「おうち時間、うまく過ごせてる?」市民の声を集めるバルセロナ市のプラットフォーム

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筆者の住むスペインでは、コロナウイルスの感染拡大により、3月14日以降外出規制が敷かれている。4月中旬になり一部の経済活動が再開され、14歳未満の子どもについて大人同伴で1日1時間の外出が認められるなど緩和され始めたものの、現在も飲食店や商業施設は閉鎖されており、市民の外出も生活必需品の買い物などを除き禁止されている。

先行きが不透明な中での外出禁止生活は、社会的疎外感や不安の増加、免疫力の低下といった精神面・健康面の問題に加え、家事や育児負担の増加、家庭内暴力の悪化などが懸念されている。また社会との接点が減ることで、個人と家庭が抱える問題に周囲が気づきにくくなる恐れもある。市や自治体は、自宅中心となる市民の生活をどのように支援し、どのように市民の声に耳を傾けられるだろうか?

2020年3月、バルセロナ市は外出規制下での市民生活を支えるため、「バルセロナ・フロム・ホーム(Barcelona des de Casa)」というオンライン・プラットフォームを立ち上げた。このプラットフォームでは、市民は生活に必要な情報を受け取れるだけではない。感染拡大と外出規制という非常事態下での体験や自身の感情を市民が表現する場も設けられているのだ。幾つか例を紹介したい。

「バルセロナ・フロム・ホームー今はみんなでお家にいよう。それが家から出るための近道だ。一緒に家から出るために。みんなで家から出るために。」と書かれている

子ども達が自由な形式で綴る日記「ディア・ダイアリー」

「ディア・ダイアリー(Estimat Diari)」というプロジェクトでは、子ども達が手紙、絵、工作、写真や動画で外出規制下での体験や感情を自由に表現し、「バルセロナ・フロム・ホーム」上に投稿することができる。また、子ども達は市長に、感染や都市封鎖について質問をすることもできる。質問をした翌週に、YouTubeやインスタグラムを通して市長が答えてくれるという。

プロジェクト・ページの冒頭には市からのメッセージが書かれている。

「家から出られず、学校や公園にも行けない、いつもと違う日々です。ですが、みなさん(子ども達)がおうちにいて、たくさんの経験をしていることを私達(バルセロナ市)は知っています。どんなことがあったかを、好きな方法で表現をしてみてください。」
「バルセロナ市の主役は、みなさん(子ども達)です。みなさんの目にバルセロナがどう映っているか教えてください。」

バルセロナ市がこの取り組みを始めた背景には、感染拡大と外出規制による生活環境の変化や、病気や死が身近になっている状況が、子ども達の心の健康にネガティブな影響を与え得ると懸念したためだ。子ども達が自分の気持ちと向き合えるよう、感情を自由に表現する機会を設け、心の健康と成長を守りたいという思いがある。

プロジェクトに寄せられた「日記」を通して、家族や先生といった周囲の大人達も子ども達への理解を深められ、子どもに寄り添ったおうち時間の過ごし方に繋がると期待されている。また、将来的には「子ども達の目から見た都市封鎖・パンデミック」として文化センターなど公共スペースで展示される予定だ。

大切な人へのメッセージや自分の気持ちを伝える「バルセロナ・リメンバー」

「バルセロナ・リメンバー(Barcelona Recorda )」も同様に、市民が思いを表現し共有するためのプロジェクトだ。感染拡大と緊急事態は、大人にとっても心の整理が難しい。人と会う機会も制限されることから、一人で抱え込んでしまいがちだ。

プロジェクト・ページを開くと、感染拡大の恐怖や、大切な人を失った悲しみ、犠牲となった方との思い出、外出規制下での生活の苦しさ、医療関係者や社会を支える人々への感謝、街の人々への応援など、様々な思いが写真やメッセージで寄せられている。

「バルセロナ・リメンバー」は、市民が自由に表現し、社会と繋がることのできる場として設けられた。また、市が人々の体験や思いを受け止め、風化させないようにするための取り組みだ。

自由な表現の場の悪用防止策も

市民は両プロジェクトに投稿するにあたって、自由に表現する権利を認められている。しかし、誰かを誹謗・中傷する表現や、人種差別的な内容、プライバシーを侵害する恐れのある内容は掲載されない。また「ディア・ダイアリー」については、親や後見人が子どもの代わりにオンライン登録をし、投稿内容に責任を持つことが求められている。

市からの情報発信の場として

上記以外にも、「バルセロナ・フロム・ホーム」を通して市民は様々な情報を得ることができる。今後は、オンライン・プラットフォームのアクセスや利用が難しい人々へのアプローチについても検討が必要になるだろう。

  • 外出規制に関する最新情報(外出が認められる条件や外出時の注意事項など)
  • 自宅でできる感染予防対策
  • 市や自治体による社会的支援、経済的支援の内容(家庭内暴力の相談窓口、心理カウンセラーとの電話相談、食事支援の案内、支援金の申請方法など)
  • 自宅に配達可能な地域生産者、個人商店の一覧
  • 子ども向けアクティビティ(動物園や遊園地と連携したオンラインアクティビティ)
  • 文化遺産やアートに触れるアクティビティ(ガウディ建築のバーチャルツアーなど)
  • 屋内スポーツ、エクササイズ
  • 高齢者や子どものケア、ペットのケア
  • 未使用の感染防護具の寄付の募集
  • など

まとめ

感染拡大と外出規制により、人々の生活は大きく変わった。働き方、教育や育児の仕方、おうち時間、家族・友人・同僚たちとの過ごし方。また同時に、人々は多くの思いと向き合っている。生活への不安、大切な人を失う悲しさ、差別を受ける苦しさ、社会を支える人々への感謝、社会を支えようとする勇気。さまざまな想いが交錯するなかで、少しでも早く日常を取り戻すために世界中の街や人々が総動員でウイルスとたたかっている。

バルセロナ市によるオンライン・プラットフォームの取り組みは、外出規制下の市民生活を支え、人々が自由に表現する場を設けた、「市民が主役」の街づくりの一つの形だ。オンライン・プラットフォームに寄せられた市民の体験や声は、市のレガシーとして保存され、研究などを通して後世にも活かされる予定だという。

刻々と変化する状況に応じた市民のための街づくりが、今求められているのではないだろうか。


【参照サイト】バルセロナ・フロム・ホーム(Barcelona des de Casa)

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