介護をひらく。2025年の日本を担う若手コミュニティ「KAIGO LEADEARS」の挑戦

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いよいよ来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックから5年後の2025年、あなたはどこで、何をしているだろう。そのイメージを具体的にするために、2025年の日本の状況を少しご紹介したい。

団塊の世代が75歳を超えて後期高齢者となる2025年の日本は、国民の約30%が65歳以上となり、約18%が75歳以上という超・高齢化社会を迎える。認知症の患者数も最大730万人まで増加すると予測されており、軽度認知障害も含めると1300万人、実に国民の9人に1人が認知症になるとの試算もある。

要介護者が増え、医療費や社会保障費は増大し、年金制度の破綻リスクはさらに高まる。医療・介護従事者は不足し、孤独死する高齢者も増加する。そんな厳しい現実が私たちの目の前に迫ってくるのが2025年という年なのだ。

一方、この「2025年問題」に介護の領域から立ち向かい、創造的な方法でよりワクワクする未来をつくろうと奮闘している若手の集団に、いま日本中の期待と注目が集まっている。それが、平成生まれの女性社会起業家、秋本可愛(あきもとかあい)さんが率いる「KAIGO LEADERS(カイゴリーダーズ)」だ。

「2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになる」というビジョンを掲げ、イベントや現場の実践的なプロジェクト支援を通じて介護に関わる若手同士をつなげることで、業界に新しいムーブメントを生み出している次世代リーダーコミュニティ、KAIGO LEADERS。

今回、IDEAS FOR GOODでは同コミュニティを主宰する株式会社Join for Kaigoの秋本さんに、介護の現場が抱える問題と、そこで生まれている新しいクリエイティブな取り組み、2025年問題の解決に向けて私たち一人一人ができることについて、詳しくお話をお伺いしてきた。

株式会社Join for Kaigo代表・秋本可愛さん

いま、介護の現場で起こっていること

介護の現場をめぐっては、人材不足や高齢者の孤独死など、あらゆる問題が毎日のようにメディアで取り沙汰されているが、改めていま介護の現場で起こっていることについて、秋本さんに訊いてみた。

「介護の現場の課題は本当にたくさんあるのですが、人材不足はとても大きな課題になっており、現時点で約7割の事業者が従業員不足だと回答しています。実は、介護従事者自体は2000年に介護保険ができて以降、現在までに3~4倍まで増えており、おそらくこれだけの増加率は他の業界と比較してもトップクラスなのですが、それ以上に需要の伸びが高く、追いついていないという現状があります。」

「介護施設はサービス提供に必要な人員配置が保険内で決められているため、最近では人員配置ができずに倒産している事業者や、一部のフロアを閉鎖しているところなどもあります。身近な例では、KAIGO LEADERSの参加者の中にも17連勤や夜勤明け夜勤などグレーな働き方をせざるを得ない方がいます。」

もちろん、課題は人材不足だけではない。秋本さんは、「現場の問題は本当に様々で、人材不足だけではなく、ご家族が介護と仕事の両立に悩まれているいわゆる『介護離職』の問題や、認知症患者の増加、サービスを利用したくてもできない貧困の問題など、本人の想い、家族の想い、経済的状況など、あらゆる課題が存在しています」と話す。

これらの課題に対し、KAIGO LEADERSでは業界を超えて介護の現場に関わる若手同士をつなげるコミュニティを運営している。業界内外の第一線で活躍するゲスト講師を招いて様々なテーマについて学ぶ勉強会イベント「PRESENT」や、3か月間のワークショップを通じて現場のプロジェクトを支援する「KAIGO MY PROJECT」、教育機関や企業などとの協働による研修など、その活動内容は幅広い。

KAIGO MY PROJECT のワークショップの様子

イベントの参加者も多様で、介護士や看護師、薬剤師、リハビリ、医師、言語聴覚士など介護の現場で働く専門職に加え、IT事業者や医療系の人材サービス事業者、行政職員、厚労省の官僚など、現場以外の参加者も多いそうだ。

「2025年、介護のリーダーが日本のリーダーになる」の意味

KAIGO LEADERSでは、「2025年、介護のリーダーが日本のリーダーになる」というビジョンを掲げている。とても力強いビジョンだが、なぜ介護のリーダーが日本のリーダーになるのだろうか。秋本さんはこう語る。

「私たちの世代が中核を担っているときはより問題が加速している時代であり、自分たちがどうあるかで2025年が決まってくるという想いがありました。」

「ただ、ここでいうリーダーとは一人のカリスマリーダーという意味ではありません。介護の領域の課題は、現場にいるほど感じることができます。やはり患者さんの生活に寄り添っているので、本人の課題や家族の課題、地域の課題も含め、現場にいる人が一番よく見えるのです。だからこそ、現場の人々がどれだけ主体性を持って関われるかによって環境は大きく変わると実感しており、一人一人がリーダーシップを発揮していくことが大事だと思っています。」

カイゴリーダーズのメンバーたち。

介護の現場にいると、患者だけではなくその後ろにいる家族や、地域の課題も含めてよく見えてくる。介護の課題解決は、結果として地域の課題解決にもつながるのだ。だからこそ、介護現場のリーダーは、地域のリーダーであり、社会のリーダーになれるということだ。

「介護領域の優れた事例を見ていると、地域も幸せになっています。介護現場の実践の先には、施設だけではなく地域全体が豊かになる未来があるのではないかと思っています。今はどの業界も人材不足ですが、その中でも介護業界は特に深刻なので、自分たちだけでは難しい。だからこそ、『地域包括システムの構築』や『地域共生社会の実現』など、地域の方々の力を借りるという考えが出てきています。これらの考えは介護に限らず障害や保育など他の分野の課題解決にもつながるのではないかと考えています。」

介護の担い手不足が深刻化するなか、介護の課題は家族や業界内だけでは解決できず、地域全体の課題として取り組む必要が出てきている。一方で、介護の課題を解決できる仕組み作りは、地域が抱える他の課題も解決できる仕組みの構築にもつながるというのが秋本さんの考えだ。

参加者の目の色が変わった「PRESENT」

介護の現場から変革を生み出せるリーダーの育成に向けてKAIGO LEADERSが開催しているイベント、「PRESENT」。秋本さんの「2025年に向けてそもそも私たちは何を学べばよいのだろうか?」という問いから生まれたこのイベントの特徴は、業界に関わらず幅広い分野の第一線で活躍しているゲストを迎えている点だ。

過去の講師陣を見てみても、地域密着型の高齢者福祉サービスにより様々なメディアに取り上げられ、Ageing Asia Global Ageing Influencer 2019にも選出された株式会社あおいけあの加藤忠相氏をはじめ、コミュニティデザインの第一人者である山崎亮氏、ユニークな働き方で注目を集めているサイボウズ株式会社の代表・青野慶久氏、「大人の学びを科学する」をテーマに活動している組織開発分野のトップランナー中原淳氏など、豪華で多彩な顔ぶれが並ぶ。

秋本さんによると、このPRESENTを通じて参加者の意識は大きく変わり、実際に多くの行動変容が起こっているという。

「あおいけあの加藤さんが来て下さったときは、現場の方々の目の色が変わる瞬間を目の当たりにしました。加藤さんからは『介護の仕事は高齢者のお世話をすることではなく、地域のなかで活躍できる環境をデザインしていくこと』だと教えていただいたのですが、その教えに感化されたメンバーは、自分も高齢者が活躍できる地域をデザインしたいと考え、実際に地域の方々と接点を持つために自治会やお祭りに顔を出すなど地道な活動を始めています。」

株式会社あおいけあ・加藤忠相氏の講演の様子

介護の現場が抱える課題の解決につながる一流のメソッドを知ることで、自分たちの仕事が持つ可能性の大きさに気づき、もっとワクワクしてほしい。それが秋本さんの願いだ。

離職ゼロの職場を生み出した「KAIGO MY PROJECT」

また、自らの経験から自分自身のミッションを見つけていく「マイ・プロジェクト」の学習手法を用いた3か月間・全6回のワークショップ「KAIGO MY PROJECT」からは、すでに目覚ましい成果を上げたプロジェクトも生まれている。

埼玉県にあるサービス付き高齢者向け住宅で働く内田和宏さんは、職員の離職を防ぎ、誰もが楽しんで働ける職場をつくるというマイ・プロジェクトを実施。メンバー一人一人へのヒアリングに基づく柔軟なシフト調整やコミュニケーション円滑化のためのインカム導入、徹底的な傾聴と対話により、12か月間「離職ゼロ」を実現した。介護の現場では離職率が16.2%、特に3年以内の早期離職が多くなっている。業界平均と比較しても、離職ゼロは業界の誰もがうらやむ偉大な成果だと言える。

右・12か月離職ゼロを実現した内田さん

「専門職」と「患者」という関係性をリデザインする

ほかにも、KAIGO LEADERSのメンバーの中には独自の視点から現場の課題を分析し、クリエイティブな手法で解決に取り組んでいる人がたくさんいる。

「福祉の充実」を売りにしている東京・武蔵野市で働いている理学療法士のメンバーは、「専門職」と「患者」という関係性の固定化がもたらす課題に着目し、患者が「患者ではなくなる時間」を増やしていく取り組みを実践しているそうだ。

具体的には、患者同士が持ち回りで自分自身の得意なことを活かして先生となり、参加者にそれを教えながらお互いに繋がることができる場づくりをしているという。

武蔵野市での活動

「福祉が充実していると、支援が受けやすくてよい反面、高齢者や障害がある人はいつも『支援される側』というイメージがついてしまうのではないか、という課題意識から取り組みを始めたそうです。実際にこの理学療法士の方も、ぎっくり腰になったときに患者の方にマッサージをしてもらったと聞きました。」

介護が必要な人に対して常に「患者」であることを押し付けるのではなく、お互いに弱みをフォローし、強みを活かして支え合える関係性を築く。「専門職」と「患者」という関係性の再考することで課題解決を試みるというとてもユニークなアイデアだ。

秋本さんも、専門職自身がより視野を広くすることの重要性を強調する。

「専門職の方々は現場でケアを完結させようと頑張りすぎているという傾向もありますが、本当に自分たちがすべてを支えなければいけないのかを踏み込んで考えてみると、新たにできることがたくさん見えてくるのです。」

介護の課題は「関係性」のなかで解決する

実際に、介護の課題を現場の専門職だけで解決しようとせず、現場を地域に開き、地域との関係性の中で解決しようとするユニークな試みも出てきている。その事例の一つが、兵庫県神戸にある、介護サービス付き高齢者向けシェアハウスの「はっぴーの家ろっけん」だ。

このシェアハウスには1週間で約200人もの入居者以外の人々が出入りしているという。近くに住んでいる子育て中の母親が子供を連れてきて、子供の面倒は入居している高齢者に任せて自分は仕事をするなどコワーキングスペースのように活用していることもあれば、介護シェアハウスとも知らずただ単純に遊びに来ている子どもたち、観光で訪れる人など、常に様々な人が出入りしているそうだ。

「この施設は『遠くの親戚より近くの他人が大事』という考え方なのですが、これはとてもよいコンセプトだと思います。日本だと介護の問題は家族で解決しようという考え方が強いですが、家族だけで解決するのは難しいですし、だからこそ生まれている問題もたくさんあります。そうしたなか、関係性の中で介護の問題を解決していこうという動きがあるのは面白いなと。」

「生きていてよかった」と思える場所をデザインする仕事

起業前には自身もデイサービスの現場で2年働いた経験を持ち、起業後も日本全国で様々な介護の先進事例を見てきた秋本さんは、介護という仕事をどのように捉えているのだろうか。

「介護の仕事は食事や入浴、排泄の介助など『お世話をする仕事』というイメージが強いと思いますが、実際には人と人との関わりの中で深い関係性を築いていく仕事です。ある意味では家族が『認知症だから無理だ』と諦めたような患者さんに対して、もういちど関係性を築きながら光を灯していくという、とても面白い仕事だと思います。」

「私自身も介護に関わるまでは『認知症にはなりたくない』『できれば最後まで幸せでいたい』といった気持ちがすごくあったのですが、認知症になるのがもはや当たり前の環境にいたことで、認知症だったとしても豊かな世界があるということが分かりました。認知症でも普通のおじいちゃん、おばあちゃんと変わらなくて、認知症を問題であるかのようにさせているのは周りの環境だということが分かったのです。」

介護や認知症をネガティブなものとして受け止めるのではなく、その中にある日常や幸せの存在を大切にする。死と向き合う時間を通じ、生の意味をとらえ直すことができるのが、介護の仕事なのだ。

「この前、日本一幸せに亡くなることができるというホスピスの夏祭りに行ったのですが、そこには2,000人も集まっていました。そこでつい最近旦那を看取ったおばあちゃんが来ていて、まるで夏フェスの帰りかのような勢いで『旦那の終わりが最高だったのよ!』と話してくれました。

ホスピスでの夏祭りの様子

「そのホスピスでは、亡くなる間際まで、みんなで一生懸命に温泉に入れたり、最期を見送るときは職員も含めてみんなで歌を歌ったりなど、その方が最後までやりたいことを実現してくれるのです。そこまで家族が喜べるような最期をデザインできるのが介護の仕事なのだなと改めて感じました。」

人生の最期に「生きていてよかった」と本人も家族も思える場をデザインするのが介護の仕事。そう考えると、介護という仕事が途端にとてもクリエイティブな仕事へと生まれ変わる。

介護の現場は、誰もが役に立てる場所

そんな魅力的な介護の仕事だが、多くの人はいざ自分の親の介護が必要になる場面などに出くわさない限り、なかなか介護をジブンゴトとして考えることは難しいかもしれない。しかし、秋本さんはどんな人にも介護の現場でできることがあると語る。

「介護と関わるのに資格はいりません。介護の現場ではとにかく色々な角度で関わってくれる人を求めています。純粋にボランティアとして来てもらえるだけでもよいですし、例えばIT系の人から見ると、介護の領域で非効率な部分はたくさんあると思います。それぞれが、今の仕事の視点だから見える課題はすごくたくさんあるのです。一方で、介護の現場でずっとやっていると、そこが課題だと気づかずに非効率なことを一生懸命頑張っているということがあるので、いろいろな外部の視点を入れていきたいと思っています。」

「まずは近くの現場に足を運んでみてほしいですし、KAIGO LEADERSもとても参加しやすいです。介護に関心を持った方の入口になれたら私たちも嬉しいので、まずは介護専門職の人たちに会いに来てほしいですね。」

VRで認知症を疑似体験するイベントの様子

介護の現場では、どんな人にも自分の得意なことや強みを生かして活躍できる場所がある。そう自信を持って明るく話してくれる秋本さんだからこそ、年齢や業界の枠を超えて多くの人がKAIGO LEADERSに集まるのだろう。

現在、東京、神奈川、名古屋、大阪へと活動拠点を広げているKAIGO LEADERSは、今後全国8都市へとさらにコミュニティを拡大する予定だ。また、最近では介護の現場で働く個人だけではなく事業者側の支援も行おうと、厚労省とともに事業者の人材採用支援プロジェクトもスタートしている。

年齢の壁、業界の壁、施設と地域の間にある壁。あらゆる壁を取り除いて介護の現場を外に開き、それによって新たな時代を切り拓く若者たちの集まりが、KAIGO LEADERSなのだ。

「個人と組織の両輪を回しながら、介護の現場を元気にしていきたい。先進事例を見すぎて、やりたいことが溢れているんです」と楽しそうに語る秋本さん。その瞳には、2025年の明るい未来が見えている。

【参照サイト】KAIGO LEADERS(カイゴリーダーズ)
【参照サイト】厚生労働省「今後の高齢者人口の見通しについて」
【参照サイト】厚生労働省「地域包括ケアシステムと認知症施策」
【参照サイト】Yahoo「日本社会が直面する、認知症「1300万人」時代」