スペインで広がる市民同士の助け合い。支援希望者と提供者をオンラインマップで可視化

Browse By

コロナウイルスの感染拡大が続く欧州。筆者のいるスペインでは、イタリアに次いで欧州で二番目に多い感染者数が確認されている。3月中旬、国内感染者数の急増を受け、スペイン保健省は医療崩壊の危機を回避するために感染拡大スピードを抑え、感染曲線を平坦化させる考えを示した。そして3月14日に警戒態勢(Estado de alarma)が発出され、一部の例外を除き市民の外出は制限された。

外出規制が始まって以来、SNS上では「#私/私たちは家にいます」(#yomeguedoencasa / nosquedamosencasa)というハッシュタッグと共に、自宅での過ごし方を綴る投稿が増え、自然とオンライン上での情報交換が始まった。また、多忙を極める医療関係者や封鎖下の街を巡回する治安警備隊員らとその家族のために、近隣の住人が自宅で彼らの分の料理を作り、仕事帰りに受け取りに来てもらう形の料理代行のボランティア「#あなたのために料理をします」(#yotecocino)といった投稿も見られるようになった。

支援希望者と支援提供者の居場所が分かるオンラインマップ

このような中、外出規制下の助け合いを支えるオンライン・プラットフォームがスペインで注目を集めている。「フレナ・ラ・クルヴァ」(Frena la curva)と名付けられたこのプラットフォームは、スペイン語で「感染拡大スピードを抑え感染曲線を平坦化させよう」という意味が込められている。

これは、警戒態勢が発出された3月14日、スペイン北東部に位置するアラゴン州公共政策の一環としてのプロジェクト「オープン・ガバメント(Laboratorio de Aragón Abierto)」が、現地の起業家と共に立ち上げたものだ。

さらに3月20日に同州は、支援を必要とする人が取り残されないよう、支援希望者と支援提供者の居場所を可視化するオンラインマップ「フレナ・ラ・クルヴァ・マップ」を立ち上げた。

フレナ・ラ・クルヴァのオンラインマップ

フレナ・ラ・クルヴァ・マップ

フレナ・ラ・クルヴァ・マップの仕組みはシンプルだ。「支援を必要とする個人やグループ」と「支援を提供する個人やグループ」の所在地が色別にピンで地図上にマークされる。ピンをクリックすると、「どのような支援が必要か、提供できるか」という情報も見ることができる。

例えば、「サラゴサ市A地区の高齢者施設でマスクの寄付を募集しています」という支援の要望や、「B地区で高齢者や基礎疾患のある方のための買い物代行をします」という支援の提供などだ。この地図を見ることで、自分の所在地付近に支援が必要な人、提供している人がいるかどうか、またどのエリアに支援が行き届いていないかが一目で分かる。

フレナ・ラ・クルヴァのオンラインマップ

「高齢で呼吸器症状があり、マスクを必要としています。メールでご連絡いただき、マスクを郵便受けに入れていただけると助かります」

フレナ・ラ・クルヴァのオンラインマップ

近隣住民支援グループの居場所やWhatsAppのアカウントが分かる

また、インターネットにアクセスできない人々にも支援の手が届くよう、彼らに代わってボランティアグループや遠方に住む家族らが支援希望の地図登録をすることも可能だ。この他に、外出規制下でも利用可能な公共サービス等の情報も地図上に登録されている。

フレナ・ラ・クルヴァ・マップは3月20日の立上げ以来、スペイン全土に利用者が広がり、マップ訪問者数が20万人、登録件数が3千件に上っている。また、既に南米などでも導入が始まった。

フレナ・ラ・クルヴァの立上げについて、事務局メンバーにメールで話を伺うことができた。

「アラゴン州オープン・ガバメントの呼びかけで始まったプラットフォームですが、その後はボランティアや企業、市民団体や起業家ネットワークによって今の規模まで成長しました。」

「感染拡大と外出規制により、過疎地の住民や高齢者など脆弱な立場の方々に支援が届きにくくなる恐れがありました。スペイン各地で様々な市民のイニシアティブが始まっていますが、人手や物資は限られています。オンラインマップ上で支援が必要な場所をリアルタイムで可視化し共有することで、効率的かつ速やかに支援が届くようにしたいと考えました。また、市民のイニシアティブはWhatsAppなどのSNSを通して活動が始まることが多いのですが、活動の規模が大きくなるにつれ管理しやすいコミュニケーションツールが必要となるでしょう。そういったニーズにも応えたいと思っています。」

フレナ・ラ・クルヴァのオンラインマップ

フレナ・ラ・クルヴァ

プラットフォームを支える技術には、2010年のハイチ大地震やチリ大地震の際にも導入された「ウシャヒディ・プラットフォーム」(the Ushahidi Platform、ケニア)という災害や人道危機下で必要な情報を地図化するフリーソフトウェアを用いているという。導入支援はマドリードとロンドンに拠点を置くカレイドス社(Khaleidos)が行った。

オンラインマップの他にも、プラットフォーム上には市民の情報共有のページも設けられている。外出規制下に自宅で行える子ども向けアクティビティ、心と体のケア、オンライン学習などの情報に加え、地域のボランティア活動・コミュニティ活動に関する案内も掲載されている。また、市民プロジェクト専用のページもあり、現在は13件のプロジェクトが掲載されている。

まとめ

外出規制が敷かれた数日後、筆者の住むバルセロナのアパートの共同玄関に、「私はこのアパートの住人です。高齢の方や助けが必要な方は、買い物代行など喜んでお手伝いしますのでご連絡ください。一緒にがんばりましょう」という、心温まるメモが貼られていた。このように同じ建物の住人同士や近所同士で声を掛け合うことができれば、自然と助け合いも生まれるかもしれない。

しかし、都市部でも周囲に頼れる人がいない場合や、過疎地や地理的に孤立した地域などでは、フレナ・ラ・クルヴァ・マップのようなオンライン・プラットフォームが、支援を必要とする人々と支援者を繋ぐ大きな役割を果たすだろう。

外出規制下での生活は、誰にとっても容易ではない。しかし市民同士のアイデア共有や助け合いは、難しい時期を乗り越えるために大きな支えとなるのは確かだ。

FacebookTwitter