宝石も脱炭素化。「空気」生まれのダイヤモンド

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今、世界的に脱炭素化の動きが見られる。2020年10月に、日本で菅首相が2050年までの脱炭素化を宣言したことを記憶している人も多いだろう。韓国政府も同月末、2050年までの温室効果ガス排出ゼロを宣言、同年9月には中国政府も2060年までの脱炭素社会の実現を宣言した。特に従来、途上国としての立場から環境問題への取り組みに協力的でなかった中国のこの宣言は、世界中で驚きをもって迎えられた。

世界中で脱炭素社会の実現に向けた取り組みが見られる今、炭素を再利用したビジネスの形が生まれている。その一つが、アメリカのジュエリー会社・Aetherの、空気中の炭素からダイヤモンドをつくる取り組みだ。

ダイヤモンドに使用する炭素の採取は、スイスのチューリッヒ近郊で行われる。廃棄物発電が可能なごみ焼却炉の屋上に備え付けられた、空気中から二酸化炭素(CO2)を抽出できる巨大装置を用いてCO2を採取したのち、その一部をアメリカ・シカゴにあるAetherに送る。運ばれた炭素は製品用に純化され、2、3週間程度でダイヤモンドに生まれ変わる。

Aetherはこの方法によって、既に他のジュエリー企業のように、CO2の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロになるカーボンニュートラルに取り組んでいるのではない。ダイヤモンドをつくることで温室効果ガスの排出量を減らす、世界初のカーボンネガティブを実現しているのだ。

さらに、この製法でつくられたダイヤモンドは、脱炭素に貢献するだけではない。従来のダイヤモンドは化石燃料から作られ、その採掘には労働者搾取や森林破壊、水質汚染などの様々な問題を伴う。しかし化石燃料の採掘の必要がないAetherのダイヤモンドは、そういった社会課題を引き起こす心配がない。

社会・環境面への配慮してつくられた同社のジュエリーは、購入した人が知らず知らずのうちに環境や労働者に優しい社会に貢献している――そんな商品となることを目指し、デザインも大事にしている。

AetherのCEOであるRyan Shearman氏は、気候変動についての本を読んでいる中で、この炭素からダイヤモンドを生み出すアイデアを思い付いた。宝石業界でのキャリアを持つ同氏は、ダイヤモンドが結晶化した炭素であることから、空気中の炭素は確かに有害であるものの、炭素そのものは悪くないと考えたという。

そんなShearman氏は今、ダイヤモンド産業が従来の製法での生産を続けることに警鐘を鳴らす。ダイヤモンドの産出量は減り続け、2040年までには現在の半分ほどにまで減少すると言われている一方で、ダイヤモンドの需要は衰えていない。ダイヤモンド市場全体が立ち止まり、その在り方を考え直す必要に迫られる中、Aetherのダイヤモンドが業界における一つのモデルとなるかもしれない。

これまでにもIDEAS FOR GOODでは、CO2からつくったシャンプーボトルなど、炭素を利用した取り組みを紹介してきた。これから同様の取り組みが増えていくことが予想される中、Aetherダイヤモンドのように、脱炭素だけではない、多様な社会課題に同時にアプローチするアイデアも現れるだろう。炭素を利用した今後の世界の取り組みに目が離せない。

【参照サイト】Aether
【参照サイト】脱炭素社会はなぜ必要か、どう創るか

(画像提供:Aether

Edited by Tomoko Ito

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