電車の中や、スマホの画面でたびたび目にする広告。みなさんはその内容に違和感を覚えたことはありますか?
「ムダ毛のせいで彼氏にフられた!」というストーリーで脱毛を促すポスター。「アンチ・エイジング」を打ち出すコスメライン。……誰もが目にする広告は、価値観を新たに生み出すだけではなく、すでにある価値観をより強固にしていく機能を備えています。「少しでも若く見られるのが良い」「女性は毛のないつるすべ肌であるほうが好ましい」「男性は髪が薄くなったら育毛すべき」……内容を間に受けているつもりはなくても、そうした価値観は私たちの中に少しずつ繰り返し刷り込まれているのです。
こうした広告からもたらされる居心地の悪さをいかに乗り越えていけるかを考えるため、IDEAS FOR GOODは【Media for Good “ジェンダー・ポジティブ”な広告を考えるワークショップ】というイベントを開催。イベントのワークショップでは、参加者の皆さんにチームに分かれて、街中にあったら嬉しい、理想の広告のストーリーを考えていただきました。
テーマはダイエット、アンチエイジング、美白、脱毛の4つ。身の回りで目にするこれら4テーマの広告には、「痩せているほうが良い」「若くあらねばならない」「しみ一つない真っ白な肌であるべき」「ムダ毛のないつるすべの手脚でなければならない」──こうした「べき」が色濃く反映されていることが少なくありません。しかし、今回のワークショップでは参加者たちの自由な発想から「誰も否定しない」「固定観念で縛り付けない」ポジティブな広告アイデアが多く生まれました。
今回、私たちはワークショップで生まれたアイデアのなかから読者の皆さんの投票で選ばれた一つを実際に映像化したいと考えています。
参加者たちのリアルな声から生まれた「私たちが見てみたい」広告。あなたも「こんな広告あったらいいな」と思うアイデアに投票してみませんか?
以下の1~7がイベントで出た広告案です。30秒~1分程度の短い動画広告を想定したそれぞれのあらすじを読み、記事下のGoogleフォームから是非映像として見てみたいと思うアイデアに投票してみてください。
“ダイエット”に関するジェンダー・ポジティブ広告
1.自己肯定感のエクササイズ
最初は、運動や食事などの習慣づくりを通して、自分がなりたい体形になるためのサポートをするスマートフォンアプリの動画広告アイデアです。
主人公は、健康上の問題を抱えている痩せ気味の女性。彼女はこのアプリと出会い、これまで体重を落とすためにやってきた運動や食事制限には無理があったこと、それが体の不調の原因だったことに気づきます。アプリで学んだ適切な食生活や運動を実践していくうち、体の調子が整っていき、自分のことを認められるようになった彼女。アプリ使用開始前と見た目はほぼ変わりませんが、ダイエットという「自己肯定感のエクササイズ」を通して、彼女はより自分らしくなることができたのです。ダイエットというと「減量する」「見た目を細くする」ことを思い浮かべがちですが、こちらの広告では、「自分の生活スタイルを見直すことで、自分が好きな自分でいられる」ことをダイエットと定義。何キロ痩せた、細いほうがモテる、というような「表面的な指標」や「人からの評価」ではなく、「自分の幸福度」を指標にしようというメッセージを発信していました。
2.他人のためじゃない、あなたのためのダイエット
こちらは、フィットネスジムの動画広告アイデア。
主人公である少しふっくらした体形の女の子が、ダイエットを始めようとしていました。パートナーはそんな彼女に「今のままのあなたが好きで、尊重している」「ダイエットなんてしなくてもいいんだよ」と伝えます。しかし、彼女は「私は私のためにダイエットがしたいの」とキッパリ。「あなたのために痩せるんじゃなくて、私がなりたいスタイルを求めて、私がやりたいからダイエットをするんだよ」と返すのです。
ストーリーのポイントは、「太っているのは恥ずかしいこと」「痩せている女性のほうが愛される」などといった外部からの刷り込みやプレッシャーによってではなく、内発的な動機からダイエットを始めていること。「人と比較してダメな自分を変えよう」「やせなければいけない」など恐怖感を煽るメッセージばかり発信するのは良くないですが、ダイエットそのものは悪いことではないはずです。こちらのアイデアでは、ダイエットをメイクアップの一つのような「自分に自信を持つためのプロセスのひとつ」として描いています。多様なボディイメージを肯定しながら「自分が好きな自分になろう」と呼びかけるポジティブなアイデアです。
“アンチエイジング”に関するジェンダー・ポジティブ広告
3.誕生日を喜べる30代~Celebrate Your Birthday~
続いてご紹介するのは、アンチエイジング化粧品の広告動画アイデアです。
主人公は、年を重ねることをネガティブに感じて、誕生日を素直に喜べない女性。彼女は、30代に入ってから、若さがもてはやされる風潮や妊娠や出産などの「タイムリミット」にプレッシャーを感じていました。そんな漠然とした不安を忘れるかのように、仕事にのめりこんでいきます。……数か月後。あまりの多忙さで忘れていましたが、ふとカレンダーを見て、彼女は今日が自分の誕生日だったことを思い出しました。仕事帰り、自分へのご褒美に新しい化粧品でも買おうと、彼女はとあるコスメサロンに立ち寄ることにします。中へ入るとそこには若い人だけでなく、年代問わず色々な人たちが集まっているのに気づきます。
好きな色をいくつか手に取って悩んでいる人。「やさしい雰囲気になりたい」「キリっと見えるリップが欲しい」と店員に相談している人。プロにメイクしてもらった自分の顔を鏡で見て、照れながらも嬉しそうにしている人。誰もが自分の好きなおしゃれを生き生きと楽しんでいる様子を見て、「自分もここにいる人たちのように年を重ねることを楽しみたい」と主人公は決意したのでした。──年を重ねるごとに魅力を増す人が溢れる世界を作っていきたい、そんな願いが込められた広告アイデアです。
4.自分らしいが美しい
こちらも、アンチエイジング化粧品の広告動画アイデアです。
主人公は、誕生日を迎えることを喜べなくなった女性。あるとき「あなたにとっての美しさって何なの?」と問われたことをきっかけに、彼女は「本当の美しさ」について考え始めます。そんなときに出逢ったのがあるおばあさんです。おばあさんは「頑張ってきた印だから、私は自分のシミやしわが好き」と話します。歳月を重ねるにつれて熟成され、旨味を増していくワインのように、それまでに重ねてきた年月や経験こそがその人らしさであり、その人の美しさになる──おばあさんと話すうち、「美しさは生き様」なのだと気づかされた主人公。外見で判断されたり他人から勝手に決めつけられたりすることが多い世の中でも、「自分の美しさは自分で決めていこう」と決意するのでした。
“美白”に関するジェンダー・ポジティブ広告
5.美白よりも美しいのは「私の肌色」
こちらは、化粧品の動画広告アイデアです。
主人公は、いわゆる“美白”を目指す40代の女性。自分の肌色より白いファンデーションを使って「肌の白い自分」を装っています。しかし実は、その「白くあらねばならない」「シミやしわのない肌でいなければならない」と思い込むことがかなりストレスとなっていたようで、自分自身の心身に不調を来してしまいました。彼女は休暇を使って、色々な国を訪ね、様々な職業の人に出逢うことになります。日焼けを恐れて日陰に避難し、こまめに日焼け止めを塗り直していた主人公とは違って、皆太陽の光を浴びて楽しそうに笑っています。日焼けを恐れるより、目の前の出来事を楽しんで、日に焼けた肌も自分らしいナチュラルなものとして愛している人たちに出逢い、彼女は「自分にベストな美肌は、『美白』ではなく『自分の本来の肌色』なんだ」と理解したのでした。
「年を取ってシミができることはいけないこと」──そんな価値観をなくし、「整えられた不自然な肌よりも、本来の自分の自然体の肌を愛そう」というメッセージを発信するアイデアです。
6.どんな肌にもなじんで、まもる。
こちらは、日焼け止めの動画広告アイデアです。
舞台は海。いろいろな肌の色の老若男女が海で遊んでいるシーンから、ビーチで日焼け止めを塗っている数人のアップに移り変わります。肌が白めの人、色黒の人……どんな人のどんな肌色にもきちんと馴染んでいくようすを映し、肌馴染みのよさやテクスチャ―を紹介。「歳を重ねても楽しく生きるため、肌の健康を守ろう」というシンプルなメッセージを押し出します。
「完璧な白肌へ」などといった宣伝の仕方で「肌は白いほうが良い」というメッセージを発信するのではなく、あくまでも肌の健康を意識した商品として宣伝するというアイデアでした。
“脱毛”に関するジェンダー・ポジティブ広告
7.私のここ、少し余ってます。
最後は脱毛サロンの動画広告アイデア。
動画広告の主人公は、すねの毛深さに悩んでいる男性です。汗をかいたときに毛がまとわりついて不快だったり、キャンプに出かけたときすね毛に虫がひっかかってしまったりと、自身の毛深さが小さなトラブルを引き起こしてしまうのです。そんな困ったことを解決するため、男性は脱毛を決意するのでした。
こちらの動画広告では、今まで脱毛広告に起用されがちだった女性モデルではなく男性モデルを登場させています。「女性=毛がないのが正しい」「女性は脱毛すべき」という固定概念をすり込んだり、「他人の目が気になるなら」「あるべき(とされる)美しい姿になりたいなら」脱毛すべきというメッセージを発信したり……そういった伝え方をするのではなく、こちらの広告では、男女問わず「自分の困ったことを改善する」あるいは「本人が不だと感じているものを減らし快適になる」ための「手段」として脱毛を利用しよう、と呼びかけます。
「毛はいらない」といったネガティブな表現ではなく、「余っている」というポジティブな表現を使ったキャッチコピーにも、「他人の目線を意識して脱毛するのではなく、自分のために脱毛してほしい」という想いが垣間見えます。
あなたが気に行ったのはどの広告アイデアでしたか?
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