私たちの生活に欠かせない電気。いま、いつでもどこでも電気を利用できるようにするべく、さまざまな開発が進められている。そして今回、米マサチューセッツ大学アマースト校が、自然のタンパク質と空気から電気をつくるエコなデバイスを開発した。
先日、学術雑誌「Nature」に掲載された、この画期的なデバイス「Air-gen」は、細菌が作り出すタンパク質と空気から電気をつくる発電機。無害で再生可能で低コストであることに加え、サハラ砂漠など湿度が非常に低い地域でも発電できるのが特徴だ。太陽光や風力発電などに必要な日光や風を必要とせず、24時間365日クリーンエネルギーを生成し、屋内でも機能するという大きな利点を持つ。
Air-genに必要なのは、厚さ10ミクロン未満のタンパク質ナノワイヤ(微細なワイヤ)から成る薄膜だけ。このタンパク質ナノワイヤはゲオバクターという細菌が生成し、導電性を持つ。薄膜は2つの電極に挟まれており、上部の電極は薄膜の一部のみを覆い、残りは空気にさらされている。薄膜が空気中から水蒸気を吸収すると、薄膜内のナノワイヤ間に存在する細孔と結合したタンパク質ナノワイヤの導電性と表面上の化学的現象(界面化学)により、電極間に電流が生成される。
現段階でAir-genはすでに小さな電子機器に電力を供給でき、近い将来、商業規模に拡大できると研究者らはみている。次のステップは、健康や運動監視、スマートウォッチといった電子ウェアラブルデバイスを駆動する小さなAir-gen「パッチ」の開発。これが成功すると従来のバッテリーが不要になるということで、毎日の生活がますます便利になりそうだ。また、スマホに適用できるAir-gensを開発して、充電するためにコンセントを探したりケーブルを買ったりといった面倒な作業の排除を目指すという。
そして最終的な目標は、大規模システムの開発だ。研究者らは、この技術を壁のペンキに組込んで家に電力を供給したり、送電網につながずに電力供給する独立した発電機に適用したりといった可能性を指摘している。ナノワイヤ生産が産業規模になれば、持続可能なエネルギー生産に大きく貢献する大規模システムを開発できるようになるとのことだ。
実際に研究チームは、ナノワイヤをより速く安価に大量生産する新しい微生物株(一つの細菌から培養した細菌の集団)の開発に最近成功しており、アプリケーション開発に弾みが付くことが期待される。
細菌が作り出すタンパク質と空気を使って、いつでもどこでも電気をつくるエコなデバイス「Air-gen」。近い将来、さまざまなシーンでの活用を目にするようになるかもしれない。
【参照サイト】New Green Technology from UMass Amherst Generates Electricity ‘Out of Thin Air’