想いが分かれば心が動く。作り手とつながるファッション【Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜トークライブレポVol.5】

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IDEAS FOR GOODでは、自分が自然や人とどのような「つながり」をもっているのかを可視化し、これからどんな「つながり」を築いていきたいのか、読者の皆さんと一緒に考えていきたいという思いから、「Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜」を企画しました。

今回は、8週連続トークライブ配信イベントより、2020年7月14日に行われた、第5回「想いが分かれば心が動く。作り手とつながるファッション」のイベントレポートをお届けします。

今回のゲストは、“人や環境に配慮した洋服”のみを世界中から集めて販売するセレクトショップ「Enter the E」創業者の植月友美さんです。エシカル専門のセレクトショップオープンに至る経緯や、作り手と買い手の、つながりの「リ・デザイン」について詳しくお話をお伺いしました。トークのファシリテーターはIDEAS FOR GOOD編集長の加藤佑がつとめています。

話者プロフィール:植月友美(うえつき・ともみ)

植月さんGEORGE BROWN COLLEGE(ジョージブラウンカレッジ)FASHION MANAGEMENT卒。
18歳からファッション業界に入り古着のバイヤーなど経験。グローバルビジネスを学ぶため渡加、渡米。COLLEGE卒業後 NYで就労を経験、帰国後12年間日本の大手小売企業で店舗運営、バイイング、商品企画、事業開発、マーケティングなど担当。2009年、杜撰なファッション業界の環境破壊を目の当たりにし、人や地球に迷惑をかけずに洋服を楽しめる社会をつくること決意。人生をかけて、「地球と人が服を楽しめる社会の両立」実現を挑む。2019年ジャパンソーシャルビジネスサミット 審査員特別賞受賞。2019年ビジネスで社会問題を解決する集団、株式会社ボーダーレスジャパンにジョイン。

エシカルファッションのセレクトショップ「Enter the E」とは?

──Enter the Eは、“地球と人が洋服を楽しめる社会の両立”をミッションに掲げ、昨年の9月に事業化されました。固定の店舗は持たず、商業施設やギャラリーなどで期間限定のポップアップストアを開催しています。

「Enter the E」ポップアップサロン

「Enter the E」ポップアップストア

植月さんがショップを立ち上げた背景にあったのは、アパレル産業が引き起こしている環境破壊や労働問題ついて知り、衝撃を受けた経験でした。

植月さん:アパレル産業は生産から出荷までの工程全てで、気候変動や土壌・水質汚染を起こす原因を作っており、全業界の中で2番目に環境負荷が高い産業とも言われています。例えば、洋服の生産時に必要なコットンを早く安く大量に作るために使われる農薬の量は、世界の農薬使用量の4分の1を占めているというデータがあります。そしてその農薬の中毒によって、約7万人の生産者が苦しんでいます。また洋服のリサイクル率は他の製品に比べてとても低いことも問題です。日本国内だけでも年間100万トン、数にして33億着が捨てられており、新品も6割ほど破棄されているという事実があります。業界にたずさわる人の労働搾取も深刻で、聞くだけでも心苦しくなります。

日本国内では「人や環境に配慮した洋服を身に付けたい」という意向を持っている人は8割にも上るという調査結果があります。この結果は5年前と変わらない割合で、日本ではまだまだエシカルファッションのつくり手やオーガニック素材の保護が足りておらず、デザインや価格の選択肢も少ないために、なかなか一般化には至っていないことを表しています。

そこで私は、日本ではまず “エシカルファッションの選択肢を増やすこと” が一番必要だと考え、このショップの立ち上げに至りました。

──現在Enter the Eで取り扱っているのは25種類ほどのブランドで、全ての洋服は植月さん自身がファウンダー(創業者)に直接会って仕入。商品をお客様に安心して選んでもらえるように、以下のような基準を元にセレクトされているそうです。

<選定基準>
①持続可能な素材かどうか
②透明性
③デザイナー、ファウンダーのビジョン
④作り手へのリスペクト
⑤エネルギー、CO2削減に対する努力

植月さん:服を選ぶときにこだわっているのは、エシカルでありながら、一般的な日本人が着やすいデザイン・価格・品質を兼ね備えていることです。そして、買う人にブランドの背景やストーリーを知っていただくため、ブランドに関する情報開示を行い、ひとつひとつ丁寧に紹介しています。直接商品を見て、触れることで知って欲しいという思いから、以前はオフラインでの活動にこだわっていました。

ポップアップストアでは「エシカル」や「サステナブル」に関して詳しく知ってもらうためのトークイベントも開催しています。「環境と洋服がどう結びついているのか」「エシカルファッションをどう始めたらいいのか」などをお話しし、「エシカルなものを選ぶことが当たり前」の社会を目指しています。

また、お洋服の無駄買いを防ぐためのカウンセリングも行っています。お洋服って、その場しのぎのお買い物をしてしまったり、家に帰っていざ着てみたら似合わなかったり、持っているのものと同じようなアイテムを買ってしまったりすることがよくありますよね。それを未然に防ぐには、お客様がお洋服を買うときに一人ひとりと向き合って、その人とお洋服が「持続可能かどうか」を一緒に考えること。こうした取り組みを通して、お洋服を大切に着てもらい、廃棄を減らすことにつなげたいと思っています。

カウンセリングの様子

カウンセリングの様子

絶望のなかで出会ったエシカルファッション

加藤:植月さんはすでに10年以上ファッションに関わるお仕事をされていますが、そもそもファッションに関わるようになったのはなぜだったのでしょうか?

植月さん:もともと実家が洋品店だったのでお洋服は常に身近なところにあり、自分も将来はお洋服に関わる仕事をするのだろうと考えていました。18歳のとき、早くビジネスをしたかった私は、専門学校へは行かず日本の某老舗の百貨店や古着屋さんで働くことにしました。そのうち洋服の生産過程をもっと詳しく知りたいという思いから、20歳のときに洋服のグローバルビジネスを学びに海外へ飛び立ちました。アパレルビジネスに関するあらゆる経験、実践を積んで、自分が本当にやりたいビジネスは何なのかを探していましたね。

加藤:「エシカル」や「サステナブル」というキーワードに出会ったきっかけはどんなものだったのでしょうか?

植月さん:24歳のときに海外で大病をしてしまったため日本に帰国し、初めて大手の企業に就職しました。しかし、その会社でそれまでの経験が上手く活かせないもどかしさからストレスがたまり、洋服の買い物に没頭してしまいました。とても恥ずかしいのですが、借金をしてしまうくらいにお洋服を買ってしまったんです。そのとき、好きな服を好きなだけ着るという経験をして初めて、自分のためだけにお金を使い、自分の楽しみのためだけに浪費することにとてつもない虚しさを感じたんです。経済的にもどん底で、自分はなんのために生きているんだろう?とまで思いました。

それをきっかけに、「誰かのために生きたい」と強く思うようになりました。どうせなら洋服で誰かに貢献したい。そう考えていろいろと調べ始め、そこで初めて環境破壊や労働搾取などお洋服の生産背景にある問題を知り、自分の大好きなお洋服のせいで犠牲になっている環境や人がいるということに、まず大きなショックを受けました。「サステナブル」や「エシカルファッション」というキーワードに出会ったのはこのときです。

そこからは自分に何ができるのか知るためファッション業界の抱える問題の根本の原因の追求を始めると、自分も無自覚にこの負の循環に加担していたことを知り、自分を責める気持ちが湧き起こりました。しかし、それにより「生産過程が見えない」という業界の構造のひとつの問題点に気づくことができたとも言えます。

その後「生産過程が全て見えれば問題は解決する」と考えた私は、自分で育てて自分で着る「自産自着ビジネス」の事業化を10年ほど本気で試みていました。しかし、この方法で社会を変えるのはとても難しく、まずは “日本のエシカルファッションの選択肢” を増やすことが先決、という結論にいたり、昨年のセレクトショップ立ち上げに至りました。

エシカルの定義は、人それぞれ

加藤:植月さん自身、洋服を作る力を持ちながら、あえて自分は今必要だと思うセレクトショップ経営をするというところが、非常にミッションドリブンですね。

植月さん:まずはエシカルファッションが普及する土台を作ることが何より重要だと考えています。ショップ開設にあたって、世界や日本のエシカルなブランドについて徹底的に調べ、分析しました。

日本には、とてもこだわりのあるエシカルブランドがたくさんありましたが、経済的に現実的ではないものが多いのが難点でした。一方欧米やオセアニアでは、エシカルな暮らしを必要としている人が多く、日本よりも大きな市場があるため、価格もそこまで高くないものがたくさんありました。ならばその人たちが作った洋服を日本で売るのが一番良いと考え、数百人の創業者に会い、日本の人が好むデザインや価格の幅を意識しながら洋服を選んでいきました。

また、サステナブルやエシカルの定義は本当に人によってさまざまです。ブランド固有の考え方をリスペクトしつつ、自分の価値観にも合うものをセレクトしています。

──ここで植月さんが、会場に持ってきていただいた、Enter the Eで実際に取り扱っているブランドのお洋服を紹介してくださいました。

植月さん:スペインのブランド「Thinking MU」は、創業から10年ほどのブランドです。洋服のプリントは、メッセージ性が強く遊び心があるものが多いことが特徴ですね。一方で、生産に対する姿勢は非常にストイックです。取り扱う素材全てがGOTS認証(※)を持っており、生産過程においては「nothing to hide (何も隠すことがない)」をポリシーに掲げています。その証拠に、洋服のタグについている商品のQRコードを読み込むと、そのお洋服の生産に使用されたCO2の量、水の量、携わった人の数などを見ることができるのです。これだけ手間をかけているのに値段も手頃で、Tシャツなら5000円程度です。このブランドのファウンダー(創業者)は、哲学や環境学、植物学などに通じていて、「洋服を通じて社会を変えたい」という熱い想いを持った人なのです。

※GOTS認証:オーガニックの繊維製品の国際認証・グローバルオーガニックテキスタイル基準

スペインのブランド「」のTシャツ

「Thinking MU」のTシャツ

イギリスのブランド「BIBICO」は、インドやブルガリアの小規模なパートナー工場とフェアトレードを行う、創業14年間ほどの小さいブランドです。もともとZaraのデザイナーをしていたファウンダーが、「人としてより倫理観のあるものづくりをしたい」という想いから立ち上げました。こちらのブランドは、オーガニックやフェアトレードなどの認証は持っていません。工場と自分たちの間にはすでに十分な透明性があり、間に認証機関を入れることにお金を使うのなら、着る人に少しでも手頃な値段で提供したい、という想いがあるのだそうです。また、使用しているオーガニックコットンは全体の半分程度ですが、それでもこのブランドを取り扱うことにしたのは、ファウンダーの想いに心を動かされたからなのです。

イギリスのブランド「」のカーディガン

「BIBICO」のカーディガン

加藤:ひとことで「エシカル」と言っても、本当にさまざまな哲学や人の想いがあり、それ自体がたくさんの選択肢だと感じました。その中から自分に合った選択肢を見つけられる場所を、植月さんが作っているのですね。

つくり手と買い手をつなげる、「顔が見えるオンライン受注会」

──ポップアップストアでの販売も精力的にしていたEnter the Eですが、コロナ禍では新たに「顔が見えるオンライン受注会」の開催を始めました。

植月さん:これまでも少量仕入を行っていましたが、コロナ渦では在庫ロスは防ぎ切れませんでした。だから、「必要なものを、必要な分だけ」受注してお届けすることにしたんです。ZOOMをつかって毎回ご紹介するブランドのファウンダーと皆さんをつないで、ビデオをオンにして文字通りお互いの「顔が見える」ようにしています。

最初にファウンダーからブランドのストーリーや背景の紹介をしてもらい、その後私から、セレクトした商品のポイントやコーディネート、お手入れ方法などをお話ししています。参加者はファウンダーにチャットで直接質問できますし、気に入ったらその場でお洋服を購入できます。Enter the Eは必要な分だけお洋服を仕入れます。受注会は1回60分ほど。すでに3回終了し、これまでに330人もの方が参加してくださいました。

オンライン受注会の広告

オンライン受注会の広告

加藤:生産者と消費者のつながりをとても上手に「リ・デザイン」されているなと感じます。両者の距離が遠いと、お互いに「責任」を持ちにくくなってしまう。その距離を近づけることは、どの業界でも必要ですよね。

植月さん:今までの構造では、作り手と買い手のつながりが無く、お互いの「顔が見えない」状態。でも、作り手の想いを直接聞くと、その後お洋服を着るときの感覚は変わってくるものです。中にはファウンダーのガールフレンドがプリントした服もあり、そういうエピソードを知っていると、デザインだけを気に入って買った服よりきっと大切にできると思うし、より愛や敬意が生まれると思うんですよね。

一方でつくる方も、「どんな人が自分の作る洋服を着たいと思っているのか」「どういったところに需要があるのか」などを、参加者の反応や質問によって知ることができます。関わり合うステークホルダーの「顔が見える」状態で、両者の間にあるズレや認識不足を改善する。これはお互いにとって良いムーブメントだと感じていますね。

オンライン受注会の目指す構造

オンライン受注会の目指す構造

コミュニケーションの「リ・デザイン」で社会を変えていく

加藤:作り手、お客さん、それぞれのコミュ二ケーションを本当に大事にしているのですね。製品の製造背景を知るだけでも、買った後に大切にできる度合いは大きく変わりますし、こういったことがエシカルな商品との向き合い方につながっていくのだと思います。

植月さん:私の中では、「自分は洋服の作り手ではない」という一種の引け目を感じることもあります。でも、みんながみんな作り手になってしまったらどうでしょうか?エシカルなものづくりをすることはもちろん素晴らしいですが、社会を変えるためには、スピード感を持って普及させるためのプラットフォームをつくり、インフラを整えることも同じくらい必要です。

環境や人に配慮した素晴らしいブランドはたくさんあるのですが、広く認知される前にブランドが潰れてしまうことは本当に多いです。中には認証を得ることにこだわってコストをかけすぎ、立ち行かなくなってしまうブランドもあるのですが、それでは本末転倒。だから、どんなに小さいブランドでも、Enter the Eが取り扱うことで一緒に発展できたらいいな」という思いで、活動を続けています。

加藤:エシカルが広がり、一人ひとりの行動が積み重なると、社会は確実に良い方に変わっていくと思います。植月さんのお話を聞いていると、僕たちは本当に自分が買っているものについて何も知らないということに気づかされ、生産と消費に関して改めて考えさせられます。

植月さん:今まで生産の部分に関して詳しく話してきましたが、消費者としてもできることはたくさんあると思っています。どうせ買うなら環境に配慮したものを買う、使う、お洋服のお洗濯を一回でも減らす。行動を一つ変えるだけでも、社会に大きなインパクトをもたらすと思っています。みなさんも、ぜひ一度オンライン受注会に参加し、エシカルな服を一着でも試してみてくださいね!

編集後記

最後に、参加者から「植月さんにとってお洋服とはどんな存在ですか?」という質問がありました。植月さんは、「私にとってお洋服は、“愛と敬意を感じるもの”ですね。それは、洋服はたくさんの人の関わり合いを通してできあがっていることをいつも感じるからです。また、洋服が買われた時は、娘や息子がお嫁に行ってしまうように感じるくらい、大切に思っています。」と答えていらっしゃいました。

かつての植月さんがそうだったように、自分の普段着る服や使うものの「背景」についてまず興味や疑問を持ち、その後ろにたくさんの人が関わっていることを意識する。そのうえで、自分にとっての「エシカル」とはどういうことなのかをそれぞれが考え、信念を持ってものを選べる社会になると良いですね。

次回のイベントレポートもお楽しみに!

【参照サイト】Enter the E
【Youtube動画】Design for Good 〜つながりのリ・デザイン展〜 Vol.5「想いが分かれば心が動く。作り手とつながるファッション」
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Text by Motomi Souma

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