IDEAS FOR GOODではこれまで食品ロスやファッションロスなど数々なロス問題を取り上げてきたが、文化的なロス問題も存在する。
全国の伝統工芸品は1984年に生産額がピークを迎えた後、バブル崩壊後の長い経済低迷や安価な海外製品の台頭、ライフスタイルの変化などによって生産額も年々減少。現在はピーク時に比べ5分の1、約1,000億円程度の生産額になっているそうだ。
かつて日常生活の中で親しまれてきた着物においても同様だ。問屋からの受注(売上)減少や百貨店での販売不振など、業界全体が低迷している。また、着物の原料である絹においては、平成27年の全国の養蚕農家数がわずか368戸、全国の繭生産量は135トンと、8年前と比べ生産量は約3分の1にまで減少している。
近年このように伝統文化の衰退が著しい中、「MUSKAAN(ムスカーン)」は、ヴィンテージ着物をアップサイクルし、新たな価値を生み出すことを試みている。
アイテムの中で多く使用されているのは、絹で作られた銘仙着物だ。銘仙とは、一般にいう「平織りの絹織物」で、大正から昭和にかけての女性の普段着やお洒落着として日本全国に普及した。経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交互に組み合わせるのが一般的な織物だが、銘仙は、経糸の色と緯糸の色を故意的にずらす「絣(かすり)」と呼ばれる織りの技法を用いることで、色の境界がぼけるような柔らかい見栄えを実現し、当時の流行となった。
見ていても古さを感じさせないほど、奇抜で斬新な柄デザインも特徴で、当時社会進出を図ろうとした女性のお洒落心や柄への興味、共感をひきつけたといわれている。
そういった伝統的なテキスタイルが持つ豊かな柄や素材を通して、MUSKAANでは忘れかけられている日本の生活や文化の根底にある美意識を見つめ直し、現代のライフスタイルに落とし込んだデザインを創出している。
また、すべての商品は生分解性のある正絹着物を素材とした一点物のアイテムであり、熟練した縫製士により丁寧に仕立てられている。自然環境の循環やクラフトマンシップの保全など、サステナビリティを意識した希少で価値の高い衣服を展開中だ。
今年5月には、ブランドの拠点である熊本県熊本市にショールーム兼アトリエをオープン。ショールームではカスタムオーダー等を実施し、オンラインショップ未掲載の商品も展示している。
ライフスタイル自体が変化したことで着物自体に袖を通す機会も減り、昔からのものづくり産業自体も衰退の一途をたどっている。その中で、MUSKAANは着物のサステナブルな天然素材を生かすとともに、豊かなデザインを現代のファッションスタイルに生まれ変わらせている。エシカルファッションと聞くと、海外の先端的なブランドの取り組みをイメージするかもしれないが、日本の中にも「サステナビリティ」は根付いていたということに気づかされる。MUSKAANのアイテムを纏い、日本の文化にあらためて触れてみてはいかがだろうか。
【参照サイト】MUSKAAN(ムスカーン)
【参照サイト】MUSKAAN(ムスカーン)Instagram
Edited by Megumi Ito