバルとローカルの視点から、社会課題に向き合う起業家や企業の取り組みや社会課題のリアルに迫った。

トークセッション1 「だから、僕たちは世界へ飛び出した」

ビジネスだからこそ解決できる、世界の社会課題

一つ目のセッション「だから、僕たちは世界へ飛び出した『ビジネスだからこそ解決できる、世界の社会課題』」では、世界を股にかけて活躍する起業家や経営者5名が、日本で見えていない社会課題と、日本人の私たちだからこそできる社会課題解決に向けたアクションについて語った。

世界ではいま、何が起きているのか。そして日本にいる私たちに何ができるのか。社会課題に真っ向から向き合う登壇者の方々から、社会課題を自分ごととして捉えるためのヒントを得ていこう。

セッション登壇者
  • Facilitator:株式会社ボーダレス・ジャパン 田口一成氏
  • Panelist:パタゴニア日本支社 辻井隆行氏
  • Panelist:アフリカローズ 萩生田愛氏
  • Panelist:株式会社モンスター・ラボ 鮄川宏樹氏
  • Panelist:自然電力株式会社 磯野謙氏

気候変動は待ったなし。 ビジネスだから踏み出せる解決への一歩

左から 株式会社ボーダレス・ジャパン 田口一成氏、株式会社モンスター・ラボ 鮄川宏樹氏、パタゴニア日本支社 辻井隆行氏、アフリカローズ 萩生田愛氏、自然電力株式会社 磯野謙氏

日本に留まらず世界を舞台に社会課題に向き合う彼らは、いま何を課題に感じ、どのようなビジネスを通してアクションを起こしているのか。

自然電力株式会社の代表取締役、磯野氏は「気候変動が課題」と真っ先に答えた。自然エネルギーの発電事業を手がける自然電力株式会社は、今年からインドネシアやブラジルでも事業を開始。ブラジルにはアマゾン川を筆頭に巨大な川があり、もともと7〜8割は水力で電気を生み出していたが、近年の気候変動で雨が降らず電力の価格が高騰しているという。もちろんブラジルだけでなく、世界各国で起きている問題だ。

「去年までは日本のみで自然エネルギーの発電事業をおこなっていたのですが、今日ここに登壇されているパタゴニアの辻井さんが『気候変動はもう進みすぎていて、待っていられない』とおっしゃっていたんです。改めて危機感を抱きました。」

自然電力株式会社は、ビジネスの拠点を一気に世界中に広げるよう加速している。磯野氏によれば、2030年に196カ国まで拠点を広げる計画を掲げているそうだ。これだけ早いスピードで世界にインパクトを与える政策を打ち出せるのも、ビジネスだからこそと言えるだろう。

代替案がなくてもいい。まずは社会に対して声をあげよう

それでは世界から見て、日本の課題はどう捉えられているのだろうか。自然電力株式会社の磯野氏は、日本には情報の壁があると述べる。

「日本は海に囲まれているせいか、外の世界に対する情報感度は少し低いように感じています。世界で何が起きているか知り、そして日本と海外の関係について歴史的にも知ること。それが社会課題の解決に向けた第一歩なのではないでしょうか。」

まずは世界で起きている問題について知らなければ何も始まらない。ただ、知って終わりではもったいない。社会課題に取り組んできた実績をもつパタゴニアで、日本支社長を務める辻井氏は「一人ひとり意思表示をしていく必要性」について語った。

「海外ではビジネスや俳優業で成功した人は、社会問題や環境問題に取り組んでいないと『おかしい』雰囲気がある。それなのに、日本は企業や著名人が政治的な話をすると『おかしい』と思われる。でも民主主義の国として、選挙の時に投票して終わりではなく、投票した後も私たち一人ひとりが国や県、市町村のやることに意見をしていかないと。

僕らパタゴニアは長崎県の石木ダム建設問題に四年ほど取り組んでいますが、この問題がまだ広く知られていないのも『なんとなく政治的なことを話しちゃいけない』雰囲気があることが一因だと思っています。これは『代替案を持たない発言に対して世間がとても厳しい』風潮が一つの要因と考えますが、いきなり代替案なんて作らなくてもいい。まずは『私は心配なんです』と声を上げていくことが大切です。」

フェアトレードでアフリカのバラを日本で販売するアフリカローズの萩生田氏は、社会をいい方向に変えるために、まずは個人単位でできることに目を向けて欲しいと語る。

「人間って余裕がなくなると、他人のことまで考えられないですよね。まずは自分を満たしてあげて、周りの大切な人に思いやりを繋いでいく。たとえば外国人が道に迷っていて、『大丈夫ですか?』と声をかけるのか、無視をするのか。小さな選択を積み重ねて、私たち全員が責任を持っていると自覚することが大切です。」

問題の一部になるか? 解決の一部になるか?

組織のリーダーもしくはフォロワーとして、さらには個人として何ができるか。世界のどの国にいても、それぞれが置かれた立場で問題を自分ごととして捉え、何ができるか考えることが重要だとセッションでは結論づけられた。

最後に、パタゴニアの辻井氏は「問題を知ったときに、問題に対して行動をおこせば解決の一部になれる。行動を起こさないと、逆に問題の一部になる。」と述べた。私たちはいつでも自分がどうあるべきか、選ぶことができるのだ。

トークセッション2 「“心が踊る”事業の見つけ方」

地域の社会問題に、たくさんのヒントが詰まっている

二つ目のセッションは「“心が躍る” 事業の見つけ方」と題し、地方を拠点に事業を興している5名の起業家たちが地方における起業の可能性について熱く語った。彼らが地方でビジネスを立ち上げる意味と、目指す世界観とは?

グローバルからローカルに視点を移し、日本の地方の可能性を探っていこう。

セッション登壇者
  • Facilitator:株式会社ヤマップ 春山慶彦氏
  • Panelist:株式会社ポケットマルシェ 高橋博之氏
  • Panelist:ファクトリエ 山田敏夫氏
  • Panelist:株式会社坂之途中 小野邦彦氏
  • Panelist:株式会社美ら地球 山田拓氏

都市は本当に豊かなのか?

左から  株式会社美ら地球 山田拓氏、株式会社ポケットマルシェ 高橋博之氏、ファクトリエ 山田敏夫氏

トークセッション前段では、登壇した起業家それぞれの事業を立ち上げたきっかけを共有。5人中3人が「3.11(東日本大震災)」が起業の大きなきっかけになったと述べた。

株式会社ポケットマルシェの高橋氏は、3.11で人生観を大きく揺さぶられ、地方で事業を立ち上げた一人だ。高橋氏は2016年に全国の生産者と消費者をつなぎ、食べ物の裏に隠されたストーリーを共有するオンラインマルシェ『ポケットマルシェ』を創業した。高橋氏は3.11は直接的に被災した地方だけでなく、都市部の被災にも目を向けていた。

「3.11の大震災は私たちに圧倒的な自然の存在と、人生の“締切”を突きつけました。当時岩手県にいて、『明日が当たり前にくること』が幻想だったと気づいたんですね。一方で、都市部もある意味で近代社会に被災して、生きづらさを増しているように感じています。だから、お互いに心の復興が必要だと思いました。食べ物を通して地方の生産者と都市部の消費者が繋がって、お互いの強みで弱みを補い合うような関係を作りたいと考えています。」

左から 株式会社ヤマップ 春山慶彦氏、株式会社美ら地球 山田拓氏、株式会社ポケットマルシェ 高橋博之氏、ファクトリエ 山田敏夫氏、株式会社坂之途中 小野邦彦氏

メイドインジャパンの工場直結ファッションブランドを展開する『ファクトリエ』の山田氏は、「都市部は本当に豊かなのか?」と会場に問いを投げかけた。

「なぜ東京にこんなに人が集まるのか、疑問に思っているんですよ。日本の人口に占める生活保護率は、東京23区内が特に高いです。東京に次いで高いのは、大阪、福岡と都市部が続いています。これまでは都市部で生活することが当たり前で、ブランドだったかもしれないけれど、もうこの価値観は虚像なのかもしれません。」

都市での生活、地方での生活どちらが合うかは人それぞれだろう。しかし、都市に住むことが絶対的な価値になる時代は終焉に向かっている。

日本の地方は、ビジネスの可能性に溢れている

「都市に住む=豊か」という方程式が崩れつつあるいま、ビジネスの観点からも地方で起業するメリットは多いという。岐阜県飛騨市で外国人観光客向けに里山の暮らし体験『SATOYAMA EXPERIENCE』を提供する株式会社美ら地球(ちゅらぼし)の山田氏の発言がヒントになりそうだ。

「外国人からみて日本の地方は魅力的で、観光したい人も多くいるのに、それに対する供給が圧倒的に足りていない。ニーズがあるのに競合が少ないから、ビジネスのチャンスが転がっているんですよ。」山田氏はこう述べた上で、観光業の中でも特に『サステナブル・ツーリズム』は注目に値すると言及する。サステナブル・ツーリズムとは、旅行者が旅行先の地域や環境に貢献できる観光スタイルのことだ。

「『SATOYAMA EXPERIENCE』のゲストは約8割西洋系の方で、エシカルやソーシャルに関心がある方が多い印象です。僕らは環境・地域の負荷を考慮して事業をやっているので、そこに対する理解が深い。価値あるものをしっかり提供すればファンになってくれるし、応援してくれる。顧客といい関係性が構築できていると実感しています。」

このようにサービスを提供する側にもされる側にも、さらには環境にもいい三方よしのビジネスが成り立っている。山田氏は「地方には、気づかれていないだけで、いいものがたくさんあるし、ビジネスのタネもある。」と、地方におけるビジネスの可能性について改めて太鼓判を押した。

いまこそ人間性の回帰を

第2部のセッション中、特に印象的だったのは「人間性の回帰」に関する議論だ。環境負荷の小さい農業を広めることを目指す株式会社坂ノ途中の小野氏は、「自然のブレを許すことは、人間のブレを許すことに繋がるのではないか」と語る。

「たとえば大根を買ったときに、中がスカスカになっている場合があります。これは『鬆(す)』と言って、春先、大根が花をつける準備をする中では自然な現象です。それに対して怒るのではなくて、この“ブレ”を許せるといいですよね。個人的には野菜のブレを許せたら、次は人間のブレを許せるんじゃないかと思っています。人間もずっと完璧であり続けることはできないから、ブレを許せる社会のほうがいいんじゃないかと思います。」

この議論の背景には、資本主義における効率性の肥大化と目的化への危惧がある。ポケットマルシェの高橋氏は、「非効率の中に置き忘れた人間性を、僕らは取り戻しにいっている」と述べて締めくくった。

編集後記

第一セッションでは世界から見た日本、第二セッションでは日本の中における地方を見つめ直した。二つの対比するテーマを掲げたセッションから学んだのは、高い視座をもって世界と日本を俯瞰する力、そしてすでに私たちが持っている可能性を見つける力が、どちらも不可欠であることだ。

レポート後半は、社会起業家を支える金融機関の視点を描いた上で、本イベントのもう一つのメインである「社会起業家ピッチ」のようすもお伝えしていきたい。

▶ レポートの後半はこちら:【JAPANソーシャルビジネスサミット2019レポ後編】社会起業家をサポートする地域の金融機関、今後の展望

FacebookTwitter