下水から文房具をつくる、NY流サーキュラーデザイン

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シェアリングエコノミー(共有型経済)の考え方を基にした数々のサービスが人々の「所有」の概念を大きく変えてきたように、近年ではサーキュラーエコノミー(循環型経済)に準じた数々のプロダクトが、私たちが持つ「ごみ」の概念に破壊と創造をもたらし続けている。

廃棄物ゼロを目指すサーキュラーエコノミーにおいては、これまでの大量消費社会の枠組みでは廃棄されているものでも、うまく再利用することで「資源」に転換できると考える。今回ご紹介する、米ニューヨークのブルックリンを拠点に活動するインダストリアルデザイナーのギャレット・ベニシュ氏が始めたプロジェクト「Sum Waste」は、まさに私たちの固定観念を覆そうとするものだ。

Sum Wasteは、ニューヨーク市内の台所やトイレなどの水が流れ込む下水処理場で発生したバイオソリッド(下水汚泥)を使い、環境負荷の低いペンを作るプロジェクトである。ペン本体はバイオソリッドをバクテリアに与えることで生成される生分解性プラスチックからできており、インクはバイオソリッドを炭化して生じた木炭から作る顔料だ。

ペンは本体とインクボトルの2部品のみから成るシンプルなデザインで、ワンプッシュでペン先を出し入れすることができる。部品が他のペンと比べて少なく、廃棄物を活用することで製造工程の環境負荷を抑えている。また、インクボトルを簡単に詰め替えられるので長く使うことができ、捨てるときが来たら本体はコンポスト(堆肥化)、インクボトルは再利用に回すことで無駄のない循環が生まれる。

バイオソリッドで作るペン

Image via GARRETT BENISCH

ニューヨーク市は、過去にバイオソリッドを堆肥として一部利用していたこともあるが、10年前からはすべて埋め立て処分している。ベニシュ氏によると、その量は1日に約130万kgで、これは大型バスおよそ100台分の重さに匹敵するという。

バイオソリッドは通常、堆肥化による農地利用、セメント化などによる建築資材利用、そして埋め立て処分するのが一般的で、消費財としてリサイクルされることはほとんどない。しかしSum Wasteのペンが証明するように、技術的には生分解性プラスチックとしての再資源化が十分可能なのだ。

ベニシュ氏は「ペンは私たちの日常に溶け込む存在であり、私たちがバイオソリッドを消費財として当たり前に再利用していく最初の存在になっていく。人々の抵抗感が徐々になくなれば、スプーンやフォーク、容器などにも使える日が来るだろう」と語る。

毎日埋め立て処分されている大量の廃棄物に光を当て、新しい形での再資源化を提唱する当プロジェクトは、2019年5月のリリース以来、数々の賞を受賞して話題を呼んでいる。たしかに、人々が「街の下水汚泥」と聞いたときに漠然と持つ不潔なイメージさえ取り除くことさえできれば、環境問題へのインパクトは非常に大きく、資源の不足する今日、また一つ大きな循環の輪をつなぐことができるだろう。

Sum Wasteプロジェクトは「バイオソリッドを消費財としてリサイクルする」革命を今後どれくらい波及させていけるだろうか。筆者自身も正直まだ少しだけ抵抗を覚えているが、それと同時にすでに心のどこかでベニシュ氏の描く未来予想図に大いに期待している。

【公式サイト】SUM WASTE

Edited by Kimika Tonuma

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