廃棄予定の花に新たな価値を与えるフラワーサイクリスト河島春佳

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まだ捨てなくていいのに、捨てられてしまっているものがある──そう聞いたとき多くの人が一番に思い出すのは、近年話題になっている食品ロスの問題だろう。だが実は、廃棄問題が起こっているのは食品の分野だけではない。今回焦点を当てるのは「花」のロス問題についてだ。

シーズンが終わってしまった、咲ききってしまった、少し傷がついてしまったという理由で、まだ綺麗なのに廃棄されてしまう花がある。こうした花を「ロスフラワー」と名付け、花の廃棄問題解決に向けた活動を行っているのがフラワーサイクリストの河島春佳さんだ。編集部は今回、実際に彼女にお会いし、活動の原動力や思い描く未来についてお話を伺ってきた。

話者プロフィール:河島春佳(かわしま・はるか)

フラワーサイクリスト。廃棄直前の花を回収し、美しいドライフラワー作品へと仕上げるクリエイター。東京家政大学服飾美術学科卒業。生花店で働く中で廃棄になる花の多さにショックをうけたことから、独学でドライフラワーづくりを学び、フラワーサイクリストとしての活動を始める。2018年にはクラウドファンディングにて資金を募り、パリでの花留学を実現、現地でのワークショップ開催を成功させる。自身のブランド「Fun Fun Flower」を立ち上げており、アクセサリー委託販売、ワークショップや企業の装飾など幅広く活動中。

ゴミ袋に入った300本のバラを見て……

Q:ロスフラワーに関する活動を始めたきっかけは?

一般に生花店では全体の3~4割ほどの花が廃棄されていると言われています。結婚式場などの催事会場でも、毎回多くの花が捨てられてしまっていますね。会場の飾りつけに使うための花は、本番でちょうど美しく咲くようにつぼみの状態で仕入れられますが、式当日に咲き切らなければ使えません。関係者がもらっていかない限りほとんど捨てられてしまうのが現状で、100本仕入れたうち実際には50本しか使わないということもざらにあるんです。

私が「綺麗なまま廃棄される花がある」という事実を知ったのは、花屋で短期アルバイトしていたときのこと。12月25日、クリスマス当日──花屋の店頭には赤いバラの花束がずらりと並んでいました。ですが26日になった途端、その様子は一転!お正月に向けて扱う花の種類を変えなくてはいけないからです。昨日までそこにあった300本の赤いバラは、全部ゴミ袋に入っていました。──その現場を見たときに、私はとてもショックを受けたんです。

河島春佳さん

河島春佳さん

まだ綺麗に咲いているバラたちは、私にとっては宝の山!もったいないと思った私は、店主に「持って帰ってもいいか」と尋ねました。そこで返ってきた「ゴミでよければ持って帰って!」という返事にもまたショックを受けましたね。

そのとき「なんとかしなければ」と思ったのが、花に関する活動を始めたきっかけです。ロスになってしまう花を少しでも減らすため、生花店から廃棄直前の花を買い取ってドライフラワーにし、それを利用してアクセサリーや作品をつくったり、一般の方向けのクラフトワークショップを開催したりし始めました。人々に「これはただのお花ではなく、『もう少しで捨てられるところだった』お花なんだよ」というストーリーをきちんと見せたくて「ロスフラワー」という名前を付けることにしました。

実は、生花店では花を廃棄する費用も店が負担していて、廃棄となる花が出れば出るほど店は赤字になっていくんですね。廃棄直前の花を買い取ることで花を救うことができるのはもちろんですが、生花店の経営を少しでもお手伝いすることもできるんですよ。

また、生花店だけでなく結婚式場と提携して装飾に使われた花を再利用する活動も行っています。使い終わった花をドライにしたものを使って、次に式を開く花嫁さんのためにアクセサリーやウェルカムボードをDIYするワークショップを開催しているんです。私たちはこれを「幸せのリレー」と呼んでいます。

河島さん ファーマーズマーケットにて

参加しているファーマーズマーケットでの様子。マーケットに出店している他の花屋から廃棄直前の花を買い取り、ドライフラワーになりやすい花だけでつくった「セミドライフラワーの花束」を販売している。

プリザーブドフラワー(※特殊な液体を用いて生花を加工したもの。鮮やかな色とみずみずしい質感が保たれるのが特徴)ももちろん発色が良くて綺麗ですが、ドライフラワーの朽ちたなかにも色が残っている感じ──あのアンティークっぽいくすんだ風合いがすごく好きなんですよね。

私は「新しいものより古いものに惹かれる」タイプです。ヨーロッパの古い街並みやアンティークの家具、古書というような……古いもの、時間を経て形を変えていったものにすごく魅力を感じる。例えば、アンティークの家具だったらこの100年間の間にどういうところでどんな人にどう使われてきたんだろうって、想像できるじゃないですか。そういう「ストーリー」にすごく興味があるんです。目に見えないもの、ものごとの背景に想像をふくらませるのが好き。それと同じで、ドライフラワーも「いまはこんなに薄いピンクだけど、もともとはもっと濃くて発色のいいピンクだったんだろうな」というような想像ができたり、反対に生花を見て「この真っ赤な花びらはドライにするとこういうふうになるのかなあ」とか想像できたりする。言い表せないストーリーがそこに含まれているところが魅力的なんだろうなと思います。

ロスフラワーのアクセサリー

「ストーリーがある、一言では表せない──同じ理由でアップサイクルも好き。なにかとなにかの掛け合わせってものにものすごく惹かれる。」|画像は、ロスフラワーのアクセサリー

「好き」を突き詰めるうち、今の場所へ

Q:フラワーサイクリストになるまでの道のりは?

実は、前々からお花に関係する仕事をしてきたというわけではありません。

もともとはファッション業界を志していたんです。私は小学生のころから、とにかくものづくりが大好きでした。6時間ほどぶっ通しでずっとあみものをするなど、何かをつくるということへの情熱を持っていて。小学校の卒業文集に書いた「ファッションデザイナーになりたい」という夢をずっと追っていたんです。希望通り服飾系の大学に進学しましたが、卒業するころはリーマンショックによる就職氷河期の真っただ中。アパレル業界もだいぶ窓口が減っていました。結局、新卒時は「モノ作りが好き」という芯のもとに玩具メーカーの企画職に就きましたね。その後、たまたま枠が空いているからと誘われ母校の大学職員として働いていたこともあります。そう、本当に花とは関係ない職種だったんですよね。

実は自分ってお花が好きだったんだなと気づくきっかけはむしろプライベートにありました。

「できるだけ花のある暮らしをしよう」と思い、意識して花を買ってきて家に飾るようにしていた時期があるんです。花を買う度思っていたのが「こんなに綺麗なお花を捨ててしまうなんてもったいない」ということ。いつしか買ってきた花を部屋につるしてドライにするのが一連のサイクルになっていました。そんなサイクルを繰り返すうち、綺麗にドライフラワーになりやすい種とそうでない種があることに気がつき、「あの花ならどうかな?」「こっちはどうだろう?」と実験するのが楽しくなってきて。最初は意識して花を買うようにていたはずが、いつしか「毎週1本の花を買う」のが当たり前の習慣になっていましたね。

一本の花の画像

Image via shutterstock

こうして花を購入しドライにするというサイクルを何回も繰り返していたら、出来上がったドライフラワーが相当溜まってきてしまったので何かの形で周囲の人に還元できないかと考えていました。

大学職員として働いていたとき「人に何かを教えるのって楽しい」と気づいたことを思い出し、ドライフラワーを使ったクリスマスリースづくりのワークショップをやってみようと思い立ちました。まずは友達向けに、そして知らない人たちにも輪を広げて開催してみたのですが、それがすごく好評だったんです!その後も様々な場所でドライフラワーを使ったアクセサリーづくり・雑貨デコレーションのワークショップを開催しましたが、口コミが人を呼ぶような形で様々な方に来ていただくことができました。大好きなお花に関するワークショップで、大好きなものづくりについて教えて、誰かに笑顔になってもらうことができる──そんな状況に快感を覚えたのがフラワーサイクリストとしてのキャリアのはじまりでしたね。

ただ、本格的にロスフラワーの仕事1本でやっていこうと思ったとき、花屋で修業したり専門的に学んだりしたことがないのが心に引っかかっていました。そこで2018年、クラウドファンディングで寄付をつのり、パリへ花修業に行くことにしたんです。色彩感覚を磨いたり、花の扱い方やアレンジメントについて学んだり、飛び込み営業でワークショップを開催したり、と盛りだくさんの3週間でした。

パリでのワークショップのようす

パリで飛びこみ営業を行い成功させたワークショップのようす。

Q:パリ修業で感じたことは?

まずは「好きなことをして生きる」「アーティストとして生きる」ことに対しての強い気持ちですね。日本だと、何かを始めようとしたときに兎にも角にも「資格がなきゃ!」という考えになってしまいがち。アーティストになりたいと言うと、周囲からも「そんなの誰にでもなれるものじゃない」「本当に食べていけるの?」というふうに見られます。ですが、パリの人たちは「自分は自分の作品をつくる、だって誰が何と言おうと自分はアーティストなんだから!」という感じ。「お花が好きなんだったら、資格の有無なんて関係なく、作品を作ればいいじゃない!」というスタンスでした。

花屋の店主もアルバイトもみな、店の作品ではなく「自分の作品」としてブーケを作っていたし、堂々としていた。食べていけるのか、世間にどう思われるか、そんなことは関係なく、自分がアーティストと思えばアーティストだし、アーティストとして生きている人が強いんだと思いましたね。「アーティストとして生きるってこれだけ気持ちのいいことなんだ」それがすごく腑に落ちました。「自分もアーティストとして生きていいんだ!余計なことを気にせず、お花が好き、ものづくりが好きという気持ちにしたがっていきたい」と感じられた。この感覚を忘れずに生きていきたいなって思いましたね。

そしてもう一つ、パリの人たちを見ていて思ったのは、花を買うという行動がとても身近になっているということ。週末になると、パリではファーマーズマーケットが開催されます。そこで人々が買っていくものは、晩餐用のお肉、チーズとワイン、そして「お花」なんです。家族で囲む食卓の中心には、花があるのが当たり前という文化でした。

海外の食卓の画像

Image via shutterstock

週末になると街には花束を抱えて歩く人が大勢いて、平日でも花を持っている人は珍しくない。空港ゲートには花束を抱えて帰ってくる相手を待つ人がいて……「花を買う」という行為は決して特別なことではなく、日常のなかに自然と組み込まれたものだったんです。それがとても印象的でした。そして、皆が気軽に買うからこそお花の価格も低いんですよね。ヨーロッパの人たちって、ムードを大切にするライフスタイルだと思うんです。香りの演出なども含め、目に見えない雰囲気をすごく大事にしているというか。その一環として、花も取り入れているのではないかと思います。

なぜ枯れちゃうものにお金をかけるのかわからない、という人もいると思います。咲いている時間なんてほんの一瞬じゃないかって。でも、たぶん一瞬で良いんですよね。

「今晩」食卓にお花があるかないか、それだけが大きな違いをうむと思うんです。一生に一度かもしれないその日、その瞬間。皆で囲む食卓の中心にある花がどんな色で、どんな香りで、どんな雰囲気を醸し出しているか、それによってどんな気持ちが芽生えたか。その気持ちをもって、相手にどう接することができたか。──そういった違いによって、心の満たされ方が変わる。その「一瞬」の幸福感、ポジティブな感情に、価値があると思うんです。食べ物にお金をかける人が、「おいしい」と感じるその「瞬間」、「一瞬」の幸福感にお金をかけているのと同じですよね。お花を愛でることで、わたしたちはその瞬間を生きることができる。お花は、私たちがこの瞬間瞬間を精一杯生きられるようにしてくれる存在なんだと思います。

食卓の真ん中には花

もっと気軽に、日常的に花を買う文化へ

Q:これから日本の花文化をどのようにしていきたいか?

花屋って、母の日とクリスマスの時期にだけ過度に忙しくなるんです。花の需要がそこにだけ加熱集中してしまっているんですね。この需要と供給の凹凸がいかに均等にならされていくかが重要だと思うんです。そして、その凹凸をならすためにはまず花を贈る文化が根付くことが必要だと思います。そうすると値段も必然的に下がるので。

イベントごとに決まった花をあげる習慣があるのは悪いことではないと思うんです。問題は、「〇日を過ぎたらこの花は買わない/捨てる」というふうにはっきりと線引きされてしまうことではないでしょうか。

終わったから「捨てる」から、「再利用する」に変えていくことだって一つの手です。例えば、カーネーションから再生紙をつくることができるのですが、ロスになってしまうカーネーションを店舗に回収しに行き、紙に変える仕組みをつくっても良いかもしれませんよね。あるいは、「花を贈る文化のある日」をもっと増やしても良いかもしれませんね。例えば、3月8日の国際女性デーはイタリアで「ミモザの日」として定着していて、感謝の気持ちを込めて日頃関わりのある複数の女性にミモザの花を贈るそうなんです。そういった記念日を日本でも定着させたり、季節の花の日を作ったり……「自分に花を贈る日」を定めても良いですしね。毎月何日は花を贈って感謝を伝える日というように定めてしまっても良いかもしれません。

ミモザを編み込んだリース

ミモザを編み込んだリース

Q:今後、具体的にやっていきたいことは?

いくつかアイデアがあるんですよ。ずっといつか作りたいと思ってきたのが、「廃棄のない花屋」と「ロスフラワーのシェアアプリ」の2つです。

「廃棄のない花屋」は、ロスフラワー、あるいは新しい花でもドライフラワーになりやすい種類だけを仕入れて販売する花屋です。そうすれば、もし花が売れ残ってしまったとしてもドライフラワーにしたら捨てずにすみますからね。自分の店からロスが出なくなるだけでは意味がないので、立ち上げた後ゆくゆくはフランチャイズ展開できるようにしていきたいと考えています。「ロスフラワーのシェアアプリ」は、生花店でロスになる花と買い手をつなぐサービスのことです。TABETEなどに代表されるフードシェアアプリのお花屋さんバージョンと言ったらイメージしやすいでしょうか。これをつくることができたら「フレッシュな花でなくても手軽に買えるなら良い」「安くなっているのであれば花を買ってみたい」と思っている新たな層にアプローチできるのではないかと思っています。

次のステップとして、具体的にはロスフラワーの団体・協会をつくろうとしているところです。活動に共感してくださった方からご連絡をいただくのですが、東京だけでなく全国各地の方から「自分もロスフラワー問題の解消に関わりたい」というお声が届いているんですね。そういった、本気でロスフラワーに向き合おうとしている方々とタッグを組めたら、ロスフラワー削減に向けて大きな1歩が踏み出せると思うんです。地域ごとのアンバサダーを定めて日本全国に生花廃棄の現状を広めていくなど、同志が集えばできることの可能性も増えていきますしね。

河島春佳さん

河島春佳さん

Q:花は、河島さんにとってどんな存在?

花って、あたたかくなったら咲きますよね。ひまわりは、ずっと太陽を追いかけて向きを変え続けていますよね。それってすごく純粋だな、と思うんです。もちろん人間にも純粋な部分はあるのでしょうけれど、お花は人間よりもっとずっと素直に生きている。

だからこそ、たとえ言語が違っても、多く言葉を交わさなくても、お花の前では通じ合えると思うんです。お花は、全世界の方と会話するためのコミュニケーションツール。国境を越えて言葉が通じなくても会話できるひとつの手段だと思っています。

Q:読者へのメッセージ

毎週末、1本だけお花を買ってみる。明日会う方に、お花を1本プレゼントしてみる──まず、1本買うことからお花の良さを感じてみてください。300円~400円──ジュース2本分の値段で人や自分をしあわせにできたら、それって最高なことですよね!

フラワーサイクリスト・河島春佳さん

フラワーサイクリスト・河島春佳さん

編集後記

当初予定していたのとは違うできごとの中にも思いがけない何かを発見し、ひとつ残らず自分のパワーに変えてきた河島さん。好きだから、やる!後悔したくないから、やる!──そんなふうに己の信ずるものを追いかけて、ひたすら何かを吸収する彼女はひまわりみたいだと、取材をしながら思った。

河島さんは、花は「心のバロメーター」なのだと言う。例えば、花瓶の水替えができていないのなら、それは忙しすぎるということ。花との向き合い方を見れば自分の心の状態がわかり「ちょっと立ち止まったほうがいいな」などと対処することができる、と彼女は語った。そこに咲く花の存在に気づき美しいと思う瞬間、私たちはほんの少しの間、日常のごたごたを忘れマインドフルに「いま」を生きることができるはずだ。今日、まずは1本だけ、売り切り価格の花を買って帰ってみよう。

【参照サイト】河島春佳-FUN FUN FLOWER
【参照サイト】河島春佳|FUN FUN FLOWER-Instagram
【参照サイト】Flower Ring-花の再資源化プロジェクト
【関連ページ】食品廃棄とは・意味