リメイクで一点ものをつくるデザイナーに聞く、ファッション業界に必要な「民主化」とは

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2020年8月4日から8月16日まで、SUSTAINABILITY / HUMANITY<地球環境と人権>をテーマにしたファッションポップアップストア、BREATH BY DELTAが渋谷パルコで開催されている。世界中から集結した10のブランドの中で、リメイク・アップサイクルの一点ものを販売するブランドがある。2019年にファッションデザイナー、アーティスト、グラフィックデザイナー、スケーターがチームとなり立ち上げたファッションブランド、「TWEO(トゥー)」だ。

TWEOでメンズウェアのデザインを行う台湾出身の譚芸斯(タン ウンシ)さんは、文化服装学院でファッションデザインを専攻し、日本を代表するブランド「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」で7年間以上デザインを担当した後に独立し、TWEOに参画した経歴を持つ。一流のデザイナーとして活躍する中でサステナビリティを意識するようになり、メインのコレクションと並行して始めたリメイクやアップサイクルのプロジェクトに力を入れている。

ファッションは身に付けるものでありながらも、着る人・作る人、どちらにとっても自己表現の役割を果たすアートでもある。ファッションデザイナーとして、独自の創造を世に送り出す仕事を通して、どのようなサステナビリティ上の課題を感じ、どのように向き合っているのか。ファッションという特殊なジャンルにおいて、サステナブルなものづくりをしていく中で何を見ているのかを探るべく、譚さんに話を聞いた。

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譚芸斯(タン ウンシ)さん。TWEOでメンズウェアのデザインを行っている。

TWEO リメイクプロジェクト “the new norm” のコンセプト

今回のポップアップストアBREATH BY DELTAには、“the new norm”というリメイクプロジェクトのアイテムが13点出品されている。これらはすべて、譚さんのディレクションのもと入手したビンテージアイテムに、手作業でデザインとペインティングを施した、一点一点仕上がりの異なるアイテムだ。“the new norm”のコンセプトに、そのメッセージが込められている。

「最もサステナブルなファッションは、すでにこの世に存在しているものを楽しむこと」。もし環境負担が少なく地球に優しいファッションを始めたいなら、おそらくこれを覚えておくといいでしょう。

サーキュラーエコノミー第一人者である、英国のエレン・マッカーサー財団によると、2000年に比べ現在のファッション製造は2倍に膨れ上がっている一方で、60%の衣料は、たった1年の間に捨てられているそうです。一つの服を作るには多くの手を使う工程を繰り返すのにも関わらず・・・。

地球と人をもっとリスペクトし、ファッションの真の美しい姿を大切にしませんか?ファッションの世界に、もはや目新しいスタイルは存在しません。しかし、すでにあるものをリメイクしたりアップサイクルすることで、洋服に新しい命や個性を足すことができます。

それこそが、私たちにできるファッションを楽しむニューノーマルな形ではないでしょうか?

素材を生かして長持ちさせる。ラグジュアリーブランドが持つサステナビリティ精神

譚さんは、日本を代表するブランド「イッセイ ミヤケ」で、ファッションにおけるキャリアをスタートさせた。いわゆるラグジュアリーと呼ばれるファッション業界に身を置いてきたのである。その中で、ラグジュアリーブランドの中にあるサステナビリティの精神と、ラグジュアリーのジャンルにも存在するサステナビリティの課題の双方を、実感してきた。

ものづくりの観点から見ると、多くのラグジュアリーブランドは「素材を生かして長持ちさせる」「長く愛してもらう」という点は重視している、と譚さんは話す。

例えば、彼女が「イッセイ ミヤケ」で所属していたブランドは、テキスタイルに重きを置いており、自社で生地から製作していた。ジャガードなどの織りはどの箇所を見ても美しい、生地の具体的なコストを把握している、そして、生地の作り手を知っている。自然と、無駄を出さずに一つ一つの生地の魅力を最大限生かすことに専念するようになった。彼女が作るデザインがパタンナーの手に渡り、型紙に生地をマッチングしていく作業の中で、デザインに修正を加えながら余剰生地を出さないように仕上げていくのは、デザイナーの腕の見せ所でもある。

彼女は担当ブランドのプロジェクトに関わったことからインドの生地や服の作り方にも精通しており、そこから学んだことも多い。例えば、インドの服作りでは直線で生地をカットすることが多く、ゆえに無駄が出にくい。さらには、染色・刺繍・プリントなど多くの工程が丁寧な手作業で、人の手を感じられる。TWEO はインドの伝統をそのままスタイルとして引き継いだブランドではないが、その奥にあるものづくりのスピリットは、確実に今、彼女のデザインの中で生きていると言う。

ファッション業界が直面しているサステナビリティの課題

一方で、サステナビリティ上の課題は、ファッションビジネスのシステムの中に組み込まれてしまっているものが多い、と彼女は言う。例えば、余剰生産による在庫破棄・焼却、余剰生地、生産における環境汚染や人権の問題などがある。

しかし、こうした構造上の問題を残したまま、取り入れやすく消費者にも伝わりやすい、いわゆる「エコ素材」を取り入れるブランドがここ数年増えているという。少しでも罪悪感の少ない選択肢を選びたいという一般消費者側の風潮と相まって、中途半端なソリューションを拡大させてしまっている部分があるのだ。もちろん選ぶ素材の見直しは重要だが、結局廃棄が出てしまったり、サプライチェーンにおいて課題が残ったりしていては、本末転倒である。環境問題を語る上でどの業界でもそうであるように、根本的な仕組みの見直しをしないことには、大きな改善は望めない。

根本的な見直しをするために何ができるか考える中で彼女が出会ったのが、「スローファッション」という考え方だ。良質な服やすでにある服を愛着を持って長く楽しむファッションで、ファストファッションとは真逆の価値観として、特に海外のメディアでコンセプトが大きく支持されているのを目にすると言う。

実際、先進国に住み経済的にある程度余裕のある人たちの多くは、充分に服を持っている。それにも関わらず、新しい服を次々と求めてきた。スローファッションのコンセプトのもと、「そんなに慌てて、たくさんの服を作ったり買ったりする必要はない」というように、気持ちのシフトが起きれば、サステナブルにファッションを楽しむ理解の広がりはぐっと速くなるのではないか、と彼女は分析する。

ファッションデザイナーとして、過去を未来につなぐ

譚さんも、自分のクローゼットの中を改めて見た際、服の多さに愕然とした。それでもなお、新しい服が欲しいと感じる自分がいた。そこで、「私は服の作り方を知っている。今持っているものやすでにこの世に存在しているものに手を加えて、新しい服にしてしまおう」と思い立ち、そこから、手持ちの服や古着のリメイクを始めた。

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元々、古着が好きだったのもある。デパートやセレクトショップは、行く前から何が置かれているかはだいたいわかっている。それに対し、古着屋やビンテージショップには、行くたびに新しい発見があって飽きない、宝探しの感覚がある。さらに、古着は誰かが着込んだ過去や時間があるからこその質感や柔らかさ、他にはない味わいを持つ。これまでは、そうした味わいを新品で再現するためにお金と時間、環境負荷をかけてきたのだと思うと、胸が痛むと彼女は話す。

TWEOがリメイクプロジェクトの中で常に意識しているのは、「古着を改造する」というスタイルではなく、「古着にアートを施して、全く新しい、興味深い服を作る」ことだ。今回 BREATH BY DELTA に並ぶのも、古着のTシャツやジャケットに、アーティストがハンドペイントで画を描いたり、手作業でブロックプリントを施したもの。

服にアートを施すスタイルの一つとしてよく見かけるのは、シルクスクリーンやデジタルで名画などをプリントしているものだが、全てが同じに仕上がりになるよう、機械が使われることが多い。TWEOでは、一つ一つ手作業で、アーティスト本人が服にアートを足して生まれるパーソナルな服を楽しんでもらうことを目指している。

アートとファッションの世界に立ちはだかる壁

「アートとファッションについて考えていると感じるのは、どちらも民主主義的ではないということ」と、譚さんは少し声を上げて話し始めた。アーティストもファッションデザイナーも、いくら素晴らしい作品を作っていても、しかるべき人と出会うチャンスがないと日の目を見ないことがあるのを見てきた。

先日、岡本太郎さんの本を読んでいて、アートの世界は未だにヨーロッパの視線が強いことに気づかされたそうだ。「ヨーロッパの、ひいては西洋の権威に認められることがすなわち一流」という考え方は根強い。例えば、ヨーロッパやアメリカの大きな博物館や美術館に行くと、アジアや南米、アフリカなどの古代の美術品が展示されている。しかし、実際にはそれらは全体のほんの一部であり、研究やキュレーションによって価値があると認められたものとして置かれている。「それ以外にも、作り手のメッセージや生命力を感じさせるものも埋もれていたに違いないのに・・・」と悔しさや虚しさを感じると、彼女は続ける。

“Black Lives Matter”の動きが世界中で続いており、今も根深い植民地主義の名残りについても話題になることが多い。かつて植民地だった国がその国の伝統として作り続けているものが、かつての支配国の視点から、「クラフツマンシップ」として世界の脚光を浴びることがある。元々その被支配国にいた人たちにとっては生活の一部だったものが、支配国の基準に沿って承認されることによってアートとして価値が与えられる構造にも、疑問を感じると彼女は話す。

強いものから付与される価値が必要である環境は、ファッションの世界でも同様である。作品やブランドの見せ方には「選ばれたい」という気持ちが作用してしまう。パリでショーや展示をすることが成功への切符であるという概念が、特に若いデザイナーの自由な表現や届けるメッセージに、制限をかけているかもしれないことを彼女は懸念している。それはサステナビリティや社会的メッセージの伝達に挑戦したいブランドにも、よくも悪くも作用する可能性がある。

ファッション業界を民主化したい

ファッションの業界内に存在するいわば政治的な難しさと、ファッションビジネスがもたらす環境汚染や人権問題から、ファッションが問題視されることが増えているが、「悪いのはファッションそのものではなく、システムや構造。ファッションは、常に人に喜びや表現の自由を与えるものであって欲しい」と譚さんは切に願っている。

構造の問題の解決には大きな決断と時間を要するが、一方でファッション業界の民主化がもっと進めば、小さなブランドが起こせる大きな変化に期待ができる。TWEOをはじめ、BREATH BY DELTA に参加しているブランドの多くは、名門のファッションスクールや有名ブランドを経て独立し、自身のコレクション作りに挑戦している。彼らは、大きな世界も小さな世界も、どちらも見てきている。

最近は、若い世代のファッションインフルエンサーも、「スローファッション」や #payup(バングラデシュを中心に、コロナの影響で注文をキャンセルしたことにより未払いになった賃金の支払いを、大手ファッションブランドに求めるムーブメント)や、ウイグル自治区で強制労働によって生産・供給されている綿の問題など、ファッションのあるべき姿と構造的問題を、ソーシャルメディアを通して訴えかけている。業界内の民主化はこういった形で、若い力や小さいところから進んでいくのではないかと、彼女も勇気をもらっているという。

気付き、受け止め、学び、助け合い、闘うこと

最後に彼女は、ファッションデザイナーとして、そして感染症拡大と反人種主義運動などで混乱している今を生きる一人の人間として、こう締め括った。「皆が過ちを犯してきたし、今も誤りがあるかもしれません。大切なのはそれに気づき、現実を受け止め、そこから学ぶこと。そして周りと協力し合い、自分と周りのために闘い続けること。そう簡単には変わらないかもしれなくても、まずはスタート地点に立ち、一緒に少しずつでもできることを始め、継続していくべきなのではないでしょうか」

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インタビュー後記

ファッションの歴史の中には、社会との接点から生み出された変化が多く存在する。気候危機や人権問題という大きな課題を抱え、ファッションのあり方が問われている今。クリエイティビティを世に送り出す存在であるデザイナーの言う、「悪いのはファッションそのものではない」という言葉の裏には、ファッションを悪者にしないよう、作り手として環境問題や社会問題と取り組む意志がある。

ファッションの世界の民主化も、その動きの一つと言える。コロナ後の世界を話す言葉として「ニューノーマル」がよく使われるが、彼女たちが自身のプロジェクト “the new norm” を通して伝えるメッセージは、払う代償が大きいファッション業界の中での「ニューノーマル」を伝えてくれる。

衣食住の一つとして生活に不可欠ながら、アートでもあるファッションを通して、多くの小さな力が歩み寄り、新しい風を吹かせているのを感じた。

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【参照サイト】TWEO

Edited by Tomoyo Matsuda

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