世界遺産のアンコールワットを有し、東南アジア随一の観光地として知られるカンボジアのシェムリアップ。観光業が基盤であるこの地において、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴うダメージは計り知れない。カンボジア観光省によると、2020年の観光客数は、前年と比べ約80％減少、賑わっていた商店街の面影は消え、閉鎖した店舗も少なくない。

そんなシェムリアップに、現地の素材を活かしたハンドメイド商品を販売しているショップがある。「カンボジアの社会起業家の想いに寄り添い、描く未来を後押しする」というミッションを掲げ、ビジネスを通じて社会課題の解決に取り組む起業家たちの商品を販売する「N’s BASE」だ。

N’s baseで販売される商品

同ショップは、認定NPO法人very50とNPO法人SALASUSUによって共同運営される。通常、マーケットの競争が激しく賃料が高いシェムリアップでの出店は、立ち上げ段階の起業家にとっては難易度が高い。そこで、N’s BASEでは、ソーシャルビジネスにチャレンジしたい起業家たちに対して販売場所を提供することで、彼らがビジネスを軌道に乗せるための支援をしているのだ。

しかし、そんなN’s BASEもパンデミックの影響を多分に受けている。それぞれが強い想いを持って事業を立ち上げ、パンデミックの状況にあっても自分たちで試行錯誤を重ねてきた起業家たちだったが、いつビジネスが途絶えてもおかしくない状況に追い込まれた。そこで、実際に現地を訪れた際の思い出など、多くの付加価値が上乗せされる店舗での販売のようにはいかないが、今回インターネット上での販売を始めた。

揺るぎないN’s BASEのミッションと社会起業家の熱い想い、そして、カンボジアの未来を照らす起業家の挑戦を支えることで、社会課題の解決へと導く可能性を秘めたビジネスの芽を摘んではならないという強い想い。――それらが合わさったチャレンジである。

カンボジアに明るい未来を照らす起業家たち

現在N’s BASEで取り扱っている商品は、カンボジアの4人の社会起業家たちのものだ。一人ひとりがそれぞれの強い信念のもとで事業に取り組んでいるが、ビジネスを通じてより良い社会をつくりたいという共通した想いを持つ。

4人の起業家たち

例えば、ストールを手がけるSONASの起業家Paul（写真左下）は、元々ロンドンでエンジニアとして働いていたインド系カナダ人である。仕事の一環で、学校をつくるためカンボジアに半年ほど滞在したが、全く貢献できず自分の力不足を痛感し、そのときの悔しさやカンボジアの人々に惹かれたことがきっかけとなり、SONASを起業した。イギリス在住時に聴いたムハマド・ユヌスの講演にも大きな影響を受けた彼は、「富が幸せを生むのではなく幸せが富を生む」と語り、商品を作る人、買う人、使う人全員に幸せを届けられるブランドを目指している。夢は、貧困状態にある人々を持続的に助けられる方法を見つけ出すことだという。

また、コースターの製作を行うRokhakのSrors（写真右上）は、結婚のために学校へ通えないカンボジアの若い女性が教育を受けられるように、ビジネスを通して資金を集めている。彼女自身決して裕福ではなかったが、食べ物を売りながら働く母親のおかげで、学校へ通い続けることができた。自立することが重要だと母親から教えを受けた彼女は、そのためには教育が必要だという考えに行き着き、将来的には、経済的な理由で学校へ通えない人々に奨学金を提供し、Rokhakで学校を作ることを目指している。

一つ一つ手作業でモノづくりを行うことは、決して効率的とは言えず、手間や時間、コストがかかる。しかし、機械に頼らずに職人の手で丁寧につくられることで耐久性が得られて商品が長持ちしたり、一つ一つが少しずつ異なりそれぞれの味があるオンリーワンの商品が生まれたりする。さらに心を込めてつくられる商品からは、使う度に職人たちの生活や想いが連想される。

SONASのストール。SONASでつくられるストールは、職人によって一つ一つ丁寧に織られ、コットン100％のサラサラとした手触りとカンボジアならではの独特のデザインが特徴。

Rokhakのコースター。カンボジアの農村地域の女性によって、一つずつ丁寧に編み上げてつくられている。流れの緩やかな水面に浮かぶ、天然のウォーターヒヤシンスという水草を材料として用いている。

欲しいモノはすぐ手に入り、不要なモノは忘れ去られ淘汰されていく。どこかせわしない時代に生きる今だからこそ、あえて時間やコストをかけるハンドメイドの魅力、人々の心や想いに着目してみるのも良いのかもしれない。1つの消費行動が現地で生産をする人々を支え、「社会起業家の想いに寄り添い、描く未来を後押しする」アクションになる。

起業家たちの自立と挑戦を後押しする「N’s BASE」。人々の想いが形となって、多くの幸せを届けていくだろう。

SONASで働く女性たちの写真

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Edited by Tomoko Ito