Design Week Kyotoで想いを馳せる、職人との新しいコミュニケーション

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普段過ごしている中では一般の人々の目には映りづらい「モノづくり」の現場。かつて職人の町として栄えた場所でも、近所づきあいの希薄化や、若年層の地方流出、流動的でない職人文化もあり、モノづくりの現場にとっても社会のニーズに合った新しいアイデアやコラボレーションを生みづらくなっているという現状がある。

製造業の雇用機会の変動や賃金水準の増減と、地方の人口が比例しているというデータがあるなか、20年前と比べて2016年時点で製造業者は40%近く減少している。製造業者の底上げは、地方創生のキーになりうる。

そんな中、2016年より京都で始まっている新しい取り組みがある。モノづくりに関連した多様な交流を通じて京都をデザインしなおし、創造性あふれる街にしていくというコンセプトの「Design Week Kyoto2020」だ。工房を一部開放し、一般のユーザーが職人と交流できるオープンファクトリーイベントや、地場産業に関わるクリエイターなどが業界を越えて集うミートアップなど、交流を前提とした場を提供している。

IDEAS FOR GOOD編集部は、2020年2月下旬~3月にかけて開催された「Design Week Kyoto2020」を訪れた。本記事では、その中で筆者が参加した工房を回るツアー「Official Open Factory Tour」と業種を問わずサステナビリティについて議論を交わす「Creative Session」の模様をお伝えする。

Creative Session の様子

職人とのコミュニケーション。Official Open Factory Tour

Design Week Kyotoでは、毎年各工房と連携して京都のさまざまなモノづくりの現場でツアーを開催している。この公式ツアー以外にも期間中であれば、提携している数多くの工房が、工房の一部を開放し、職人が一般の方の見学に対応してくれるという(予約が必要なところや開放時間が決まっている場合もあるので事前確認が必要)。

今回筆者が参加したツアーでは、京都市・宇治市の工房を回った。陶器や和紙といった伝統的な工芸品だけでなく、普段なかなか出会えないような金属部品の加工場や義肢づくりの現場にも訪問することができた。

楠岡義肢製作所内部

ツアーでは、技術者によるプレゼンテーションや商品ができるまでの工程見学があり、参加者から商品や技術、働き方など職人への質問が活発に行われていた。「どんなモノにも、モノができあがるまでの背景や、多くの人の働きや情熱が込められている」ということに想いを馳せられるような仕掛けがツアーの中に散りばめられていた。

また、職人とは違った視点を持つ一般ユーザーの柔軟な意見を聞くことで、生活のなかで活用できそうな新商品のアイデアが生まれている様子だった。例えば、オーダーメイドの義肢工房「楠岡義肢製作所」の商品であるコルセットを見た参加者からは「猫背を治すための、肩につけられるコルセットのような矯正器具があったらよいのではないか」というような自由なアイデアを口にしていた。

Design Week Kyoto主催者の北林氏は、「今後も地域や業種の種類を増やし、規模を拡大していきたい。教育機関とも連携して、地域の産業を可視化することで若手に継承していくモデルを作っていけたら」と語っていた。

プレゼンテーションの様子

工房に働く方々が説明をしてくれる

Creative Session vol.10 サステナブルビジネスから考える染織産業の未来

3月1日には、サステナブルファッションの観点から、世界で起こるサステナブルビジネス、服飾産業のトレンドや、日本の地場産業について多業種の登壇者とイベント参加者で考え直すイベント「Creative Session vol.10 サステナブルビジネスから考える染織産業の未来」が行われた。

登壇者

大田 康博 氏

大田 康博さん徳山大学経済学部教授 経営学博士(大阪市立大学)
地方産業の活性化への関心から、1994年から繊維産業の研究を開始。国内繊維産地の展望を求め、2005年以降はイタリア、フランスなどの産地、展示会などを調査する一方、国内各地での新たな取り組みに注目し、訪問型・来訪型マーケティング、クラフト、「よそ者」などに関する研究を進めてきた。2017年からは、産地間交流イベント「テキスタイル産地ネットワーク」を主催。

山口 大人 氏

山口大人さんMASATO YAMAGUCHI DESIGN OFFICE代表/デザイナー
文化ファッション大学院大学出身。在学中から国内外でリメイクブランドを展開。現在はサステナブルファッションやリユースといったサーキュラーファッションを専門にマルチに活動の幅を広げている。ファッションビジネス学会FashionGood研究部会部会長、一般社団法人TSUNAGU理事、ユニバーサルファッション協会の理事を務めている。
https://www.tsunagu-fashion.com/

加藤 遼氏

加藤遼さんIDEAS FOR GOOD Business Design Lab.所長 内閣官房シェアリングエコノミー 伝道師
全国の地域や海外を旅するようにはたらきながら、タレントシェアリング、サーキュラーエコノミー、サステナブルツーリズムをテーマとした事業開発に従事。IDEAS FOR GOOD Business Design Lab.所長、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師、総務省地域力創造アドバイザー、東京都観光まちづくりアドバイザー、NPOサポートセンター理事、多摩大学大学院特別招聘フェローなどを兼務し、ビジネス・パブリック・ソーシャルのトライセクター連携によるソーシャルイノベーションに取り組んでいる。

種田 成昭氏

種田成昭さん一般社団法人サステナブル・ビジネス・ハブ 代表理事 株式会社TANEDA 代表取締役社長 株式会社 寺社仏閣オンライン取締役。
複数の大手神社仏閣のサポートを行いながら、SBHの代表として「1000年続く企業のエッセンス」をテーマに複数の企業で人事・経営の総合パートナーとして、アドバイスやプロジェクトの立ち上げに関わる。

沼野 利和 氏

沼野さん一般社団法人サステナブル・ビジネス・ハブ理事 事務局長 グロービス経営大学院准教授 公益財団法人小笠原流煎茶道 教授・評議員
1996年からグロービス大阪支社スクール統括マネジャーとして初期の成長を支える。2007年グロービス経営大学院准教授に就任。現在は、経営大学院でマーケティング、経営戦略領域で教鞭をとりつつ、企業の新規事業等のコンサルティングを行っている。また、公益財団法人小笠原流煎茶道評議委員として財団の運営に関わり、煎茶道教授として煎茶道の普及活動を行っている。 2019年一般社団法人サステナブル・ビジネス・ハブを設立し理事に就任。

「持続可能性」とは、新しいニーズに対応した機会創造

ビジネスにおける持続可能性を考えるうえで頭に入れておくべきことはなんだろうか。国内外のテキスタイルビジネスを研究してきた徳山大学大田教授によると、「持続可能性」とは「環境・経済・社会」の3要素が絡み合って構成されているものだという。環境問題だけに関わらず、事業や消費活動を生み出す地域社会、資源や消費を循環させるための経済の3点の関係性を切り離さずまとめて考える必要がある。

また、気候変動などの環境や政府による要請に対して「持続可能であるべきだ」という対応方法だとトップダウンの制約であるように感じて苦しかったりコストばかりに注目してしまったりするが、新しいニーズに対応した形でブランドを再定義するといった機会創造の観点で考えることが持続可能なビジネスを創り出すうえで大切なカギだという。

また、大田教授はビジネスとしての地場産業の持続可能な発展に関して「自立化」というキーワードを挙げた。生産者は特定の顧客や自分が持つ技術といったものに依存しがちだが、誰かの評価に依存せず、自ら合同展示会に参加したり(訪問型)、工房に呼ぶ(来訪型)ことでよりオープンにすることが大切だ。

徳山大学 大田教授

環境対応とビジネス(コスト)のバランスがをどうとるかは多くの企業が抱える課題である。太田教授はこの日、環境に配慮しつつビジネスとしても成功している企業の事例を3つ紹介していた。1つめは福岡県を拠点にする宝島染工。毒性の強い媒洗剤でなければ染められない色には染めない、女性社員のライフステージに応じて相談しながら技術移転を行うなど、社会・環境・経済の持続可能性に想いの強い染物業者だ。SNSでも多く取り上げられている。

2つ目は、イタリアで羊毛のリサイクルを行うCardato(カルダート)。古着や、衣料産業で出てしまう生地の切断片をリサイクルし、そこで得られる繊維(紡毛)を使う。Cardatoの繊維を使うことでファッションブランドのLCA(ライフサイクルアセスメント)を保証でき、多くのコンソーシアムとの連携も活発だ。

そして最後はオランダのTextile Lab。開かれた博物館として19世紀後半から今日までの繊維産業についての展示をしていたり、テキスタイルのデザインや最新技術を公開していたり、また見学者のビジネスコンサルティングまで請け負っている。ミュージアムを通してテキスタイルに関わる全ての人との交流を図る狙いだ。

このように、新しいニーズに対応した機会創造という観点で事業を見直すと改善できる点・新しい収益モデルが見えてくる。

世界のサーキュラーエコノミー事例をもとに見る日本と循環型経済

世界の人口増加による資源の消費量増大を「鑑み」、デカップリング(経済成長とエネルギー消費を切り離すこと)として製品開発の段階から多様なステークホルダーとパートナーシップを「結んで」、シェアリングエコノミー、サーキュラーエコノミー化していく流れが世界で始まっている──そう述べたのはIDEAS FOR GOOD Business Design Lab所長の加藤遼氏。

加藤氏は、IDEAS FOR GOODが以前取材した、オランダにある Fashion For Good(過去のファッション業界が生み出した課題についてまとめたフロアや、サステナブルファッションを実現するための素材やサービスについてアイデアを集めたフロアがある博物館)を例にあげた。

Business Design Lab所長 加藤氏

これまでの日本はリユースエコノミー(再利用型)を発達させてきた。例えば一時期「もったいない」という言葉が世界で注目されたが、昔から着物を先祖代々受け継ぐ文化があり、傘や履物を修理する修理屋が多く存在していた。

また、創業から1000年以上経つ会社が世界で14社のうち日本の会社は8社もあり、絶えず変化してゆくときのなかで1000年という長い年月を生き抜くことができたのには、鎖国時代から残る日本ならではの価値観が関係しているのではないかと加藤氏は推察する。加藤氏は、世界で起こっているサーキュラーエコノミーに向けた事例からインプットを蓄積することに加え、かつて日本で行っていた資源を無駄にしない工夫を再度取り入れることでアクションにつなげる重要性を強調した。

サステナビリティをかなえるヒントは身近なところに

ここからは、大田教授、加藤氏に加え、MASATO YAMAGUCHI DESIGN OFFICE代表の山口氏、サステナブル・ビジネス・ハブの代表理事で大手神社仏閣のサポートを行う種田氏が登壇。そしてモデレーターにサステナブル・ビジネス・ハブの理事でグロービス経営大学院准教授でもある沼野氏を招き、パネルディスカッションが行われた。

Appleが直営店やオフィスの電力調達を100%再生可能エネルギーにしていると発表した。Appleのような大企業と取引するためには自社ビルの電力調達を見直さないといけないなど、「サステナビリティが事業連携のベースになってきている」と山口氏。サステナビリティをかなえることは、理想ではなく、必須のことなのだと強調する。

また、服飾産業に関しては和服にサステナビリティをかなえるヒントがあると種田氏と大田教授が指摘する。和服とは、先祖代々で着まわせるもので、素人でも簡単に縫ったり、糸を解いたりできて、生地を曲線で裁断していないため再利用・リサイクルが簡単だという。また、傷んだ部分だけを他の生地で代用することも可能であるという、着方が柔軟な服であると言える。

これを現代に適応している例として、山口氏はFabric Tokyoというアパレル企業を例に挙げた。アプリでオーダースーツを作ることができるFabric Tokyoではサーキュラーファッションを徹底的に考えている。その中でブランドがぶつかる障害が「リサイクルの難しさ」だという。ナイロン・ポリエステルといった一つの服に様々な種類の繊維が織り込まれている服は建物の断熱材にする以外に用途がなく、リサイクルがしにくい。

そこでFabric Tokyoが行ったのは「服の設計自体を見直すこと」。一つの素材から服を作り、その服を回収して循環させるという、はじめから回収し循環させることを目的とした設計を行ったのである。依然として残る、「果たして回収しきれるのか」という課題についてはエンターテインメントと絡めて解消していくという。

Creative Sessionの様子

『ストーリーを受け継ぐ』感情が生まれる設計を

加藤氏は、海外の事例としてデザイン会社Waamakersが企画した 「Goedzak」というごみ袋を紹介。「誰かにとっての廃棄物が誰かにとっての資源」というコンセプトで、使わない服やモノを置いておくと誰かほしい人が持って帰り、誰も持ち帰らない場合はリサイクル業者が回収する。モノを受け渡しする人間が主体となるサービスが多い中、こちらは「モノ自体」が捨てる人と拾う人をつなぐ媒介者となる面白い事例だ。

加藤氏は「ファッションは本来私たちをわくわくさせてくれたり、豊かさを生んだり、楽しい体験を生み出してくれるもの。服を手放すときに『循環の中に戻す』『ストーリーを受け継ぐ』という感情が生まれるような設計ができるといい」と語った。

また、「ファッションブランドが支払う法定最低賃金は、被雇用者とその家族が十分に暮らせる生活賃金より低い」という山口氏の指摘について、加藤氏は「生産者と消費者の距離が遠いことが原因の一つではないか」と述べる。汚染水が流出しても、児童労働をさせていても、消費者がその工場でつくられた服を買うのは、生産の現場が見えていないからだ。加藤氏は、「消費者を巻き込んで、サーキュラリティを意識した商品開発を行うこと」「シェアリングエコノミーのサブスクリプションやDtoCといったビジネスモデルを推進すること」などを通して、生産者と消費者が近づく関係性をデザインすることが大切だと述べた。

これまで出てきた理想となるようなアイデアだが、早急に実際の事業にあてはめていくのは難しいのでは?──そんな沼野氏の問いに対し、大田教授は「試行錯誤は必至。想いを持ち続けながら情報を共有していくことで、仲間を見つけていけばいいのでは」と述べる。「批判してくる人もいるとは思うが、彼らは『問題を明らかにしてくれるパートナー』ともいえる。そんな風に思える発想の転換が大事」と強調した。

Creative Session の様子

サステナブル・ファッションを進めていくうえで考えるべき点として山口氏が挙げたのは「内面のサステナビリティ」というキーワード。「『刺繍が5ミリずれただけで5万点廃棄』といった世界の中で、精神的に会社の方針と自分の価値観が合っていなければ持続可能な形で仕事ができないという意味では、モノのサステナビリティと人のサステナビリティは同じ話。人事とサステナビリティを考える部署は統合してもいいのでは」との意見も。

加藤氏は、水上を活用したオランダのFloating HouseやFloating Farmといった事例を引用し、「日常生活の中で自然現象と自分のつながりを意識せざるを得ない状況を作っている」と述べた。「自然の中に自分がいるという意識の持ちようが地球のサステナビリティを作り出す」という捉え方があることを紹介し、実際の経済活動とのリンクが今後の課題になるだろうと指摘した。

編集後記

価値観が違っても一つの目標に向かっていきたい。そんな理想に向けて活発な議論を交わすも、一つの結論は出ず、セッション終了の時間が来てしまった。ファッションというテーマ1つにおいても考えるべき切り口は沢山あり、ポジションによって多様な価値観がある。答えは一つではないのだ。議論は収束しないものと認めたうえで、大田教授の言葉のように、まずはアクションに起こして試行錯誤することが大切なのだ。

生産者も、小売業者も、一般の人々も、異業者も、多様な価値観をかき混ぜて議論を活発化させる。それが今回取材したDesign Week Kyotoでは成功しつつある。この後ろ姿を追って、地域の、あるいは世界の業界改革をしていく若者が増えていくことを願ってやまない。