綺麗、美しい、煌びやか……そんな言葉で表現されるジュエリーは、時を越えて私たちを魅了し続ける。だが、その原料となるゴールドやダイヤモンドなどの採掘過程には、ジュエリーの輝かしいイメージとはかけ離れた深刻な問題があることをご存知だろうか。
ジュエリー原料採掘の現場には、水銀を利用した低コストの原料採掘による水質汚染や、採掘現場での児童労働、労働環境の未整備、ダイヤモンドを紛争資金にするブラッドダイヤモンド(紛争ダイヤモンド)の存在など環境から人権まで様々なテーマの問題が存在している。
今回筆者は、都市鉱山(※使用済みの携帯電話・パソコン等の小型家電、万年筆をはじめとするオフィス用品など、使われなくなった様々な物から回収できる金・銀・銅・レアメタル等の資源)から再回収された貴金属や使われなくなった宝飾品から取り出されたダイヤモンドを利用して、サステナブルでエシカルなジュエリーを作っているデザイナー・サトウ ユリさんのもとを訪ねた。ジュエリーにおけるサステナビリティや、「環境と心のサステナビリティ」とは?サトウさんの考えを伺ってきた。
ジュエリーを通して、環境と心のサステナビリティを伝えたい
Q.サステナブルなジュエリーづくりを始めたきっかけは?
「YURI SATO JEWELRY」を立ち上げる前、私は、東京のジュエリー会社でデザイナーとして働いていました。その頃から日常的にダイヤモンドや金といった地球資源を扱っていたので、「ジュエリーづくりを通して環境に良いことがしたい」という想いが常に自分のなかにあったんです。実際にサステナブルなジュエリーの製作に踏み切ったきっかけは「2020年東京オリンピックのメダルに再利用素材を使用する」というニュースを見て「都市鉱山」という概念に出会ったこと。そのとき、自分もこの「都市に眠る資源」を活かしたいと強く思い、再利用素材を使ったジュエリーづくりを本格的に始めることにしました。
Q.サステナブルなジュエリーメイキングの過程について
一般的に、型に金属を流し込んで成形するジュエリーの製造工程は、鋳造屋に依頼します。そのため、まずは「再利用金属のみを使った製作」を受け入れてくれる鋳造屋を探さなければいけません。さらに、私の場合は大量に発注をするわけではないので、少量で受け付けてくれる取引先を見つけるのもなかなか大変でした。
また、鋳造屋がリサイクル金属だけを用意しているとは限らないので、再利用素材100%のジュエリー制作をお願いするには、再利用金属を自分自身で購入して鋳造屋に持ち込む必要があります。初めに再利用金属を仕入れようとしたときは、まだ一部の会社が再利用素材を占領している状況。「大規模な取引ができるところでないと契約をするのは難しい」と断られ、一度はサステナブルジュエリーの製造販売をあきらめかけたこともありましたね。その後、あきらめなければ見つかると信じて探し続け、幸運にも取引先と出会うことができました。
また、YURI SATOジュエリーでは、お客様が身につけなくなったジュエリーを回収し、その重さに対応する金額分(※受領時の地金相場で計算)をお買い物の際に割引するサービスをご用意しています。
リサイクルジュエリーのデザインやこうしたサービスには、手間がかかります。ですが、一人ひとり生活の中で環境配慮への関心が生まれたら良いなという思いから、私はあえて手間のかかる方法にこだわっているのです。
今はまだ新しい取り組みに見えるかもしれませんが、今後は再利用金属を使ったものづくりが普通のことになっていくと思います。循環型のジュエリーメイキングを当たり前にしていくためにも活動を続けていきたいですね。
ちなみに、リサイクル素材というと、価値や品質が落ちてしまうのではないかと思っている方もいるかもしれませんが、実はそんなことはありません。例えば、金。パソコンや携帯などから回収された金は、地金屋で精錬される時点で綺麗なピュアゴールドになります。鉱山から新しく採れる金も、都市鉱山から回収した金も、市場価格は同じですし、ジュエリーの仕上がりにも差はありません。ダイヤモンドの場合も、負荷がかかって割れてしまわない限りは宝飾品から取り外したものでも、新しく採掘されたものでも、グレード・品質は同じ。溶かすことでまた新しく作り変えられる金や、半永久に輝きが落ちることのないダイヤモンドなどはまさに再利用にぴったりの素材だと思います。
Q.サトウさんがジュエリーを通して伝えるサステナビリティとは?
私は、「多くの人が自分らしさを追求できるように」「自分自身を生きられるように」という願いをこめてジュエリーを作っています。こうしたコンセプトでジュエリーをつくるのは、私自身、他人の価値観を気にして、自分らしく生きられなかった時期が長かったからです。そうして人生のアップダウンを経験するなかで、私は「本当の意味で自分に優しい人は、他者に、そして全てのことに優しくなれる」と理解しました。
厚生労働省によると日本では、平成29年に精神疾患のために病院にかかった方が約400万人もいたといいます。また病院へかかっていなくても、なんとなくしんどい想いを抱えていたり、日々辛い思いをしていたりする人もいるはずです。
サステナブルというと、環境つまり「自分の外側」に意識を向けて考えることが多いですが、自分の心が整っていないと、本当の意味で他者や環境に配慮するのは難しい。だからまずは自分の心に関心を持ち、配慮していく。そうして自分自身の心がきちんと整えば、他者や環境への配慮ができるようになっていくと思うんです。そうやって内側から育まれた優しさが、他者に、環境にと広がっていければ良いなと考えています。
辛いことがあったときは、誰しも、「大丈夫だよ」と励ましの声をかけてくれる存在やありのままの自分を認めてくれる人を求めると思います。私はそういう存在の代わりになるようなジュエリーを作りたいんです。
社会の価値観に自分を当てはめようとしたり、他人の尺度で自分を評価したりすると、辛くなってしまいます。忙しいとなかなか自分の心が整わないですし、ネガティブなループにはまって大切なことを忘れてしまうこともありますよね。
ジュエリーには、そんなときに大切なことを思い出させてくれるリマインダーのような、お守りのような存在であって欲しいと思うんです。ジュエリーは常に身につけておけて、何世代にも渡って受け継ぐことができるもの。ただの装飾品ではなく、見た目の輝き以上の意味や価値を生み出すことができるものであるはずです。触れた時、身につけた時に、優しい気持ちがふっと浮かんでくる。身につけると自信が湧き出す。辛い時の支えになる。──そんなジュエリーを届けられたら、と思っています。
Q.これからのジュエリーについて思うこと
最近ファッション業界で様々な企業がリサイクル素材を利用するようになっていますよね。それはファッション業界に存在する様々な社会問題が広く認知されたからこそ起きた流れだと思います。
ジュエリー分野でも、これまで主流だった「新しい原料を採掘し続ける」という方法では、近い未来に資源が枯渇してしまうだろうと言われています。厳しい現実が分かっている今こそ、様々なアパレルブランドがリサイクル素材の利用に舵を切ったように、ジュエリーメーカーもサステナブルな方向へと転換する必要があるのではないかと感じますね。
私は「環境のことを考えることは、自分自身の未来を考えること」だと思っています。
今年始め、ニューヨークから日本へ帰国する前に近くの海へ散歩に行ったときのことです。すれ違う人たちは皆、新型コロナ対策としてマスクを着けていました。気持ちの良い屋外でも思い切り深呼吸をすることができない──そんな状況で、ふと「このまま大気汚染が加速し続けていったら、コロナが終息した後も、マスクなしで外を歩くことはできないかもしれない」という思いが頭をよぎったんです。
このまま私たちが行動を変えなければ、そういう未来が訪れる可能性があります。自然や環境の未来は、私たち人間の未来そのもの。だからこそ、私は私のできることをしたい──ジュエリーを通して「自分にも、自分の外側の事象にもやさしくできる人」を増やせたらいいなと思っています。
取材後記
物作りといえば通常、新たに原料を調達するところから始まる。だが、物が溢れている今、「不要品としてその価値を見過ごされているものを、別の価値あるものへと作り変える」という方法に目を向けることが重要だ。
「自分の心が優しさで満たされ、それが他者への優しさへ繋がる世界」を目指すサトウユリさん。 彼女は、循環型のサステナブルジュエリーのデザインを通して、「地球や他人=自分の外側」に優しくありたいのなら、自分にも優しくしてあげる──心配や不安の尽きない今の世の中だからこそ、自分と向き合う必要があるのだと教えてくれた。
Edited by Yuka Kihara
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