ファッションを通してサステナビリティを体現するには?【講座レポ】

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日常生活のなかで身近な服。近年ファッション業界では、従来の大量生産・大量消費型のビジネスモデルからの脱却を図り、多様化するニーズに応えるのと同時に、社会問題や環境問題の解決を目指すブランドを目にする機会が増えている。

そうしたブランドをはじめとする先駆者のように、自ら実行に移したいと考えつつも、何から始めればよいかわからないと思っている人も少なくないだろう。そんななか、2020年6月に一般社団法人KSI(Kamakura Sustainability Institute)が「サステナブルファッション講座」をスタートした。

当講座はオンライン講義のほかに動画教材が提供され、約半年間にわたってサステナブルファッションの基礎知識から学習し、思考を深め、最終的にはアクションプランを作成するプログラムになっている。今回は、当講座の特徴やポイントをご紹介したい。

サステナブルファッションのあり方を学び、アクションを起こすためのプログラム

「サステナブルファッション講座」は約7ヶ月にわたって開催される。サステナブルファッションに関連したデザインや素材、生産、販売などといった一連のサプライチェーンにおけるサステナブルなあり方を学び、最終的に行動を起こす実践者を増やすことを目的としている。

具体的に、当講座では下記3つの目標が掲げられている。

  • デザイン、素材、生産から購入して手放すところまで、衣服の各工程におけるサステナブルなあり方を詳細に学ぶ。
  • ファッションの課題を整理し、世界の新たな事例や取り組みを知る。情報を見つけ、自ら考える力を付ける。
  • 自分のフィルターを通じて出てきたアイデアをまとめ、アクションを起こす。自分の価値観を知り、言葉にしてアクションを起こす。実行することでアクションから学ぶ。

第1期講座の概要

  1. ファッション概論
  2. サステナブルファッションの作り方
  3. オーガニックコットンとデジタル活用で広がる透明性
  4. 製造工程での環境負荷を考える
  5. サプライチェーンでの労働問題を考える
  6. デザイナーから考えるサステナブルファッション
  7. 服との付き合い方
  8. 服と社会と私
  9. アクションプランの作り方1
  10. アクションプランの作り方2
  11. 最終プレゼン

各回のテーマに合わせてファッション業界で活躍している国内外の講師からレクチャーを受け、学んだ内容を踏まえてディスカッションやワークショップを行う。

講義中の様子

講義中の様子

「サステナブルファッション講座」の特徴

サステナブルファッションについて学ぶことができる講座は少なくはないが、今回受講したなかで見つけた、当講座ならではの特徴をご紹介する。

①様々な経験やバックグランドを持つ受講生が集う

受講生の中には個人的な関心を持って学び始めたいという学生や社会人から、すでにファッションに関して海外で学んでいる人、そしてファッション業界に精通している方など様々な背景を持つ人が集まった。

主催者側の意図としては、予備知識の有無などで対象者を制限せず、ファッションという同じ分野に興味関心を持ち、最終的には自分も行動に移したいという共通目的があればだれでも参加できるようにしているのだという。実際に、様々なバックグラウンドを持つ受講生と意見交換することで、自分とは異なる視点や知見を踏まえた意見を聞くことができ、視野が広がった。

②現場で活動する実践家たちによる講義

この講座ではファッションの基礎知識を身につけることに留まらず、自らの意見を持ち、行動に移すことにも重点を置いている。そのため、基礎知識のレクチャーでは、実践者たちの体験談やマインドセットなども共有され、現場の声から得た情報から自分の考えを深めていく機会も積極的に提供している。

第1期の講師は、ファッション業界においても様々な立場や思想で活躍している下記の方々だ。

  • 小森優美さん(株式会社HIGHLOGIC代表取締役/一般社団法人TSUNAGU代表理事/ファッションデザイナー)
  • 三保真吾さん(株式会社パノコトレーディング取締役)
  • サラ・ジェーン・ファーガソンさん(『AMAUD』サステナブルブランドデザイナー)
  • 丘広大さん(アウトドアブランド会社勤務)
  • 武石康兵さん(『SHUNSHUNSOU』創立者)
  • 青沼愛さん(一般社団法人Kamakura Sustainability Institute 代表理事)

※時間の都合上リアルタイムのレクチャーに参加できない場合は、後日録画にて視聴することも可能

③受講生同士で学びを深めるワークショップ

オンラインで開催される当講座では、実践家からの話を聞くだけでなく、講義の直後に複数人のチームに分かれ学習テーマについて思考するためのワークショップも組み込まれている。実践家たちの話やインプットした内容を踏まえ、ブレイクアウトルームに3~4人ずつ分かれ、チーム内でアイデアを出し合ったり、意見交換をしたり、最後にチーム同士の話し合いの内容を共有することで見識を深める設計となっている。

ワークショップで使用したフレームワークの一例

ワークショップで使用したフレームワークの一例

④事前学習と事後学習の設計

リアルタイムで行われる講義やワークショップでの時間を最大限に活かすべく用意されているのが、事前学習である。ウェブ上のプラットフォームにて、各個人が好きなタイミングで事前に資料の閲覧や動画を視聴することができる。基礎知識を付け、疑問などを自ら調べることで当日の講義内容の理解度が高まるだけでなく、ワークショップでより深い議論を交わすことが可能になる。

事前学習の教材や動画が集約されたプラットフォーム

事前学習の教材や動画が集約されたプラットフォーム

また、各回の講座では当日学んだ内容に関連するクイズを受講生が一人一問ずつ考え、質問内容と選択肢や解答をフォームに記入してから退出するシステムになっていた。そして事務局によりまとめられたクイズに答えることで、ユニークでオリジナルな問いを通じて復習ができるのだ。このように、月に2回リアルタイムで行われる講座以外にも自分の好きな時間で予習や復習をすることができる教材やコンテンツが用意されている。

⑤実践を後押しするアクションプランの作成

当講座の大きな特徴の一つに、アウトプットとなるアクションプランのつくり方に関しても時間を取り、質の良いアウトプットを出すためのサポートを受けられるという点がある。講座を通じて得た学びや気づきを次に活かすべくアクションプランを描き、最後の講座ではみんなの前で発表する。

他にも、受講生同士のコミュニケーションを取る場や講義内外での情報に触れる機会を多く持たせる目的でSlackが活用されている。講義前に講師へ質問したい内容を事前に募ったり、講義後の質問のやりとりをしたりと、受講生同士が楽しく学び、考え、情報や意見交換ができるフラットな場が提供される。

アクションプランのプレゼンテーション

前述のように、当講座はインプットにとどまらず、約半年間の学びや気づきを磨き上げ、実践者を増やすことを目的に置いている。そこで、講座の最終日には受講生が自ら作成したアクションプランをプレゼンテーションする機会がある。審査員は過去講師やゲストで来て頂いた、小森さん、chikaさん(一般社団法人 RUNWAY FOR HOPE)、丘さん、武石さん、青沼さんの5名。受講生や視聴者からも発表者に向けた応援メッセージが送られ、プレゼンテーションは終始温かい雰囲気で行われた。

優秀賞は、第1期受講生のなかで最年少となる高校生の水野凜々香さんが受賞した。「すべての人に向けるサステナブルファッション」をテーマに掲げ、ユニバーサルデザインと日本の伝統文化を融合したモノづくりを目指すアクションプランを発表した。漠然とファッションに興味を持っていたなか、講座を通じて自分の目指したい世界を深く、そしてクリアに考えることができたという。「だれでもファッションを楽しめるように」という彼女の優しい世界観を実現すべく、まずはできるアクションからと、入院している高齢者向けに気分が明るくなってほしいと想いをこめてカラフルなタオルで帽子を作っている点も印象的だった。

彼女の発表を聞き、審査員からは「夢」を感じる内容であるだけでなく、現時点で自らできることから取り組む行動力も賞賛された。日本古来からの伝統である着物の持続可能性とユニバーサルデザインなど、色々な要素を自身のルーツとフィルターを通して表現に活かしているため、今後の展開が楽しみだとコメントされた。

そして最優秀賞に輝いたのは、両親が日本人とバングラデシュ人の大沼イリナさんによる「人らしい情を蘇らせるブランドづくり」がテーマのアクションプランだ。講座を通じて自分自身が実現したい世界や大切にしたいことと向き合った結果、自分のブランドを作りたいと熱意のこもったプレゼンテーションを発表した。彼女もすでにブランド作りに向けてアクションを起こしており、服作りと服を作る人たちへの想いに多くの参加者が共感し、今後の活動もみなで応援したくなる取り組みだった。

内容に具体性があり、かつ自分ごととして捉えていることが伝わり、ビジョンとアクションプランがとても明確にイメージできたことが審査員から評価を受けた。さらに、課題だけにフォーカスするのではなく、ファッションのポジティブな側面にも焦点をあてることに共感が集まった。

その他にも、ファッション業界で働いている社会人の方からは、ファッション業界にいるからこそ見える視点でのプランや、自分の大好きなものとファッションを掛け合わせたプラン、講座で知り合った人と地域を超えて繋がってできたプランなどが発表された。

受賞者からはそれぞれ、当講座が彼女たちがアクションを起こす後押しになったと前向きなコメントがあった。

「講義で様々なバックグラウンドを持った方々とお話ししたり講師の方から学んだことは自分が変わるきっかけになりました。最終アクションプランを考える際もアドバイスをたくさん頂いて将来のビジョンをより深めることができました。私は高校生で最年少での参加でしたが、ぜひ今後もより多くの学生に参加していただきたいです。」

「思い切って参加したこの講座で、満足のいく初めの一歩を踏み出すことができました。基礎的な知識から学びを深められ、実践的なノウハウを現場の人から聞き、さらに十人十色なみなさんの意見を聞けたのも貴重だと感じました。そして温かいサポートも得られることがとても嬉しいポイントでした!今ビジョンが定まっていない人でも、参加することできっと何かヒントが見つかるはずです。」

最後に、主催者であるKSI代表理事の青沼さんは「みなさんの発表を聞き、どれも素敵なアイデアでとても感動しました。今後も、受講生自身の大切にしたい価値観を見出し、行動に繋げることを後押ししていきたいです。」と今後の意気込みを語った。

編集後記

当講座を受講して特に印象的だったのは、常に自分の考えを問う仕掛けや機会が作られていたことだった。幅広いテーマからサステナブルファッションを体系的に学べるだけではなく、インプットをした先に、意見交換やワークショップでアイデアを出す機会が多くあったことで、知見を得るのと同時に自分なりの解釈や軸を問い続けることができた。これは「実践」を目的に置いている当講座ならではの魅力である。

また、様々な人が集う当講座ではみながお互いの意見を受け入れ、尊重する姿勢を持っていた。そのため、自由に発言しやすく、終始温かい雰囲気だった。このようにお互いの想いや考えを応援してくれる温かいコミュニティだからこそ、勇気を出して一歩前に行動に移す実践者が増えるのではないだろうか。今後も第1期生やそのあとに続く受講生の取り組みに注目していきたい。

第2期は、2021年7月から開始される。次回はブランドコミュニケーションなどといった新たなテーマも加わり、植月友美さん(Enter the E)、浦田庸子さん(ELLE Japan)、蓑輪光浩さん(Allbirds)、また海外からは Centre for Sustainable Fashion(ロンドン芸術大学)などが講師を務める。自分の殻を破ってみたい、行動を起こしたいあなたはぜひ参加してみてはいかがだろうか。

【関連サイト】サステナブルファッション講座 第2期詳細ページ
【関連サイト】一般社団法人Kamakura Sustainability Instituteホームページ

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