分離から再統合へ。「リジェネラティブ・リーダーシップ」とは? – Journey of Regeneration 再生の旅 Vol.1

Browse By

オンラインに生まれたひだまり。たくさんの穏やかな笑顔に包まれて、思わず自分らしさをさらけ出したくなる場所。お互いに「はじめまして」のはずなのに、なんとなく昔から知り合いだったような不思議な距離感。

7月1日の夜にはじまった14週間のオンラインジャーニー「Journey of Regeneration 再生の旅」の第1回セッションは、そんな2時間半だった。

主催するのは、エコロジーや生態系を切り口にこれからの時代の人間観やビジネスの在り方を探索する領域横断型プロジェクト「Ecological Memes」だ。

リジェネレーション」をテーマに、生命の摂理に基づいた個人やビジネスのありかたを探索・実践していくこのプログラムには、当初の想定を超える70名以上の参加者が国内外から集まった。

同プログラムのメディアパートナーとなっているIDEAS FOR GOODでは、参加者と一緒にこの旅路を歩みながら、全7回にわたってセッションの様子をお届けしていく。

Theme 1:リジェネラティブ・リーダーシップ(旅への誘い)

記念すべき第1回目のテーマは「リジェネラティブ・リーダーシップ(旅への誘い)」。旅のホストであるEcological Memes 発起人の小林泰紘さん、株式会社森へ創設者の山田博さんのお二人と共に、旅の土台となる「リジェネラティブ・リーダーシップ」への理解を深め、参加者それぞれの旅立ちを味わった。

「深く聴く」ために用意された、30秒の「あいだ」

今回の旅ではお互いに学び合い、実践を支え合っていくための4-5名のホームグループ(ラーニングサークル)をつくられる。プログラム概要の説明後、最初に行われたのは、そのグループでの旅のチェックイン、自己紹介タイムだ。参加者一人一人がどのような経緯で今回の旅に参加したのか、その想いを語り合った。

自己紹介では、一人一人がなぜこの旅に誘われたのかを語り合った。

「あなたの中の何が、あなたをこの旅へといざなっているのでしょうか」という問いかけと共に、この自己紹介タイムには一つのユニークなルールが伝えられた。それは、「各自の自己紹介後に、30秒間だけ沈黙の時間をとる」というルールだ。一人が話した後に全員がオンライン上で沈黙するというルールに最初は少し戸惑ったが、この沈黙が、大きな気づきを与えてくれた。

この30秒間で、相手が自己紹介の中で話してくれたことをもう一度頭の中でゆっくりと再生し、咀嚼してみる。すると、「なぜこの話をしてくれたのだろう」「ここをもう少し聞いてみたいな」など、改めて相手の発した言葉一つ一つに興味が湧いてくるのだ。

それと同時に、普段自分は誰かと会話するとき、相手の話をどれだけ本当の意味で「聴けて」いるだろうかと思い、はっとさせられた。あらゆるコミュニケーションの場面で効率とスピードが求められるなか、私たちは職場の同僚や友人、家族との会話でも、つい「聴いた」ふりをしながら日常を過ごしていないだろうか。

冒頭のプログラムの説明の中でも、小林さんから「静けさを味わい、場に現れてくるものを待つ」「評価や判断を保留した、ディープリスニング(深く聴く)」といった話があったが、30秒間という沈黙の「あいだ」によってはじめて「聴こえてくる」言葉がある。そんなことを思わせられた自己紹介タイムだった。

リジェネラティブ・リーダーシップとは?

自己紹介の後は、ナビゲーターの小林さんから今回の旅の主題である「リジェネラティブ・リーダーシップ」について話があった。

リジェネラティブ・リーダーシップとの出会い

「リジェネラティブ・リーダーシップ」は、デンマークのサステナビリティ専門家であるLaura Stormさんと英国を拠点に生命観に基づいた経営コンサルティングやコーチングを実践するGiles Hutchinsさんの二人が産み落としたもので、2019年7月に共著で出版した書籍のタイトルだ。

Ecological Memes発起人の​小林泰紘さん。Regenerative Leadership の著者、Giles HutchinsさんとLaura Stormさんと共に。

小林さんが彼らと出会ったのは、企業イノベーター(イントラプレナー)たちが集うグローバルカンファレンスに参加するために、フランスのパリに出張していたときだった。

「欧州ではサーキュラーエコノミーやサステナビリティの社会実装が進んでおり、その背後で必要になるはずのパラダイムシフトを探索しようとしていた時に、たまたま彼らのワークショップがコペンハーゲンで行われているのを見つけました。」

「その世界観や案内文を見たとき、これは行かざるを得ないなぁと久々に呼ばれてしまった感じがして、考える間もなく気づけば応募していました。パリでのカンファレンスを中抜けしてコペンハーゲンに弾丸で飛び、デンマーク国立公園近くの会場に向かいました。それまで本のことも彼らのことも知らなかったのですが、直感していた通り、いざ出会ってみたらこんなにも同じことを感じ、実践している仲間がいたのかと強く共鳴し、意気投合しました。」

プログラムは、美しい自然のあるコペンハーゲン国立公園のなかで、地面に八の字に置いたロープの上を歩いて自然のリズムを身体で感じてみるというアクティビティや、ロッジの中で参加者全員が円になり、トナカイの毛皮の上に座りながら対話するワークショップなど、自然とのつながりのなかで自分自身との内側とのつながりを取り戻していくという内容だった。

ワークショップの様子

「リジェネラティブ・リーダーシップにおいて大きなテーマとなるのが、直感や生命的な感覚といった、誰もが本来持っているものにつながり直していくこと。そしてそれを自分だけではなく、取り巻くエコシステム全体に橋渡ししていく思想と実践です。」

「リジェネラティブ・リーダーシップは、U理論や成人発達理論、インテグラル理論やバイオミミクリーなど様々な先駆者たちの知恵を包摂して体系化されています。ですが、新しい知識やフレームワークというよりも、自分が感じていた感覚、内側にあった大切な感覚を思い出させてくれるようなものだなと感じています。そのため、この旅路でも何か知識として詰め込もうということではなく、皆さんの内側にあるものとどのようにつながっていくのかを感じていただけたらと思います。」

リジェネラティブ・リーダーシップは、新たに頭に入れるような知識や理論ではない。すでに一人一人が自分の内側に持っている直感や感覚に気づき、それらを起点として自分が外側の世界とつながり直していく作業なのだ。

リジェネラティブ・リーダーシップのDNAモデル

自分の直感や生命的感覚に気づく。自分の内側とつながり直す。そう言われても、いま一つイメージが湧きづらいという方もいるかもしれない。そこで小林さんが今回概観として紹介してくれたのが、リジェネラティブ・リーダーシップの概念を図示した下記のDNAモデルだ。

リジェネラティブ・リーダーシップのDNAモデル

「リジェネラティブ・リーダーシップのDNAモデルの前提にあるのが『ロジックオブライフ』と呼ばれる生命の摂理のようなもので、本では七つの摂理が抽出されています。例えば、自然は変化し続け、環境に適応していく(Ever Changing & Responsive)といったものや、リズムや周期がある(Cyclical & Rythmical)といったものがあります。」

写真左は Logic of Life(生命の摂理)。右はワークショップ。8の字に置いたロープの上を歩く参加者たち。

「先ほどの写真でも、地面にS字でロープを置いているのですが、このロープで自然の流れや季節の循環を表現しており、その上を感じながらただ歩くということをします。自然には春夏秋冬のリズムがあるわけですが、春の芽生えや夏の成長、秋の収穫の後には必ず、長い冬がやってくる。僕らの社会は成長し続けることを前提として色々な仕組みが作られていますが、そういう停滞や冬眠の感覚を身体感覚でじっくり味わった上で、それを自分たちのビジネスや経営にどうフィードバックできるかなどを対話しました。」

たしかに、言われてみると季節の移り変わりを頭に思い浮かべながら歩くだけでも、そのスピードや歩き方に変化が出てくる気がする。自然の季節の循環を自分の心がどのように捉え、それがどのように身体の動きとして現れるのか。ただロープの上を歩くというシンプルなアクティビティでも、自分と自然とのつながりを感じとることができるのだ。

「こうした生命の摂理を土台に立ち上がるのがDNAモデルです。その構造には、ライフダイナミクスとリーダーシップダイナミクスという二つの螺旋構造があり、それらが織りなすのが「リビング・システム・デザイン」「リビング・システム・カルチャー」「リビング・システム・ビーイング」という三つ領域です。」

ライフダイナミクスとリーダーシップダイナミクス

「ライフダイナミクスは、生命の動的な緊張構造のリズムで、コンバージェンスは収れん、ダイバージェンスは発散を意味します。この二つが交互に織りなしながら、生命や生態系が持っている緊張とそのリズムを表現しています。」

「ダイバージェンスは発散と書いていますが、探索、多様化、文化的交配などのことです。色々な生命が交わりあい、変異し、多様化していくという自然の営みを表しています。一方、収れんは『まとまっていく』という意味ですが、群れとしての団結や結束などを表していて、ビジネスの文脈では、ミションやパーパス(存在目的)といったことです。この発散と収れんを往来する中間にエマージェンス(創発)が起こっていく、というのがライフダイナミクスのポイントです。」

ライフダイナミクスとリーダーシップダイナミクス

「また、リーダーシップダイナミズムはリーダー自身の意識の流れを表現していて、セルフアウェアネスとシステムアウェアネスの二つがあります。セルフアウェアネスは、自分自身の感じていることや感情、思考など、内面への自覚を指します。もう一つはシステムアウェアネスで、他者とのつながりあいや関係性など、自分自身を取り巻く環境やシステムなどに対する気づきを指します。この二つが交わるところに、リジェネラティブ・リーダーシップのコンシャスネス(意識)が発露していきます。」

小林さんは「旅は長いので焦らずゆっくりと歩いていきましょう」と話した上で、この二つのダイナミクスが動的な流れの中で現れてくる、生命システムとしての「デザイン」「カルチャー」「ビーイング」という三つの領域についても簡単に説明してくれた。

自然の営みの中で人間を捉え直す「リビングシステムデザイン」

「リビングシステムデザインは、社会やビジネスなどの外側をデザインしていく領域です。たとえば、『廃棄ではなく栄養循環』と書いてありますが、有用性がないという廃棄という見方自体が人間中心の世界観です。人の閉じた世界ではそうなのですが、自然の営みを見てみると、廃棄物は存在しません。」

リビングシステムデザイン

「先ほどの『ロジックオブライフ』の中に『ライフ・アファーミング』という言葉があるのですが、これは直訳すると『生命に対して肯定的である』ということです。つまり、生命の連続性やつながりを意味しています。例えば、リンゴが木から落ちて腐っていくというとき、人から見るとそのリンゴはゴミになるのですが、それは人に閉じた世界観で、自然の中では腐った後に虫が食べたり、微生物に分解されて土になったり、それがまた他の植物の栄養になったりという形で生命は必ず次の生命につながっていくという摂理があります。そうした自然の摂理が、サーキュラーエコノミーや循環というテーマの根っこには本来は在って然るべきなわけです。」

生命としての「リビングシステムカルチャー」

「二つ目がカルチャーです。これは組織文化などをイメージしてもらえるとよいですが、生命システムとしての群れや集団における文化・共通認識ですね。健全な収益と再投資、”Thrive(繁栄)” という前提が必要だという話や、日本でも議論になっているパーパス、存在意義といった点を扱っています。」

リビングシステムカルチャー

「Developmentalの “develop” は開発すると訳されたりしますが、本来の語源は “envelope”、包むの対義語で、ひらかれていくという自動詞です。ここでのdevelopはそのシステムの中の生命性や能力がひらかれていく、解き放たれていくといったイメージとなります。」

リーダー自身の在り方を問う「リビングシステムビーイング」

「そして最後はビーイングです。これは『ありかた』とか『佇まい』と話しましたが、ここではリーダー自身の個人の在り方が扱われています。”Presence” は、自分がそこに存在している、”Coherence” は、意図や願いと行動との一貫性、”Patience” は、待つ、忍耐という意味です。」

リビングシステムビーイング

「”Abundance” は、満ち足りているという意味ですが、僕たちはないものや課題に意識が向きやすいですが、実はすでにたくさんのものを持っています。日本には『足るを知る』という言葉がありますが、大切なことは、ないものではなく、すでに在るものに気付くいていく感覚ですね。あとは、”Silence” と”Dance” です。自然のリズムと軽やかにダンスしていくような感覚が扱われたりしています。」

人が周囲に与えられる最大のものは、自分自身のプレゼンス

小林さんは、リジェネラティブな社会やビジネスを実現するうえで、システム全体だけではなく、この人間一人一人の在り方を問う「ビーイング」が重要だと話す。

「「デザイン」「カルチャー」「ビーイング」の3つの領域はそれぞれは切り離されておらず、DNAのように絡まり合うなかでつながっているのですが、僕はこの外側に向けた「やり方」と内面での「在り方」がつながっているという点が非常に大事なメッセージだと思っています。社会やビジネスをどう創るかは重要なのですが、それと同時に、その中にいるリーダー自身が何を起点にそれを創るかが問われていると思っています。

「僕が大切にしている言葉に、心理学者のCart Rogersの『人が周囲に与えられる最大のものは、その人自身のプレゼンス(存在していること)である。』というものがあります。リジェネラティブリーダーシップでも、リーダー自身の在り方、一人ひとりがそのままそこに、ただ感じたままに共に在るということをとても大事にしています。」

ただ存在しているだけでも、人は自然や他者に対して影響を与えている。WHATやHOWも大事だが、どうあるかというBEに意識を向けることも、リジェネラティブ・リーダーシップを実現するうえでの重要なテーマなのだ。

生命とのつながりを取り戻す、分離から再統合への旅

小林さんがリジェネラティブ・リーダーシップの本質だと語るのは、「”Reconnecting to life(生命とのつながりを取り戻す)”」というテーマだ。

「GilesやLauraともよく話すのですが、これまで人類は長い歴史の中で、人と自然や男性性と女性性、右脳と左脳、内面と外側など様々な分断を体験してきており、リジェネラティブ・リーダーシップとは結局のところ、生命感覚とのつながりを取り戻し、それらの分離を再統合していく旅、―もともとあったつながりを再び取り戻していく旅路なのです。」

「その旅路の中では、近現代産業社会に飼い慣らされてきた僕ら自身のものの見方や生き方のシフトが必要になります。機械論的なパラダイムから生命論的なパラダイムへのシフト。分離や分断といったないもの探しや妬み合いをするのではなく、統合や自分自身とのつながりの感覚を起点にすでにあるものや安心感を味わうこと。そして、人の世界に閉じずに地球や他の生命にひらかれていくということです。」

「この図をみると、組織の構造を思い浮かべる方も多いかもしれません。よくGilesと話をしているのは、組織の原点は一人ひとりの集まりであるということです。つまり、組織はすでに生きたシステムであり、それを機械論的にみているのは僕ら自身のまなざしなのだということに気付くことが大切です。」

「また、これは組織だけの話ではありません。社会の構造や周囲との人間関係、あるいは
何億もの腸内細菌や微生物とすでに共生している僕ら自身の生身の身体もそうです。」

「今回のコロナにおいても、”Fight(闘う・打ち克つ)” という言葉を使うリーダーも多かったですが、どんなに持続可能性や循環社会といった言葉を掲げていてもリーダー自身が機械論的なパラダイムで生きている限り到達するのは難しい。一方、例えばニュージーランドのアーダーン首相からは”Unite(団結する)” 、あるいは昨年のモスク襲撃事件の際には”They are us(彼らは私たちである)”といった言葉が聴こえてきます。そうしたつながり合いに根ざした共感型のリーダーがこれからの世界に求められているように感じました。」

「リジェネラティブ・リーダーシップは、新たな知識をインストールしていくというよりも、自分たちの中にすでにある感覚や世界との繋がり方を思い出し、凝り固まった見方を、まるでヴェールをはいでいくように手放していくような営みで、だからこそ、DNAモデルに「リビングシステムビーイング」が非常に重要なものとして組み込まれているのです。」

人間だけの世界に閉じることで「精神のエコロジー」の危機が進行する

そして、小林さんはだからこそ、このリジェネラティブ・リーダーシップの考え方を、そのまま日本でコピーしようというのではない。日本には自然との深い関係性の中で生命と向き合い続けてきた深い文化や東洋的な哲学がある。これらをアクティベートしながら、より深めていきたいと話す。そこで紹介してくれたのが、明治時代の民俗学者であり粘菌学者、南方熊楠だ。

「意識が生命や無意識から切り離され、知性が感性から切り離され、因果性が偶然性から切り離されて、人間が人間だけの世界に閉じこもることで「精神のエコロジー」の危機が進行していく。 (中沢新一, 熊楠の星の時間)」

「南方熊楠は日本で初めて『エコロジー』という言葉を使った人ですが、明治時代の神社合祀に強く反対します。それは鎮守の森をはじめとする自然の生態系が破壊されることだけでなく、実はそれが自分たち自身の精神性やウェルビーイングの危機、つまり精神のエコロジーの危機とつながり合っていることに警鐘を鳴らしていました。これは、まさに人が地球や他の生命と共に繁栄していくリジェネレーション(再生)の世界観とも強く共鳴します。」

本来、私たち人間も自然の一部である。しかし、自然と人間を切り離して考え、自然を人間が開発し、搾取する対象として扱ってしまったり、都市のように自然と切り離された環境のなかで暮らしたりしていると、人間の内側にあるエコロジーにも危機が訪れてしまう。これは、誰もが共感できる感覚ではないだろうか。

例えば、人が全くいない自然はただ美しいだけだが、人が全くいない都市は不気味に見える。自然と断絶された灰色のコンクリート群は、私たちの心の中に、自分自身の存在に対する根源的な不安を掻き立てるのだ。これは、私たち人間も自然の一部であり、自然と切り離された環境では生きていけないということを本能的に理解している証だ。

小林さんは、このような個の人間とシステム全体とのつながり合いについて、こう説明する。

「個と群・集団、そして惑星。これらを別々に切り離すのではなく、それらの相互作用やみえないつながり合いを感じ、思い出していく姿勢をエコロジカルな態度と定義しています。これまで人間は自然環境から資源や生態系サービスを一方的に享受することはあっても、共に繁栄し、生物多様性を高めていくような視点やメカニズムを埋め込めていなかった。リジェネラティブリーダーに求められるのは、自分自身だけでなく、そのシステムにおける周囲のアウェアネスを高め、生態系全体を活性化していくエコシステミック・ファシリテーターとしての役割です」

特に今回のコロナ禍では、一人一人の意識や行動が全体の結果に影響するということを実感した方も多かったのではないだろうか。個人や集団、地球はそれぞれ独立しているのではなく、お互いにつながりあっている。だからこそ、自分自身も生物多様性の一部と捉え、自然を絶対視して人間の存在を否定するのではなく、共に繁栄していくという視点が重要なのだ。

本当の変容は、リーダー自身の内なる生命との調和から始まる

小林さんは最後に、著者のLauraさんの言葉を紹介してくれた。

「たとえ豊かで持続可能な社会づくりを目標に掲げていたとしても、リーダー自身が内なる生命と調和していなければ、本当に必要な変容は起こっていかない。」

「これはとても大事なことで、今回の旅でも自分の内側にあるスペースを豊かに『感じる』ということ、その上で新たなパラダイムで「考える」ということの2つの往復をしながら現れてくるものを味わっていけたらと思っています。」

リジェネラティブ・リーダーシップとは、頭で覚えるものではなく、自分の内側にある感覚や取り巻くシステムとの関係性に自覚的になることで自然と立ち現れてくるもの。それが小林さんの一貫したメッセージだ。

命の摂理と分離した人間が抱える不安

小林さんのリジェネラティブ・リーダーシップに関する話を受け、同じくホストを務める株式会社森へ創設者の山田博さんも、自身の体験を話してくれた。

「僕は2006年から森に入り始めたのですが、なぜ森に入ったのかというと、この世界に生きている苦しさのようなものが色々と感じられてきたからです。僕は2000年ぐらいからコーチングを学んで、1対1で相手と話し、その人の内面で起きている『何か』、見えないところで起きている『何か』に焦点を当て、その人自身がその存在に気づいていくというプロセスをサポートしてきました。」

「コーチングをやっていく中で気づいたことがありました。それは、みんなどこかで拭えない不安を抱えているということでした。仕事で成功した、お金が入った、人とよい関係ができたなど、人間社会のなかでは上手くいっている。でも、どこかで不安のようなものを感じている。それは何なのだろうという問いを持ち始めて、そのときに僕が感じていたのは『何かが分離している』という感覚でした。」

株式会社森へ創設者・山田博さん

「もともと繋がっていたものが分かれてしまい、それが苦しいという感じです。これは何だろうと思ったときに、直感で自然の中に入ったほうがよいなと思いました。僕にとっての自然は子供のころから遊んでいた森だったので、それから森に入るようになりました。」

「そのときに感じたのは、結局何と分離していたのかというと、まさにGilesやLauraが言うような『生命の摂理』と分離しているということです。僕らも毎日生きて、血が流れて、呼吸して、呼吸は大地とつながっています。命の摂理のなかで生きているのですが、錯覚として自分を自然から切り離してしまっているのです。この分離を、森のなかでつなぎ直す。当時は『つながりを思い出す』と言っていましたが。」

「人と一緒に森に入り、ゆっくりと過ごしている中で何が起こったかというと、不安が消えていくんですね。分離していることから起きていた恐れや不安。これは生命としての根源的な不安だという気がしたのですが、そういうものが和らいでいくような感じがしたのです。」

「それが一人、二人ではなくほとんどの人に起きていくということを体験したとき、宇宙の摂理のようなものにつながり直すことが極めて重要で、それがこれからの社会や人間がこの地球上のすべての生命と共に繁栄していくことにもつながると思いました。そんなことを考えてやっていたらやすさんの紹介でこの本に出会ってしまい、世界でも同じことを考えている人がいることを知って感動したのです。」

人間社会の中でいくら上手く行っていたとしても、どこか不安で心が満たされない。山田さんは、その根源的な不安は、人が自然から遠ざかり、命の摂理と分離されてしまったところに起因すると語る。

それでは、もう一度自然とつながり直し、心が抱えている根源的な不安を取り除くためには、どのような点に意識を向けるとよいのだろうか。

考えたことは対立するけど、感じたことは否定できない。

「今話したようなストーリーは色んな場所で色んな人に起きていると思いますが、新しい知識を身につけ、自分の生活に実装していくというときに欠かせないのが、自分の感覚で捉えるということです。」

「たとえば、命の摂理とリコネクトするといったときに感じるのはどんな『感じ』なのか。それは人によって千差万別で、一言では絶対に説明できません。自分の中にしか起きない感覚、センスなのです。それを自分に感じさせてあげることが大事です。」

「どちらかというと考えることがメインで、感じさせるということがしにくい社会、常識、世界、人間関係になっていますが、そうではなく、自分にたっぷり感じさせてあげる。そういう時間とスペースを作っていけばよいのではないかなと思います。」

頭で考えるのではなく、感じること。ここでも山田さんのメッセージは小林さんのメッセージと呼応する。リジェネラティブな在り方は思考から生まれるのではなく、自分自身の直感や感覚から生まれるのだ。

ただ、いくら自分の内なる声に耳を澄ませようと思っても、人間社会に閉じられた雑音の多い環境の中では感覚が鈍ってしまい、自分の内側にある声が聞こえなくなってしまう。だからこそ、静かでゆっくりとした時間が流れる森や自然の中に足を運び、鈍ってしまった感覚を取り戻すことが重要なのだ。

全体での対話の中でも「考えたことは対立するけど、感じたことはすでにあるものだから否定できない」「沈黙や感覚を大事にしていいという場がはじめてでとても心強く温かい」といった話がでてきた。頭ではなく、身体で感じること。その身体感覚から出てきた振る舞いは、自然と他者と共生し、調和するものなのかもしれない。

グラフィックレコーディング by @yamada_graphic

体験後記

第一回のセッションは、最後に再び参加者全員で30秒間の静かな時間をとり、幕を閉じた。この沈黙は、2時間半でたくさん浴びたインプットに対して自分がどのように感じ、何を思ったのか。それを心の中でゆっくりと反芻する時間となった。

冒頭にも小林さんから「それぞれの旅を、それぞれのリズムとペースで」というメッセージがあったが、これからどのような旅路になっていくのが楽しみだ。

このレポートを読んだ方も、ぜひ一度目を閉じてみて、いま自分が感じていることをゆっくりと味わってみてほしい。その感覚を大切に扱うことで、自分の内側に秘められた、自分らしいリジェネラティブ・リーダーシップが自然と立ち現れてくるはずだ。

なお、この「Journey of Regeneration 再生の旅」、今回は反響も大きく定員となってしまったが、次回以降のジャーニーを優先的にご案内する「ネクストジャーニーチケット」が用意されているそうだ。興味ある方はぜひこちらをチェックしてみてほしい。

※本セッションの動画アーカイブは、こちらから購入可能です。

【参照サイト】Ecological Memes
【参照サイト】Journey of Regeneration

FacebookTwitter