スペイン国内で不足するマスク。地元企業と市民ボランティアによるマスク製作支援

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世界各地で感染拡大が懸念されるコロナウイルス。筆者の住むスペインでは、医療関係者の感染者数が感染者全体の約15%(4月5日時点)を占め、医療現場の物資・人手不足が深刻化している。また、4月に入り薬局に勤める薬剤師たちの感染増加が確認され、外出規制下の社会を支える人々を感染から保護するためのマスクや手袋など防護具の必要性が改めて指摘されている。

一方で、医療者向けの防護具や医療機器は、国内の生産が追い付かず海外からの輸入も難しくなっている。3月14日に警戒態勢(Estado de alarma)が宣言されて以来、スペイン政府は防護具や衛生用アルコールの国内の生産拡大に向けて、国内アパレル産業や酒造業、また3Dプリンターを扱うIT企業やスタートアップへの働きかけを進めてきた。

このように政府と企業が準備を急ぐ中、少しでも感染拡大を防ぐために今自分たちができることをしようと、地元企業と市民ボランティアが始めたマスク製作イニシアティブが注目を集めている。

地元企業と15,000人の市民ボランティアが支えるマスク作り

国内の感染者数が急増しマスク不足が深刻化し始めた2020年3月前半、真っ先にマスク製作のイニシアティブを立ち上げたのが、スペイン第二の都市バルセロナを州都とするカタルーニャ州のロビンハット社(Robin Hat)だ。デザイン豊富な100%コットンの手術帽メーカーとして知られる同社は、手術帽製造用に保有していた材料と自社の生産力でマスク生産を始めた。

ロビンハット社の手術帽を着用した医師たち

ロビンハット社のイニシアティブが製作するのは、コロナウイルス対策として注目されるN95マスクやFFP2マスクではなく、100%コットンのマスクだ。しかしマスク不足に苦しむ多くの自治体と病院から要望が相次ぎ、生産量を増やすため、同社はラジオやSNSを通して素材メーカーに素材提供を呼び掛け、家庭でマスクを縫うことのできる市民ボランティアを募った。

同様の取り組みを始めていた他のイニシアティブとも連携し、現在では約15,000名のボランティアが参加する大規模なネットワークに成長したという。

外出規制下の配送を支えるのは、活動に賛同するバルセロナのタクシードライバーや自営業の配送ドライバー達だ。マスクの素材として使う100%コットンやゴムバンドを各ボランティアの家庭に届け、完成品を各家庭から回収している。マスクはオートクレーブ処理という高温高圧の飽和水蒸気による減菌処理や90度以上の高温で減菌処理をしてから使用される。

イニシアティブを支えるタクシードライバーたち

イニシアティブの活動状況について、同社にメールで話を伺うことができた。

「自治体や病院からの要望が相次いでいます。自治体は、高齢者施設の他、医療現場に通う必要のある清掃職員や機械整備士の方々にも100%コットンのマスクを支給していると聞きます。100%コットンのマスクの使用により、手が鼻や口元に触れるのを防ぐ他、唾液の飛散を防ぐ目的で、マスクを必要とする声は高まっています。」

「立ち上げた当初はもちろんですが、現在も多くの医療現場で医療者向けの防護具が不足し、医療関係者たちが感染リスクにさらされています。私たちのイニシアティブが製作している100%コットンのマスクは、高温処理をすることで再利用が可能ですが、コロナウイルスの感染予防には十分ではありません。」

「医療現場では、事務職員や患者の方々に加え、N95マスクやFFP2マスクといった防護具が足りない場合は100%コットンのマスクを現場の医師が使用する場合さえあると聞きます。それ程までに、医療現場の物資不足は深刻です。」

ロビンハット社のイニシアティブは、現在バルセロナを始めとする136自治体にマスクを提供している。既に約50万枚のマスクを寄付し、今後さらに110万枚以上のマスクを製作予定だという。

ボランティアのみなさん

まとめ

コロナウイルスの感染拡大により、感染を防ぐための防護具やその素材を巡って国と国が対立するニュースを聞くようになった。多くの国で防護具の生産が追い付かない中、十分な防護具もなくウイルスとの戦いの前線に立つ人々の不安は計り知れない。

社会を支える人々の力になろうと、地元企業や市民の呼びかけで様々なイニシアティブが始まっている。少しでも早く、一つでも多くの防護具を届けるための取り組みは、これからも様々なアイデアを生みながら各地に広がっていくだろう。

【参照サイト】ロビンハット社(Robin Hat)

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