データをもとに、さまざまな立体物をつくりだす3Dプリンター。近年は大掛かりなものをつくる事例も増えてきた。その最たるものの一つが住宅ではないだろうか。
これまでにもIDEAS FOR GOODでは貧困地域でも24時間で建てられる3Dプリンターの住宅や、建設業界の人手不足の解決につながる3Dプリンターの住宅を紹介してきたが、今回ご紹介するのは3Dプリンタでつくるネット・ゼロの住宅。つまり、使用するエネルギーを自ら生産することで、年間の一次エネルギー使用量を収支ゼロにする家を3Dプリンターで建設するという試みだ。
プロジェクトが進められているのは米国カリフォルニアのコーアチェラ・バレー。約2万平方キロメートルほどの広さに15軒が建築中で、できあがった住宅のエネルギーはすべて太陽光でまかなわれる。家主が希望すれば、テスラ社の蓄電池も設置でき、さらに効率を高めることができるそう。建設を手掛けた建築会社Mighty Buildingsによると、3Dプリンターでつくられたネットゼロハウスがこれほどまとまって建てられるのは、世界的にみても初めてだという。
Mighty Buildings社の共同創設者でありCOOのアレクゼイ・ドゥバフは今回の取り組みについてeuronews.に対し、こう語っている。
「これは、私たちが考える家づくりの将来ビジョン、つまり、早く、手頃な価格で、サステナブルに、そしてポジティブでダイナミックに周辺地域を強化していくことができる、そんな場所を実現する最初の現場になるだろう」
3Dプリンターによる建築には、建設時間の短さやコストの低さなどさまざまなメリットがあげられており、廃棄物の大幅削減ができることもその一つだ。Mighty Buildings社によると建設中に出る廃棄物は通常と比較して99%、つまりほぼゼロに近いほど減らすことができ、これによって建設にかかわるCO2排出量も通常の建設方法と比べて1軒あたり2,000キログラム減らせるという。
建築物が世界の資源の40%を使用する建設は、多くの国で主要な廃棄物排出産業となっている。さらに、建設・土木業界のCO2排出量は世界全体の39%にもおよび、廃棄物の削減によるCO2排出量の削減は、業界にとって大きな課題といえる(※1)。解決すべき環境課題は山積みだが、3Dプリンターの住宅によって大幅に改善される時代が近づきつつあるようだ。
日本でも、2020年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建住宅の半数以上で、2030年までに新築住宅の平均でネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH ゼッチ)の実現を目指す、と政府目標が掲げられている。現状、技術面・コスト面での課題も多いが、ZEHの要件を満たす戸建住宅および集合住宅の新築・改修をする人に補助金を交付するなどの対策をしている。
しかし、3Dプリンターという新しいテクノロジーを活用すれば、こうした技術面・コスト面の課題も容易に解決でき、スピードもあげることが可能になるかもしれない。このネットゼロ住宅コミュニティが世界的課題を早急に解決するために一翼を担うことを期待したい。
※1 New report – the building and construction sector can reach net zero carbon emissions by 2050
Edited by Kimika