2016年1月、ダボス会議にて「2050年までに海洋プラスチックの重量が魚の量を超える可能性がある」という衝撃的な発表がされて以降、いまや海洋プラスチックの問題は誰もが知る喫緊の社会課題の一つとなっている。IDEAS FOR GOODでも、これまでP&G やコカ・コーラなどの大企業の取り組みをはじめ、海洋プラスチックの削減に取り組む数々の事例を紹介してきた。
しかし、この問題にアプローチしているのは大企業やスタートアップだけではない。日本では、いわゆるZ世代(1995年以降生まれの世代)と呼ばれる若者たちが、デジタルネイティブとしての強みを活かしながら、新しい動きをつくり出している。その代表格ともいえるのが、1996年生まれの伊達敬信さんが主体となって立ち上げた、NPO法人の「UMINARI(ウミナリ)」だ。
UMINARIは、幅広いセクターと幅広い世代への働きかけを通じて「ごみのない海」の実現を目指して活動している団体で、海洋ゴミを拾うビーチクリーンナップ活動をはじめ、現在では小学校や大学、企業などで海洋ゴミに関する勉強会や講演会なども積極的に開催している。
今回IDEAS FOR GOOD編集部では、UMINARIの創始者であり、これからの日本を牽引するZ世代の一人として活躍する伊達さんにお話をお伺いしてきた。
社会問題を意識したきっかけは、あるプロダクトとの出会いから
いくら「社会問題が深刻化している」と言われても、それらを身近に感じる機会がなければ、なかなか自分ごととして捉えることは難しい。伊達さんが社会問題に興味を持ち始めたのは、インターン生として働いていたドイツのアディダス社が海洋保全団体の「PARLEY FOR THE OCEANS」とのコラボレーションにより開発した、海洋廃棄プラスチックからつくったスニーカーとの出会いだった。
「僕は社会問題にほとんど関心がなかったのですが、インターンとして働いていたアディダスのコラボ商品のデザインに惹かれたことがきっかけで興味を持ち始めました。そのコラボ商品の製造背景を調べていくうちに、海洋問題の現状について徐々に理解し始め、商品が海洋ゴミからできていることを知り、驚きました。千葉の海辺で育った自分ですら海洋ゴミ問題の深刻さを知らなかったので、自分の周りはなおさら知らないのではと思い、自ら行動を起こさなくてはいけないという衝動に駆られ、活動をはじめました。」
自分ができることを考えた結果、伊達さんが最初に始めたのが、自ら車を運転して全国の海岸を周り、ゴミを拾うことだった。海岸のゴミ拾いから1日を始め、ライフスタイルの一環として活動に取り組むなかで、いくつもの気づきがあったのだという。
「日本はゴミが少ない国だと思われがちですが、実際に海に行くとたくさんのゴミが落ちています。ゴミを一つ一つ拾う際に、どのような背景があるのかを想像し、成分や素材まで細かく調べていくうちに、生産の在り方や消費活動と経済の関係性などを知ることができました。また、それに関連した社会問題まで見え始めました。」
SNSを駆使して世界の実践者とつながり、仲間を集める
伊達さんは、実際に活動して気づいたことや自ら見たものを世の中に発信しようと、ゴミ拾いの活動と並行して、拾ったゴミを撮影してSNSのインスタグラム上に投稿し続けた。すると、想定以上にその反響が大きかったという。
「拾ったゴミをそのまま手で持った写真をインスタグラムに投稿していたところ、一気にフォロワーが増えました。フォロワーの中には、有名な海洋団体のCEOや、国連のディレクターの方もいました。そこで、彼らに直接コンタクトを取り、自らの活動に関して相談をしました。他にもSNSのハッシュタグ機能を利用して情報収集をし、あらゆる知識を得る努力をしていました。」
SNSを活用した発信やコネクションづくりといった活動スタイルは、まさにZ世代ならではの動きとも言える。実際に、伊達さんはSNSを通じてUNEP(国連環境計画)のディレクターとつながり、伊達さんの活動に共感し、興味を持ってくれたディレクターの誘いで、大学生ながらも国連が主催する国際会議での講演が実現した。
このようにオンライン、オフラインの両方を通じて海洋ゴミ問題に対する自分の考えや思いを積極的に発信し続けた結果、伊達さんの思いに共感した仲間が集まり、現在のUMINARIの設立につながったのだ。
関係者をつなぎ、お互いの力を引き出すプラットフォームになる
海洋プラスチックのような地球規模の社会課題を解決するためには、企業や団体、行政を含めた多くの組織同士の連携が必要だ。また、異なる価値観や前提条件を持つ組織同士が共創できる体制をつくるためには、関係者同士をつなげる役割も重要になる。伊達さんは、自らの活動を通して明確なビジョンが徐々に見え始めたと語る。
「NPO団体の活動の一貫としてゴミ拾いをしているだけでは、根本的な問題を解決することはできません。解決すべきはゴミがゴミとして捨てられ、資源が循環することなく大量消費され続けることで、社会を変えていくためには、一つのセクターだけではなく様々な関係者が必要なのです。UMINARIは、それらを繋ぐプラットフォームのような役割を担いたいと考えています。」
また、海洋ゴミの問題解決のためにはアディダスのような企業で働く、もしくは自分で会社を起業すると言った選択肢もあるが、その中でもあえて「NPO」という形式で法人を設立した理由について、伊達さんはこう説明する。
「株式会社にすると、利益の追求が必要になってしまいます。UMINARIの目的は規模を拡大することや収益を増やすことではなく、あくまでも社会問題の解決です。多くの関係者をつなぐという役割には中立性が必要だと考え、その役割を果たすことができる形態がNPOだったのです。」
UMINARIの目標は、海からゴミを無くすことにある。そのためには、自らビーチクリーン活動を行うだけではなく、より多くの人々に海洋ゴミ問題の現状を知ってもらい、アクションを起こしてもらう必要がある。そこで、UMINARIでは学校や企業などでも勉強会やワークショップなどを開催し、地道な啓蒙活動を続けている。
将来的にはより幅広い課題に対するアプローチも検討しているものの、現状では海に流出してしまった廃棄物を減らすというプロセス自体が他の廃棄物問題にもよい影響を与えるため、あえて活動テーマを海洋ゴミに特化して展開しているという。
より多くの人に届けるためには、コミュニケーションのセンスが問われる
UMINARIの強みともいえるのが、Z世代ならではのセンスを活かしたコミュニケーションだ。UMINARIのインスタグラムアカウントを見てみると、ごみ問題を扱っているとは思えないほど美しく洗練された写真がずらりと並ぶ。UMINARIでは、ブランディングチームやデザインチームが中心となり、社会に対するコミュニケーションの発信方法やデザイン、方向性についてもかなり吟味しているという。
「人によって環境問題や社会課題に対する意識には大きな差があります。これらは誰か一人で解決できる問題ではないため、より多くの人々の心にメッセージが届くように、どういった質感でアプローチするかなどは常に意識しながら仲間と話し合っています。」
人が環境問題に興味を持つきっかけは様々だ。課題の当事者となることで気づく人もいれば、伊達さんのようにある商品のデザインが美しかったという理由から社会課題に興味を持つ人もいる。きっかけは様々だからこそ、丁寧にブランディングを進めながら、できるだけ多くの人に関心を持ってもらえるよう発信方法を意識しているのだ。
Z世代は、もっと事実に基づいて話すべき。
最近では多くの企業がZ世代を中心とする若年層の価値観や行動に高い関心を寄せている。それは、彼らが未来の消費者であり、未来のリーダーであり、未来の地球を生きる当事者だからだ。一方、当のZ世代の人々は、自分たちをどのように見ているのだろうか。客観的な視線から冷静に自らの世代の特徴を分析する伊達さんは、Z世代の課題についてこう説明してくれた。
「Z世代は、感情論になりすぎず、もっとマテリアリティ(特定された重要な課題)を持って話をすべきだと僕は考えます。感情的に訴えかけるだけでは、企業はどうすればよいのか分からず、聞く耳を持ってはくれません。マテリアリティを持って話すこととは、具体的な問題を数字で表して、どのような戦略で何をして欲しいのか伝えることだと考えます。ファクトベースで話さないと、一緒に価値を創造していくパートナーとしては見られないので、僕たち自身もコミュニケーションの取り方を考えていく必要があります。」
UMINARIは、イベントやワークショップを通じて企業と個人を繋いでいくことも一つの大きな柱として掲げている。Z世代がただ感情的に企業の振る舞いを非難するのではなく、お互いに共通の課題を解決するパートナーとしての関係性を築くことで、社会に大きなインパクト生み出すことができる。それが伊達さんの考えだ。
取材後記
変化が激しい社会のなかで、UMINARIはあらゆるセクターが協働できるハブのような存在でありたいと、伊達さんは目を輝かせながら熱く語ってくれた。現在は消費者へのアプローチを中心に活動しているが、将来的には消費者の動きと企業を繋いでいきたいという。
伊達さんは、企業とZ世代の仲介役にはぴったりな気さくな方で、情熱と冷静さのバランス感覚がとても印象的だった。今後、UMINARIが自らのセンスを活かしてどのように様々な企業や団体と協働し、課題解決に向けた新たな化学反応を生み出していくのか、今後の活動に期待したい。
【参照サイト】NPO法人UMINARI