【後編】南米一幸せな国ウルグアイに学ぶ、本当の先進国とは? 〜サステナブルスクール編〜

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前編では、ウルグアイの首都モンテビデオが「デジタル」「交通」「市民参加」など多面的にスマートシティ化を進めている背景には、市民の生活の質の向上という目的があることを明らかにした。後編では、ウルグアイにある南米初のサステナブルスクールの活動を見ながら、「南米一幸せな国ウルグアイに学ぶ、本当の先進国とは?」の問いについて考えてみたい。

アースシップのサステナブルスクールとは?

首都モンテビデオから車を一時間ほど走らせた町に、サステナブルスクールがある。サステナブルスクールと呼ばれている理由の一つは、「アースシップ」という建築スタイルを適用しているからだ。アースシップとは、アメリカのニューメキシコ州に拠点を置く建築家のマイケル・レイノルズ氏が1970年代から建て始めた住宅スタイルである。太陽光や雨水などから自然ネルギーを利用し、廃材や近隣で手に入る素材を使用し建てるオフグリッドハウスの代名詞ともなっている。

サステナブルスクール

サステナブルスクール

ウルグアイのサステナブルスクールでは、「水」「エネルギー」「パッシブサーマルビル」「ゼロウェイスト」「食料生産」「コミュニティ」の6つのマニフェストを掲げている。ソーラーパネルや雨水再利用システムを利用しエネルギーを自給自足したり、建物全体の約60%をプラスチックやガラス、缶、ダンボール、タイヤなどのリユース素材でまかなったり、構内で食物を自給したりと、学校全体がサステナブルな仕組みになっている。

このプロジェクトを実施したのは、ウルグアイのNGO「Tagma」である。今回、メンバーの一人であるMartín Espósito氏に話を聞いた。

お互い気にかけながら作業を進める。

Tagmaメンバー

サステナブルスクールを作ろうと思ったきっかけは、2012年にさかのぼる。当時、巨大採掘企業が天然資源を抽出するウルグアイの経済モデルに反対していた仲間たちと一緒に、これから持続可能な発展を望むのであれば次の世代の人を教育する必要があると思い、教育分野で新しい取り組みを始めることにした。その際、マイケル・レイノルズ氏を題材にした映画「Garbage Warrior(ゴミの戦士)」を見て、建物にサステナブルなシステムを取り入れる方法について知ったという。

「映画を見て、アースシップは、水や食料、エネルギーとつながる場所であり、『生き物』だと感じたんだ。そこで、目に見えない『サステナビリティ』を体感できるツールとして、建物を使おうと思ったんだ。マイケルが建てているアースシップを作れば、サステナビリティは裕福な人やヒッピーな人に向けたものではなく、みんなのためのものだと思ってもらえるのではないかと考え、彼に連絡した。それから資金調達をし、許可を得て、土地を獲得していったんだ。」

サステナビリティのはじまりは、人や環境とつながること

4年後の2016年に、マイケルとそのチームがウルグアイにやって来たとき、30カ国から約100人の学生やボランティアたちも一緒に現場に集まった。

サステナブルスクールのユニークな点は、建物自体だけではなく、その建て方にもある。建築家のマイケルが、大工作業をやる人や世界中の学生、地元のボランティアの人たちと一緒に45日間という短期間で完成させる、地域を超えたコラボレーションプロジェクトなのだ。

世界中から建設に関わってくれる仲間がやってくる。

世界中から建設に関わってくれる仲間がやってくる。

学生たちは、このプログラムに参加することで、ロッジに住み、サステナビリティや建築についての授業を受けながら、実際にサステナブルスクールの建築を体験することができる。地元のボランティアの人たちは、参加者の食事を作ったり、ロジスティックやコミュニケーション分野でのサポートをしてくれる。

「地元の人に建物とのつながりを感じて欲しいから、ボランティアの多くは近郊のコミュニティに住んでいる人だね。つながりを感じられればそれを維持したいと思うでしょ。建物自体は、手入れしてくれる人がいなければ、崩れ落ちるだけだから。サステナビリティは、人や環境とのつながりから始まると思っているんだ。逆に言えば、人々やコミュニティがシステムを支えているし、サステナビリティに意味を与えている。大きなサステナブルな建物を一緒に作ることで、壊れにくいつながりを作ってくれる。実際、建設に関わる人たちのエネルギーが建物のパワーにもなっているんだ。」

実際、運営側がプロジェクト中最も大事にしていることは、関わってくれる人たちとの関係性を維持することだ。毎日、みんながどう感じているのか、どう関わっているのか気にかけているという。

建物はツール。サステナブルスクールで学べること

世界各国からのエネルギーが詰まったサステナブルスクール。完成した後は、地元の公立学校として運営されている。この学校は、生徒がサステナビリティを学んだり、身体で感じとったりする場所として最適だ。

「電気は太陽光から賄われ、タンクに貯められた雨水は手洗い場やトイレで使われ、オーガニックウェイストはコンポストされている。循環のシステムに身を置き、エネルギーが生まれたり、生ゴミから肥料へ変化したりする様子をじかに見ることで、自分が自然のシステムの一部なんだと理解することができる。水はペットボトルから湧き出てくるのではなく、海や川から流れてくるものだと理解するには、それを見たり触れたりしないと、なかなか頭だけでは理解しにくいでしょ。」

子供たちが描いたサステナブルスクールの循環システム

子供たちが描いたサステナブルスクールの循環システム

また、単発のワークショップではなく、カリキュラムの中で、サステナビリティを取り入れることに対してもこだわりがある。

「新しい教育の方法としてサステナビリティを導入したいんだ。その中で、建物はあくまでツールであり、自分たちのアイデアを具体化したもの。大事なことは新しいコンテンツを作ることだ。」

サステナブルスクールの生徒たち

サステナブルスクールの生徒たち

人・都市とサステナビリティとの関係

Martinは今の地球環境問題は、私たちが周辺環境や動物、バクテリアと切り離されていると考えていることから生まれているという。

「まず、自分たち人間が地球システムの一部であると思い、自然とつながり直さないといけない。そして、人間はこの地球上でもっとも影響力のある動物であると自覚しないといけない。この2つがあれば変化を起こせる。」

とはいえ、都市に住んでいるとどうしても自然とのつながりは感じにくい。どうしたら良いのだろうかと悩んでいると、思わぬ答えが返ってきた。

「都市でサステナビリティを感じるには、まず人とつながる場所が必要。そのため、様々なバックグラウンドの人と出会い、交流できる公共空間が大事になる。毎日、いつも自分が行ってくる場所や話している人としかつながっていないでしょ。自分と違う人を怖がらず、彼らの問題や、まわりのリアリティを知らなければ、環境のことを考えることはできない。人とつながり直すことで、自分は都市や自然システムの一部であると感じられる。人に関心を向け労わることで、自然の一部をケアしていることになる。だから、最初にやることは人とつながり直すことだね。」

人間は自然の一部である。都市における自然は、人。だったら、まず、人とつながることが必要ということだ。もちろん都市に住んでいても、公園などに行き「自然」と触れ合う機会は持った方が良いだろうが、都市は都市なりの別の「自然」とのつながり方があるのだ。

公園でマテ茶を飲みながらくつろいでいる人々

公園でマテ茶を飲みながらくつろいでいる人々

これから大事になる“小ささ”

温室効果ガスの排出量は上昇し続け、温暖化が減速する気配はない。プラスチックゴミ汚染も広がり、その処理を巡って国際問題が発生している。また、新型コロナウイルスが世界的に流行し、人々の価値観やライフスタイルにも大きな影響を与えている。

地球規模で考えなければならない問題が多い今、私たちはこれからどんな世界を目指していけば良いのか。Martinの答えは、「ローカル」だ。

「大きな社会が機能するとは思えないな。小さなコミュニティが大事。その上で、違うコミュニティとつながっていく。小さい社会はお互いを理解するために最適だね。」

実際、ウルグアイという国も、人口300万人ほどの小ささだから新しいことに挑戦するのに適している国だという。

「ウルグアイは政治家との距離が近い。連絡先も公開されているし、議会も気軽に行きやすい。国民一人一人が国の意思決定に近いと感じられるところが、ウルグアイの強みだね。」

モンテビデオの政府機関の入り口

モンテビデオの政府機関のセキュリティは厳しくない。

南米一幸せな国ウルグアイに学ぶ、本当の先進国とは?

前編のスマートシティ政策とも合わせ感じたことは、ウルグアイはサステナビリティを考えるにあたって、「人」に焦点を当てているということだ。

スマートシティも、サステナビリティも、目的は、人の幸福度を高めることであるのならば、「人」の視点を忘れてはならない。そのとき、「いつも関わる人」だけでなく、「様々なバックグランドを持った人」、「『ヒト』と種は違う他の動物」、「植物」、と言うように、「仲間」の範囲を広げると、Martinが言う「人間も自然の一部である」という意味がはっきりしてくるのではないか。そして、そう感じるには、小さなコミュニティで暮らすことが大事になってくる。一方、都市に住んでいても、「人」を通して自然とつながることができる。

最後に、冒頭の問い「南米一幸せな国ウルグアイに学ぶ、本当の先進国とは?」について改めて考えてみたい。

「先進国」は英語で”Developed countries”または”Industrially advanced countries”と訳せるように、工業的に進んでいる国のことを指すのが一般的である。しかし、社会の「循環」を推進するオランダの社会的企業「サークル・エコノミー」が発行する「サーキュラリティ・ギャップ報告書2020年版」では次のように書かれている。

私たちはすべて途上国である。人類にとって、生態学的に安全で、社会的に公正な活動空間を設けることが最終目標である。

環境負荷は少ないが社会のベーシックニーズを満たせていない国がある一方、社会的基盤はしっかりしているが環境負荷の大きい国もある。つまり、この2方向のバランスを考えると、すべての国が途上にあるのだ。(※一部抜粋)

これまでは工業的に発展し経済が豊かになった国が、「先進国」と呼ばれていたが、それはあくまで「経済」という一つの指標からみた一側面にすぎない。これからの「先進国」は、我々人類が他の生物と共生していける「環境」と人間らしく生きていける「社会」を両立させられる国なのではないだろうかと提唱している。このコンテクストにおいて、ウルグアイは、「環境」と「社会」のバランスの良い先進的な国の一つである。

ウルグアイの事例から学んだ、「人やその集合体である『社会』を大切にすることが『環境』の向上につながる」という考え方は、これからの国のあり方を考えていく上で欠かせないものとなっていくだろう。世界の「当たり前」が崩れかけている今だからこそ、誰かが決めた一つの基準に惑わされることなく、自分たちが目指したい社会・世界をきちんと議論しながら考え、つくっていくことが求められている。


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【参照サイト】Una Escuela Sustentable

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