2013年のラナ・プラザ崩壊事故から6年半が経とうとしている今でも、ファッション業界における労働問題は未だ無くならない。有り余る服のなかから好きなものを選び、大量に消費し、飽きたら捨てる。そしてまた安価な服を買う。──そんな手頃さの裏にはいつも「誰かの犠牲」がある。どこかの国には、教育を受けることもできず、家族のために働いている子供たちがいる。そして、ほんのわずかな給与で、苦しみながら洋服を作っている人たちがいるのだ。
そんな状況をどうにか変えようと立ち上がったのが、アメリカのテネシー州・ナッシュビル発のエシカルブランド、ABLEとNisoloだ。彼らは2019年11月初めに、ファッション業界と消費者がオープンに議論をすることを促すキャンペーン「#LowestWageChallenge」を開始した。
彼らはキャンペーンを通じ、消費者に「自分の好きなファッションブランドに最低賃金の公開を要求しよう」と呼び掛けている。参加方法は簡単。ソーシャルメディア上で#LowestWageChallengeをつけて、好きなブランドに「What’s your Lowest Wage?(あなたの生産者の最低賃金はいくらですか?)」と問いかけるだけだ。また、このチャレンジに賛同するブランドは、2020年の3月までに最低一つの工場の最低賃金を自主的に公開することになっている。最低賃金を自主公開したブランドはウェブサイト上の参加ブランド欄(2019年12月5日に公開予定)に追加され、以後月に1度、情報が更新されていくという。Lowest Wage Challengeは、現在400以上のブランドにキャンペーンへの参加を促している。
法で定められた最低賃金は払っているから自分たちのやり方に問題はない──そう主張するファッションブランドもある。だが、本当にそうだろうか?
「最低賃金(Minimum Wage)」とは、国が定めた法に基づき支払われる最低限度の額のことを指す。それに対し、食べ物、水、住居、教育、医療、交通、洋服やその他生活をする上で必須なものを賄い人間らしい生活を送ることができるだけの賃金のことを「生活賃金(Living Wage)」と呼ぶ。ILO(国際労働機関)によると、最低限の人間らしい生活を送るためには法的に定められた最低賃金の120%の額が必要だが、ファッション業界の最低賃金は生活賃金の2分の1の額にしかならない。さらに、インドやフィリピンなどの国では、衣料業界における労働者のうち50%以上が法的最低賃金すら受け取ることができていないのだという。
最低賃金を知ることは、ブランドや工場が今後十分な生活賃金の支払っていくために公正な道筋をたどっているかどうかを判断する材料になる。また、最低賃金額を公開させ是正へと導くことは、すべてのサプライチェーンの労働者たちを守るためのファーストステップになる。なぜなら、最低額の給料で働く人、つまり一番弱い立場に置かれている人を守ることができれば、他の従業員たちも守ることができるはずだからだ。
Lowest Wage Challengeによると、現在7500万人の衣料生産者のうちの98%が生活賃金よりも低い給与で働いている。彼らは給与に不満があったとしても、声をあげられずにいることが多い。雇い主に反抗したことで仕事を失ってしまったら、今よりも生活が苦しくなってしまうからだ。このチャレンジは、消費者たちが声をあげることで、弱い立場に立たされている労働者たちに十分な生活賃金を与え、業界から児童労働や労働搾取をなくすことを目指している。
ABLEとNisoloが今回消費者たちに積極的なキャンペーン参加を促しているのは、消費者が大きな力を持っており、この変化の原動力となっていくと考えているからだ。「私たち消費者は生産者の労働環境の改善を求めている」「誰かを犠牲にして作られた洋服はもう買いたくない」というメッセージをブランドに伝えることができたら、顧客なしにはやっていけないブランドたちは行動せざるを得なくなる。私たち一人ひとりの声は、服の生産過程における透明性(トランスペアレンシー)を高め、労働環境を実際に改善するための大きなステップなのだ。
新しい時代、令和になってから約半年。誰かの犠牲ありきのファッションとは決別し、未来へ向けた「より良いファッションとの付き合い方」を考えるべき時が来ている。SNSが発達し一人ひとりの声が世界に届きやすくなった今、世界中の服を作る人/着る人どちらも豊かに暮らせる世の中をつくるのは「あなたの声」だ。今こそ、チャレンジに参加してみてはどうだろう。
【参照サイト】Lowest Wage Challenge
【参照サイト】ABLE
【参照サイト】Nisolo
【参照サイト】ILO
【参照サイト】ABLE Instagram