環境問題、貧困、人種差別、ジェンダー問題――。
「社会課題」。そう聞くと、自分とは関係のない遠い場所で起こっていることのような、なんだか大それたものに聞こえてしまう。
社会問題への関与や自身の社会参加について、日本の若者の意識は諸外国と比べて、相対的に低いという調査結果がある(内閣府より)。しかしそれは、「社会課題に取り組むには難しいことをしなければならない」という思い込みがあるからではないだろうか。
そんな考えのもと、「アート」という入り口から気軽に社会課題について考えるきっかけを作るライブペインティングイベント「VANART(バナート)」(Vanish+Art)が、8月24日、9月29日に東京・原宿で開催される。
本イベントでは、本企画に賛同したアーティストたちが、新しい時代に持ち越したくない「現代の負の遺産」をテーマにしたアートを取り壊し予定のマンションの壁に描き、そのアートごとマンションを解体する。ライブペインティングという躍動感と臨場感のある瞬間を、目で見て、心で感じて誰もが楽しめるイベントにすることで、アートを通して社会課題を見つめる時間を届ける。そして、これから私たちがどんなアクションを起こしていくべきなのかを、改めてみんなで考えていく。
主催するのは、国際協力で「おもしろいことをやる」をコンセプトに活動する国際協力サロン(代表:田才 諒哉氏)のアートチームだ。
イベントには、自己肯定感をテーマに新潟県を拠点に活動する日本人アーティストなかしまなぎさ氏と、環境問題をテーマにした作品で世界的に有名なメキシコ人アーティストであるアルフレド・エンリコ(愛称Pogo)氏を招待する。そして今回のアートで取り上げる社会問題は2つ。「古い習慣の中での生きづらさ」と「プラスチックゴミによる海洋汚染」だ。
日本人は、もっと自分を好きになって良い
内閣府の調査によると、先進国の中でも日本の若者は男女ともに自己肯定感が低いという結果がある(内閣府 2014)。自分自身に満足していると答えた若者は5割以下。日本以外の調査対象国では、自己肯定感を高める要素として「長所」「挑戦心」「主張性」などがあげられる一方、日本では「人の役に立つこと」「人から感謝されること」「人から認められること」といった、「他人からの評価」が中心になっている。
他人からの評価という、外部要因から得る自己肯定感は脆い。他人からの評価に関係なく、「自分」という人間を模索しながら、自己を肯定して良い。もっと自分を好きになって良い。自分自身を大切にしてほしい。そんな気づきになるアートを、「VANART原宿」1日目(2019年8月24日)に日本人アーティストなかじまなぎさ氏が描く。
プラスチックについて考えるきっかけを
また、日本は昔からプラスチックの分別に力を入れたり、ポイ捨てをする人が少ないことで知られているが、実際のところ日本はアメリカに次ぎ2番目にパッケージ用のプラスチック使用量が多い国であり(UNEP 2018より)、日本近海には、世界平均の27倍のマイクロプラスチックが漂っているとの報告(Isobe et al. 2015より)もある。
「プラスチックを使わない」という意識は、ヨーロッパなどの国々に比べるとまだ低く、使い捨てのゴミ袋やペットボトルがコンビニなどで多く使用されている。
そこで「VANART原宿」2日目(2019年9月29日)は、プラスチックの使用について改めて考えるきっかけとなるアートを、メキシコ人アーティストPogoが描く。
アートには人の感情に訴える力がある
そして今回のイベントで着目したのは、アートの持つ力だ。アートの世界には「芸術のための芸術(L’Art pour l’art)」という言葉がある。これは19世紀初頭にフランスで広まったとされる言葉で、美の表現以外のものを目的とせず、アートそのものに絶対的価値を置くというものだ。もちろんそれはアートのひとつの形であり、それこそアートの醍醐味である。しかし、アートには人の感情に働きかける力があり、公共の場にアートを作ることで、より多くの人の目にとまり、大事なメッセージを伝える。本イベントでは、そんなアートの可能性を広げることを同時に目指している。
どんな人に来て欲しいかとの問いに、今回のプロジェクトの企画者であり、IDEAS FOR GOODのライターでもある井上龍馬さんはこう話してくれた。
「アートに興味のある人、または社会課題に関心興味のある人に来てほしいです。今回のイベントは、『アート』と『社会課題』の両方が同等に重要です。『アート』が好きな人には、このイベントを通して『社会課題』に関心を持ってほしいし、『社会課題』に関心のある人には『アート』に関心を持つきっかけになるものにしたいです。このイベントは社会課題への解決策を見つけようというものではなく、まずは社会課題について話す機会や、いま世の中にはこういった社会問題があるということを、みんなの頭の片隅にそっと置くことができたら、と思っています。正直、社会課題の話を聞くことって、関心がない人にとっては、かなり億劫だと思うんです。それを、アートという形にして視覚で伝えたい。そしてもとから社会課題に関心のある人には、『アートで人の感情に訴えかける方法もある』と、知ってほしいです。」
「アートが見たい!」「なんだか楽しそう!」と思う人に来てほしい。社会課題解決への入り口は、そんな小さなところからでもいい。今回、同団体はプロジェクト始動のための資金を、クラウドファンディングサイトGoodMorningにて行っている。興味のある方は、参加してみてはいかがだろうか。
▶原宿の解体されるマンションに「消えるアート」を描き、現代の社会課題とともに破壊
ライブペイントイベント「VANART」の概要
実施スケジュール | 【DAY1】(なかしまなぎさ氏)8月24日(土)12:00〜18:00 【DAY2】(Pogo氏)9月29日(日)9:00〜16:00 【DAY3】10月末(予定) |
場所 | 船場マンション 住所: 東京都渋谷区神宮前1丁目14 原宿 竹下通りから徒歩5秒 |
主催 | 国際協力サロン |
プロジェクトメンバー | 田才諒哉(代表)/井上龍馬/山田菜津実 |
協力 | グリッジ株式会社/株式会社ベモーレ/サンフロンティア不動産株式会社 |
【参照サイト】原宿の解体されるマンションに「消えるアート」を描き、現代の社会課題とともに破壊
【参照サイト】今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの~
画像提供:VANART