エアロゲルという物質を聞いたことはあるだろうか?エアロゲルは空気を多く含む構造体で、軽量かつ高い断熱性を持つことから、窓や毛布などに使用されている。かつてNASAも火星探査機や宇宙服の断熱材として使用したことがあり、さまざまな用途への使用が期待されている。しかし製造コストが高く、壊れやすいといった理由から、いまのところ使用範囲が限られているのが実情だ。
そんななか、シンガポール国立大学の研究チームが、世界で初めて廃タイヤをエアロゲルに生まれ変わらせる技術を発表した。今回の研究は産業規模に適用でき、なおかつ二つの課題を解決している。
一つ目の課題は、タイヤの廃棄に伴う環境への影響だ。当研究を率いたドゥオンハイ・ミン准教授によると、世界では毎年約10億本ものタイヤが廃棄されており、そのうち40%がリサイクルされ、49%が焼却され、11%が埋め立てられているという。タイヤ焼却による有毒物質の排出や、埋立地からの浸出水といった影響が懸念されており、埋め立て地自体の枯渇も問題となっている。
これに対する、研究チームの解決プロセスはシンプルだ。廃タイヤを豊富な「原料」ととらえ、繊維を水と少量の溶剤を混ぜた溶液にひたし、専用のミキサーで20分間混ぜ、マイナス50℃で最大12時間の凍結乾燥をする。製造にかかる時間は12~13時間ほどだ。タイヤを活用することで、大きさ1平方メートル、厚さ1センチのエアロゲルのシートなら10ドル(約1,090円)未満で製造できることがわかった。
二つ目の課題は、エアロゲルの特徴であった「脆さ」だ。もともとが壊れやすい物質なため、断熱性をいかした製品をつくってもすぐに割れたり欠けたりしてしまう。それに対し、タイヤからつくられたエアロゲルは柔軟で耐久性があり、たとえば厚さ2.5センチにもなれば、25枚の標準窓ガラスに相当する熱伝導抑制効果を持つという。また、吸水性にも優れており、こぼれた油などを除去するのにピッタリで、ポリプロピレンマットなどの従来の吸収剤よりも2倍の吸収性を持つ。
こうした特性により、廃タイヤからつくるエアロゲルは、石油精製所や工業用建物などの断熱材から、住宅や冷蔵庫、ジャケットや靴の中敷などといった私たちの生活に密着したアイテムまで、幅広くつかわれることになるだろう。シンガポールの大手不動産会社 Mapletree Investmentsは、この研究に15万5,000シンガポールドル(約1,180万円)を投資。今後、研究チームはMapletree社や他のパートナーと共に新技術のスケールアップを行うと同時に、タイヤ以外の廃棄物を使用したエアロゲルの研究も進めていく。
タイヤの廃棄問題に取り組みながら、低コストで耐久性が高いエアロゲルをつくる研究の今後がとても楽しみだ。
【参照サイト】The world’s first aerogels made from scrap rubber tyres
(※画像:National University of Singaporeより引用)