「文化の盗用」という問題を耳にしたことがあるだろうか。文化の盗用とは、ある文化圏に属する人が別の文化の一部を流用することを批判する言葉だ。特に、支配的な立場にある文化圏の人が、マイノリティーの文化への敬意や配慮を欠いたままそれを私物化すると、論争の的になりやすい。
文化の盗用だという批判は、思いがけないときに飛んでくることがある。今年もやってくる楽しいハロウィンに向けて、どんな仮装をしようかと知恵を絞っている人も多いと思うが、この機会に異文化との適切な関わり方について熟考してみてもいいかもしれない。
写真共有サービス「Pinterest(ピンタレスト)」は2020年10月、異文化への配慮と敬意を持ってハロウィンを楽しむためのアイデアを集めた「Pinterest ハロウィン特集 2020」を公開した。ピンタレスト内でハロウィン関連の検索があったときに、このハロウィン特集が注意喚起として検索結果のトップに表示される。また、文化を盗用した仮装をおすすめとして表示しないよう、取り組みを進めているという。
具体的に、ハロウィンにおけるどのような行動が「異文化に対する配慮に欠けている」もしくは「文化を盗用している」と見なされるのだろうか。そのひとつは、民族衣装をコスチュームにすることだ。ピンタレストは上記のハロウィン特集のページで、次のように注意を促している。
「何十年にもわたる活動が行われているにもかかわらず、未だに民族衣装を扱う売場がしばしばあります。先住民やその文化はコスチュームではありません。そういった文化に対するステレオタイプをハロウィンの衣装を通して表現する行為は配慮に欠けています。」
こういった注意喚起がなされる背景には、アメリカ大陸におけるインディアン(アメリカ先住民)の大量虐殺という負の歴史が横たわっている。また、異なる文化圏に属する人がよくイメージする「インディアンの衣装」は、今を生きる多様なアメリカ先住民の文化を適切に反映しておらず、ステレオタイプを助長するものだと当事者から非難の声が上がっている。
たとえば、アメリカ先住民が身に付ける鷲の羽は神聖なものとして扱われており、部族にもよるが卒業、結婚、出産、成人を迎えるときなど、重要な節目でお祝いに贈られるものだという。そういった特別な意味を持つ装飾品を、異なる文化圏の人が模造し、本来の用途と異なるハロウィンの仮装グッズとして使うのは、彼らに対して失礼にあたらないだろうか。
とはいえ、何をもって「敬意や配慮に欠ける」と見なすのか、その線引きはかなり不明瞭なものだ。世の中のほとんどのデザインは他の文化からスタイルやモチーフを借用しているし、まったく悪気なく「素敵だと思ったから」という理由で他地域の民族衣装を着ることもあるだろう。多くの日本人にとって、長きにわたり抑圧を受けてきたアメリカ先住民の問題は、身近に感じにくいテーマでもある。
文化の盗用についてはまだまだ議論を重ねる必要がありそうだが、この「文化の盗用」が投げかける疑問とは、おそらく次のようなものなのだろう。
「異文化交流にもちろん異議はないが、趣味で楽しむにしても商業利用するにしても、異文化の恩恵を受けようとするのであれば、なぜもう少し相手の習慣や生活を重んじたうえで文化を借りていかないのだろうか。」
【参照サイト】 「文化の盗用(Cultural Appropriation)」、その不完全な用語が担うものとは。【コトバから考える社会とこれから】
【参照サイト】 ファッション業界は「文化の盗用」をしているのか?
【参照サイト】 Pinterest が「ステレオタイプなイメージを植え付けない」ハロウィンを提案:異文化への理解向上も目指す
Edited by Erika Tomiyama