多様性と向き合うファッションブランドPLAYFÜLの考える「人間問題」とは?

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世界のどこに行っても、自分にとって馴染みのある「知っている」ものを見つけることができる時代になって、しばらく経つ。我々はもしかしたら、至る所に存在する「知っている」ものを自分の仲間のように感じ、安心感を覚えるようになっているのかもしれない。

一方で、「知らない」ものは、新しい気づきや出会いをもたらす。それを期待しながら、自分が手にとる一つ一つのものと、その作り手のストーリーに、じっくり耳を傾けてみるのはどうだろう。

「知っている」ものがそこかしこで手に入ることで、小さく感じるようになった世界ではなく、「知らない」ものを手にとることで、大きな世界を見せてくれるファッションブランドが誕生している。

そのブランドとは、大阪を拠点とする「PLAYFÜL(プレイフル)」。障がいを持つアーティストとのコラボレーションや、バングラデシュでのフェアな製造を通して、社会問題や環境問題に取り組んでいる。今回は、作り手と私たちの間にまるで友情を生み、つながりを持たせてくれるブランドPLAYFÜLの代表兼ディレクターである、高 梨紗さんにお話を伺った。

PLAYFUL

高さん

異なる視点を持つことで生まれる気づき

高さんは在日韓国人4世であり、成長する中で日本社会において難しさを感じる局面を経験してきた。自分を被害者と思う節目もあったそうだ。しかしあるとき、在米韓国人の友人からエシカルファッションの話を聞く機会があり、この大きな世界では自分が加害者にもなる可能性は大いにあることに気づいた。特に自分が好きなファッションを通して、見えない誰かを結果的に傷つけている事実に、ショックを受ける。

「環境を大事にしよう」「優しさを持って生きよう」という概念は、言葉としては自分の中に入ってきたとしても、どうしても実感しにくかった。自分の持っていた被害者意識と、自分が加害者になっている現状の2つがつながったことで、初めて確かな認識となった。そこから、社会や環境の問題をもっと知りたい、そしてもっと自分にできることはないか、と探求を始めたそうだ。

高さんのバックグラウンドはインテリアデザイン。ファッションの経験はなかったが、自身が大好きなファッションのストーリーの裏には、想像を超える大きなつながりがある可能性を感じていた。「世界中の人々は、みんな友達の友達の友達の……友達だったりして?」「どんな小さなアイテムにも、誰かの大切な物語が詰まっていたら?」その気持ちが機動力になっている。PLAYFÜLには、高さんの熱意に賛同する仲間たちが集まり、丁寧なコミュニケーションを大切にしながら、一つ一つを形にしている。

「その人にしかない才能」を届けるプロジェクト

プロジェクト第一弾として発表されたのは、障がいを持つアーティストが所属するatelier ripe house(アトリエ・ライプ・ハウス)とのコラボレーション、「What is your GIFT?」だ。今回のプロジェクトではパンツとスカーフを展開する。

障がいを持つ方々は、仕事を得るのが難しかったり、賃金が低いという問題があるのが現状だ。しかしatelier ripe houseは、障がい者が障がい者としてではなく、一人のアーティストとして活躍できる世界を目指し、支援している。高さんはかねてから、障がい者と接する機会が多かったこともあり、一緒に何かできないか、と今回のプロジェクトを着想した。

Yuka Yamane

Makiko Yoshinaka

Kaji Hidetaka

atelier ripe houseのアーティストたちを見ている中で、今の社会において私たちは障がい者を一括りにしたり、特定の障がいでカテゴリー分けをする傾向があるが、実際にはみな一人ひとり違う個性を持つ個人であることを痛感した。その人にしか生み出せない画を描いたり、表現をする、才能のある人たち。プロジェクト名にも含まれる “GIFT” は、「贈りもの」を意味するが、その人に与えられた「才能」のことを指す言葉でもある。

atelier ripe houseに所属するアーティストの中には以前、「(障がいを持つ方の作品なので)あたたかい目で見ないといけないですよね」という声が向けられ、それに違和感を覚えた方がいるそうだ。いちアーティストとして作品をPLAYFÜLに提供する今回のプロジェクトは、大きな意味を持つ。

商品タグに掲載されるQRコードからは、コラボレーションしたアーティストの紹介動画を観ることができる。

環境と、そして着る人のことを考えた素材選び

このたび発表されたパンツは、コットン製造において余剰になる一部を活用するキュプラ繊維のベンベルグという素材を採用している。環境面への配慮からの再生かつ還元を意識した選択であるが、実はそのほかにatelier ripe houseのアーティストから得たヒントも生かされているという。今回コラボレーションしたアーティストの一人は、車椅子を利用している。日中は座っている時間が圧倒的に長く、蒸れや擦れが気になるそうだ。キュプラ素材は吸水・通気に優れ、肌に心地いいことも、重要なポイントになっている。

PLAYFUL

PLAYFÜL パンツ

商品タグには、古紙を利用しハーブや花の種を埋め込んだ発芽するペーパーを採用した。一晩水につけて土に埋めると発芽し、紙の部分は分解され土に還る。そしてここには、PLAYFÜLのブランド名にもある「遊び心」も表れている。環境問題や社会問題と聞くととっつきにくさを感じる方も多い中、まるで新しい遊びの始まりであるかのようにポジティブな発信をしている。購入者が手にした後に発芽するペーパーを土に埋めて楽しんでもらいたい、という気持ちが込められている。

PLAYFUL

PLAYFÜL タグ

PLAYFÜLならではの、多様性との向き合い方

現在模索しながらPLAYFÜLとともに邁進している高さんには、これから取り組んでいきたい挑戦もまだまだたくさんあるようだ。

たとえばサイズ展開。ブランドが成長していくにつれて、ゆくゆくはジェンダーレスかつ幅広いサイズ展開を提供していくことを目指している。

PLAYFUL

PLAYFÜL スカーフ

同時に、PLAYFÜLの服には、着る人それぞれの多様な個性や生活に対応するファッションのコンセプトを織り込むことを重視している。さらには、それらの要素がその人の人生の中で変化しても、手放すことなくまた違う着方ができるように、という思いもある。「万人受けする服とは、自身で着こなし方を探し出せるような服ではないだろうか」高さんの問いかけは、アーティストの作品がプリントされたスカーフに込められている。一枚の布であるが、使い方は無限大だ。先述のサイズ展開拡大はブランド規模的にまだ困難であっても、サイズを増やすことだけでない多様性との向き合い方がここにはある。

製造者との「フェア」な関係性って何?

もう一つは、製造における真に公正な関係性の構築。今回のプロジェクトのアイテムはバングラデシュで作られる。劣悪な労働環境や労働搾取の側面が議論にあがることが多いバングラデシュでの現状を、まずは自分の目で見るべく現地に出向くことから始まった。高さんがそこで出会った人たちが、働き、生活する様子を垣間見る中で、苦しい面をたくさん抱えているだろうにもかかわらず、笑顔もたくさんあった。そこから輪が広がり、友達が増えていき、今の工場に落ち着いたと話してくれた。

工場では、彼女にできる最大限の「フェア」な関係性を作っているが、突き詰めようとする中で、「『フェア』って何?」という疑問が色濃くなっていくという。真摯に向き合い、お互いが納得する長期的に安定した関係を築こうとすればするほど、たとえばコスト面を最優先した計画、大量消費主義への依存、廃棄も視野に入れた過剰な生産など、現状ファッション業界が抱える問題がシステム化してしまっている背景が、見えてくるそうだ。

PLAYFUL

高さん

新型コロナの影響で時期は未定だが、近い未来のプロジェクトとして、高さん自身がバングラデシュに1ヶ月滞在し、自身が今スタッフに支払っている同額の賃金と同等の労働環境で、自らも働くことを計画しているという。

また新しいストーリーを展開してくれるのが、楽しみだ。

「人間問題」としての取り組み

PLAYFÜLの活動を通して向き合っているのは、究極的には社会問題や環境問題というくくりではなく、「人間問題」である、と高さんは話す。

PLAYFÜL

PLAYFÜL

今までのビジネスやシステムには問題があった。それを主導していた人や企業や国が、必死になって社会や地球の課題に取り組んでいる。しかし特効薬のように今すぐの解決が見えにくい今、現状すでにその被害を最も受けやすいのは、問題の原因には直接関与していない弱い層である。

そしてこれからの発展には、今までのような一部の人中心のビジネスではなく、地球全体やすべての人間に配慮したビジネスのあり方が求められている。しかし新たなシステムの中でも、弱い層とされる人々はすでに決められた新たな手法に、ただ順応することを求められることもある。

平等や公正とは言えない関係性は、昔から今も続いている。未来をよくしていこうにも、その歪んだ関係を理解しないことには、「人間問題」とも言える大きな課題の改善はなかなか進まない。人間一人ひとりの、いる場所や立場が違うことで認識しにくい疑問や発見を、世界とのつながりを意識し自分の目でも見ることが求められているのだ。

「この星にいる全ての生物達が、幸せに生きていくための活動であるべきでは?」PLAYFÜLのファッションを通して、高さんがつないでくれる点と点からも、そして高さん自身のメッセージからも、世界中の人々を友達としてとらえ、一緒に取り組んでいくことの意義が伝わってくる。

編集後記

「当事者意識」や「自分ごと」といったキーワードは今、社会正義や気候正義の議論で欠かせないものになっている。しかしどれだけ意識しようにも、誰かのストーリーを自分のものとして理解するのはたやすいことではない。

同じ地球に住みながらも、本来であればつながることがなかったような人たちの間に、関係性を作っていく。PLAYFÜLがファッションを通して目指す、大きな世界の友達を増やしていくことは、「知らない」ことを知っていくことでもある。そこから共有されるポジティブな気持ちや明るい未来への希望は、誰かがひとりで抱くものより、ずっと大きい。私たち一人ひとりが持つ思いやりや優しさを確かなものにしてくれる、PLAYFÜLが発信する新しいエネルギーを感じた。

PLAYFÜLは今回の第一弾プロジェクト「What is your GIFT?」のクラウドファンディングを、12月21日から開始している。少しでも活動を応援したいという方は、ぜひこちらのサイトから参加してみてはいかがだろうか。

【関連サイト】PLAYFÜL
【関連サイト】atelier ripe house
【クラウドファンディングサイト】~障害を持つアーティストと作る「一着の物語」をバングラデッシュからお届けします~

Edited by Tomoko Ito

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